【健康オタク、末路へ】第42回:怪しいファミレスウエイター 

2009年05月21日(木) 18時35分
「あ〜、喉が乾いたし、肩もこってきたなぁ・・・」

 ハンドルを握りながら、森さんは左肩をいからせ「もめ」と言わんばかりにタケオに近づける。「眠いし、缶コーヒーかなあ?」

 ついにタケオは切れた「いい加減にして下さいよ!」これ以上調子に乗らせてたまるもんか。

 森さんはうすら笑いを浮かべて「そんなに怒んないでくださいよ社長。こうやって付き人兼運転手を引き受けたのも、オレの器の大きさがあってこそなんスから」

 嘘をつけ。どうせあのハゲ社長に良い条件を出されたからだろう、カネの亡者め。

 早起きも、積み込みのキツさからも解放されてオマエが得したんじゃないか・・。

 「で社長、次は何処でしたっけ?『ファザーズ』って、え〜と本社の住所は?」

 「地図は僕が見ますから、森さんは前を見て運転してくださいよ」

 やれやれ、何でこんな奴がオレの運転手なんだ。判っていたなら断って、電車で移動するよ・・・。

 助手席に収まるタケオの右手には地図が、左手には自然食品の販売を手がける有名企業のリストが握りしめられていた。

 「ちょっと待ってください森さん、港区に向かうなら『E&E』の本社の方が近いですよ。とりあえず『ファザーズ』は飛ばしましょう」

 森さんは苛立ったのか、急ブレーキを掛けた。クラクションを鳴らしながら追い抜く後続車に「うるっせええ!」と窓を開け叫んでいた。

 「なぁ、タケオ社長よぅ」細い眉毛を逆ハの字につり上げながら、森さんはタケオに振り向いた。

 「こんな事繰り返してもムダじゃねえか?」

 急ブレーキに驚き、脈拍が上がりっぱなしだったタケオは、自身も感じていた思いを言い当てられた気分になり、更に心拍数が上昇してゆくのが判った。

 「もう7軒目だぜえ。考えてもみいよ?俺らみたいな零細運送会社の営業を、誰がまともに相手をするかっつーの。あのハゲはそこんとこ全く判ってねえよな。お前もそう思ってんだろ?」

 タケオは努めて冷静を装い「ムダじゃないですよ森さん、まだ半分も廻ってないんだし。それに、社長の指令を引き受けたんでしょ?そんな簡単にケツ割らないでくださいよ・・・」

 森さんの細い眉毛がピクッと片側だけ動いた。「ケツを割る」がむかついたのか、アクセルを空ぶかし始めた。「わかったよう。でも、今日なんにもアポとれなかったら、お前あのハゲになんて言い訳するんだ?」

 今度はタケオが返事に窮してしまった。ネガティブな会話を断ち切るべく、携帯を見る。「まあ12時近いし、森さんも疲れたでしょ?いったん休憩しましょ?」

                     *

 2人が入ったファミレスは、居酒屋のチェーン展開している大手上場企業が「オーガニック&エコ」を掲げて、新たにフランチャイズ展開をしている和食レストランだった。

 「でもよぅ、どーせ夜は居酒屋なんだろ?」ウンザリ顔で、野菜料理ばっかり載ってるメニューを閉じて、森さんがつぶやく「喰うモノねえや、よそ行かねえか?」

 まだ都内では増えていないこのお店を見つけ、密かに喜んでいたタケオは「喰うモノ、あるでしょ森さん。有機枝豆だって旨そうだし、アグー豚のカツ丼何て旨そうじゃないすか」

 その時、注文のボタンを押してもいないのに、タケオは背後にウエイターの気配を感じた。「ごご、ご注文宜しいでしょうか・・・?」

 ン?聞いたことある声、そっと振り返る。

 「あっっ!」「ゲッッ!」ガチャ〜ン!ジョワ〜・・・。

 トレーを真上に挙げたウエイターは、乗っていた2つのコップを1m程舞い上がらせて、そのままホールの床に真直に落としてしまった。

 ガラスの破片は飛び散り、コップ2杯分の水は1.5平米ほど床に広がっていった。

 「す、すいません!お怪我はないですか!ズボン濡れましたか?」

 「いや、良いけど・・。そんで、何でお前がここで働いてんだよ?」森さんは以外にも冷静だった。

 近くにいたウエイターが持ってきたホウキとちりとりを受け取り、ガラスの破片をかき集めながら「来るなら、連絡下さいよ・・・」と、やっと聞き取れる程の声でグチりはじめた。

 「そんなの知んねえよ轡田!お前、貿易会社の事務はどうなったんだよ?」

 「リストラされました。でも、辞めたかったんで丁度いいです」ガラスの破片を片づけ終わった轡田は、立ち上がってタケオと森さんを改めて見た。

 「ところで、お二人ともスーツなんか着て、営業活動ですか?」

 「うるっせえよ!」慣れないスーツ姿を馬鹿にされたと思ったのか、森さんが声を荒らげた。

 そんな森さんを轡田は相手にせず、タケオに振り向き「いや実は、ここで僕が働いてるのも、タケオさんの為なんですよ」

 「はああ?オレの為?何でだよ」タケオは驚いた。「このファミレスになんかあるんか?」

 「実はですね」轡田はタケオに近づき、小声で話し始めた。

 「このお店はフランチャイズじゃなくて、直営店なんですよ。知ってました?」

 「知らないよ。ソレがどうしたの?」

 「あの有名な創業者の息子が経営してるんですよ。これ、どうゆう意味か判りますか?タケオさん」

 「意味?」タケオはしばし考えた。でもサッパリ判らない。

 コイツ、一体何を企んでいるんだ?オレの為に・・・。
 (つづく)

 

【健康オタク、末路へ】第41回:夢か現実か妄想か? 

2009年04月28日(火) 14時49分
まばゆいばかりのスポットライト。以外と狭いスタジオの中央に立つ、タケオの横にはファンデーションでテカテカの中年男性・・・。

 よく見ると「三宅裕次」だ!その右側には「相原勇」!やけにちっちゃいが、可愛い。

 この二人が司会をやってるって事は・・・そうだ「イカすバンド天国(イカ天)」だ!懐かしい。しかし、掲げてある看板を見ると、

 「イカす発明天国(イカ発?)」なんともゴロが悪い。どうゆう事?醤油う事(村上ショージ)

 審査員席に目を移す。審査委員長は・・・あの、温水プール裏の豪邸に住んでいる金持ちのおばさんだ!笑みを浮かべている。

 ギャラリーには、見慣れた面々がタケオに視線を集中していた。新婚の大沼洋介とスミレさん、通学ジャケット姿の佃麗奈ちゃんと、そのおじいちゃん!その右側にはきつめのアイパーに突き出たお腹を持て余している、4tドライバーの森さん。更に右には、オドオドと廻りを見まわしている轡田、菩薩の様な笑顔を崩さないSEのホメオパス、漆原(うるしばら)さん・・・・。そして、体長2mのスーパーミミズ!タケオはやっと悟る事ができた。

 これは、この光景は「夢」だ。こんなありえないディティール、俺は夢を見てるんだ・・・。

 ギャラリーの誰かが、タケオに向かって「社長!」と叫んだ。ソレを皮切りに「しゃっちょう!しゃっちょう!」スタジオ内全員が、スタッフまでもが手拍子を始めて「社長コール」の大合唱になってしまった。

 ふざけるな、馬鹿にしやがって。社長って言うな、社長ってゆ〜な!みんな黙れ!

 「黙れ!あぁっ!・・・・」目覚めた。

 「痛っ」右ふくらはぎが・・・。触ってみる。大腿四頭筋がずいぶん頑張っちゃってる。

 自身の寝言、プラス右ふくらはぎのこむら返りで、一気に眠気が吹っ飛んだ。ここは何処?

 「起きたか?」その声は、大沼か。

 「おぉ、相変わらず右脚がつるんか?オマエ全然変わってねえな」

 大沼は冷蔵庫から麦茶のサーバーを出してコップについだ。タケオに差し出しながら「本当に変わってねえな」

 「何がだよ」タケオは右ふくらはぎをさするが、左右のこめかみの方が痛い。今月2回目の二日酔いらしい。

 「オマエは冷めたフリしていても、おだてられると簡単に調子に乗る。初めは『社長コール』を嫌がってたのに、しまいにはその気になってよぉ。オマエ、何杯イッキしたか憶えてるか?」

 「知らねえよ・・・」記憶がフラッシュバックしてきた。あの、隣に座ったメガネ野郎にホメ殺しされたんだ。あんだけ何十回も「社長」と言われると、まんざらでもなくなっちゃったんだ、情けない。

 麦茶のコップをふくらはぎにあてながら、タケオは大沼に訊ねた。

 「でよぉ、何でオレが社長なんだよ?スミレさんを寝取ったオマエが跡継ぎの筈だろ」「・・・寝取ったなんて言うな!」

「だいいち、オレはまだ返事をしてないし、経営学なんて学んだことないし・・・。一体何を考えてんだ?オマエのカミさんとオヤジさんは」

 「俺が知るかよ」大沼はカギ束をタケオに放り投げた。

 「30分くらい出掛けるから、ちょっと留守番しといてくれ。駅前の旅行代理店に残金を払わなきゃなんないんだ。」

 「旅行?ハネムーンか?」「そっ。熱海だけどね」「熱海か」

 「まぁ、少なくともオレは社長向きじゃないよ。柳先生も何故かオマエに期待しているみたいだし、どーせオマエ無職だろ?面白いかもよ」

 カチンときたタケオを尻目に、大沼は外へ出ていった。なんだよまったく、ふざけやがって。

 大沼が出ていった後、タケオは腹が鳴ったので腰を上げ、冷蔵庫の扉を開けた。

 溜息が出た。「相変わらずプロテインばっかりかよ、あの筋肉バカが」扉を締めたとき、マグネットで張り付いているコルクボードが目についた。

 「柳コーポレーション組織表?どれどれ・・・」ボードにはトーナメント表みたいな組織図のコピーが画鋲で止めてあった。

 大沼は院長か。なんでオレが代表なんだ・・・。「ん?」

 タケオは組織票の左上にある「外部取締役兼顧問」の名前に目を奪われた。「鳥居ヒサヨ」

 「まさか・・・」

 そんなバカな、なんであの「発明特許女王」オバサンの名前がのってんだ。同姓同名か?

 電話が鳴り、タケオは驚いた。3回のコールで留守電に切り替わったので、発信者のメッセージが聞こえてきた。

 「どうもお疲れさまです。新しいシステムがセットアップ出来ましたんで、大沼院長が旅行に出る前に会いたいんですが・・・」

 聞き覚えのある声だ。しかも最近聞いている。

 「・・・以上です。それからタケオ社長にも宜しくお伝え下さい」

 なに!?オマエ誰だ?

 「連絡下さい、漆原でした」

 電話が切れた後、タケオは再び冷蔵庫の組織票に目をやった。「・・・そんな馬鹿な」

 「ソフトウェア開発部門 取締役部長 漆原厚志」タケオは尻ポケットから財布を取り出し、先日池袋で貰った名刺を確認した。

 間違いない、ホメオパスにして心理カウンセラーである、漆原さんだ!

 株主が鳥居さん

 部下が漆原さん

 で、オレが社長。なんたる偶然。 

 これは夢か、現実か、それとも妄想か・・・。

 (つづく)  

【健康オタク、末路へ】第40回:急展開、社長って言うな! 

2009年04月08日(水) 0時06分
「♪かっぜに〜、かっぜに〜なり〜たえ〜(い〜)!」

 フルコーラスを歌いきったタケオの満足感とは裏腹に、プリンスホテル8F「扇の間」結婚式場の席上は静まりかえってしまった。

 やがて左端の方で誰かが、ペチペチと手を叩いたのを皮切りに、中央へ右側へ拍手のウエ〜ブが伝わった。場内は割れんばかりの拍手と喝采で、タケオを迎え入れてくれた。

 ホッとした。やれやれ、だから歌いたくはなかったんだ。この歌と「島唄」しか歌えないってことはアイツも知ってた筈なのに・・・。

 「島唄」は別れの歌だし、かといって結婚式に「風になりたい」は関係ないし。

 まあいいや、新郎新婦を見る。ウエディングドレス姿のスミレさんの美しさと対比するかのように、新郎・大沼洋介の燕尾服は、ビルダーのごつい体格に被さる様に着せられていて、燕とゆうより「ペンギン」を思わせるほど滑稽なモノだった。

 以外にも、大沼はうれし泣きしていた。これからが大変だとゆうのに(借金、返し終わったんだろうか?)。

 新婦の父親であり、タケオのかつての恩師でもある柳先生を見る。驚いた。顔面ビシャビシャだ!涙なのか鼻水なのか、とにかく顔全体が液体で反射していた。

 やっぱり父親って娘が可愛いんだなぁ、この後の「両親への手紙」では、やっぱり号泣するんだろうか?

 丸テーブルに次々と運ばれる中華料理。やれやれ、どうしてホテルの結婚式っていつも中華なんだ。喰えないじゃないか。

 再び柳先生を見る。ベジタリアンの先生もやはり箸をつけていない。泣きながら腕を組んでいる。その光景はちょっと面白い。

                        *

 式場から50メートルほど離れたレストランで始まった2次会には、かつての同級生が10人近く集まったので、ちょっとした同窓会みたいになった。といっても、自分から積極的に友達を作りたがらなかったタケオには、余りありがたいモノではなかった。

 それに、現在の俺は実質「無職」だ。何をやってるの?なんて聞かれたくない。

 主役である新郎の大沼は、燕尾服が堅苦しかったのか、自慢の上腕筋を旧友に見せたいのか、今ではワイシャツ1枚で腕をまくっていた。挙式中はビービー泣いていたくせに、2次会ではすっかり砕けていた。

 豪快な大沼とは対照的に、隣のスミレさんは姿勢を崩さず、しかしその笑みは自然だった。いいなあ大沼、俺もこんな嫁さん欲しい・・・。 

 「え〜!いきなり院長かよ」「すげーな、やっぱり接骨院を継ぐんだ」大沼と話していた旧友の声が、2つ離れたテーブル越しに聞こえてきた。

 院長?継ぐ?ちょっと引っかかったが、俺には関係ないや、とタケオはボンヤリと考えていた。タケオのテーブルには、誰も座っていない。

 「いや、違う違う。俺はあくまでも雇われの身だよ。そうだ、今日は俺の上司、いや社長も招待したんだ!紹介するよ」

 場は一気に盛り上がった。へ〜、来てるんだ。こいつらの中に社長が、ねえ・・・。

 「タケオっ!」大沼が叫んだ。皆一斉に、隅っこのテーブルにちんまり座っているタケオに振り向いた。

 「コイツ、いやこの方が柳接骨院の2代目社長です!僕はこの社長のモト、いち従業員としてCADオペレーターよりとらば〜ゆするのです!」

 タケオは2段階に驚いた。

 ひとつは「とらば〜ゆ」今どきそんな表現、ないだろ?

 もうひとつは「俺が社長?」ちょっと待てよ大沼、オマエよっぱらってんのか?何を言ってるんだ。

 「社長、筋肉バカのワタシですが、これからは宜しくお願いしま〜す!」盛り上がりはピークに達した。

 タケオの狼狽が止まらない。コイツ頭も馬鹿か?

 誰かが「しゃっちょお、しゃっちょお」と叫んだのを皮切りに「社長」コールが貸し切りのレストラン内に響き渡った。

 誰かがなれなれしく肩を組んできて「社長、新郎をよろしくお願いします!」誰だよ、オマエなんか知らねえよ。いつの間にか同級生どもに囲まれている。

 悪質なイジメみたいだ。タケオは切れかかっていた。

 ふざけんな、社長って言うな!(つづく)

【健康オタク、末路へ】第39回:ココロの健康オタク? 

2009年03月15日(日) 8時47分
ウエイターがす〜っと寄ってきて「失礼します、ラストオーダーになるのですが・・・」

 轡田が振り返って「あ、はい。別にもういいです」携帯を見る。10時半を過ぎていた。二人は、ウエイター来たこと尾すら気付かないほど、話に熱中していた。

 「あぁ、つまりさっきの『ゲシュタルト』も『森田療法』の影響をうけていると」

 「そうです、とゆうより森田博士の存在無しでは、ゲシュタルトも世に出なかったと言えるかもしれません」

 轡田はイライラを通り越して、呆れかえっていた。ヤレヤレこの人は、何をしにお茶の水の異業種交流会まで僕を引っ張ってきたんだろう。

 ビジネスパートナーを見つけに来たのか?心理学の講義を受けに来たのか?

 轡田はわざとらしく咳払いをした。「何だよ、わざとらしいな」

 タケオの即答に轡田は戸惑ったが「閉店らしいですよ・・・」携帯の時計をみせた。

 「あらあら、漆原さんスイマセン。明日は早いんですか?」

 「まあ、ワタシもサラリーマンなんで、通常の7時起きです」

 轡田には以外だった。「ホメオパス(認定施術者)をやられてるんじゃないんですか?」

 「いえいえ、まだソレでは生活出来ないですよ。心理カウンセリングもまだ趣味の領域です」

 「趣味なんてそんな・・。充分な専門家じゃないすか」タケオが口を挟んだ。

 「いやぁ、まだまだです。でも、将来はその方面を中心としたビジネスを考えているんです。心理セラピーとホメオパシーをミックスしたビジネスを・・・」

 「面白いですね。ワタシは健康オタクですが、漆原さんは悪い意味じゃなく『ココロの健康オタク』とゆう印象です。因みにコイツは『天文オタク』ですが」

 タケオに指さされた轡田はムッときたが、漆原にカラダを向け「何か僕たちとコラボ出来たらいいですね。ココロとカラダの両面からアプローチしてゆく、なんて」

 「オマエ冴えてるじゃん!」

 今度はオマエ呼ばわりか・・・。轡田は怒りを飲み込んだ。

 「そうだ、サラリーマンとしての名刺も一応、お渡しします。今後はこのアドレスにメール送って下さい」

 漆原に渡された名刺を見て、二人は驚いた。

 轡田は「業界最大手の広告代理店でSEやってんだ。何で独立したいんだろう?」

 タケオは「SEって、普段なんの仕事をしているんだろう?」
(つづく)

【健康オタク、末路へ】第38回:ホメオパスにカウンセリング? 

2009年03月07日(土) 18時44分
スッと立ち上がって辺りを見回す。「落ち着かないスね」

 轡田に言われ「違うよ、アイスコーヒー飲み終わったからさ・・・」

 店内が薄暗いので、隅々が見えにくい。目を凝らしていると

 「タケオさん、ここには『ドリンクバー』なんてものは無いスよ」

 あっ!・・・・恥ずかしい、ここは地元じゃないんだ!お茶の水なんだ、何ボケてんだ俺。

 轡田は溜息混じりに「なんだ恥ずかしい、しっかりして下さいよ。こんな、今どきビロードのソファーにわざと落とした照明、ピアノの生演奏がある喫茶店で『ドリンクバー』なんてやってる訳ないでしょ・・・」

 タケオは真っ赤になった。恥ずかしさと、轡田に見下された悔しさで。

ここ数年、地元の外食フランチャイズチェーン店以外の軽食店を利用してないタケオは、つい癖で「飲み放題」のカウンターをチェックしてしまったのだ。

 つい数十分前「異業種交流会」で知り合った、漆原(うるしばら)とゆう人を見る。ソファーに掛けた時と同様、自然なスマイルのままなので、タケオは安心して腰を下ろした。さて、この人は一体何者なのか?

 貰った名刺を取り出し、裏返す。プロフィールの下に<興味分野>と書いてある。どれどれ・・・。

 同種療法、気功、レイキ、真向法、自力整体、アーユルベータ、有機農法、スローフード、マクロビオティック、サイババ、チベット密教、老荘思想、フロイト、ユング心理学、森田療法、メンタルヘルス、魔法の質問・・・。

 頭が痛くなってきた。この人もやっぱり怪しかったんだ。

 タケオの心を見透かすがごとく「まさか、全ての分野でエキスパートじゃぁありませんよ。只、ホメオパシーと心理学に関しては首まで漬かりきってますが」

 健康オタクのタケオにとって、ホメオパシーは浅いけど知識はある。でも、心理学なんて知らない。この2つは、この人の中でどうリンクしているんだろう?

 「で、私の事より、轡田さんから聞いたのですが、重責を任されているとかで・・・」

 「ハイ、僕は中途半端な奴なのに、勝手に期待されて『農場主』と『整体院長』を継がねばならない状況でして」相手の右眉がピクッと動いた。

 「それは、その先代の方達もタケオさんなら出来る、つとまると見越して依頼したんじゃないですか?」

 「いやぁ、たまたまだと思います。他にあてがなかったんでしょう・・・」

 漆原は、メガネ越しの奥二重をカッと見開き「その、自嘲・自虐からはいる話し方が、あなたの前進を阻むブレーキになっている事に気付きませんか?」

 目を見据えられて、タケオはドキッとした。「ボ、僕の話し方ですか?」「そうです」

 漆原は姿勢を但し、ゆっくりと話し出した。「初対面のあなたの事をズバリ切りたくはないんですけど、さっきの自己紹介の時も『煮え切らない奴ですが』とゆう言い始めだったこと、憶えてます?」

 え?30分前にこの喫茶店に3人で入って、腰掛けて、自己紹介して・・・。「確かに、言ってますね。自己否定から話を始めてますね」

 「そうでしょ?それ、非常にもったいないです。あなたが持っている資質、これから開発する才能、それらをあなたは自分を見下す言葉から話すことによって、可能性を萎縮させている・・・。その事実に早く気付くべきです」

 ガアァ〜ン!! 頭をうすで突かれたみたいだった。

 「自己否定、萎縮・・・ですか」

 「ごめんなさいね、こんなズケズケ言って。でも、あなたが背負い込んだ任務は、あなたが自身を認めないと運ぶことが出来ない。その為には、まず自分の話から自己否定を排除しましょう。そうすれば、あなたは一歩前進しますよ。大きな一歩です」

 「いや、謝らないでください。それどころか漆原さん、もっとその話を聞きたいんですが」

 「自己暗示的な部分、ですか?それとも心理学全般ですか?」

 「両方です!是非聞かせて下さい。お時間大丈夫ですか?自宅は遠いんでしたっけ?」

 タケオは身を乗り出していた。その一部始終を横で見ていた轡田は、首をかしげた。

 「やれやれ、この人はパートナーを探しにきたのか?カウンセリングを受けに来たのか?」 

 

【健康オタク、末路へ】第37回:怪しい「起業家予備軍」達 

2009年02月25日(水) 22時50分
営団地下鉄・お茶の水駅の出口エスカレーターは、どうしてこうも長いのだろう。脇に階段があれば、大殿筋のイイ刺激になるのに・・・。

 やっと地上にたどり着く。11月に入ったので、5時半をまわったらもう暗いや。

 タケオは、普段訪れない都心のオフィス街ビル群に囲まれて、居心地の悪さを味わっていた。

 ヤフー地図のプリントを片手に、やっと見つけた5階建てのビル。受付が無いので、フロアー図面を見る「え〜と、3階だっけ?」

 「4階ですよ」タケオより半歩後ろで、轡田がつぶやく。

 驚いた。そうだ忘れてた、コイツも連れてきたんだっけ。

 都心で、ビジネス街で、人混み、と全く慣れない環境に向かう事に不安だったタケオは、暇そうな轡田を選び、前日夜に「お茶の水の改札に5時半な」と電話で一方的に約束して、轡田の返事も聞かずに携帯の電源を切ったのだった。

 「ほんっとにタケオさんも森さんも、強引なんだから・・・」

 轡田のグチを聞き流しながら、タケオはやっと到着したエレベーターに乗り込み、4階のボタンを押すのだった。

                    *

 「アナタは天才だけど、出来ないこともあるでしょ?」

 「そ、そりゃ、出来ないことの方が多いですよ!」

 貴婦人から「天才」と言われた事に対して、不思議と否定しなかった自分自身に、タケオは驚いていた。

 「アナタの得意な分野を、誰かに分け与えて、苦手な分野を誰かに分けて貰うのよ」

 「それが『ジョイントベンチャー』なんですか?」

 「そっ。あくまでも個人レベルな話だけど、まずはきっかけを自分で作っていかなやきゃね」

                    *

 そうして、タケオはきっかけを見つけるべく、インターネットで「異業種交流会」を検索して、直近の日程を選んで申し込み、そして今日、このセミナー会場に来ているのであった。

 「んにちワ〜!」後ろからカン高い声、驚いて振り向くと「イイ目の色してますね、才気を感じます。あ、私はこうゆう者で・・」

 変な男が差し出す変な名刺。肩書きに「電気料金削減コンサルタント」怪しい。しかも業種が関係ない。こうゆうのは相手をしないに限る。

 それにしても会場は変な雰囲気だ。良く言えば、起業家予備軍のエネルギーが噴出してる感じで、悪く言えば、新手のネットワーク的な勧誘を互いにしあってる様な、泥臭い光景。

 来なきゃよかったかな?また、変っぽい男がエセスマイルで近づいてきた。「どうもこんばんは。何されてるんですか?私はこうゆう者で」名刺の肩書きは「フライパン磨きスペシャリスト」

 フライパン・・・。タケオとは完全に離れてはいないが、やっぱり気持ち悪い。もうやだやっぱり帰ろう。

 轡田の姿が無い。タケオは辺りを見回す。いた。やっぱりアイツも誰かにつかまってる。

 タケオはツカツカと轡田に駆け寄り、後ろから肩をつかんだ。「おい、もういいよ、今日は帰ろう」

 轡田はビックリしていたが「ああ、タケオさん丁度いいタイミングですよ。この人、凄いんですよ」

 轡田は話をしていた20代の男をひとさし指で示して言った。失礼な奴だ。

 「あ、お連れの方ですか?どうも始めまして。私は漆原(うるしばら)といいます」

 「あ、どうも」その男が差し出す名刺の仕草が、あまりにも自然だったので、タケオは抵抗なく受け取ってしまった。

 どうもこの人は、会場内のギラギラした奴らとは違う。名刺の肩書きをみて、タケオは驚いた。

 「RAH公認ホメオパス 漆原 岳」

 轡田が割り込んできて、タケオを促す。

 「タケオさん、『ホメオパシー』って当然、知ってますよね?この人は、その道のスペシャリストなんですよ」

 その男はナチュラルスマイル(タケオにはそう見えた)を浮かべて、タケオに話しかけた。

 「失礼ですが、名刺を頂けますか」

 「スイマセン、今は無いです」しまった情けない、名刺くらいネットで調べて作っとくべきだった!
 (つづく)

【健康オタク、末路へ】第36回:怪しい「健康ジョイントベンチャー」 

2009年02月18日(水) 10時57分
かなりの摺り生姜が入っているスパイシー・チャイ。

 タケオの前に差し出されたグラスの形は、何故か長靴をモチーフにしている様で「つま先」を上下どちらに向けて飲み干せば良いのか考えあぐねていた。このグラス、一体何の意味が?

 「意味なんてないわよ」

 一気に心臓がバクついた。この人、相手の心まで読めるのか。

 「何かを開発したり、ゼロからモノを作る時って、意味を考えちゃダメなのよ。相手がどう使うとか、どう思うかなんて、そんなの相手の勝手。自分が『面白い』って感じたモノを形にすればイイでしょ」

 「はあ・・・」かつて経済誌で「和製女エジソン」と紹介された初老の貴婦人は、自身の「発明哲学」をさりげなく語ってくれた。

 「早く飲みなさいよ。カラダが暖まれば、心もほぐれるし」かなり生姜臭がきつめのチャイティー。タケオは結局「つま先」を上にして一気に飲み干した。辛い!

 「このグラスは、何故かビール好きの人にうけたから『イエローブーツジョッキ』って後からネーミングしたの」

 コロコロ笑っている。この人の頭の中って一体?

 一瞬会話が途絶えた瞬間、貴婦人から話を切りだした。

 「で、アナタはどうしたいの?」

 いきなり核心かよ!心の準備ってモンがあんだろ。

 まごついているタケオを見ながら、貴婦人は溜息をつき「癖ってなかなか直らないわね。アナタは何でも物事を重荷に、複雑に解釈しちゃうから、必要以上に苦しむのよ」

 「はあ、そうですか」

 「自覚、ないの?」「ないことは、ないです」

 「要するに、アナタは自分の器以上に期待されて困っている。70ヘクタールの農場経営と、五反田を代表する整体院の運営なんて自分には重すぎる。でも何故か断れない。それどころか、この成り行きを運命かもしれないと思っている。そんな感じでしょ?」

 全部お見通しだ!本当に心が透けて見えるのかもしれない。もはや観念するしかないや。

 貴婦人はすっと立ち上がり「今日はお天気もイイし、庭を散歩しましょ」

                     *

 だだっ広い庭園を二人で歩きながら、タケオは前回訪問したときに見かけた「マーライオンの噴水」をマジマジと見た。

 タケオの視線の先を確認して「あの、シンガポールのシンボルも、私の発案なのよ」

 「え?」

 「66年に独立した時、私が『自由と勇気のシンボル』として、当時の大統領にイラストを差し出したの。翌年には本物の像が出来上がっていたわ」

 「えぇえぇえぇ!」ウソだろおい。

 「嘘よ」

 「あ・・・そうですか」そりゃそうだ。今回の訪問は疲れる。

 「アナタって複雑そうで、実は単純ね」誉められてるのか、バカにされてんのか。

 「でも、私が30年間で取った特許の大半は、私一人の作品じゃないのよ。少なくとも、今のアナタみたいに一人で悩んで開発したモノなんてないわ」

 「はあ・・・」ディズニーのキャラの形に刈り取られた植樹を触りながら、貴婦人は振り向いた。

 「これはアナタにとって『他の才能と組む時期』が来ているサインだと思うんだけどなあ」

 「他の才能?どうゆう事ですか?」タケオは足を止め、貴婦人と向き合った。「誰かの協力を仰げ、とゆう事ですか?」

 「協力?似ているけど、ちょっと違う」貴婦人は人差し指でタケオのおでこをつついた。

 「まず、アナタは自分の才能を信じなさい。この直径10センチくらいの小宇宙、つまりアナタの脳みそには、凄い智慧が詰まってるのよ。世界を変えられるだけの智慧よ」

 「この、アタマの中にですか」「そう、ソレが第1歩。判った?」

 「判りました。とゆうか、今は判ることにします」

 「・・・まぁいいか。次のステップは、その無限の智慧の中でも、一番弱い分野を探すの。アナタにとってそれは何か判る」

 タケオは1分ほど考え「社会と、世間と折り合いをつけるスキル。あと、モノを伝えるスキル・・これは経験値からでしょうが」

 「なるほど。で、アナタは何が得意?何を語れる?」

 「得意で、好きで、ずぅっと語れるモノは・・・『健康』です」

 「そうっ!健康オタクのアナタは、ソレを語ること、教える事が出来る。後は、ソレをいかに伝えるか」

 「・・・あ、そうか」つまり、情報伝達のスペシャリストと組めばいいのか。

 「判ってきた?つまり『健康オタク』のジョイントベンチャーになるわね」

 「ジョイント?何ですかソレ?初めて聞いた」

 健康ジョイントベンチャー・・・・なんか胡散臭い。
 (つづく)

   

【健康オタク、末路へ】第35回:発明王サン、」知恵を下さい 

2009年02月06日(金) 23時18分
フワフワと舞い上がったり、ふさぎ込んだり・・。

 タケオの頭の中は、相反する感情が振り子の様に規則正しく往復していた。

 頭が重いのは、佃さんとの晩酌のせいだけじゃない。ケツが痛いのは、間違いなく森さんに蹴られたせいだが。

 「気持ち悪いんか?吐くときは窓開けろよ」運転手の森さんは、助手席のタケオを気遣ったつもりだったが、タケオには「ゲロでシートを汚すなよ」とゆう意味で伝わったらしい。

 余計に気分が悪くなってきた。こんな奴の運転で戻るのなら、面倒でも常磐線の鈍行でゆっくり一人で帰った方が良かった。

 それにしても、偶然が続きすぎる。何かにつけ中途半端なオレが、この場に及んでどうして必要とされているんだろう。

 オレはひょっとしてこの世界で、実は重要な人物なんじゃないか?フワ〜っと心が舞い上がって、15秒。

 いや、ソレは過信、慢心だ。ちょっと待てよ?今までも色々頼まれて、断る怖さを回避するために「何でも」引き受けちゃう。結果、何もかも未完成でみんなに迷惑を掛けてきたじゃないか?

 ここで30秒ふさぎ込む。そしてまた、「いや待てよ、オレはもしかして・・・」。

 同じ動作を繰り返す助手席のタケオを横目で見ながら「コイツ、壊れたカラクリ人形かよ・・」と森さんは感じるのだった。

 後部座席の轡田も、タケオのリズミカルな浮き沈みを、心配そうに見守っていた。

 「そう、そういえばアンタ、何処住んでんの?」

急に運転手の森さんに話しかけられて、ドギマギした轡田は「ぼ、僕ですか?荒川区に三河島とゆうところがありまして」

 「そっかそっか。じゃあ入谷インターで下りるとすっか。細かいところは教えてな」

 あれ?意外と優しいんだ。天敵ともいえる森さんのルックスに萎縮していた轡田は、少し感動していた。

 その二人のやりとりの間も、タケオは相変わらず感情のアップダウンを繰り返していた。
 
                       *

 高校を出て就職し、3日以上の休日を経験したことが無いタケオは、自宅で「手持ち無沙汰ジゴク」に苦しんでいた。

 年末年始、ゴールデンウィーク、盆休み期間もアルバイトに身を削って稼いだお金は、サプリメント、有機野菜宅配、通販のフィットネス器具、日帰り温泉の岩盤浴とかの「健康消費」にまわされていたので、貯金は残ってなかった。それでも11年勤めた会社の退職金が出たので、当面は生活には困らない。

 しかし「何にもしないこと」程、苦痛な状態は無いな。なんなんだこの浮ついたポジション・・・。

 時計を見る。ちょっと早いが、もう出よう。アパート集合ポストの真横に着けてある自転車にまたがり、タケオは「ある人」を訪ねに秋空を走るのだった。

 現地に着き、チャイムを押す「ゴメン下さあい・・・」

 「アラ、随分早いのねえ。どうぞ勝手に入ってきて!」元気な声がインターフォン越しに聞こえてきた。

 屋敷までの長い道のり(庭園)を歩き、扉の前に立ち、一応ノックをしてから「失礼します」

 初老の貴婦人が迎えてくれた。「タケオさん久しぶりねえ、私も会いたかったの。その後の展開も知りたいし・・・」

 「スイマセンお忙しいのに。実はその件で相談したいことが・・・」

 この発明大富豪は、ミラクルな解決策を開発してくれるだろうか?
 (つづく)

 

 

【健康オタク、末路へ】第34回:ここでも後継者不足? 

2009年01月21日(水) 10時41分
高速サービスエリアの売店でタバコを買い、車に戻ろうとした森さんだったが、踵を返してトイレの方向に歩き出した。

 「まだ先が長いし、おれもウンコ出しとこっ・・・ん?」男子トイレの入口で、轡田が突っ立っている。携帯電話の画面を覗いているようだ。

 森さんはそぉっと近づき背後に回リ、覆い被さる様にグッと両肩をつかんだ。

 「キャッ!」轡田の声が裏返った。「誰のメールだよ?彼女か?」そういって森さんはムリヤリ轡田の手から携帯をもぎとった。

「やめて下さい、返してください・・・」轡田は懇願したが、森さんは構わずに画面を覗く「ナンダこりゃ?」

 着信メールには星空が添付されていて「プレアデス星団(昴)、南南西36度、23時42分」と本文に記録してあった。

 森さんが呆気にとられているスキに、轡田は携帯を取り返した。「全く、まだフォルダに保存してないのに・・・」

 「オマエ、俗にゆう”天文オタク”か?」森さんが訝しげに尋ねる。

 「まぁ、”オタク”扱いされるのは本意ではありませんが・・・」轡田は不満そうに携帯を折り畳み、背中のデイバッグにしまおうと振り返ったとき「あっ!」

 鉄棒がある広場を指さし「森さん、あそこ・・・」

 2人が見たのは、タケオと黒髪の女性が、向かい合って言葉を交わしている光景だった。

 「誰だ?あのキレイなねえちゃん・・・」

                      *

 「いやぁ、凄い偶然ですね。まさか同じ場所でまたお会いできるとは」

 「私も驚きました。この間は、ちゃんとしたお礼もしないで・・。でも、アナタのことは洋介さんから聞いてるから、凄い身近に感じてたの」

 そうだ思い出した。スミレさんは大沼と婚約してるんだった!タケオは高ぶった気持ちが一気に冷めてゆく自分を感じた。

 「そそ、そう。結婚おめでとうございます。アイツとは幼なじみだから、いいところも悪いところも全部知ってますけど、芯は優しくて暖かい奴だから、スミレさんは幸せになれますよ!そして何よりも、アイツ自身が一番幸せになるんでしょうね」

 タケオは喋りながら、俺はなんで心にも無いことをクダクダとまくしたててるんだ?と自問していた。

 この人は大沼の借金癖と、ヤツの病的な酒乱を知らないんじゃないか?

 俺はアイツの真実を伝えることで、かえってスミレさんを救うことになるんじゃないか?なるかもしれない。

 でもまてよ?そのことをオレが伝えてど〜するんだ?

 スミレさんはそんな大沼のだらしなさも含めて、好きになったかもしれないじゃあないか。第一、オレが忠告したとしても本人にはおっきなお世話だろう・・・。

 「ええ、そうなるのかな」スミレさんの返事は歯切れが悪かった。まずいこと言っちゃったか??

 話題を変えよう。「そういえば、柳先生は元気ですか?2ヶ月半前にここでお会いしたときは相変わらずとゆうか、やっぱり僕は叱られましたが」

 「ゴメンナサイね。私の肩を治してくれたあなたに、あんな態度をとるなんて」

 「いえいえ、僕のは中途半端で錆び付いた整体だから、運良くはまってくれてホッとしましたよ」

 毒にも薬にもならない会話をしばらく続けた後、スミレさんが切り出した。

 「実は、タケオさんにお電話で伝えたかった事があるの、父の件で」

 「へ?僕にですか。柳先生に何か?」

 「父が経営している整体院なんだけど・・・」

 「ハイ。五反田の、僕が2年ほどお世話になった所っすよねえ?」昨今の健康ブームで、沸き返ってるらしい。

 「父は、私の母の看病をする時間がなくて、困っているの。お弟子さんに教えてあげる時間もとれなくて」

 「はあそうですか」その件をオレに電話で伝えようと?ってことは。

 「父は、私の肩脱臼を治したあなたを見て、”柳整体術”の後継者はあなたしかいないって言い出したの」

 「はあ?」後継者?何を言ってるんだ。

 「・・・おっしゃる意味がよく判りませんが」

 「父は、ああゆう性格でしょう?直接あなたには頼めないから、私を介してタケオさんに来て欲しいと・・・」

 「僕がぁ!?無茶ですよぅ!実際、僕は5年前に破門されたんですから」

 スミレさんは押し黙ってしまった。やばいなあこの空気。

 やがて口を開いた「とにかく、五反田の診療所に来て頂けないかしら?」

 やだよ〜!やだよ〜!(つづく)

【健康オタク、末路へ】第33回:運命の再開、そして急展開? 

2009年01月12日(月) 23時19分
ケツに鈍い痛みを感じて、タケオは目覚めた。摺りガラス越しの朝日が眩しく、頭が痛い・・・。

 昨晩の記憶は鮮明に残っていた。その分、後悔が一気に押し寄せてきた。何で、つきあいとはいえ好きでもない日本酒をあんなに飲んじゃったんだろう。

 それにしても、二日酔いと現在の尻の痛みとは関係ない。タケオは視線を感じて、顔を上げた。誰かが見下ろしている。

 その顔、えらの張った輪郭、団子っ鼻に剃った眉毛、きつめのアイパー・・・森さんだ!

 目覚めたタケオに気付いているのかいないのか、口元にうっすら笑みを浮かべていた。なにがおかしいんだこの野郎。

 森さんは大きく息を吸い、左足を後ろに引いた。振り下ろした足のヒットポイントは、俺のお尻だと、タケオは瞬時に悟った。危ない!

 タケオはとっさに身体を転がして、森さんの蹴りを間髪でかわした。蹴りを空振った森さんはバランスを崩し、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。

 「ぎゃあぁぁぁ!」呻いたのは、森さんの下敷きになった轡田だった。森さんの大きな背中が顔面に乗っかったらしい。

 「ああ悪い悪い・・・」森さんは体勢を立て直して、タケオに振り向いて、またニヤついた。

 「なんなんすかぁ一体!」

 タケオは頭の痛さと、尻の鈍痛、蹴られた理不尽さ、それらのサプライズの連続で混乱した精神状態を、一気に森さんにぶつけてしまった。「なんなんすかあ!何でここにいるんすかあ?!」

 「予想通りだな、やっぱり佃さんに潰されたのか」森さんは座り込んでタケオを見据えた。「不思議だろ?俺がここにいるのが」

 「そりゃあ・・・もしかして、社長に頼まれたんですか?」

 「そのとおり。この間の俺の様に、佃さんがひっきりなしに熱燗を勧めるから、多分、翌日の運転はムリじゃないかって『ハゲ』に喋ったんだ。そしたらオマエが迎えに行けって指名されてさ。まあ、俺しかここを知らないから当然なんだけど。それに、交通費としてこんだけ貰ったからさ・・・」

 森さんは、ポケットから封筒を取り出し、入っていた1万円札3枚をタケオの目の前でヒラヒラさせた。いちいち行動が鼻につく奴だ。

 奇声を上げた轡田がやっと上半身を起こして、森さんと視線を合わせた。

 轡田はビビリながら「あ、おはようございます。初めまして・・・」

 森さんは訝しげに轡田を睨みながら、吐き出すように言った。

 「誰だオマエ?」

                      *

 「あのオヤジ、見送るときまで上機嫌だったなぁ、うまく丸め込んだじゃねえか?」

 「辞めて下さいよ、丸め込むだなんて・・・」

 常磐道を片手でハンドルを握り、空いた手で鼻をほじる森さんを、助手席のタケオは未だに許せなかった。何で、尻を蹴られなきゃならないんだ。

 「まあ、それもこれも後ろのアンチャンのお陰らしいな。、何だっけ?ツクワダ?クツダ?」

 「轡田です・・・」消え入りそうな声で返事をする轡田本人にとって、森さんのようなタイプは天敵らしい。顔色が悪い。

 ミラー越しに見る轡田の表情が、ドンドン曇っていくのがタケオは気になり「どうしたの、具合悪いの?」

 「あの・・・」振り絞るように、運転手の森さんに気を遣いながら口を開いた。

 「すいません、1昨日から出てなかったモノが、ここにきて急に・・・」

 「ウンコかぁ?」「・・・ハイ」「したいんなら言えよ!」

 タイミング良く1km先にサービスエリア(SA)があったので、休憩する事にした。

 そこは、偶然にも2ヶ月前に、初めて佃さん宅を訪れた帰り道に寄ったSAだった。

 轡田は公衆トイレへ、森さんはタバコを買いに売店にいってしまい、取り残されたタケオは「ストレッチ」用の鉄棒にぶら下がったりしていた。

 物思いにふけった。この3ヶ月、色んな事があったなあ・・。

 市場の積み込みで、宮崎産マンゴー(1万円相当)をダンボールごと落としてみんなに賠償を割カンして貰った事。過労でぶっ倒れた事。初めての佃さん宅に訪問した帰り、かつての恩師、柳先生の愛娘「スミレさん」と運命の出会いをした事、しかし、実は婚約者がいて、しかも相手はタケオの親友だった事。

 佃さんの孫娘に、農場を継いでくれと懇願された事。そして、勢い余って会社を辞めてしまった事・・・。

 俺は、正しいことをしているんだろうか?何かに導かれて、こうして今ここで鉄棒にぶら下がっているのか?この先どうなるのか?

 スミレさん、キレイだったなあ。「純連」って書くんだっけ?ラーメン好きのアイツにはピッタシだな。

 「あのう・・・」背後に女性の声、まさか!!

 ぶらさがったままカラダをねじり、タケオは振り返った。そこには。

 「す、す、す、スミレさぁん・・・」

 こ、これってユングが言ってた「シンクロニシティ」って 奴?
 (つづく)

 


 
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:「マクロビアン」タケオ
読者になる
2009年05月
« 前の月  |  次の月 »
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
メルマガ登録・解除
ガテンアスリート・タケオ「マクロビアンへの道」
 
 powered by メルマガスタンドmelma! トップページへ
Yapme!一覧
読者になる