THE KINGDOM 66話 

May 20 [Wed], 2009, 8:31
 「ふむ、どうやら?知らなかったようだな?」
 残酷な質問を投げ掛けた男は、アルフォンスの顔に驚愕の色を見出だすと、つまらなそうに吐き捨てた。
 「いや待て、あの淫乱さなら、ともすればハクロ様の目を盗んで、これもくわえ込んでいたかも知れんぞ」
 誰かがアルフォンスを指差してそう言うと、場に嘲笑が沸き立った。
 「何!それは捨て置けんな?おい、それは本当か?」
 更に嘲笑が大きくなる。
 「答えろ!奴隷の子!」
 掴まれた髪を更に引っ張られ、苦しげにアルフォンスが口を動かした。
 「………な…」
 「ん?何を言っている?」
 微かに聞こえるアルフォンスの言葉を聞き取ろうと、一人が無防備に顔を近付けて来た。
 ガツン
 その瞬間、顔面に頭づきを喰らわせる。
 のけ反ったその男を確認する間も無く、間髪入れずに髪を掴んでいた男にも頭づきをすると、後ろ手に縛られたまま仁王立ちになった。
 「よくも、あの人を愚弄したな!」
 怒りに燃えた目が残りの男達を射ぬくと、再び生じた恐怖に彼等は「ひっ」と情けない声を出した。
 足元では、鼻を潰された男達が痛みのあまり、泣きながら悲鳴を上げている。
 「己の保身しか考えられないお前達が…よくも……」
 ジャリ…
 アルフォンスが足を踏み出すと、男達はじりじりと後退する。
 「よくも…」
 「ひっ」
 アルフォンスに詰め寄られ、男達は自分を守る為に互いを盾にしようと右往左往し始めた。
 その滑稽な姿が、余計にアルフォンスの怒りを掻き立てる。
 「やめろ!来るな!」
 「いや、待て、肩を見ろ」
 「ん?なんだ、役立たずのままか」
 しかし、アルフォンスが後ろ手に縛られたまま肩の関節を外され、ブラリと腕をぶら下げたままであることに気が付くと、彼が満身創痍となっているのを思い出したのか、僅かに余裕を取り戻した。
 「ふんっ、そ、そんな情けない姿で、我々に逆らう積もりか?」
 不意にアルフォンスが身を翻した。
 「くっ」
 ごきんっ、ごきんっ
 パラ…
 再び嫌な音がしたと思うと、アルフォンスの両手から縄が落ちた。
 「なっ…!」
 目の前の事態に男達はそれ以上、言葉を発することが出来ず、苦しげに息をする魚のように口をパクパクさせていた。
 ジャリ…
 アルフォンスが今度は無言で歩を進める。その目からは既に感情の色は消え、ただ真っ直ぐに男達を見据える視線だけが力を保っていた。
 ゾクリ…
 男達の周りの空気が冷気を含み始める。
 (殺される…!)
 そうは感じても、この男達は行いを悔いて見せる知恵も、死を覚悟するという感情も持ち合わせてはいない。
 代わりに、この事態を絶対回避できるであろうと彼らが信じている切り札を持ち出した。
 「わ、私達に手を出せば、お前もただでは済まないぞ」
 ジャリ…
 「ひぃっ!我々を殺しても無駄だぞ!どうせ今頃、お前の兄は死んでいる!」
 「!」
 アルフォンスの目に感情が戻った。
 「う…嘘だ」
 「嘘などではない」

THE KINGDOM 65話 

May 19 [Tue], 2009, 19:07
 (…これは報いだ…)
 ドクン…
 体内に感じた微かな振動の後、アルフォンスは忌まわしい行為から解放され、彼の身体は力無く地面に投げ出された。
 すでに身体の痛みは感じなくなっていた。何度も汚され、太股にまで赤黒い滴が幾筋も流れていた。
 木々の葉擦れの音が遠く聞こえる。
 今はあの夜の情景も遥か遠くにあったが、心は未だあの夜に囚われていた。
 (あの時…どうしてボクは逃げたんだろう…)
 エドワードに介抱されて自我を取り戻した時、アルフォンスは兄の腕をを振りほどいて、その場から逃げた。
 ボロボロの痛々しい姿で、それでもアルフォンスだけを心配し、気遣うエドワードの姿に酷く打ちのめされていた。
 『待ってくれ、アル!アル!…』
 悲痛な叫びが、今でも耳に残っている。
 だが、この時のアルフォンスにはエドワードと共に居ることが出来なかった。その場に居ることが出来なかった。
 頭の中がぐちゃぐちゃになっていて、逃げ出さなければ気が狂ってしまいそうだった。
 (最低だ…ボクは…これは、当然の報いなんだ…)
 『…アルフォンス!!』
 すぐ傍で、エドワードの悲鳴が聞こえた気がした。
 (ごめん…ごめんね……ごめんなさい……兄さん……)

 「なかなか具合は良かったな」
 下卑た笑いが聞こえ髪を掴まれた。
 顔を上げさせられると、それがアルフォンスを現実に引き戻す。
 「確かに。だが、無反応だったのはつまらなかったぞ。不感症なのか?」
 別の一人が好事家の目を向けながら、不満の色を隠さずに言った。
 「はははは、馴れていないだけだろう。身体が馴れれば良い声で鳴き始めるさ。かなりの上物になる」
 「何せ、あれの弟だからな」
 (…)
 チリ…
 (あれ…の弟?)アルフォンスの心が僅かに反応した。
 「どうだ?このまま大人しく私の物になれば、命だけは助けてやるぞ?」
 「おいおい、私達に味見だけさせておいて、美味しい所は全部一人でかっさらっていく積もりか?」
 「当たり前だ。私は前々から、これに目を付けていたんだからな」
 「しかし、簡単に思い通りになるとは思えないが…」
 「なあに、方法なら幾らでもある」
 「…そうまでして、欲しいか?」
 「ああ、欲しい。あれを見せつけられて、欲しいと思わない人間はいまい」
 「しかし、これがあれの代わりになるのか?」
 「…あれがハクロ様のお手付きでなければ…と思わなかった日は無い。だが、たったいま確信した。これは調教すれば、あれ以上の上玉になる」
 「だが、奴隷の子だぞ?」
 「大差無い。あれとて王族の血を引きながら、ハクロ様の肉奴隷だった」
 (……)
 チリ…チリ…
 「ほう…目に光が戻ったな?知りたいか?お前の兄の事を」
 アルフォンスは無言のまま男達を睨みつけた。
 「自分の兄が宰相の慰み物だったという事なら、既に知ってるのではないか?」
 「ほう、知っていたか?奴隷の子よ」
 男の一人が興味深げにアルフォンスの顔を覗き込んだ。

THE KINGDOM 64話 

May 17 [Sun], 2009, 8:47
 (ボクのせいだ!)
 恐怖で麻痺した頭で、それでもアルフォンスは理解した。
 エドワードの様子が何時もと違ったのは、こういう事だったのだ。
 (どうしよう……兄さん……!)
 しかし、キング・ブラッドレイの鬼気は、ベット下の奥深くに居てその姿を見ていない筈のアルフォンスまでも恐怖の底に落とし、そのため動くどころか声すらも出せずにいる。
 だが、それで良かったのかも知れない。その者の発する鬼気は、その場にある不要なもの一切を切り捨てるかのような冷たさを、確かに内包していたのだから。
 『…お前がそうまで望むなら、お前の心根に免じて、この場にそぐわぬものの存在は忘れることとしよう』
 その言葉と共にアルフォンスが隠れているベットが大きく軋んだ。
 咄嗟に耳を塞ぐ。
 これから何が起こるのか解っていた訳では無い。無意識に、これからもたらされる得体の知れないものが、耳から届く音であることを彼の体が認識し、それを恐れていたからかも知れない。
 それは、まるで真綿で首を絞めるように、残酷なほど緩慢にアルフォンスを追い詰めていった。

 ギシ…ギシ、ギシ…
 ベットが軋み不規則な音を出す。
 『はっ…くっ……』
 その音に、エドワードの発する微かな呼吸音が交ざる。
 その不可思議な吐息は、何かに耐えているようにも聞こえた。
 ギシギシ…ギシ、ギシ…
 『くはっ…うっ、ぁ…くぅ…』
 耳を塞いでいる筈なのに、何故こんなにもハッキリと『音』が聞こえるのだろう。
 『ぅあ……も、やっ……く、あっ、うぅ…くふっ…』
 吐息は泣いてる様に思えた。
 必死に何かに抵抗しようとしてかなわず、哀願しているようにも聞こえる。
 その残酷な響きが、容赦なくアルフォンスを苛んだ。
 (止めて!…もう嫌だ!嫌だ!)
 必死に耳を塞ぐが、聞くまいとすればするほど、それはハッキリとアルフォンスに届いてくる。
 『ふむ…耐えているな?声を出すまいとして…だが、何時まで耐えられるかな?』
 ギシシッ
 再びベットが大きく軋んだ。
 『ぅあっ…ぁんん、あっあっあぅあっ…』
 エドワードの吐息も強くなる。いや、今はもう吐息というより悲鳴に近かった。
 そうして、相変わらず不可思議な響きを含んだままのそれは、狂気をまといながらハッキリと、アルフォンスの耳から入ってくるのだった。
 (う…ぁあ…)
 ギシ、ギシ、ギシ、ギシ…
 『ひぅっ、あ、あ、あ、嫌…だ…だめっあぅ、あ、あんっあ、あ、あ…』
 (い、嫌だ!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌…)
 ブツン。
 突然、音が消えた。
 もう耳を塞ぐ必要も無い。ベットの足に掛かる布団の隙間から入る光が、遠くで滲みながら瞬いているように見えた。
 (お風呂に、入らなきゃ…)
 つん…と鼻をつく臭いがして、アルフォンスは心で苦笑しながらそう思った。
 気付かない内に失禁していたらしい。
 (……兄さんに笑われちゃう…)
 無意識に、アルフォンスは肩を抱いていた。
 (兄…さん……)

THE KINGDOM 63話 

April 16 [Wed], 2008, 8:57
 ガチャ
 扉が開かれる。
 エドワードは直ぐには振り向かず、本に没頭しているふりをした。
 『ふん…是非受け取って欲しいものがあるからと案内されて来てみれば…子供か』
 予想したものとは異なる声に思わず振り返る。
 『……!』
 そこに居たのは、短く切った黒髪をオールバックにし綺麗に整えられた口髭を蓄えた初老の男だった。
 左目を覆う黒い眼帯が印象深い。しかし、それ以上にエドワードを見るもう片方の目が放つ眼光に、彼は意識を奪われた。
 『…キング……キング・ブラッドレイ……』
 『ほう……私の名を知っているか。小国の幼き王子よ』
 見下げる男の目は感情のカケラも感じさせないほど冷たく、見られているだけで凍えてしまいそうだった。
 キング・ブラッドレイと呼ばれたこの男が居るだけで、室内の空気がピンと張り詰めているのが感じられる。
 この時、エドワードは生まれて初めて、言いようの無い恐怖の感情にとりつかれていた。
 『この国では、国の王族が娼婦のまね事をするのが通例なのか?』
 問われて、ぐっと奥歯を噛んだ。問いには答えず、恐怖を押し殺してキッと相手を睨む。
 『……』
 少しだけ冷気が緩んだ気がした。
 キング・ブラッドレイは問いの答えが無いことには気を悪くした風も無く、無言でエドワードに近付いて来た。
 顎に手を当てエドワードの顔を上げさせる。
 無意識にエドワードは瞳を閉じた。
 『まだ、その意味も解らぬ内から、そう仕込まれたか…憐れなものだ』
 エドワードの目が、驚愕の余りに見開かれた。
 思わず、顎に当てられた手を払い除ける。
 『…躾はなっていないようだな』
 そう呟くキング・ブラッドレイの顔は、言葉とは裏腹に僅かに笑っていた。
 意外だったのは、その笑顔に蔑みのような不快な感情が混ざっていなかった事だった。
 『何を笑ってる』
 思わず問う。
 しかしキング・ブラッドレイはエドワードの問いには答えず、
 『反抗的で口の聞き方も知らん。しかも鼠を一匹飼っているな』
 軽く部屋を見渡し天気の話でもするように、軽い口調で言った。
 ざわっ
 全身が粟立つ。
 (気付かれてる…!)
 だが、躊躇が命取りになることをエドワードは充分に承知していた。
 『鼠くらい飼うさ。ここは自分の部屋だしな。自分の部屋で何をしようが俺の勝手だ』
 エドワードも直ぐに返事をする。
 努めて軽い口調で言った。しかし、声が震えないようにするのに、そうとう苦心した。
 『そんな取るに足らない事じゃなくて、あんたには他に目的があるんだろ?鼻の下伸ばしてここに来るようなさ』
 『……』
 キング・ブラッドレイの視線が痛い。恐怖で泣き出してしまいそうだ。
 (でも…)
 『このエロジジィが』
 エドワードはそんな感情に負ける訳にはいかなかった。
 少しだけ引き攣る顔で、不敵に笑って見せる。
 目は決して逸らしてはならない。
 『私を挑発するか…?小国の幼き王子よ』
 そう言いながら、それでもキング・ブラッドレイの顔には余裕があった。

THE KINGDOM 62話 

April 04 [Fri], 2008, 9:24
 この日は、珍しくアルフォンスの方からエドワードの部屋に来ていた。
 その夜は、何とも言いようの無い不安がアルフォンスを支配していて、いてもたっても居られなかったのだ。
 『お前、どうして来たんだ?こんな時間に…』
 突然、現れたアルフォンスを見て、エドワードは困った顔をした。
 だが、決して強く怒る事はない。
 現れるなりエドワードに縋り付いて離れない弟の頭を、これ以上無い位に優しく撫でてくれた。
 怖がりで大人しい彼の弟が、普段は決して一人で使うことのない二人だけの秘密の通路を通って、夜の暗闇の中から現れたことがどんな意味を持つのか、当時まだ幼かった筈の兄は充分に理解していたのだ。
 『落ち着いたら、自分の部屋に帰れ。な』
 優しく諭す兄の言葉に、しかしアルフォンスは首を縦に振ることが出来なかった。
 『今夜は駄目なんだ。アル。解ってくれよ』
 返事の代わりに、更に強くエドワードに縋り付く。
 『…参ったな……』
 エドワードは心底困った声で、そう呟いた。
 『今宵は存分に…』
 去り際、ハクロがそう耳打ちした。
 ハクロが、そう宣言した夜は絶対にアルフォンスを側に置いておくことは出来ない。
 これからのことを思うと、鉛でも飲み込んだように鳩尾辺りがズッシリと重くなった。毎回のことだが、こればかりは慣れることがない。
 (もう少しだけなら、いいか…)
 どうせハクロは遅い時間にしか来ない。
 このまま、アルフォンスと共に逃げ出したい気持ちにさえなったが、それをしてはならないこともエドワードは充分に自覚していた。
 体は、もう自分とさほど変わらなくなっている弟の頭を撫でながら、小さく溜め息をつく。
 『もう少しだけなら、側に居てやる。そうしたら、ちゃんと帰れよ?』
 その言葉を聞くと、観念したようにエドワードから離れ、ほんの小さく頷いて見せた。
 『よし。良い子だ』
 エドワードはニカっと笑うと、今度はアルフォンスの頭をクシャクシャと撫でた。
 しかし、暫くも経たない内に事態が急変した。
 突然、こちらに近付く足音が聞こえ始めたのだ。
 (もう来たのか?!早過ぎる!)
 エドワードは慌てた。
 本当なら、抜け道からアルフォンスを帰さなければならないのだが、気が付いた時には足音はもう直ぐそこまで近付いて来ていた。
 『アル!ベッドの下に潜れ!奥の方に入って耳を塞ぐんだ!絶対に声を出すなよ?!』
 そう耳打ちすると、アルフォンスをベッドの下に押し込む。
 アルフォンスは何か言いたげだったが、聞いてやる時間は残っていなかった。
 (くそ!こんな事なら強く叱ってでも帰すべきだった)
 こうなったら、アルフォンスがエドワードの言い付けを守っていると信じて出来るだけ声を落とし、行為の間の自分の声を聞かれないことを祈るしかない。
 アルフォンスがベッドの下の暗がりに姿を隠したのを確認してから、何食わぬ顔で机に向かう。
 しかし、この時、本の頁も上手くめくれない程、エドワードの手は奮えていた。

THE KINGDOM 61話 

April 03 [Thu], 2008, 18:29
 「はははは…お前は本当に好き者だな」
 一人の提案に、皆が一斉に動き出した。
 それぞれの顔は、これから行われようとする凶悪な宴への期待と興味で醜く歪んでいた。
 「しかし、これにはそっちの方が残酷な気もするが」
 そう言った男の顔にも、言葉とは裏腹に凶暴な好事家の顔が浮かんでいる。
 「だから、良いんじゃないか」
 「確かにな」
 品定めする視線がアルフォンスに集まる。
 強烈な吐き気がした。
 なんとかしてその場から逃げ出すため体を起こそうとするが、先程メチャクチャに蹴られた時におかしな所を打っていたらしく、体がいうことをきかない。
 「おいおい、逃げ出そうとしているぞ」
 「無駄なことを」
 「逃げ切れると思っているのか?」
 嘲笑混じりの声が届く。
 「せっかくの獲物を逃がしはしない」
 後ろ手に縛られた腕が掴まれ、強引に後ろへ引かれた。
 勢い余って尻餅をつく。その反動で肩を捻ったようで肩に痛みが走った。
 「つ…!」
 痛みに目を閉じたと同時に、無防備になった下半身に誰かの手が伸びた。
 「!!止めろ!!」
 「ぎゃっ」
 気付いて必死に足で蹴ると、アルフォンスに触れようとしていた者が小さく悲鳴を上げた。
 その様子を見て、腕を掴んでいた男が軽く溜め息をついた。
 「ふん。抵抗されるのも面倒だな」
 グイッ
 勢いよく腕が引き上げられた。
 ゴキン
 「……!!!!」
 肩から異様な音がして、強烈な痛みに襲われる。
 「っうああぁぁぁぁ…」
 堪らずアルフォンスは叫んだ。用は済んだとでもいうように放たれた両腕が、肩からダラリとぶら下がっている。
 「お、おい…折ったのか……?」
 「折ってはいないさ。関節を外しただけだ。だが、相当痛いようだな」
 痛みの余りに涙を流しながら、もんどり打って倒れたアルフォンスを楽しげに眺めながら、男は事もなげに言った。
 「何をぼうっと見てる。さっさと終わらせるぞ」
 突然の出来事に呆然としていた者達が、男の言葉に弾かれたように動き始めた。
 「や、止めろ……」
 アルフォンスは掠れた声でそう言って、尚も抵抗しようとするが、既に体は全くいうことをきかなくなっていた。
 容赦なく服が剥がれ、下半身が剥き出しになる。
 薄暗闇の中でも、浮かび上がる様な輝きを放つアルフォンスの肢体を前に、誰からともなく生唾を飲み込む音が聞こえた。
 どうあがいても絶望の淵に立たねばならない事を、アルフォンスは悟った。
 目を閉じて受け入れる覚悟をした時、ぬらりと纏わり付くように闇がアルフォンスの上に覆いかぶさった。
 
 『アル!こっちだ!早く!』
 事態を飲み込めずに呆然としていたアルフォンスを、エドワードは強引にベッドの下に押し込んだ。
 アルフォンスが、言われた通りに奥の方で小さくなったのを確認すると、エドワードは安心したようにベッドから離れた。
 そうして、何食わぬ顔で机の上にある読みかけ の本を手に取る。

THE KINGDUM 60話 

April 01 [Tue], 2008, 8:46
 しかし、アルフォンスが膝を付いた瞬間、頬に強い衝撃を受け、彼の体は横に飛んだ。
 両手は後ろ手に縛られていたから、そのまま顔から地面に転がる。
 「ふん!馬鹿め。奴隷の子になど、親切に教えてやるものか!」
 簡単にはいかないだろうことは承知していたが、余りに予想通りの展開にアルフォンスの顔は苦笑を象った。
 口の中が鉄の味を含みだす。
 「何がおかしい!」
 言葉とともに腹部に痛みが走った。苦笑した顔を見咎められたようだ。一瞬、息が止まる。
 「ぐっ…げふっごふっ」
 苦しげに咳をするアルフォンスの頭は足蹴にされた。踏み付けられた側頭部が鈍い痛みを伴って軋んむ。
 「っ…う……」
 別の者がアルフォンスに近づくと、足蹴にしていた足は離れたが、髪の毛が掴まれ強引に顔を上げさせられた。
 アルフォンスの口許には血が滲み、表情を殺していた彼の端整な顔も、今は苦悶の表情に歪んでいる。
 「ふん。お前の様な者が中央にのさばるようになるとはな。ハクロ様が憂う気持ちが良く解るわ」
 男が忌ま忌ましげに吐き捨てた。
 だが、更にその上にいる者がハクロの暴挙を憂いていることを、この者達は知らないに違いない。
 「なんだ!その目は!!」
 真っ直ぐに男の視線を受け止めていたアルフォンスの瞳が、よほど気に入らなかったらしい。髪の毛が更に引かれて、ブチブチと数本の毛が切れる音がした。
 「……!」
 それでも、視線を逸らさずにいると、男は歯軋りして立ち上がりると、アルフォンスを力任せに蹴り始めた。
 しかし、何度も蹴らない内に息が上がってしまい、蹴る足にも力が入らなくなる。
 「おいおい。随分乱暴だな」
 蹴っていた男が完全にへたれてしまう前の絶妙なタイミングで、別の男が止めに入った。
 今の今まで傍観してにいながら、なんという言い草か。
 「それに、こういう事に直接手を下すのは、我々の主義に反するだろう」
 そう言って、アルフォンスを蹴っていた男の肩に手を置いた。
 「し、しかし…」
 肩で息をしながら、それでも足りないらしい不満げな男に、止めに入った男は笑いかけた。
 「それに、もっと良い方法がある」
 アルフォンスに近付くと膝を落とし、顎に手をあててもう一度、顔を上げさせた。
 「可哀相に。痛々しいな…」
 口元の血を親指で拭う。
 「だが、中々の上玉だ」
 瞬間、アルフォンスの全身を悪寒が走り抜けた。
 無意識に表情を固くしたアルフォンスの様子を見て、満足そうに笑っている。赤い舌でいやらしく唇を舐めると、アルフォンスの口元から拭った血を舐めて見せた。
 「傀儡とはいえ、王の庇護がなかったら、お前は今頃こいしてはいられなかったろうな…」
 蔑みとも同情とも取れる表情で、男はアルフォンスを見下げて笑っている。

THE KINGDUM 59話 

March 15 [Sat], 2008, 8:48
 風が吹く度に木立の囁きが聞こえる。
 彼らが行く道は僅かな隆起はあったが、道筋をやわらかい木の葉に守られた獣道だった。
 そこをたった7人の小隊とは思えないほど緩慢な動きで、一行は移動を続けている。
 その間、虜となったアルフォンスは少しだけ俯き加減で、静かに一行の前を歩いていた。
 最初のうちは先を行くアルフォンスに繋がれた縄が引っ張られ、彼に歩調を緩めるよう促してきたが、今は彼等の歩調に合わせられるようになったこともあり、引っ張られることもなくなっている。
 空が暗くなりかけた頃、道幅が広くなった場所に辿り着くと、
 「……ここに居ろ」
 今夜の宿営場所をここと決めたらしく、グリードはそう言い残して一人うすい闇に消えた。
 沈黙の時間。しかし、グリードの姿が完全に闇に消えたことを確認すると、残った者達は思い思いの場所に腰を降ろし、ぐったりと胡座をかいていた。
 「やっと、一息つけるな…」
 誰からともなく、ため息と共にそんな言葉が発せられた。
 憔悴しきった声には、あからさまな不満の色が含まれている。
 彼等がこのような強行軍には全く向いていないことは、彼等のその緩みきった体型からも容易に想像できた。
 「大体、なぜ我々がこんな事をせねばならんのだ…」
 「そもそも我々が出向かねばならない程の用件だったとは思えんぞ」
 一人が不満を口にすると、他の者も口々に不満を漏らし始めた。
 「いくら我々にとっても益のある話しとはいえ…」
 「仕方あるまい、ハクロ様直々のご命令だ」
 一人がそう咎めた。
 不意に出てきた名に、それまで静かに俯いていたアルフォンスが、微かに顔を上げた。
 「ふん。気になるか?ハクロ様は、リゼンブール王国で最も権威あるお方だからな」
 他の者を咎めた一人が、アルフォンスの反応を楽しむように言った。
 確かにハクロは今、リゼンブールで強大な力を奮っているが、既に裏の顔を承知しているアルフォンスにとって、その名は不快なもの以外の何者でもなかった。
 その名を居丈高に口にするこの者達も、ろくな者達ではあるまい。
 アルフォンスが黙っていると、頼みもしないのにその場に居る者達が覆面を外し始めた。
 余興の積もりなのだろう、現れた顔はアルフォンスの驚愕の表情を期待して歪んでいる。
 確かに見知った顔だった。
 だがハクロの名を聞き、だいたいは予想していた顔ぶれだったから、大して驚きはしなかった。
 「そんな!!なんで、あなた方がこんな所に……?」
 だが、アルフォンスは彼等の期待通りに、敢えて大袈裟に驚いて見せた。
 「ふん。本来ならお前のような者に話す事ではないがな……冥土の土産に聞かせてやろう。……まずは、座れ」
 相手の嘲笑を含んだ言い方に強い不快感を感じたが、その感情を飲み込みアルフォンスは相手の言葉に従った。

THE KINGDUM 58話 

January 17 [Thu], 2008, 21:54
 「そうだな…いや、悪くはないな…それだけの覚悟ってのは、そうそう出来るもんじゃないしな」
 ヒューズ大公は、何故か少し自虐的な表情をしているように感じた。
 「でもな…お前を見てると、どうもな…死に場所を探してるように見えてしょうがないんだ」
 「えっ…?」
 「多分、お前自身にも自覚は無いんだろうけどな…」
 「………」
 「最初は、生き急いでるんだと思ってたんだが…どうも違うんだよな。お前を見てると」
 (死に場所を求めてる…?ボクが?……)
 ヒューズ大公の言葉を、自分自身に問い掛ける。
 (ボクは……死にたがってる?……)
 無意識に、アルフォンスは両手をきつく握り締めていた。
 (ボクは……)
 「……まぁ、自覚しろって言っても無駄だろうからな…だが、これだけは肝に銘じていてくれ。覇道の中で何かを成し遂げようとする時、そいつに必ず死ぬよりも辛い出来事が襲い掛かるもんだ……そんな時、地べたをはいずり回っても生き抜いて、己の信念を貫く強さが要る。それは共にいく人間にも言えることなんだ」
 「…ボクは……」
 何かを言いかけ、アルフォンスはもう一度、言葉を飲み込んだ。
 自分の中にある無意識の感情が、先程のヒューズ大公の言葉を肯定していることに、アルフォンスは気付き始めていた。
 「どうした?」
 だが、アルフォンスが何かを口にしたことに気が付いたヒューズ大公は、話すのを止め、アルフォンスに発言を促した。
 「……あなたは、ボクが何に見えますか……?」
 問いが、不意に口をつく。
 その顔は、無表情のまま俯いていた。
 「そうだな、ほんの14歳のガキだ」
 「……ガキ…ですか?」
 「ああ。自分が何者か解らずに、必死にもがいてるほんの子供だ」
 「…それは……“人”ですか…?」
 「何を言ってるんだ。当たり前だろ?」
 ヒューズ大公の言葉に、アルフォンスは勢い良く顔を上げた。
 その顔は大きく歪んでいる。
 「違う!……ボクは…人じゃない!!」
 「アルフォンス……」
 「ボクは………だ!!」
 「!」
 「ボクは…………」
 「もう良い……アルフォンス…もう……」
 ヒューズ大公の手が、アルフォンスの肩に優しく置かれた。
 「……!!」
 「悪いな。柄にも無く喋り過ぎたみてぇだ」
 アルフォンスの頬は、いつの間にか濡れていた。
 「それでも良い。生きろ、アルフォンス。多少汚くても良い、生き抜いて、生き抜いて、もっと広い世界を見聞きしろ。お前はそうすべきだし、お前にはそうする権利がある」

THE KINGDUM 57話 

January 07 [Mon], 2008, 16:21
 後ろ手に縛られ、荷馬やロバの様に引きずられながら、アルフォンスは静かにイーストウェルズでヒューズ大公に言われた言葉を思い出していた。
 それは、アルフォンスが旅立つ日の前の晩のことだった。
 「お前には、何がなんでも生き残る覚悟があるか?」
 その言葉の意味を、アルフォンスはとっさに理解することが出来なかった。
 「どういう意味です?」
 「死ぬ覚悟なんてあまっちょろい事は、お前が従う相手に対しちゃ、何の役にも立ちはしないってこった」
 静かな言葉に、アルフォンスは衝撃を受けた。
 確かに、彼の故郷であるリゼンブール王国の王たる彼の兄に従うために、アルフォンスは自らの死さえ厭わない決意で様々なことに挑んできた。
 彼の愛する人でもあり、何者よりも大切な存在でもある兄のためになら、この身をなげうつ覚悟などとうに出来ていたし、アルフォンスにとって死すら恐れることではなかったのだ。
 しかし、死を覚悟することが甘い事だとは。
 「でも……どうして、ですか?」
 ヒューズ大公の言葉に異を唱えようとしたが、アルフォンスは敢えてそれを飲み込み疑問附をなげかけた。
 「どうして……か…」
 『お前には、まだ解らないだろうな…』ヒューズ大公の瞳はそう言っていた。しかし、それは大公の言葉を解さない彼を責めるものではない。
 アルフォンスがまだ年若いからこそもつ、己の信念を貫き通そうという真っ直ぐさや、隠すことの出来ない未熟さが愛おしくて堪らないという…そんな感情を映す、まるで父親が幼い息子を見守っているような柔らかい瞳をアルフォンスに向けながら、ヒューズ大公はゆっくりと語り出す。
 「国の頂点に立つ人間は、少なからず覇道を歩むことになるんだ。本人の望むも望まざるも関係なくな」
 「……」
 「その道は物事の清濁ばかりかそれぞれの人格、信念すら飲み込んで強大な流れになっていく…」
 ひと呼吸おいて、ヒューズ大公は言葉を続けた。
 「そんな中にあって、一人の人間の死が、何かを動かす力になれると思うか?信念のために死ぬとか、死をとして何かを成し遂げるとか…そんなのは、死者への哀愁が生き残った人間に言わせてるに過ぎないんだ」
 「そうかも知れません。でも、死をとして成したことが今に生きてる場合だって…」
 「それはな、死んだ人間を知る生きた者達が、残す努力をした結果なんだよ」
 とうとう、アルフォンスには何も言い返せなくなってしまった。
 「死んだ人間が残せるものなんてな、本当は何もありはしないんだ。何かを残せるのは生きた人間だけだ。死んだ後も、人間の意思が継がれる場合があるのは、その人間が生きようとあがいて、あがいて、あがきぬいた結果なんだよ」
 「…ボクの決意は間違っているって、…こと、ですか…」
 ヒューズ大公の言葉に、足元が無惨に崩れ落ちていくのを感じながら、アルフォンスは更に問うた。
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