(無題) 

May 28 [Sat], 2005, 12:33
誰が泣いてやるかって思ってたんだ。

「ここ、」
それは二年の春。学年が変わってから親しくなった仁王と授業をサボったときのことだ。
特別教室を集めた校舎の外れにある美術準備室。美術の授業が減った今、使用頻度が激減した。木曜日となると一時間も授業がないので教師も来ないのだそうだ。
仁王と俺の関係にはその教室がすべてだった。

「なあ、おもろいことやらん?」
隣りに座る仁王がいたずらっぽい顔で俺に問い掛けた。
丸井がこうやって仁王とサボるようになってまもなくのことだった。

(無題) 

February 21 [Mon], 2005, 13:03
埃っぽい準備室の床に、以前持ち込んだ大きめのタオルを敷いて、丸井は体を横たえる。
「そういや久しぶりじゃねえ?」
「二週間くらいかの」
窓から差し込んでくる日差しが暑く感じたが、今更カーテンを引くのも億劫に思った。
一瞬丸井がす、と目を細めた。
「眩しいか?」
「あ、いや…お前の髪日に透けてきれいだなって」
ぴたりと思考が止まってしまった。感心するように言う彼の赤い髪の方がきれいで。
「…そう?」
曖昧な返事で誤魔化して手の動きを再開する。
「ん??、」
余計な焦らしなどせずにいきなり性器に触れる。目の前の一回り小さい体が震えた。
「あ…っ」
丸井のぎゅう、と握った手をとって解く。指に唇を寄せて人指し指と中指の間を舐めた。ちゅ、と音を立てて口から離せばその音にも興奮した様子で。
仁王はポケットからゴムと小さな透明の容器を取り出す。その中身で丸井の後ろを慣らした。
「う…ン??!」
充分な柔らかさに指を引き抜く。
ぼーっとした顔で丸井が膝を立てた体勢の仁王のベルトを外した。下着も一緒に下げられ、性器に生温かい感触を感じる。丸井はやりづらそうに、身を屈めて自分のものを口に含んでいる。柔らかい唇の感触は、そこでしか知らない。仁王は女相手でもキスはほとんどしなかった。嫌いなのだ。ありもしない愛情を感じさせるその行為が。
特に丸井には冗談でもできない。こんな「恋愛ごっこ」とも呼べないような関係。
見下ろした丸井は必死に顔を上下させる姿が幼くも見え、自分の興奮を更に煽った。
「もういい」
短くそう言って、口元を濡らした丸井をやさしく押し倒した。
足を開かせた瞬間の未だに戸惑う表情を目の端にとめ、一気に突き入れた。

次の日は雨だった。
七月にしては低い気温に折角の冷房も肌寒く感じる。
窓際の席で、窓にできてはくっついて消える水滴を見つめる。できた瞬間に消えるそれらに顔をしかめた。
四限終了のチャイムが鳴った。
止まない雨に溜め息をついて、席を立った。

(無題) 

February 19 [Sat], 2005, 17:38
男同士なんて無害な関係だ。
身体的にも、精神的にも。
その相手が丸井ブン太という男なら尚更だった。


「あちーな…」
制服のズボンを折り返しながら丸井はそうこぼした。
「もうすぐ夏じゃからな…」
返事をする自分も同様に裾を折っていた。
容赦ない太陽の日差しは自分たちのすぐ真横を通り過ぎ、地面に降り注いでいるのだろう。鉄造りの非常階段、二階と三階の踊り場で仁王と丸井はあらゆる気力を失わせるには充分な季節を恨んでいた。夏至を一週間ほど過ぎた今、これから更に暑くなるなんて信じられない。
全教室に設置された冷房の使用が開始される前日。風通しのよいここへ避難するのも今日が最後だろう。
「次の授業って何だっけ…」
「生物じゃ。実験やと」
「サボり決定な」
迷う間もなく丸井が言った。こちらも迷うことなくそれに同意した。
屋根の隙間から見える青空には、飛行機雲が一本、きれいな線を描いていた。


木曜の午後はこの準備室と決まっていた。以前は頻繁に使われていた特別教室も授業時間が減れば、一週間の半分ほどは無人だ。
「おー今日も誰もいねーな」
ここは中でも穴場らしい。一年の時から時間を潰すのはここだった。自分以外の者は知らないのか、鉢合わないだけか。
丸井に教えたのは自分だ。

陽の当たりが悪いこの部屋は教室と違ってまだ涼しく感じた。室温が上がりにくいのは薬品を置くためかもしれない。
たいていは二人、他愛ない話をしたり、単に眠ったり。
「なあ…持ってる?」
普通の中学生なら、煙草だろう。でも丸井は自分と違って煙草を吸わない。
「持っとるよー。ゴム」
少しふざけて返す。持っていないはずはなかった。いつも持ち歩いているのを彼は知っている。訊くのはきっと誘うことへの羞恥心からだろう。
こんな関係になってもう長いのに、未だに擦れたようなところがないのが続いている理由なのかもしれない。
自分たちの関係で何かが変わってしまったならもう終わっていたはずだから。

灰、痣、

(無題) 

February 16 [Wed], 2005, 19:49
扉を開けると、目の前に広がった空は雲一つない快晴だった。
ここまで晴れていると逆に落ち着かず、薄い雲の膜がないだろうかと目を凝らす。
五限の始まりを告げるチャイムは、ここまでの階段を上がっていたときに鳴った。屋上に来るといつも座る場所に今日も腰を下ろす。
テスト明けの今日、午前中は移動教室や体育だったが、午後はどちらも教室での授業だ。
この一週間で自分の中の丸井への気持ちをはっきりと認めた仁王には、彼の隣りで一時間を過ごすのは試練のような気がした。
一緒に帰るならまだいい。まだ取り繕える。でも一時間、彼の隣りにじっとしていて自分の神経が持つかわからない。
今日こうやってサボっても、明日にもまた授業があるのに。
(だってしゃーないじゃろ)
あと二時間近く。一眠りしようとごろんと影のできたところに寝転んだ。
すっかり日に焼けている屋上のタイルは、それでもまだ日の光を反射している。
眩しさに自然と手を翳した。

遠く、チャイムの音が聞こえた。
五限の終わりか、六限の始まりか、それとも終礼か。
少しして、ガチャ、とすぐ側にあるドアの開く音がした。
そこで完全に意識ははっきりとした。眩しさを予想してゆっくりと目を開いた。
自分の手の甲が見える。
不意に視界が暗くなった。雲が太陽の光を遮ったか。

「おい」
聞き慣れた声に息を呑んだと同時に、目の前にあった自分の手をどけた。
「なーにサボってんだよ」
といつもと変わりない調子で、丸井は言った。
いつか見たちかちかとした感じではなく、もっと、眩しくてリアルな光の中に立って。
「…眠かったんじゃ」
「馬鹿だな。担任の授業くらい出ろ」
「ピヨ…」
口を尖らせて言えば自分の隣りに腰を下ろす。
(何しに来たんじゃろ…)
彼を避けてここに避難してきたのに、その彼が隣りにいる。
暫くの沈黙の後、先に言葉を発したのは丸井だった。
「なーもうやめねえ?」
「え?」
「だからさ、」

(無題) 

February 14 [Mon], 2005, 14:20
新たに口に放り込んだ菓子を舌の上で転がしながら、携帯のディスプレイを確認する。
「よーし、もうそろそろだな」
一人呟くと、丸井は部屋のカーテンを開けた。暗くてよく見えないが、確かにいる。
手にしたままだった携帯でメールを送信した。家の前で待っている奴に。
数分後、玄関のチャイムの音が聞こえて、親か弟に向かって告げられた「こんばんは」という馬鹿にでかい声が聞こえた。
部屋の扉が開けられるまでの数分がやけに長い。開けていたカーテンを引いた丸井は焦れている自分に気付いて苦笑した。
間もなくガチャ、とドアが開けられた。


「せんぱ…」
「遅い」
部屋に入ってきた瞬間、嬉しそうな顔をした切原にぴしゃりと言ってのけた。そんな言葉もいつもの照れ隠しだと、きっと分かっているんだろう。
「へへ、お待たせッス」
と、一層嬉しそうだ。そんな切原を見ている丸井も、口調とは裏腹に顔が緩んでいる。
「ま、座れば?」
いつもの切原の定位置に座るよう促す。
「ハイ!」
相変わらずにこにこな切原に丸井も同じテンションになりそうなのを抑える。
「先輩、これもらって下さい!」
差し出されたのはきれいにラッピングされた箱。中身が何かなど考えなくとも分かる。去年も、この日に同じものをもらっていたから。
「さーんきゅ」
受け取る瞬間ちゅ、と切原の頬に口づけた。たったそれだけのことなのに、顔を微かに赤くさせた彼が可愛くて、丸井はそうだ、と思いついた。
それは本当に些細なことだけど。
「実は俺もあるんだけど」
「ええ、マジッスか!?」
笑顔だった顔が一瞬で驚きに変わった。
「おう。コ・レ」
ふざけた強調をしつつ、手に持っていたのは先程切原を待つ間に食べていた板チョコ。
「先輩にもらえるなら食べかけでも嬉しいッス」
俺にもらえるのが奇跡見たいな言い方しやがると内心少し呆れた。
「赤也さあ、俺がそんだけの男に見えるか?」
大袈裟に溜め息をついてみた。今度は完全に不可解さを示す表情で、
「え、どういう意…」
「俺の食べかけてたチョコじゃなくて、食べてるチョコ、食いたくねえ?」
ぱき、と割ったひとかけらを見せつけるように、舌先に乗せ、口に含んだ。
「は、あ?」
顔を赤くして間抜けな返事をした切原にゆっくりと近付いた。座ったままの彼の顔にそっと手を添えて、腰を屈めた状態で口づけた。
「……ん…!」
目を見開いた切原がやはり可愛くて、より深く口づけた。口内...

(無題) 

February 11 [Fri], 2005, 20:42
「おい、赤也!」
ぼんやりとした意識の中、自分を呼ぶ声だけがはっきり聞こえる。
「せんぱい…?」
「メシ作っといたから。俺バイト行くからな」
「え……あ!先輩治ったんスか!?」
布団から飛び起きて、枕元に立っていた丸井を見上げる。
「おう!ばっちりだぜ。さすが丸井様だ」
「よかった…」
ほっと安堵したところ、丸井の手が切原の額に当てられる。
「ヨシ!喉も痛くねえな?」
「は、はい…」
「じゃ、俺行くわ」
寝起きでぼーっとしていた頭を振って目を覚ます。
ドアを開けて出ていく彼に精一杯の笑顔で、
「いってらっしゃい」
そしてドアが締まろうとした瞬間。
「俺の引き出しの一番上に入ってるのも食っていいから」
そう言ってバタンとドアがしまった。
「……一番上?」
朝飯もそっちのけで、切原は私物を入れる棚の一番上の引き出しを引いた。
「…これって…」
中には板チョコレート。
包装紙も何もないけれど、この日には充分すぎるもの。
「せ、せんぱい…?」
あの丸井がまさかこんな送りものをするだろうか。


もし治らなかったら

(無題) 

February 10 [Thu], 2005, 14:06
「うー……」
苦しそうな声が聞こえて、赤也は包丁を持った手を止めた。
「先輩?」
先程まで自分も一緒に眠っていた布団のある隣りへ顔を覗かせた。
起きた際につけた暖房のおかげで台所よりは暖かい。見れば丸井は布団の上にあぐらをかいている。顔を苦しそうにしかめて。
「ど、どうしたんスか!?」
すぐに布団の横まで行って、丸井の隣りへ正座した。
「喉がいてえ…」
「え?」
聞き返せばごほ、ごほと痛そうな感じの咳をする。顔が心なしか赤い。
「風邪ひいたみてーだ…」

駅前の薬局からの帰り道、自分の体を真っ正面から抜けていく冷たく乾いた風を恨んだ。
「ただいまッス〜」
「わりい…」
「あ、寝といてください!俺メシ作るんで!」
作りかけだった朝食の食材を片付け、丸井のために粥を作る。
「先輩、今日バイトは?」
食後の薬を手渡しながら切原は尋ねた。
「今日は休み…でも明日は夕方からだからそれまでに治さねえと…」
「大丈夫ッスか?明日も休んだ方がいいんじゃ…」
「ん…とりあえず代わり頼めるか聞いてみる」
粉末の風邪薬をさらさらと口に入れる。
「赤也」
「はい?」
「お前出ていけ」
「ええ!?」
急に何を言い出すのか。しかもまるで自分が不必要かのようにあっさりと。
「え、な、なんで…」
「バッカ、お前までうつったらどうすんだよ」
「ああそういう…」
「お前も一日二日くらいなら泊めてくれる奴いるだろ?」
そう言いながら横になって布団を被る。
「っていうかできないッスよ!」
「ならジャッカルんちにでも…」
「そういうことじゃなくて!先輩ほってくなんて!それに一緒に寝てたのに先輩だけ風邪なんて…悪い気がするし」
「……別にお前のせいじゃねえだろぃ」
「でも俺は出ていかないッスよ」
丸井を一人にするなんて、もし具合が悪くなったらどうするつもりなのか。ちゃんと俺が看病しないと。
「しょーがねえなあ…でもバイトは行けよ。十二時からだろ?」
「あ…」
そう言えば忘れていた。
「その間寝とくし」
「分かったッス。でも具合悪くなったらすぐ電話して下さいよ、今日は携帯ずっと持っとくんで」
「大丈夫だよ、心配症だな」
ふっと表情を緩めて笑った。そして丸井は目を閉じた。

(無題) 

February 10 [Thu], 2005, 14:05
「え、じゃああの先輩風邪ひいてんの?」
「そうなんスよ…だから心配で…」
忙しい時間が終わり、客待ちの中隣りに立った佐伯はへー大変だな、と返す。
「あの人なら食ったら回復しそうなのにな。ま、でも共倒れしないように気をつけろよ。明日はバレンタインだしな」
「え!明日?」
「なんだよ気付いてなかったのか?そういや切原は新しい彼女とかは?貰う当てとかあんの?」
「あー…無理ッスね」
丸井のことだからあげるより自分で食べるだろう。しかもそれ以前に男同士でなんて。
「佐伯さんはたくさん貰いそうですよね」
「まーね」
さらりと言ってのける。
「否定しないんですね…」
それでも嫌みに聞こえない理由は見た目のよさかその性格か。
「え?なんか言ったか?」
「いーや…あ、お客さん来たッスよ」
目を向けていた入口に人影が見えた。そろそろまた忙しくなる時間だ。
切原はポケットに入れた携帯を気にしながら働いた。

「じゃ、お大事に、な」
「お疲れ様ッス」
反対方向の佐伯と駅で分かれた。電車を待つ間に丸井に電話しようと思ったが、ホームに出るとちょうど電車が来たところだった。各駅停車の普通電車なのに、帰宅ラッシュの直後だからか座席が埋まる程度の乗客だった。
家へはここから五駅だが次の駅で急行の通過待ちがあるから座れるだろう。
切原は乗車口前に立った。日はすっかり沈み、窓ガラスには自分の顔がくっきり映るほどだった。
(あ、卵酒作るか…)
でも作り方が分からないと思ったのも一瞬、切原は柳にメールを打ち始めた。彼なら知っているだろうし、分かりやすく教えてくれるだろう。
柳へのメールを送信した後、丸井へメールをしようとしてやめた。まだ寝ているかもしれない。
携帯を閉じてポケットに突っ込んだとき、電車が止まり自分が立っているのと逆のドアが開いた。冷たい空気が入ってくる。
すぐ側の席が空いて切原は座った。
前に座った女の人が有名なチョコレート専門店の紙袋を膝に乗せていたのに気付く。
(??バレンタインか)
丸井は貰うあてがあるのだろうか。
ふと、そんなことを思った。考えてみれば丸井の女関係の話はあまり聞いたことがなかった。高校のときは何人か知っているが、大学に入ってからは別の学部だったこともあって、全く知らない。
バイトで忙しいせいもあるかもしれない。

(無題) 

February 10 [Thu], 2005, 14:05
家に残っている弟たちのためにと言って、親からの生活費の援助は断ったらしい。
テニスはもうしていないからと、自分で生活できるようにと。
切原と同居するようになってから一日単位のバイトは辞めたが、今でも二つのバイトを掛け持ちしている。
でも決してもてないわけではないことも知っている。合コンなどでは食いに走るのでいまいちらしいが、少なくとも二回は同じ学科の子に告白されている。
その二回のうち一回は去年のバレンタインデーだった。
もし、明日誰かに告白されたらどうするだろうか。

駅からいつも立ち寄るコンビニまで歩いている途中で携帯が鳴った。柳先輩だった。
『丸井によろしく』
「はーい」
一人の夜道で呟いた。風はやはり冷たく、乾いている。

丸井はきっと自分をとるはずだと切原は思う。気持ちがどうであれ、付き合っている限りは断るはずだ。
先輩は優しいから。
でも一度その感情を、切原を本当に好きではないということを知った彼はどうなるのだろう。
きっと正直な彼は耐えられなくなるだろう。
自分の気持ちを偽り、後輩を欺き続けることに。

「ただいま〜」
部屋の明かりが付いていたことに少しほっとした。
「……あーたぶん大丈夫だと思う。マジわりいな」
どうやらバイトの代わりを頼むはずだった人らしい。
だいぶ熱は下がったようだった。
「おかえり」
ぱち、と携帯を閉じてこちらに笑いかける。
「先輩具合どうッスか?」
「熱下がったし、今はやばいくらい腹が減ってる」
「じゃあすぐご飯作るッス」

(無題) 

February 09 [Wed], 2005, 16:40
たとえ彼の気まぐれだったとしても。

あの日、丸井と接触した日から自分には丸井が頭から離れない。

(やっばいなあ…)
ベッドの上、枕元の携帯に手を伸ばす。カチカチとキーの音が一人の部屋で嫌に響いた。
ディスプレイには、『丸井ブン太』の文字。飴をもらった数日後、ジャッカルと一緒だったところを、いきなりこちらから話しかけた。
戸惑っていた彼の顔が浮かぶ。驚いただろう。
何度か当たり障りのない会話をした程度の自分から一緒に帰ろうだなんて。おまけに別れ際、携帯の番号とメールアドレスまで聞き出した。
直球すぎだとは分かっていたが、回りくどいことはあまり好きではない。幸村からは『詐欺師』といういらない称号をもらっているが、凝るのと回りくどいのは違うのだ。
(驚いたやろな??)
丸井と自分が関わりなかっただけではない。
自分がクラスや部内でどのように言われているかは知っている。
自分の方にもその理由があるということを。
無意識に壁を作ってるんだろう。その上、それを隠そうともしない。だから馴染めないのだ。
でもわざわざ作り笑いしてまで親しくする必要はないと思っている。最低限のコミュニケーションさえとれれば問題はないのだ。
でも不思議に、丸井にはその考えが少し違ってくる。かといって、壁を隠しているわけでも、うわべだけの付き合いをしているつもりはない。
そもそも彼といるときは壁など存在していないようだ。
これが人を心の底から好きだと思うことなのだろうか。
だんだんと自分の丸井に対する気持ちが膨らんでいって苦しい。

気付けば開いたままの携帯のディスプレイが黒く変わっていた。仁王は何も考えることなく、表示されたままだった名前を宛名にしてメールの入力画面を呼び出した。
「好きじゃ」
キーを十回ほど押して出てきたその言葉を呟いた。
このまま送信してしまえば簡単だ。メールはダイレクトに自分の気持ちが伝わる。
一方で含まれたニュアンスを排除して、相手側の受け取り方次第だ。
彼はこの告白を真にうけてくれるだろうか?
いや、有り得ない。
馬鹿らしく思えてきた仁王は、当分伝えることはないだろうとそのメールを破棄した。
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