冬夏 “華” 奇譚。 −トウカ ハナ キタン− 全話。 

June 01 [Fri], 2007, 23:53
全 0話。



1  冬夏 “” 奇譚。

2  壊考。

3  矛盾

4  考。

5  考。

6  破滅

7 人考。

8 体考。

9 解剖考

10 徊考。01

11 狂気考。

12 狂信考。

13 狂信考。02

14 虚偽考。

15 虚勢考。

16 虚栄考。

17 虚言考。

18 虚実考。

19 虚構考。

20 虚心考。

21 虚像考。

22 虚像考。02

23 虚無考。

24 虚脱考。

25 憐憫考。

26 煉獄考。

27 連声考。

28 恋情考。

29 終身考。

30 散花考。

冬夏 “華” 奇譚。 −トウカ ハナ キタン− 

June 08 [Fri], 2007, 22:19
『偶然は必然。
必然は運命そのもの。

      それは、戯言。』





目の前に一枚の絵画が存在している。
ただ、其処に。
人的に掛けられて。

深、 と。

黒に塗りつぶされたような部屋を薄ぼんやりとした照明が絵画を照らす。
その照明だけが自分の視界に自由を与えた。
その明かりが許す範囲以外は異様な、異常な、闇に包まれ、同じ建物内でも会場内でも異質な空気を雰囲気をその部屋の主は放つ。

僕の目の前。
僕の視線の先。

一枚の絵画が。

ただ其処に。

身が竦む、身が竦む。
肌が粟立って、肌が粟立って。

心臓が悲鳴を上げ始め―――――・・・・・・

「貴方にもその絵画が見えますか?」






「こんにちはー」
梅雨に入り始めた6月。
じめじめとした空気が、肌をべたつかせた。
何時ものように古い洋館風の建物に入り奥へ進むと、そこに何時ものように存在していた。
古い木製のドアを。
押すのではなく、引いた。

「ようこそ、織(シキ)君」

何時ものようにその人は、何時ものように其処に居て。
何時ものように同じ行動をしていた。

「今日は、蘭(アララギ)さん」
蘭と呼ばれたその人は人の良い笑みを浮かべ、席を進める。
それを僕は丁重に断る。
それも何時ものこと。
「憂さんに御用ですよね?少しお待ちを」
身体を丁寧に折り曲げ、更に奥の部屋へ入っていく。
まるで吸い込まれるように消える。
対話の相手を失い、暇になった僕は周囲に意味も無く視線を這わせ、

「・・・ん?」

背後に掛けられた絵画に気がついた。
淡い色彩で描かれた満開の桜の散る絵。
桃色の花の下を白い花びらが散る―――・・・白い花びら・・・・?
疑問が浮かび、とっさに顔を上げて題名を見る。

題名は【四月に降る雪】

桜の花の周りを舞う白雪。
根元に積もるのは、花ではなく雪。

ふっと、口元に笑みが浮かんだ。
「憂(ウキ)はまた変わった絵を書き上げたなぁ」
思わずにやけてしまう。

二ヶ月程前。
たまたま立ち寄った絵画展で、憂の絵を見たとき身体に戦慄が走った。
無名な画家と絵心のある数名の一般人で開設された、その絵画展の一番奥の会場に

憂の絵は数百年も前から、その場所にあるように存在していた。

ただ一枚。されど一枚。
その絵画を僕は魅入られたように、その場所から離れられなかった。
否、離れることができなかった。

「織君、どうぞ」

にこやかに笑む蘭に誘われ、蘭が迎えるその場所へ僕は行く。
それなりに豪華な応接間を抜け、蘭の横を抜け部屋に入ると

闇よりも黒く、黒よりも濃い、鬼狩夜 憂(キガリヤ ウキ)は部屋の中心に意図的に置かれた椅子に胡坐をかいて、こちらを見つめていた。

「やあ、憂。元気?」
「性懲りも無く来たな、かぼちゃめが」

にやぁり、と憂は口を三日月のように吊り上げて哂う。
猫のように目が細められ、獲物を品定めするように僕を見つめ、

どう聞いても侮辱としか思えない言葉をその口から紡ぐ。

「ふっ、お前の答えに答えてやろうか?良いか?よく聞け。その栄養が足らない、栄養を取っても無駄な箇所に肉が付くだけの凡人、すかすか南瓜のような脳味噌に叩き込め」
そこまで一気に言い、

「最悪に最高に。俺は元気だ」

憂は爛、と瞳を輝かせた。

−冬夏 “華” 奇譚。− 破壊考。 

June 11 [Mon], 2007, 21:28
雨。
雨。
雨。

あの日も雨。お前を連想させるはその香り。





憂と会ったのはたった二ヶ月前のこと。
たった二ヶ月されど二ヶ月。
この短い間に憂に振り回された回数は数知れず。
闇より黒く、黒より濃い。
その存在が異常にて異端。特異中の特異。

やつが話す。その一言をどれだけ重く取ったか。
その闇が生み出すその言語を理智と知恵を。

奴が話すたび語るたび、どれ程否定したかったか。

それさえも許さない。
自分の上に立たせない。


どこまでも歪んだ 孤高。




「なんだ。気味の悪ぃ顔が更に歪み増し、非人的顔を作り出しているぞ。織」

生クリームのついたフォークで、織は僕を指す。
鉄色の輝きがその薄暗い部屋で鈍く光り、細い糸よりも細い光を反射させた。
思想を張り巡らしていた僕は、急に織に声を掛けられ豆鉄砲を食らったような顔をしたらしい。
憂は更にゆらぁり、とフォークを揺らしふん、と鼻を鳴らした。
「大方つまらねぇことでも考えていたんだろうな。馬鹿は馬鹿のような妄想を作り上げんのが大の得意らしいからなぁ?」
にんやぁり、と。
いやらしく笑い何時も通り毒を吐いた憂は、僕が何も答えず黙り込んでいるとあっという間に興味を無くしたようで黙々とケーキを文字通り貪り食うことを再開させた。
甘いものを黙々と口に運びいれ、咀嚼し飲み下す。
その行為を飽きることなく。
目の前の固形物が消費するまで続ける。
「織君。コーヒー淹れなおしますね」
コーヒーカップを蘭が僕の視界から、持ち去る。
刹那の速さで消えたコーヒーカップが僕の視界の中で残像となって残っている。
・・・・・蘭さん、相変わらず隠密に合ってるよなぁ。
それに比べて、こいつは

「何だと言うのか。俗物」

やっべぇ、読唇ならぬ読心されてたよ。

憂は細いケーキフォークを皿に落とし、口の周りについた生クリームを剥ぐように舐め始めた。
上唇を沿うように、その形を食い破るように頬へ。
赤い舌を頬へ。
唾液でてらりてらり、と光ながらその白磁のような顔を撫で舐め、全てのクリームを剥ぎ取ると舌は、暗い口内へ唾液の糸を微かに引きながら戻っていった。
最期に。
ちろ、っと紅い顔を覗かせると完全にそれは口内に閉じ込められた。
「さて。待たせてやったぞ、馬鹿」
「本当だよね。待たせてもらったよ」
にんやぁり。
「俺に話があるらしいじゃあないか。さぁ話せ、晒せ、寄こせ」
歪んだ笑みを人形のような顔に乗せながら、彼は笑う。
これから僕が話す喜話を悲話を、目の前の黒色は楽しみにしている。
それが黒色の生き甲斐。
それが黒色の楽しみ。
全ての苦しみを飲み込み、黒色は笑う。

「三日前のことだけどさぁ―――・・・・・」

−冬夏“華”奇譚。− 矛盾考。 

June 22 [Fri], 2007, 14:08
情景は廻る。

あの日の自分と今の自分は、果たして同一人物なのだろうか?

「〜♪。〜♪♪、」




夕刻の路地。
帰路を急ぐ子供の背中に夕日は当たり黒く、細長い影が路地に産み付ける。
子供が歩くたびにゆらり、ゆらり。
黒い影は子供達の後ろを家まで、帰り着く場所まで付いてまわる。
学校の帰り。
正しく言えば学校帰りに寄った書店の帰り....面倒くさっ、学校帰りで良いか。
取り合えず学校帰り。
苦情は受け付けませんのでそのところ、宜しくお願いします。

僕もまた家へと足を運ぶ。
一歩一歩踏みしめながら。
夕刻の夕闇を。夕空を背にして、影を従わせながら自宅へと。

―――・・・・この空は何時も変わらないよなぁ。

橙の空をカラスが鳴きながら山へ還る。
それを僕は仰ぎながら、視線を背後へ・・・・・・・

「ふっはははは!」
「・・・・・」
女の子が居た。
軍服のような服を着た少女が仁王立ちでこちらをびっし、と指差して。
「ふっはははは!」
不敵そうに高笑いしていた。
「見つけたぞ!鬼狩夜 憂!」
・・・・・・お前は一生見つけられねぇよ。
どうやらこの少女は僕と憂を間違っているようだった。
呆然とする僕を他所に、少女は満足そうに笑む。
「ふむ!驚いているようだな!それは、そうだろう!
しかし学校を出でて、つけ、やっと本人に辿り着いた。総隊長も破顔一笑してくれるだろう!」
別の意味で破顔しそうだ。

というか、ただのストーカーじゃないか。

「あ・・あのな」
「ああ!佳い佳い!憂よ、喋ることはあ無いぞ!お前の思考に思想は全てインプットしているつもりだ!」
既に何処かのデータが狂ってらぁ・・・・・。
愕然とした僕を下から見上げながら、少女は満足気に頷くとついっ、と一歩下がる。
「・・・?」
細い腰に細い腕を当て、くいっ、と顔を上げると。

「第一神学校高等部一年、禁国軍第二部隊“人形劇(グランギニョル)”の多々良 行野(タタラ ユキヤ)と申す!」

実にハキハキと。
ただし機関銃のように喚き散らしながら少女、行野は名を名乗った。
―――・・・・・はぁ。だから軍服なのか。
いや、待てよ。あの学校の制服は黒ではなく白で。

神官服では無かったか?

「ふははっ!驚いているようだなっ、そうだろう!何せ禁国軍が態々お前を迎えに来たのだからなっ!」
お願いだからそんな早口で話さないで欲しい。
行野は腰に当てた腕を解くと。
がっし、と。
がっし、と。

僕の左腕を両手で確保した。

「んなぁっ!?」
「憂を確保、捕獲したぁあああ!!!」
「違っぇよ!!!」
ずりずりと。
細い身体に似合わぬ強力で喚き散らす僕を、引きずっていく。
必死にその場に踏みとどまるが行野の力には敵わず、ずるり、ずるりと無残にも引きずられていく。
このままではその総隊長とやらのところに、連れて行かれる事になるだろう。
こうなったら、仕方ない。

「あっ」
「むっ?」
僕の声に行野は顔を上げた。
「総隊長殿じゃないか!あれはっ!」
「なんとっ!」
ばっと、行野は振り返る。

腕の力を緩めて。

―――・・・・・好機!

「ぬわぁっ!待て、貴様っ!!!」
行野の制止を振り切り、猛ダッシュで帰路を走る。
慌てて行野が追ってくる足音が聞こえたが、構わず走り去る。
「憂めがぁあ!!」

背後から行野の絶叫が。怒号が、

追ってきた。

螺旋考。 

June 22 [Fri], 2007, 19:45
『見えぬが見える場所。
 見えるが見えぬ場所。』

雨音、

雨音、

雨音。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





三日前の出来事を話し終えた僕は何も話さない憂を目の前にしてただ無言になり、視線を四方八方に彷徨わせていた。
無言、静寂、静穏。
それをただ静観している。

再び視界に憂をいれる。憂に視野を戻す。
固く、硬く、難く、目を瞑っている憂は全てを黙殺している。
息をしているかと確認したいほど。ただ黙りきって。

「憂・・・・?」
思わず僕は憂の名を呼ぶ。
反応は、無い。
「憂・・・・えーと・・・」
「織、いい話を聞かせてもらった。感謝するぞ」
僕の言葉を塞ぐ様に、覆う様にして憂は言葉を発した。
ゆっくりと開かれる瞼の中に納まる闇色の瞳は、爛々と輝いてはいなかった。
闇の中に揺らぐ黒。
闇より濃い煌めく黒色の瞳は静かにこちらを捉え見つめている。
「今日は帰れ。」

憂は、薄暗い部屋の中で呟く様に言った。




雑音、
雑音、
雑音

が部屋を埋め尽くす。
ザビザビとガビガビと音は部屋を取り巻く。
黒をぶちまけた様に暗いこの部屋に、闇色は寝ていた。
冷たいコンクリの床に四肢を投げ出し、闇色の髪の毛を撒き散らし闇色の睫毛に縁取られた瞳をかっと、見開いて。
死んだ様にして、その場に居る。
否、死んでいた。
彼の躯はその場所に横たわっている。
深深、と冷える空気の中に晒されて。


――――――・・・・雑音が途切れる。


ビクン、と。

四肢が跳ねた。
「かは・・・・っ」
空気を突然、得たかのように身体がくねり、声が口から漏れる。
開かれた口から紅い舌が覗く。

ぞろり

舌が頬を撫でた。
「くはっ、はっ―――・・・・・・はっ、、、、、」
息切れをする身体を起こし、小刻みに震える体を腕で抱くようにして蹲り息を整える。
必死に押し殺し、押し殺し。
左手で空気を吐く口を押さえる。

「は・・・・・・・くふっ!」

空気を最後に飲み込み、彼は何事も無かったように立ち上がる。
静かな部屋のドアが開けられる。

「気分は優れましたか?」
逆光で姿は見れない。
でも声を彼は知っていた。

「なかなか、かな」

にんやぁり、と。

彼は笑む。




『聞こえるうちは聞こえていない、
 聞こえていないうちは聞こえている』

水音、

水音、

水音、


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・雑音。

壊滅考。 

July 14 [Sat], 2007, 17:39
・・・・・・・・雑音、雑音〔ザビ、ザビ〕。

・・・・・・・・・・・・雑音、雑音。

・・・・・・・・・・・・・・・・雑音・・・・・・・ブツン、

『お前は何を考えて何処を見ていたんだ?』




闇のように黒く、黒より濃い
夜闇のように暗く、夜明けのように淡く
夜影をも裂く残骸の惨禍
狂気を納めぬその思考

ただ黒く

ただ暗く

ただ狂い

ただ惑い

ただ悩み

ただ燻り

ただ、ただ、ただ、ただ、ただ、

愛しき漆黒

それは闇が創りし、狂いの児






耳朶を敲く激しい雨が、アスファルトの上で跳ね踊る。
作り物の闇の上で見せかけの白の滴がぴちぴち、と魚のように跳ねながら四方に飛び散った。
濡れる闇が吸うその偽りの命は直に涸れるだろう。
万物は限りなく欲深いものだから。

「・・・・・・」

灰色の空の下、憂は暗い空を見上げる。
ビニル傘に乗る水滴を時折顔に浴びながら、ただ虚空を数時間もの間無心になり見つめている。
何もない虚空に。視界の中に

何かが入っているように。

雨音が憂を現実に引き戻した。
目を驚いたように見開き、瞬くと憂は数時間ぶりに首を静かに元に戻す。
白い花のように開く傘に力をいれると、ゆっくりと引き
その花をその手で枯らせた。
同時に容赦なくその身体は雨に濡れる。
首を項垂れるようにしながら。
まるでシャワーを浴びるように。
憂は顔をどの闇よりも濃い、見たこともない黒色の毛髪に隠す。
ゆっくりと、
黒に縁取られる瞳が閉じられる。

暗い視野の中でお前の声が聞こえる。
雨音が全てを消して、俺を救う。


・・・・・・・・・・雨音、

・・・・・・・・・・・・雨音、

・・・・・・・・・・・・・・・・雨音、


水音。

足音。






『ねぇ憂、君は何が欲しかったの?』

無邪気な声

『憂。君は何がそんなに怖かったの?』

俺が消した
気まぐれに消したお前の声


                        “足音”


開口。

「ねぇ憂、君はいつもいつまでも変わらない。

コレは僕の思い込みだろうか。それとも思い違いかな?

僕はね憂。君が何をしたいのかが分からなかった。

どうして欲しい物を欲さずに逃げるように遠回りをするんだい?

そのくせ手に入れられないと知ると、聞き分けのない子供のようになってしまう。

僕は君が臍を曲げるたびに、手を焼いたよ。 」


憂が顔を上げる。


足音、

「僕はさ、憂。
君が羨ましかったのかな。だから君に意地悪くしたんだよね?」

微笑、

「憂。君は僕を覚えているかい?
君のその黒い瞳は僕を捕らえている?

そんなことは如何でも良いや。声が届けばそれでいいよ」

憂の瞳が開けられる。

「昔から聞きたかった。でも僕は一度死んでしまった。
何故なら君が殺したから。
だから今ここで言うよ。

――――ねぇ君は・・・・・」

「お前は何を考えて何処を見ていたんだ?」

闇色は笑う。

破滅考。 

July 14 [Sat], 2007, 20:25



赤い、紅い、朱い

雫が滴って足元の水鏡が揺らぐ
温かい
これを僕は・・・・・・俺は


知っている。


「ねぇ、憂?何をしているの

その手に握られている銀色の物はなぁに?」


自分の顔が柔和に微笑むのが分かる。
顔の筋肉が自然に笑みを形作る。
俺の目先にいるやつも、安心したようにふっと笑む。


サヨナラ、


銀色は瞬く。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・雨音、

水音。

雨音、

水音。





古い洋館。
憂が塒にしている洋館の古びた部屋に。

蘭(アララギ)は静かに佇んでいる。

照明を一切つけていない闇に沈む部屋で蘭は一人、窓の外を見ている。
静かな静かな荒廃した使われない部屋に。
独り。

・・・・・・・雑音(ザビリ)。

ノイズに似た音が蘭の鼓膜に届いた。
蘭は反射的に振り返る。

・・・・・雑音(ザビ)、雑音(ザビリ)。

「・・・・」

目の前で。
荒れた映像が空間に浮かび上がった。
音を立てながら。
音を鳴らしながら。
ザビリ、ザビリと粒子の粒は像を結んでいく。

・・・・・・ブツン、

[夜遅くに失礼・・・ま・・・よ、]

蘭の一歩手前に。
闇色の団服を来た細長い人影が棒のように突っ立っていた。
左の紫紺、右の金。左右で色の違うオッドアイ。
視力が良くないのか銀縁の眼鏡を掛けている。
血流が良くないのか。映像の質が悪いのか。
血管の色が見えるように蒼い。
その顔を縁取る鳶色の髪の毛は肩下まで伸ばされ、項できっちりと結ばれている。

[お久しぶりです、お元気ですか?何十年振りでしょうね]

几帳面なのは健在、か。
蘭の視界に団服の胸元の紋章が目に入った。
「薔薇(ソウビ)に・・・・十字・・・
お前ら、神学校を禁軍を・・・・・乗っ取ったのか・・・・」

像の男は笑った。

[ふふふ。可笑しいことを言いますね。それに今は、禁国軍って言うんですよ出世したでしょう?]

哄笑が蘭の鼓膜を揺さぶる。
「黒部・・・・“機械仕掛けの魔術師”・・・・」
[よくその二つ名を覚えていましたね」

「お前らは何をしようとしているんだ」

蘭の声に言葉に。
黒部は一瞬鳩が豆鉄砲を食らった顔をした。
[ふふ・・・・ふふふふふふふ!
嗚呼、可笑しい。愚かしいコトをお聞きになさる!
嗚呼、腹が捩れますよ。もう可笑しくて可笑しくて]
黒部の映像は眼鏡を外し、目にたまった涙を指で拭った。
眼鏡を掛けなおすと、ふふっと笑う。
[蘭さん。貴方の憂さんが数十年前に“我が君”に行った行為をお忘れですか?]
「っ・・・・」
にやり、と黒部は嫌らしく笑む。
残酷な笑みが顔に乗る。

・・・・雑音。

黒部の姿が掻き消される様にブレた。
一瞬間。
足元の粒子が多色の粒になり崩れ落ちていく。
[それは責めませんよ。誰も。ですが、]

・・・・・・雑音、雑音。

ザラザラ、と音を立てながら崩れ落ちていく。
足を構成していた粒子が消え去り、胸元を侵食を伸ばす。

[貴方方には、充分に踊っていただきますよ。


ご覚悟を]


雑音、、、、、、、、ブツン。






殺人考。 

July 16 [Mon], 2007, 20:12

・・・・・・・雨音(ザァァァァ)。

外カラ聞コエル雨ノ降ル音

罪ヲ拭ウ恵ミノ雨


・・・・・・・雨音。

「“汝が王国。峻厳と、荘厳と、永遠にかくあれかし”」


足元に転がる血塗れ人形達。
黒いブーツが頭を、身体を、手を、足を、踏みつけながら進んでいく。
バキバキと、メキメキと骨が軋む音が室内に響いた。

息を呑む微かな音が聞こえる。
「・・・・憂・・・・お前、兄妹をっ!」
非難の声。
俺を責める、お前の声。
手が自分の意思を持っているように動き、

一陣の刃が空を踊った。




「日が暮れたねぇー・・・・雨空だから分かり難いけれど」
憂の目の前。
黒い団服に胸元の薔薇十字。それは禁軍の“騎士団”の証。
十字に巻きつく薔薇と絡まる蛇。
禁軍の紋章。
「ねぇ、覚えてる?僕の最期に君が言ってくれた言葉」
にっこり、と闇色は笑った。
その笑みは昔と変わらない。

「・・・・・」
「忘れちゃったの?」
口元に手を当てながら、闇色は笑う。

あの時、俺は、確実に、急所を、

・・・・・・・・・・。

闇色は哄笑した。

「例え屍を晒したとしても、骨の髄まで隠すことなく」
闇色は其処で切り、憂の表情を笑いながら見ている。
見世物を面白半分に見ている子供のように、笑いながら。

「例え贓物腐臭放てど、心は濁さず」
言葉、を、切る。

「其の屍は孤独で孤高なり。その罪は、罰は死した身体を螺旋のように締め上げる。
罰を受けるはその為。
罪を授けるは我が為。 」

蘇る記憶。
致命傷を受けた闇色の頭を膝に乗せ、憂は語った。
息も絶え絶えで、目が揺らぐ闇色の頬に手を当て、微笑みながら。

「さぁ狂いの児よ、永久に眠れ
その身体に収まり廻るその血を涸らし眠れ。
闇は夜を裂き光は万物を殺ぐ。」

狂信的なその目。
恍惚に酔いしれる、その時分。
それは悦楽。
闇夜の花。

「例え手足千切れど全てを創り、

例え声嗄れても狂い唄を謡え

肉が消えても忘れることなく、贓物が腐れど消え去ることなく
骨が崩れても葬ることなく、 手足千切れど思い返すことなく

全てを解さず唄を謡え」

闇色はちらり、と赤い舌をみせた。
「お前の命は俺が吸う」


微笑。










闇夜に咲く花は全てを狂わせ
日向に咲く花は全てを惑わせ

散れば闇の糧となり日向の俗物となる

散れど、

散れど、

散れど、

散れど、

散れど、

枯れぬ花は 

漆黒に咲く狂気。

解体考。 

July 18 [Wed], 2007, 21:11
『切り裂く夢は淡く 貪る現は濃く甘く
 
散り逝く躯は儚く 蝕む幻は深く辛く


血を血で洗い流すように、
肉を肉で食い潰すように、
臓を臓で飲み下すように、

同を同で捕食させ 糧とせよ

罪は罪をもって罰せ
罰は罰を持って罪とせよ 』

骨廻ノ唄。より




・・・・・・・・雑音。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブツン。

【2-05・A01-11 1件のアクセスを拒否。放棄しました。
直、サーバーは接続されておりません。接続を開始する際は回路を確保した後、行うことを推奨いたします。】

滑らかな機械音声が電動知性制御室に響き渡る。
白色の部屋に反響し、木霊した。
電動知性制御室の中心。
家庭用パソコンの何倍、何十倍、何百倍の大きさを誇るコンピューターのスピーカーから、滑らかに発せれるアナウンス。
感情の篭っていない声はコンピューターならではの味わいがあるというものだ。
コンピューターの前に設置された三脚の椅子の中心に、黒部は脚を組んで画面を覗き込んでいた。
大きなディスプレイにはあらゆるデータが画面を埋め尽くすように展開されている。
ありとあらゆる情報がそのコンピューターの中に。
否、その頭脳の中に。

【サーバー1-02-04.タイプC-012。“全自動”が電動知性制御室にログインしました。
空間処理を行いますので、データを一時保存させていただきます。】

機械音(キュイン)。

【空間処理が終了いたしました。回路を確保、情報の転送を行います。
直、アクセスを拒否することはできません】

機械音。

【データを受信しています。暫くお待ち下さい】

・・・・・・・・・・・・・・・・雑音(ザビ)、

粒子が黒部の背後に突如湧き、床から天井へヒト型を作っていく。
寄せ集まり、寄せ集まり、人の形へと。
形作られていく。

[厳重な警備。・・・・・僕の部屋で何をしているの?魔術師サン]

淡い声が粒子から漏れた。
甘さが儚さが淡さが凝縮された美しく麗しい声が、その粒子から紡ぎだされる。
[僕のアタマを使って何の悪さをしていたの?僕の制御があるからこその情報なんだけれど]
足元が出来上がり、粒子はブレながら胴を作っていく。
黒色が寄せ集まり黒色の団服を作る。
肌色が集まり手が、首が、顔が出来上がる。
青が集まり眼球が出来上がり、黄が集まり縁取る睫毛と髪を作り上げた。

・・・・・・・・・・・雑音(ザビ)、雑音(ザビリ)。

[・・・うん?どうやら空間が振動しているみたいだね。ノイズが入る・・・・・魔術師サン、勝手に空間を捩じ曲げて回路の無い所に接続したんでしょう?]
黒色のブーツがコツン、と白の床を叩いた。
金色の髪の毛が動きに合わせ揺れ動く。
黒部はただ無言で展開するデータを無情に見つめている。

靴音、靴音、靴音。

「よいしょっと」
雑音の入る音声から生身の人間の発する音声へ、突如声は変わった。
金色の髪の少年は黒部の右側に座り、指紋照合を始める。
「ああ。やっぱり。この区画にはまだ侵食させてないんだよ。
僕の二つ名がいくら“全自動”と言ったって完全なる機械ではない。
当然のリスクを負っているのに魔術師サンは何時も僕の仕事を余計に増やしてくれる」
少年は整った顔を大仰に崩して見せ、深く溜息をつくと流し目で上を見遣り黒部の顔を刺すように見つめる。

「嗚呼。貴方なんて早く死んでしまえば良いのに」

愛らしい唇から吐かれる毒舌を黒部は物ともしない。
少年はさくらんぼの色の唇をその色に似合わぬ毒々しい赤い舌で縁取るように舐めると、もう気が済んだのか画面に向き合いキーボードを弄り始めた。
「空蝉」
黒部はそこでやっと口を開き、少年を呼ぶ。
「何?僕今忙しいんだけど」
キーボードを打ちデータを修復させながら、空蝉は黒部に一応返事はしてみせた。
ただ答えることにあまり気を配っていないようで、手の動きは止まることはない。
まるで撫でるようにキーをタッチし欠如し、飛び去ったデータの修復を恐ろしいスピードで組み立て復旧していく。

「総隊長は狂いの児に会いに行かれた」

ぴたり、

空蝉の手が止まり、顔が黒部の方に向く。
「・・・・戯言は言って欲しくないよ」
「この空間から外へ出て行かれたよ」
「!?」
空蝉は反射的に正面を向き、恐ろしく広いディスプレイの上を見上げた。
この空間を介して受信したログと送信したログを交互に見遣り
「あー・・・!!もうっ」
ワシワシ、と頭を掻き毟った。
金色の髪の毛が大いに乱れ顔の回りを離れ、重力に負け髪は再び顔の回りを彩る。
止まった空蝉の手は以前より数倍の速度でキーを叩いていく。
眉間に皺を寄せながら、空蝉は口を開く。
「まさか隊長一人で行ったんじゃないよね?」
黒部は淹れてきたコーヒーを飲みながら答える。
「首尾は上々とでも言っておこうか“氷の魔女”が後を追った」
「あいつを送ったの!?馬鹿じゃない?!行野はどうしたの!」
「単位落とす恐れがあるので、特別授業中だ」
「あー、もう。馬鹿ばっか。隊長居ないから理事の奴らに逆らえないんじゃないの?
僕なら“人形劇(行野)”を絶対に送るのに」
黒部は溜息をつく。
その音はすぐに空蝉の鳴らす音に掻き消されて、霧散していった。

「“出来損ないの闇”、“機械仕掛けの魔術師”、“黙示録の獣”、“全自動”、“氷の魔女”、“人形劇”。
今揃っているのはそれだけさ。
後は拘束されてしまったよ」「違うね。殺されたんだよ、縫い合わされ創りかえられた僕らはあの人に感謝しなきゃいけないよ」

「“神業の人形職人”」

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「来たね」


破壊音。

解剖考。 

July 19 [Thu], 2007, 19:26

縫い合わされていく身体に痛みはない
痛みは、ない
眼球から押しだされる様に零れる涙を、なんという


僕は何をした
僕が何をした



下らない感情は治まることを知らない
溢れ出る悲しみと絶望を治めることはできない


水の底。深い、深い、水の底

口から空気が漏れる

手が敏感に反応した

目が開かれて――――――・・・・・


「おはよう。葵」





人形のような、あなたの声




雨音、

水音、

靴音、

叩音、


こつこつこつこつこつこつコツコツコツコツコツコツコツコツ・・・・・・。




「あの時君は僕の命を吸った。今もその残骸は君の中で生きている」
ちろり、と覗く舌は闇色の指をなぞり舐めた。
人差し指で下唇をなぞりながら闇色は憂との間合いを縮めていく。
アスファルトを叩く靴音だけが虚無に鳴り響く。憂はそれに動じない。瞬きすらもしていなかった。
「その残骸は僕の素で、君の糧。
僕の一部で君の全て。
ねぇ憂。僕は君を恨んだことはないよ、きっとね。
だけれどね、

僕は君を食べたいんだよ

今度は、僕が、僕の、一部ごと、君を、捕食する、番だよ」

「・・・・・」
無言で見つめ返す憂をみて、闇色は満足気に笑んだ。
吊り上る口角、細まった蒼い瞳が憂を見つめている。
闇に慣れなかった出来損ないの人間が、死人が、文字通りの出来損ないが、哂う。
異端の蒼色。


靴音、

「僕はどんな味だった?美味しかった?不味かった?
苦かった?辛かった?甘かった?酸っぱかった?塩辛かった?
それとも味を感じなかった?
感触は?歯応えは?
硬かった?柔らかかった? 噛みやすかった?噛みにくかった?」
一気にまくし立てると、そこで一息を付いて更に狂気的な笑みを顔に乗せた。
「そんなコトどうでも良いかぁ・・・・」

にんやぁり。

憂とよく似た顔が良く似た笑みを漏らす。
それも出来損ない。
完成形の前ではただ滑稽なだけ。ただの道化のようなもの。
「下らない」
「なぁに?憂」
「下らない、下らない、下らない、下らない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない、くだらない」
同じ言葉の羅列が憂の中から流れ出る。
どろどろ、と。どろどろ、と。
どす黒いそれは憂の体内から這い出るようにして出てくる。
憂の中に巣食った何かが食道を押し上がり口内を内側から押し開け舌を伝い、外に出てくる。

どろどろ、 どろどろどろろ、

憂の三日月のようにつり上がった口から、毒のように赤い舌が蠢いた。

「下らない」

赤い舌が唾液の糸を引いた。
闇より暗く、黒より濃い
他を寄せ付けぬ孤高とその傲慢さ
華奢な身体を巣食う毒 この世の夜の、常人には届かぬ深き闇の
狂いの児は、同胞をあざ笑う。


「こちらに居るのは、この容姿をもつのは


                         俺だけで良い」


狂気(にんやぁり)。
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駄文と絵を書くのが好き。
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