end roll 

February 10 [Wed], 2010, 22:19




きみは馬鹿だと笑うかもしれないけれど

僕はあのころ、君に触れるときはいつも、柄にもなく

永遠を感じていたんだよ

花と祝福 

December 08 [Sat], 2007, 22:52



 その日はとても良く晴れていた。
 まだ彼と一緒に居た、遠いあの日に見た空のように―――



 行きつけの病院に行ったついでに ケーキと花を買い、
 果して今日はあの少年は来るだろうか…と考えながら、帰路についた。
 今年の秋は少し寒い。
 去年の秋、キラはまだここには居なかった。

(もう、あの日から一年……)

 感慨深く、秋空を見上げる。
 秋風がひとり自分だけを置いてきぼりに吹きすぎていくようで、冷たかった。



 「……あ、」

 家の前まで来ると、少年の姿が見えた。
 入るのを迷っている風だったが、じきにこちらに気付き、すぐにその表情が密やかに気まずげに歪められる。
 見慣れたことにキラは苦笑を漏らし、「やあ」と言って声を掛けた。

「どうしたの、入らないの?」

 いつも呼び鈴もなしに直接庭のほうへ回る彼が、
 珍しく門の外で待っているので訊ねてみる。

「……留守なのに勝手に入るわけにはいかないだろ」

 少し拗ねたふうに少年が答える。
 その答えを聞いて、その素直さに少し笑い、キラは「ごめんごめん」と言いながら門を開けた。
 今日彼がここに来てくれたことに、キラは少しばかり機嫌が良かった。

「それじゃあ、どうぞ、お入りください」

 少しばかり仰々しい仕種でキラは彼を招きいれた。
 少年は胡散臭そうな目でそれを見ながら、素直に門のうちへ足を踏み入れた。




 庭には秋の植物が溢れていた。
 何処かから妖精がひょっこり現れそうだと、初めてこの庭に足を踏み入れたときは、そう思ったものだ。
 タイムトリップで辿りついた知らない時代。
 誰も知る人の居ないその時代で、憧れの歌手が当時住んでいた、少し古い洋館に気付けば足が向いていた。
 庭からこっそり忍び込み、―――あれは緑が欝蒼と生い茂る夏だった、木陰から出てきた人影に酷く驚いてキラは暫く言葉が出てこなかった。


「……何考え込んでるんだ?」

 訝しげに、少年の紅い瞳が覗き込んできた。
 ふと目を醒ますような感覚で顔を上げる。
 ―――ああ、ここは「今」だったと思い出し、ふと苦く笑う。

「ごめん、ぼーっとしてたね」

 軽く誤魔化し、古ぼけた記憶を意識から払い、 
 ケーキに添えられた紅茶に手を伸ばす。

「このケーキ、俺が来なかったらひとりで食う気だったのか?」

 テーブルのホールのチョコレートケーキを差しながらシンが言う。
 ホールは確かに買いすぎかな…とキラもシンの言葉に苦笑を漏らす。

「そうだね… でも、たぶん来るような気がしてたから」

 言われて、シンは返す言葉がなく視線を逸らす。
 ふと笑い、そういえば…とキラは話題をかえた。

「去年の冬に彼が使ってた膝掛け、君が誕生日にプレゼントしたんだったよね」
「ああ…あげたのは一昨年だったけどな」
「去年は何あげたの?」
「骨董市で買ったブローチ。昔失くしたって言ってたのに似てたからさ」
「ブローチ?」
「なんか昔誕生日に貰ったとかで、写真で見せてもらったことあったんだ。スケッチの絵にも描いてあったし」
「…………スケッチ?」
「屋根裏の物置部屋に何冊かあるんだよ。なんかアスランの家族がよく書いてたらしくてさ。―――ああでも、一冊だけちょっと下手なやつがあって」

 思い出しながらシンが笑う。
 自分の前で彼がそんな風に笑うのは珍しいことだったが、いまのキラにはそれよりも気にかかることがあった。

「そういえば…あんたがファンだって言ってた、ラクス・クライン?いま思えば、彼女かなあと思う絵も何枚かあったな。…あれ?…でもあれ…」
「…………」
「そういえば その下手な絵のスケッチブックにしか出て来なかったかも……って、あれ、」

 どうした、と声を掛けられ、辛うじてキラは「何でもない」と声を絞り出した。
 羞恥で顔が真っ赤になっている自覚があったので、顔を上げることも出来ない。

「シン……それね、その、下手な絵のスケッチブック」
「うん?」
「たぶん、僕が彼の誕生日にプレゼントしたやつ」
「………はああああ!!?」

 期待通りに驚いた反応を見せてくれたシンに
 キラも少し気分が浮上して、何とか彼に苦笑いを返す。
 
「当時の通貨ね、タイムトリップするときに一応いくらか持ってったんだけど、あんまり手持ちなくてさ。大したもの買えないから、スケッチブックだけ買って、おばさんに画材少し借りて… まあ、下手なんだけどさ」
「へえ〜〜〜〜……」
「…物だと、僕が買ったって証拠が残らないような気がしてさ。書いたものなら、僕がいた証拠になるんじゃないかって、思ったんだよね」

 そうか、あのスケッチブックはちゃんと残ってるのか…とキラはそっと微笑んだ。
 そのキラを、シンはまんじりともせず見つめ、やがて感心したように息を漏らした。

「…今更だけどさ。あんた、本当に過去に行ったんだな」 
「………まあね」
「なあ、それっていつの誕生日?」
「その誕生日で19になってたよ。そのときの彼は僕より少し年下だった」

 思い出してふっと笑う。
 本当に…懐かしい思い出に目を細める。
 そうして…その誕生日から数週間後、自分の意に反して「こちら」に帰ってきたとき、自分にとってはほんの一日も時は過ぎていないのに、慌てて逢いに来た彼はもう随分と自分より年上だった。

(あのとき僕は…泣いたんだっけ?)

 一年と経っていないはずなのに、よく憶えていない。
 逢えて嬉しかったのか、悲しかったのかはよく分からなかった。
 ただどうしようもなく愛しかったのは憶えている。
 彼の皺々だった顔がくしゃっと歪んだあの瞬間、彼がずっと長いときを待っていてくれたことを悟った瞬間―――


「―――逢って良かったと思う?」

 唐突な、静かな問いかけに、キラは顔を上げた。
 真摯な紅い瞳がこちらを見ていた。
 キラはその瞳に微笑み、迷う暇もなく「もちろん」と答えた。

「どうして?」
「死ぬのが怖くなくなった」
「……」
「彼が待っていてくれるからね」

 僕にとっての一瞬を、彼がずっと長いこと待ち続けてくれていたように。
 いまもきっと彼は、僕を待っていてくれてるに違いない…と、思うのと
 以前はあんなに恐れていた死が、いまはもう少しも怖くはない。

「むしろ、早く彼に逢いに行きたいくらいだけどね…」
「そんなこと言うな」

 穏やかなキラの言葉を、低く唸るような声が鋭く否定する。
 真剣な紅い瞳は怒り、じっと地面のほうを睨みつけている。

「―――長生きしろよ」
「……」
「あんたが居ないと、俺ひとりでこの庭手入れするの、大変だろ」

 シンはそれだけ言うと、あとは黙って紅茶を飲んだ。
 随分時間を置いて、キラは漸く一言「そうだね」と、彼に答えた。
 シンはもう何も言わなかった。


(僕を生かしてるのは…君だね?)

 19歳の若い彼と、年老いた彼を思う。
 年老いた彼が、やがてゆっくりと、まるで全て分かっているよという顔で笑う。
 花の溢れる庭と、古い洋館と、時折訊ねる黒い猫と、彼の若い友人と―――
 彼の残した全てを思い、
 ずっとむかし彼の生まれ出でたこの日に、
 ただ泣きそうだと、キラは思った。





 

夏の日のトワレ 

October 06 [Sat], 2007, 22:00





「なんって言うかさあ!もう詐欺だよね!」

 鼻息荒く声を上げ、一気に飲み干した空のビールビンをテーブルに叩きつける。
 ダンっと強い音がして、少し目を丸くした双子の姉が
 次いで呆れ顔をしながら、鼻白む目でつくづくと弟のほうを見遣った。

「そろそろ止めとけよ…キラ、いい加減呑み過ぎだぞ」
「聞いてるの、カガリ?!」
「聞いてる。もうニ時間ぐらいずっと聞いてる。むしろそろそろ聞き飽きた」
「冷たい、冷たいよカガリ!」

 もう僕を愛してないんだ僕のことなんかどうでも良いんだ僕のことなんか棄てちゃうんだ!
 …とか、わあっとさめざめ泣く振りを始めたキラに、カガリはよっぽど「いい加減にしろこの酔っ払い」と
 思いきり怒鳴りつけてやりたかった。
 それを寸でのところで どうにか耐え、代わりに深々と長い溜息を吐き出す。
 こんな性質の悪い酔い方をするやつじゃあ、なかったはずなんだがな…と思いながら。

 それというのも、全部あいつが悪いのだ。

 カガリは、ちらりとバーの隅に誰かが置き忘れていった
 雑に折り畳まれている、少し草臥れたふうの新聞に目を遣った。
 数日前のその新聞の一面には、
 年若い、まだ少年のあどけなさが、完全には抜け切れていない
 青年の写真が大きく飾られていた。
 『若きホテル王誕生』という、大きな見出しと共に。

(でも…、むこうにしてみたら、こっちのほうがよっぽど詐欺だろうと思うけどな)

 隣の弟は、何だか扱い辛い感じに店のマスターに絡んでいる。
 しきりに視線で「助けろ」と合図を送ってくるマスターを尻目に、
 カガリはただそんな視線には一向に気付かない素振りで、いま密やかに思い出された遠い日の記憶に思いを馳せるのだった。


 ―――10年も前、避暑に訪れた土地で知り合った少年。
 同じ年頃の子どもは少なかったから、仲良くなるのは早かった。
 特にキラは、
 その少年と本当に気が合ったみたいで、よくよく彼と一緒に居た。
 キラは彼を独占したがって、
 「おんなのこは来ちゃ駄目なんだよ。おとこだけの秘密なんだから」と言っては、カガリを置いて遊びに行ってしまった。
 カガリは酷く悔しい思いをしたもので、そのことだけはよく憶えている。
 一緒に居たのはほんの一週間ほど、
 来年も会おうと、少年と堅く約束を交わしたキラとカガリだったけれど、
 家庭の事情で、結局次の年からは避暑地を訪れることなどしなくなった。

(よく憶えてたもんだよな…キラも)

 実際カガリは忘れていた。
 キラが言い出すよりも先に新聞は読んだはずだったのに、全く少年のことなど思い出さなかった。
 ずっと憶えていたんだろうか、キラは。
 この10年間、ほんの数日一緒に居ただけの少年に
 また逢える日がくることを、ずっと夢見ていたんだろうか。

 ……色々あったのだ、自分たちは。
 この10年で、目まぐるしくいろんなことが起きて、住む世界を違えて、喧嘩も強くなって、いろんなことが変わって。
 言葉遣いも、いつの間にか乱暴になって、今ではすっかり下町訛りが身についた。

 そのあいだもずっと、キラだけは、まだあの夏の少年に逢う日を待ち続けていたんだろうか…。


 ―――ちなみにキラは、
 新聞の一面で少年の成長した姿を見つけたその翌週には もう
 彼の経営するホテルのボーイとして採用が決まっていた。

 盗難騒ぎ(もちろんこれは濡れ衣だったわけだが)でホテルをクビになってからも
 紹介状を握り締めて、ホテルと関連のある、あわよくば彼に逢える職場を求めて
 目下就職活動に励んでいる。


「……ちょっと待て。 ちょっと良いか?キラ」
「なあに、カガリ」

 最初の裡は、なかなか新しい職場が決まらないと言って愚痴を零していたはずの弟は
 次第にその矛先をあの夏の日の少年へと変え、
 何だかよく分からない文句を垂れては酒を飲み…といった具合で、今の状態が出来上がってしまった。
 彼は今また、さらに新たな酒ビンを開けようとしていたところで、
 カガリはさりげない仕種で酒ビンを取り上げながら、だいぶ顔の赤くなってきている弟を 訝しむ目で見た。


「おまえのアスランに対するそれってさ、……そういうの、恋って言うんじゃないか?」


 キラの時間が一瞬止まる。
 呼吸すら忘れたような様子で、思いがけない言葉に目を見開く。

「な、ななな、何言ってんのカガリ! そっ…そんなばかなことあるはずないじゃない!」

 どうやら図星のようだ。
 ……そんな、顔真っ赤にしてブンブンと手を振られたって、
 ちっとも説得力ないけどな。

 カガリはまた、深々と溜息をついた。
 …カガリが憶えていなかったことを、キラが憶えていたというだけでも、ちょっと面白くなかったのに
 このうえ可愛い弟が自分の知らないところで密かに恋に落ちていたとあっては
 むしろ酔って打っ棄ってしまいたいのはこっちのほうじゃないかと、カガリはキラから取り上げた酒ビンに手を伸ばした。




ホスト部パロ 

July 05 [Thu], 2007, 15:14



「楽しくないのは烈のほうでしょう?」

 子どものころにだって二人で来たことはなかった、遊園地で。
 何かを見透かすような瞳で幼馴染は言った。
 だから、もう帰ろうと。
 
 それは、何だか「もうやめろ」と言われているような気もして、苦い笑みが零れる。

(……駄目なんだ、まだ)

 まだ終わるわけにはいかないんだ。

 視界の端に、どうしたって見間違えるはずのない、目慣れた青い髪がちらつく。
 それに気付いて、やっぱり来たのかと内心で少し笑う。
 そう仕向けたのは確かに自分だけど。


「俺…さ、ジュンのこと好きだよ」

 そう言って、そっと彼女のほうに身を乗り出し、その額に唇を寄せる。
 一瞬の間を置いて、ばたばたばたと、誰かが慌しく駆け出していく気配がする。
 それを確認してから、ゆっくりと身体を離すと
 彼女は不思議そうに、そして少し訝しげに烈のほうを見ていた。

「烈…?」
「ごめんね、付き合ってもらって。でもこれで終わりだから」
「ねえ、どういうこと?」
「協力してくれてありがとう、ジュンちゃん」

 それ以上は答える気はないと、笑顔で彼女の言葉を受け流す。
 無駄だと理解したのか、ひとつ溜息をついて、ジュンは何か諦めたように笑った。

「ほんとにこれで良かったの?烈にいちゃん」

 頷く代わりに笑顔で答える。
 彼女も気付いてた。さっきまでそこに、豪がいたことに。

「良いんだよ」

 ジュンを好きだったのは本当。
 だけど、それよりも大切なものがあったのも、本当。


 大切だから、ほんとはずっと傍に居たかったんだけど
 おまえがいつか特別な誰かを見つけて
 広い世界に、自由に飛び出していくことのほうが、嬉しくて
 さらにそれが、この可愛い幼馴染だったら
 言うことないんだけどなあって、ずっと思ってた

 思ってただけで、何も出来ずに何も言えずにいたのは
 自分から手を離すのが怖かったから

 だからさ、豪
 憎んでも良い、嫌っても良いから

 おまえから断ち切ってくれよな



「…烈ってば、ほんと豪に甘すぎ」
「そうかな」
「そおよ!」

 だからいつまで経っても豪は、ばかで無神経なままなのよ、と
 溜息混じりに文句を漏らす。
 唇を尖らせて、怒ったように少しばかり頬を膨らませて。
 何だかそのさまが可愛く思えたものだから、烈はくすくすと笑みを零した。

「……なによぅ」
「ごめんごめん。…確かにあいつは馬鹿で無神経だけど、でも俺、好きなんだよな」
「え?」
「あいつが真っ直ぐに走ってく背中」

 昔、肩を並べて走っていたころと、何も変わらず
 眩しいくらい真っ直ぐに駆け抜けていく後姿。
 
(……あ、やばい)

 想像してたら、なんか、ちょっと泣きそうになった。
 走り抜ける背中に、あの懐かしいモーター音が重なって。
 
 いつまでも走ってて欲しいんだと、そう思った。


「…やっぱり甘いわ、烈にいちゃんて」

 ジュンは小さく溜息をついて、軽く苦笑して見せながらそう言った。
 仕方ないと言わんばかりに、少し肩を竦めながら。




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えーい終わってしまえ  烈→ジュン→豪で、烈→豪で、豪→?(烈)です
小話 | よしたか


name 

May 03 [Thu], 2007, 17:10


君さえ僕の傍に居てくれたら
僕はなんにもいらないのに


思い出ぽろぽろ 

January 29 [Mon], 2007, 13:56


彼が襟元をくいと引っ張る。
いっしゅん、彼がどうしてそんなことをしたのか分からずに
それがどういう合図だったかを思い出して
ひどくうろたえた。

(いつのまにか思い出は)

とおく、遠くに置き去りに

とらわれの鳥 

January 29 [Mon], 2007, 13:05


野生の鳥は、籠のなかでは長く生きられないので

ルルーシュとナナリーに内緒で、鳥をそっと森に逃がした。
境内で傷ついてるのを見つけて
意外なほどに甲斐甲斐しく、彼が世話をしていた小さな鳥。
籠のなかの小さな鳥。
傷が癒えて、籠のなかを飛ぶ鳥は、片羽の動きが少し不自然。
でも綺麗な声で鳴くので、ルルーシュをたいそう喜ばせた。
他人の手を拒んで、彼がひとりで世話をした。
彼がその鳥に何を重ねていたのかは、分からないけれど

籠から放たれた鳥は、一度も振り返らずに飛び去った。
(もう二度と、囚われたりしないで)
彼が大切にしていた小さな鳥
哀れに思ったのは、それとも小鳥のおかげで構ってもらえなかった自分のほうか。

あの鳥に誰かの姿を重ねたのは、たぶん僕のほうだった

神を見捨てた子ども 

January 28 [Sun], 2007, 22:29

「こうやって、手を二回たたいてね」
「こうか?」
「そうそう、それでおねがいごとして、礼を二回」
「………」
「いま何おねがいごとした?」
「…なにも」
「それじゃあお参りにならないよ」
「よそものの願いごとなんて、どうせ叶わないから」
「宗教がちがうんだっけ、ブリタニアの神さまは?」
「もういない」
「え?」
「もう、棄てた」


(かみさまどうかあのこにしあわせを)

golden days 

January 28 [Sun], 2007, 22:18


ばかだなあと
ぼくのともだちはぼくをみてわらいます
でもそれはとてもやさしいのです

そうだよ、ぼくはばかだから
きみがそばにいてくれなくちゃだめなんだよ


子どもだったころを思い出します
相変わらず、僕のともだちは僕のことをばかだと云います
あのころと違うのは
それを言う彼が、つらそうな顔をしているということ

メランコリア 

January 23 [Tue], 2007, 0:48


「好きなこがいるんだ」



ふーんと言って、うなずいて
素っ気ない返事をして
失敗したな、とキラは思う

(カガリがぐずぐずしてるから)

ほら、持ってかれちゃった

放り出されたあかい林檎をひと齧り
ひみつの味は甘くて酸っぱい
さて今度はどうしようかなと、また頭を捻る

(今はただの責任感でも)

分かんないよね、あの子、良いこみたいだし
『好きなこがいるんだ』
本当になってもらっちゃ困る

あかい林檎に歯を立てる
残念ながら牙はない
まっかな林檎に齧りついて、白い果実に赤い血がじんわり

こんなんじゃなくてね、ほんとうは
赤いこがほしいんだ
夜の闇、新緑の木立
正義のあか、静かに燻る情熱のいろ
あのこのすべてが、ほしいんだ