『火』 同人誌・銅鑼 貳月号(拾參)

August 11 [Wed], 2010, 23:09
同人誌・銅鑼 貳月号(拾參)
 昭和3年2月1日発行


『火』 ー一揆に加はった彼の言葉ー

火もない、燈り(あかり)もない寒さのぢんぢんする室(へや)の中で
つぎつぎにやつてくるつらい運命を支えてゐ(い)る二人・俺と嬶(かかあ)
二人はおもひ思ひに座ってゐた
二人はどうにも仕様のないどんづまりを見詰めてゐた
二人はお互ひに毆り合ひたいやうな怒りに抓きむしられた
二人はいつまでこんな日が続くかを考へることの莫迦々々しさを知りぬいてゐた。

久しくまともにめしの這入ったことのない胃袋
賣られていつた馬
がらんどうになって行く家
腹がへつたと言って寢つきの惡くなった四人の餓鬼

見透しのつかない真暗闇の貧乏を口いつぱい詰めこめられて
默りこくつている嬶
これら張りつめた氷のような痛い襲撃に立つた俺
身動きの出来ない孤立!

この悲慘はどこからくる
この不合理はどこからくる
奪うもの、奪われる者
爪先から脳天へ逆に突きぬけてゆく稲妻のせんりつ。

俺達は絶望的な放心に向かって歯をむき出してやるだけの力を失つたか
俺達は空腹をつけこんで打ち込まうとする偽りの慈悲を振りはらふ力を失ったか
ぐぐッと下腹からつき上げてくる拒否
俺を貫いて響いてくる千萬の「否」
愚劣なる戦ひのために俺達の意志ををくつがへすな!
自分自身に勝て!
俺達の妥協なき前進こそ、俺達の力だ。

苦しみに堪へ、地球上の俺達、一致せる悲痛な決意の戦線に立った俺・嬶・そして餓鬼
俺達は俺達の行動を持ちつゞけることを誓う
佯りから俺達を遮断するために最も自己流にふるまふことを誓ふ
俺達の苦悩
俺達の反抗
俺達の力。
P R
プロフィール
  • アイコン画像 ニックネーム:神谷暢
読者になる
2010年08月
« 前の月    |    次の月 »
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
最新コメント
Yapme!一覧
読者になる