ここはとあるBAR
人目につかないけれども、ふと、偶然にも見つけでもしたら…入ってしまう。
それが、BAR ワイズマン
「でね、…なんですよ。で、…それで、…しかも、」
「ほうほう、……それはそれは、………ええ、で…ははぁ…」
客足少ないこのBARに、聞こえる声は二つ。
酒に酔ってぐだを巻いているのか、はたまた。
「いやぁ!お陰で気分がスッキリしました!ありがとうバーテンダーさん!」
晴れ晴れとした顔で先程の二つの声…の客の方がにこやかに言う。
「いえいえ。私なんか聞くばかりでアドバイスも出来ませんでしたが…あぁ、そうだ」
片方の、バーテンダーは言いながら慣れた手付きでシェイカーにお酒を入れ、あっと言う間にカクテルを作り出す。
「どうぞ。私からのサービスです」
「え?タダで飲んでいいの?いやぁ…悪いね長居したあげく一杯サービスしてもらちゃって!」
遠慮する素振りは見せたものの、男は嬉しそうにゴクリ、とカクテルを飲み干す。
「うん。上手い!ごちそうさま!また寄らせてもらうから」
「有難うございます」
意気揚々と、男はBARの木戸を押し、トントンと階段を上がって、そして、姿は地上に消えた。
再びそこは、誰もいないBARに戻る。
暫し、その余韻に浸り―
そしてグラスを下げ、次の客のためにテーブルを丁寧に、丁寧に拭いた。
「おにーちゃん!!来たわよー」
カラン…、
鈴が鳴るより早く青髪の兎がBARに飛び込んでくる。
「あ、やぁスィーちゃん。慌ててどうしたの?」
「もうね、本当に聞いてよお兄ちゃん。さっき仕事上がったばっかなのに、夜勤入っちゃって…もー…」
「あらら。それは大変だ」
元々、目の周りがパンダの様に黒いせいでバーテンダーの彼の表情は判りにくい。
けれど薄っすら細めた彼の目が、自分に同情している事くらい、分っている。
「…じゃあ、キツケに一杯…お兄ちゃんの奢りで?」
「キツケとか奢りとかね、女の子がそういう言葉使わないの」
諭すように、バーテンダーは笑い、そしてまたシェイカーを手に取りカクテルを作り出していく。
「えーと、何だっけこのカクテル」
「Moulin Rouge…後味爽やかだからキツケにはいいかな?」
「ムーラン…昔、何か映画であったわよね?そういうの?」
ゴクン、と優雅もへったくれもなく飲み干し、スィーは首を傾げる。
「あれ?スィーちゃん見たことなかった?」
「うーん?どうかしら?映画は見すぎて…冒頭見ればわか……あ!」
何気に時計を見ていたスィーはハッと我に返る。
「時間時間!じゃあねお兄ちゃん!」
「うん。頑張っておいで」
あたふた鞄と上着を片手に急ぐ妹にバーテンダーは苦笑する。
「そうそう。映画は分らないけど、お酒のムーランルージュなら、私好きよ?
だって、私の目と、同じ赤だから」
にこり、とスィーは笑み、そして慌てるように店を飛び出していった。