SEEDER - 第九話:滲む染み。

April 11 [Fri], 2008, 10:03
そうだ、父の話しをしようか。

- 西暦5240年 冬・帝都:ヴェリカ -

父を探し求め、当てのない旅路の果てにやっと辿り着いた父。
私が40歳に差し掛かろうかという頃だった。

空はもう真っ暗で、街灯に映る雪が印象的な夜だった。

長い間夢見た再会は、冷静すぎて正直、あっけない結末のまま幕を閉じた。

その頃、父は不治の病で衰弱していた。

- 帝都:ヴェリカ中央区・ニア -

L≠iqid達の住む、超高級居住区である、このニアに、まさか私が自ら足を運ぶ事になろうとは…。

中央区に入るには、7つのゲートを越えなければいけない。
その1つ1つが厳重に警備され、外部の進入を許さなかった。

当たり前である。

ここはヴェリカを仕切る、ヴェリカ最高幹部達の、皇族達の居住区だ。

何かあってからでは遅い。

ヴェリカの持てる最高のセキュリティがなされた街、ニア。
そして、娯楽に官能、国の持てる全てを惜しみなく注がれた街。
眠ることのないその街の姿はまさに不夜城である。


一介のE:liteでは、例えL≠iqidと同伴していても入ることさえ許されない街へ、
私が入ることが出来たのは、至極簡単、そう、あの男…、父の力だ。

父はどうやら、風の噂で私が捜している事を知り、極秘裏に私と会う手はずを整えた。
今まで音沙汰の無かった父が、ここにきて動き出したのは理由がある。

彼はもう、長くはない。

自分が死ぬ前に、一度、息子に会っておきたかった、、、とでもいう、所謂、親心ってやつだろうか?

その本心はわからないが。


彼の職業はヴェリカL≠iqid…レベル5、つまり…紛れもなく皇族であり、
このヴェリカを仕切る力を持つ者の一人だった。
正式には、L≠iqidレベル5、甲・景式、銃鋼騎隊:ヴァルハラ、隊長のド=ノヴァ。
そしてルチアの参謀、つまり軍師だ。

そして、父はL≠iqid。
私の家系はE:lite。

察しの良い人ならもうおわかりかも知れないが、父にはL≠iqidとしての幸せな家庭があった。


元々ヴェリカの最高幹部クラスで多忙な毎日を送っていたわけだが、そりゃそうだ、帰って来れるわけもない。
そして、E:liteには似つかわしくない程の私の家系の莫大な資産もここにきて、頷けてしまった。


母は愛人だったといえ、父を…軍に二人と居ない軍師である父を、誇りに思っていたのだろう。

そして、私に、父を重ねたまま、死んでいったんだろう。


ベッドで横になったまま、ろくに会話もままならない父に対して、私は可笑しい程冷静で。
むしろどこか客観的に見れていたのかもしれない。

だから、父を恨むこともなかった。
その代わり、愛情も、芽生えることもなかった。

母さん。

きっと私は母さんの期待に応える事はできそうにありません。

そう、思ってしまった。

父に背を向け歩き出した私は、この先訪れる大きな闇を無意識の中で薄々察知していたのかもしれない。


さようなら、父さん、母さん。


ずっと滲んでいた、私の心の染みが、今、やっと白に戻った。

明日から、私は何を想い、生きればいいのだろうか?

津々と降り注ぐ、雪の闇へ、私と私の想いが溶けていく。
溶けて流れたその先に、鳥の囀るような春は待っているのだろうか?

何もわからないまま、闇に消えた。

SEEDER - 第八話:白い反乱分子。

April 07 [Mon], 2008, 13:30
- 西暦5513年 スタウト半島: 死者達のゆりかご-


あの出来事から10年の月日が流れた。
切り立った崖は、今日も生者の呼吸を拒む。

この10年間、息を潜め、覚醒種の改良と研究に精をだしていた。

だが、ただ、息を潜めていたわけではない。

着実に、脈々と、準備は進んでいた。


歳も300歳を越えたというのに、衰えぬ身体。
全て、命のカードと覇王の種のお陰だろうか。


Mistとなってしまった今、迂闊に歩き回るわけにはいかない。
今は、まだ『その時』ではない。

今は…、まだ……ではない。



- 西暦5539年 ヴェリカ直轄:ジェイド城-

この年の春、ロアが何物かにより殺害された。
死因は毒殺。

犯行に及んだのは…


アイドだった。


ロアは国民を虐げるルチア5世の悪政に、異を唱える事もなく、
そして更に激しくS;;eed達を虐げ続けた。


アイドはE:lite家系だったが、そこまで裕福ではなかった。
そしてアイドには2人の妹が居た。

一番下の妹は、鋼鉄の心臓を持っていなかったのだ。

虐げられることを恐れ、アイドの家族は、ただ、それをひた隠していた。

それが他Eliteに気付かれ、虐げられた挙げ句、殺されてしまった。

ロアに助けを求めたアイドだったが、所詮S;;eedの事。

ロアが相手にする訳もなく、逆に愚かだと罵られ、更には家系まで馬鹿にされ、逆上した上での犯行だった。

いや、アイドは常々、この階級制度への疑問は持っていた。
弱者だからこそ、抱える痛みを、アイドは知っていた。

ラドゥバス部隊のアイドへ寄せる信頼は厚かった。
私も厚い信頼を寄せる一人だ。

この事件以降、ラドゥバスは、ヴェリカへの反旗を翻し、ジェイド城を占拠。


アイドは『全ての国民に自由と平和を』と掲げ、独立国家、ラドゥバスを立ち上げた。
以降、ジェイド城は、ラドゥバス城と名を変える事になる。


ヴェリカへ住む、多くのS;;eed達が、数多の危険を顧みず、ラドゥバスへ亡命したのは言うまでもない。


だがしかし、帝国からすれば、ほんの一つの弱小国家にしかすぎず、

ラドゥバスが建国した直後から風前の灯火であった事には変わりはなかった。


そして、私は意を決し、アイドへ会う事を決めた。



- 西暦5540年 独立国家ラドゥバス-

久方ぶりに訪れたセイクリッド・ヒルは、懐かしく。
完全にあの頃の色彩を取り戻していた。

何かが違うと言えば、もうこの街に、ジェイドの民達は居ない。
忙しなく動き回る、あの奇妙な風体も、もう今となっては、過去のモノなのだろう。


私はあまり目立たぬように、城へ向かう。

が、やはり、門番に止められてしまった。

門番『何者だ!!』

『流浪いの種売りでございます。』

門番『…種?花屋が城に何の用だ!?ん…待て、あんたは…』

どうやら、門番は私に気付いたようだ。

門番『誰か至急、王へ通達を!!マロゥが来たと伝えるんだ!!』


この謁見は私にとって、賭であった。


乗るか、反るか。


反れば、私はまた、孤高の志士だろう。
だが、アイドは必ず乗ってくれる。
そう、信じているから、ここまで来たのだ。


5分とせず、城へ案内された。


まず、第一段階クリアだ。


長い廊下を歩き、謁見の間へ通された。


玉座に鎮座していたのは、紛れもなくアイドだった。

アイド『遅ぇな。すぐ城へ向かえと言ったじゃないか』

久しぶりに見るアイドの目には、うっすら涙が滲んでいた。


私は、反逆者となった経緯を話そうとしたが、アイドは首を振る。

アイド『私はマロゥ、お前を信じている。お前は義に厚い奴だ。義を通したんだろう?』


何故だろう。


この男の前では、私は全て見抜かれているようだ。
私の方が何百年と長く生きているというのに、人の心を動かす力を、やはりこの男は持っているのだ。


私は、全て包み隠さず、話した。
自分の身体に埋め込まれている4つのカードの事、
エリフという男と創り上げた、覚醒種の事、
自ら埋め込んだ、覇王の種の事。

アイドは私の話しに驚きながらも、少しずつ受け入れ、
そして言葉を噛みしめ、私のその一言一言を、真剣に聞いていた。

アイド『もう一度、ラドゥバスへ戻らないか?』


どれほど、その言葉を待っていただろうか。
だが…今はまだ、時ではない。


必ず戻るが、まだ時ではない。そう伝え、アイドへ小袋を渡した。
中には数種類の覚醒種。


種の力を生かすも殺すも、その人次第だ。
植えられる人間を見極めるのは、与える方だ。

アイドはそれが出来る男だと知っている。

これが今のラドゥバスがヴェリカからの侵攻へ耐える為の、唯一の方法だと告げ、私はラドゥバスを去った。


いつの日か、また、あの白装束を身に纏える事を願いながら。

SEEDER - 第七話:贖罪の涙。

April 07 [Mon], 2008, 11:49
私たちがセイクリッド・ヒルの半分を鎮圧した頃、東門と西門が同時に陥落した。
瞬間に雪崩れ込むイグニスとジルドアーム。

フィンレルが相変わらずな口調で皮肉を漏らす。
『おやおや、私達としたことが、どうやら遊びすぎたようですね。ラドゥバスの皆さんもこれでは暇でしょうねぇ。では、私達が城を陥落させますので、ゆっくりと休んでいて下さい』

そう告げると隊は城を目指した。

アイド『気にするな。私達は私達の仕事をするだけだ。全班に通告、継続してセイクリッド・ヒルを鎮圧するんだ!』

そして、私達は『殺戮』を繰り返す。

真上にあった太陽が西に傾き、赤く染まっていく頃、セイクリッド・ヒルはラドゥバスにより完全に陥落した。

残すはジェイド城のみである。

アイド『全班合流だ。遅れるな!これよりジェイド城へ行く!!』

白夜の行進である。

城を目指す途中、私の目をひとつの建物が奪った。

エリフの家である。

…何も想うな。そう、今は何も考えるな。何度も自分に言い聞かせる。
瞬間建物の中で何かが光る。

まさか。

彼は生きているのか?

アイド『どうした?』

私は何も言えなかった。

だが、アイドは何か察したのだろう。

アイド『行ってこい。だがすぐに城へ向かえ』

そう告げるとラドゥバスは城へ向かった。

私は走る。

そして…ドアを開けた。


静まりかえる屋内。


耳鳴りがしそうな静寂を切り裂いて、エリフの名を呼んだ。


『その声はマロゥか!?』

地下研究室への扉が開く、そこに、エリフは生きていた。

『私を殺しに来たのか?』

馬鹿な。そんなわけはないだろう。首を横に振る。
エリフ『外は危ない。早く地下へ!』

セイクリッド・ヒルで地下研究室など作っているのはエリフだけだろう。
生き延びた理由が明白になった瞬間だった。

エリフ『みんな死んだか。大方、残すは城のみってとこだろう?私も見つかったら殺されてしまうな。』

青冷めた顔だ。無理もない。

いくら友といえ、仲間を殺してきた敵が、今、目の前にいるのだ。

エリフ『私は君を信じている。この殺し合いも、国のためだろう?君の本意ではないことくらいわかっているさ。君の望む世界も、知っているつもりだ。そして…逃げ隠れしていたが、もうこれ以上私も生き延びようとは思っていない。私の意志は君に託したつもりでいる。だから…その手で私を殺してくれないか?』

馬鹿な。世迷い言を言うな。

エリフ『何処の誰とも知らぬ者に、志半ばで殺される無念よりは、全てを託し、友に殺される方が幸せだろう。君はもう覚醒種についての知識も得ている。こんな愚かな世界を終わらせてくれ…戦争のない平和な世界を!!』

エリフの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

瞬間、静寂を裂いて響き渡る拍手。
『傑作ですねぇ。ドラマですねぇ。泣けますねぇ。』

…フィンレルだ!!

フィンレルが此処に居るということは、ジェイド城陥落…という事か!早すぎる。

フィンレル『早すぎる、とでも言いたそうな顔ですね。まぁ、所詮こんなものですよ。それにしても…友情ですか。いいですねぇ。ですが敵国の兵に情けをかけるのですか?』

ニヤニヤと嫌らしい笑い方をする男だ。

フィンレル『そんな情など1円にもなりませんよ!!』

私の頬を何かがかすった。

ドスッと鈍い音が響く。

フィンレルの投げた剣がエリフの命を奪った。

エリフ『…マロゥ…私との約束を……』

!!!!!!!!!!!!!!!!

私の中で何かが音をたてて崩れ、そして弾けた。

フィンレル『おっと。失礼、手が滑ってしまいました。お友達は…あらあら…まぁ敵国の兵ですし、此処は戦場ですからねぇ。フフ。』

私は無意識に剣を抜きフィンレル目がけて斬りかかった。

フィンレル『フ…愚かな!!』
軽やかに私の太刀筋を避ける。
『要らぬ情けに溺れたか馬鹿が!!剣を抜いたら反逆者だというのにな!!』

反逆者?だから何だと言うのだ!?
友を殺されて、黙っていられる程、お国万歳なわけではない!!

『E:liteレベル1風情が血迷いやがって!!格の違いを見せてやろう!!』


私は所詮、暗殺者だ。接近戦に秀でているわけではない。
だがしかし、フィンレルもパラディン、平均的に特化しているとはいえ勝ち目が皆無なわけではないだろう。

踏み込んでは斬り続けるも、その太刀筋は完全に見切られていた。

フィンレル『愚かすぎる。』

じりじりと詰め寄られ、壁際へ追いやられる。


もう…後がない。


このまま終わるのか?上意に逆らえず、愛した街並みを人々を殺し、そして友も殺され、仇もとれずに、私まで反逆者として吊し上げられ、死ぬのか!?


…いや、私にはエリフとの約束がある。


…まだ…死ねない。


フィンレル『私は優しいな。そうだ、5秒だけ待ってあげましょう。その間に跪き、私に平伏し、己の愚かさを悔い改めるのであれば、此処での事は水に流しましょう』


馬鹿な。何故私が跪かなければならないのか。

目を閉じる。

エリフとの日々を思い出す。


その意志を、私が守ろう。


その約束を、私が果たそう。


目を見開く。


フィンレルへ向かって告げる最後の言葉となろう『声』を上げた。

『よく見ておけ』

私は自分の胸に剣を突き刺した。

フィンレル『馬鹿な。自害か。愚の骨頂だな』

自害?

馬鹿はお前だ。


胸を切り開き、テーブルに転がる覚醒種を、その心臓に植えた。

─ 覇王の種 ─

異常に脈打つ鼓動。
細胞という細胞が息吹きを上げ、再生を繰り返す。

みるみるうちに切り裂いた胸の傷が癒えていく。

フィンレル『お前…何をした…!?』


エリフの意志を植えただけだ。
脳裏にエリフの日々が過ぎる。
『これは覇王の種と言って、恐ろしい種さ。使う人を間違えたら、きっとこの世界は滅びてしまうだろう。それ程、恐ろしい種さ。研究ってのは面白いもんでね。失敗から突拍子もないもんが出来てしまう事もあるもんさ』


フィンレル『化け物が…、もはや情けも無用だな。死んでもらうぞ!』

化け物か…、お前の方が、よっぽど人の皮を被った化け物だろうが。

フィンレルが斬りかかった。



が、



…遅い。遅すぎる。あの早さは何処へと言わんばかりのスローモーションだ。

太刀筋を見切り横一閃。剣を振り切った。

ゴトッと、転がるフェンリルの身体。


仇はとった。



冷たくなったエリフの身体を抱き、流れる涙を止めることができなかった。

私はエリフの亡骸をかかえ、逃げるようにセイクリッド・ヒルを離れ、スタウト半島を目指した。


翌日には、フィンレル戦死、マロゥ反逆者という通達が大陸全土へ広がった。


ジェイドは滅び、ヴェリカ直轄となる。

城主に任命されたのは、ロアだった。


そして、気の遠くなるほどの長い…長い逃亡生活が始まったのである。

SEEDER - 第六話:不知火。

February 24 [Sun], 2008, 5:45
アイドが全身全霊を込めて叫ぶ。

『全軍進撃!!先陣は城門の破壊を!中陣は城門を駆け上がり城壁を越えろ!後陣は城壁からの攻撃に備え、機を見て城壁を駆け上がれ!我等白夜の力を発揮するんだ!!』

部隊全員の士気が上がる。

先陣は容赦なく城門の殲滅を開始する。
この門を破壊するのは我が部隊では時間がかかりすぎるのは必至だ。
暗殺を得意とする部隊に正面から攻めろとは…確実に戦力外と見られていると思って間違いないだろう。
これはアイドにとって、ラドゥバスにとって、屈辱以外の何物でもない。
だからこそ、見返してやろうという気持ちにさせられたのだろう。

そもそも、この先陣は囮である。
私は中陣へ配備された。
我が隊の跳躍力は半端ではない。
この程度の城壁を越えるのは朝飯前だ。

ジェイドの民達の投石と弓が容赦なく先陣に襲いかかる。

アイド『屍を越えろ!!仲間の死を越えるんだ!!中陣!!行け!!』

中陣が走り出した頃、静かに機を狙っていたかの用に雄叫びをあげたブルド砲。
射程内には完全に中陣。

アイド『中陣を解体させろ!!左翼と右翼に別れブルド砲から逃げるんだ!!』

轟音が轟く。ブルド砲が鳴り響く。

瞬間…全員の足が止まる。

なんてことだ…。

恐怖が全身を駆けめぐる。

恐ろしい破壊力だ。

解体に間に合わなかった中陣の殆どが一瞬で消し飛んだ。


まさかである。

本当に、まさかである。

3000人弱の部隊のそれが、
一瞬で、おおよそ500人は消し飛んだ。

恐ろしい。

全員が硬直してしまった。

アイドが必死に声を上げる『怯むな!!恐れるのはブルド砲だけだ!!これさえ交わせば勝てるのだ!!死にたくない者は走り抜けろ!!』

アイドの声で私を含めた全員が我に返る。

一気に走り抜ける中陣、そして、聳える城壁。

ここまで来ればブルド砲は来ない。

安堵がよぎる。

だがしかし、これで終わりではない。

生存確率が少しだけ上がったにすぎない。

うかうかしていたら殺される。

早く城壁を越えなければ…。


私は左翼、右翼の皆は大丈夫だろうか?

その時だった、

城壁からジェイドの民が叫んだ。

『ご愁傷様。』


私は目の前が真っ白になった。


またもや、『まさか』である。


いや、『馬鹿な』である。


城壁から真下に向いたブルド砲。


そんな至近距離で打ってみろ。
私たちはおろか、城壁も、城壁の上に居るジェイドの民達でさえ死んでしまうだろう。

ジェイドの民『今まさかって思ったでしょ?我等とて馬鹿ではないのだよ。近距離型小ブルド砲。人の命を奪う程度の砲撃力さえあれば十分だからね。さぁ、死んで下さい』

私は必死に叫んだ『砲撃までまだ時間がある、全員飛ぶんだ!!城壁を超えろ!!死ぬぞ!!飛ぶんだ!!』

震える足で必死に城壁を駆け上がる。

降り注ぐ石と弓の雨。

地獄だ。

だけど生きるんだ。

私が城壁を駆け上がった頃、真下に向けて発射された小ブルド砲。
それはまさに蜃気楼、不知火の如く、容赦なく仲間を連れて行く。

とんだ策略ミスだ。

こんなもんがあるなんて、誰が想像した?

中陣はほぼ壊滅だ。私を含め残ったのは200人といない。
城壁に配備されているジェイドの民は500人程か。

なんて悠長に考えている暇はない。

殺さねば。

殺らねば殺られる。

私はここでの生活を想い出さぬように殺し続けた。

もともと早さでは我等の方が断然上だ。

接近戦になれば勝てない敵ではない。

周りの民を殺したらあとは城内へ行き、内側から開門。
これが今回の策略だ。

誰かが叫ぶ『早く城内へ!!外がもたない!!』

しばらくして城門が内側から開けられた。

南門のジェイドの民達は殆ど死滅している。

屍の山だ。

アイドが皆をねぎらう『中陣、よくやった!!だがまだ終わりではない!!一気に駆け上がり隊ところだが、部隊が相当やられた。ここからは10班に分かれ正面攻略ではなく暗殺攻略に切り替える』

1000人弱。

3000人居た部隊が城門を開けるだけで1000人へ。

まさかの威力だが、我が隊に不向きな攻略だったと言えば、相応な結果かもしれない。

しかし、ここからだ。

城門さえ攻略すれば、後は我が隊の得意とする暗殺で行けるだろう。

アイド『よし10班に分かれたな。各自班長に従い行動し、班員が半数を切った場合近くの班に合流するんだ!!まだ西門も東門も開いていないだろう。目標は城ではない。街の殲滅だ。では散れ!!』

あくまで補佐だ。

一番に乗り込んだ我が隊が街を殲滅。

あとから来る東門と西門の部隊がノンダメージで城へ行けるような、そんな補佐だ。

みんなわかっている。

私は1班。アイドと一緒だ。

アイド『さあ、こっからが腕の見せ所だ。全員行くぞ!!』

SEEDER - 第五話:殲滅の咆哮。

February 03 [Sun], 2008, 16:19
この出来事は、忘れることなど出来ないだろう。

その日はよく晴れた日だった。
ふと空を見上げれば、いつものようにエリフと覚醒種の開発をしていた自分を思い出す。

大群の足音と、甲冑の擦れる音響く昼下がり。

無情にもセイクリッド・ヒルが近づいてしまう。

セイクリッド・ヒルに入るには3つの門がある。
東門、西門、南門だ。
中央の噴水広場を抜け、北門を目指す。
北門を抜ければ、そびえ立つのがジェイド城だ。
その最上階にジェイドの王、アルフレッドが鎮座しているだろう。
目指すはアルフレッドの首か、ジェイドの完全殲滅だ。

多分…この国は、今日で無くなる。

セイクリッド・ヒルの影が見えだした頃、ジェイド城から大きな轟音が天高く鳴り響いた。
どうやらジェイドも臨戦態勢が整ったのだろう。

…戦いが始まってしまう。

セイクリッド・ヒルの門が閉ざされた。
城壁では無骨に構えるブルド砲。ジェイドの民達の知識が集約された大砲だ。
各門の城壁にブルド砲の数は10門。均等に配備されている。
ブルド砲の威力は恐ろしいが、発射までにある程度の時間を要する。
だから一斉砲撃はしてこない。
一度に打つのは精々2門か3門…といったところだろう。
そしてこのブルド砲、殲滅力のみに焦点を合わせ作られた大砲だ。
故に、飛距離があまりない。
あまりにも近くに砲撃してしまうと、自らの街にも被害を及ぼしてしまう。
その為、近距離の射撃は出来ない。

このブルド砲を突破するには、砲撃の順番を見極めて、一気に城門まで駆け上がるしかないだろう。

しかしジェイドの民とで馬鹿ではない。
ブルド砲が打てない間の攻撃は、投石隊、弓隊を備えている。

被害は必至。

長丁場は自らの首を絞める。

生き残るためには、即・攻・殺である。

イグニスとフレ・オ・ヴェプレスは東門へ、
ジルドアームとアグニトゥアースは西門へ。
そしてラドゥバスは南門へ。

イグニスの部隊長フィンレルが皮肉を言う。
『ラドゥバスの皆さん、あなた達はレベル1ですので適当に遊んで休んでいて下さい。』
ジルドアームの部隊長、ロアがクスクスと笑う。
『兄様、これは戦争だよ。休んでちゃ駄目でしょう?もっとも足手まといなら必要ありませんが』

この兄妹は戦争を楽しんでいる。
闘う為に生まれてきたんだろう。
どこか可哀想に見えてしまうのだ。

フィンレルが見下した目で続ける。
『南門を攻めるのはラドゥバス1部隊のみです。大丈夫ですか?まさかと思いますが…最低でも城門くらいは撃破できますよね?あなた達が城門を撃破する頃には、ジェイド城は陥落している予定ですので。傷付いている方を見かけたら治療だけしていて下さい。それでは各部隊の皆さん持ち場へ!!』

フィンレルとロアの背中を見つめながら、歯を食いしばっていたのは、ラドゥバスの部隊長、アイドだった。
アイドは振り返るとラドゥバスの皆にこう告げた。
『すまない。私が不甲斐ないばかりに、皆に辛酸を舐めさせたな。だが、ここで南門を攻めるのが1部隊というのは、意外と好都合かもしれないな。イグニスやジルドアームよりも早く進撃できれば、彼らも私たちを認めてくれるだろう。忘れたか!?我等が白夜と呼ばれる理由を!!正攻法だけが戦略ではない!!我等には我等の兵法が存在するのだ!!』
アイドは精一杯鼓舞する。
それに答えるように部隊の士気が上がっていく。
さすがは部隊長だ。

アイドの軍略が買われ、部隊長へ昇格した…という理由も頷ける。

一刻も過ぎた頃、東門と西門から狼煙が上がった。
各部隊、開戦の準備は整った。
南門も遅れずに狼煙を上げる。

瞬間、東門と西門から怒濤の雄叫びが聞こえた。

…戦が…本当に始まってしまった。

SEEDER - 第四話:上意。

January 23 [Wed], 2008, 10:25
夜が明けた頃、静かに家を出ようとするエリフの姿があった。

少し迷ったが私は彼を引き止めた。
彼の描く未来図に心打たれた…そういうところだった。

互いに未来を語り合う。
そして、エリフは私を受け入れてくれたのだった。
私はエリフの工房で覚醒種の開発に手を貸す事になる。

そうして、3年の月日が過ぎる。

- 西暦5503年 セイクリッド・ヒル -

何度もセイクリッド・ヒル攻略に失敗していたヴェリカだったが、この年、久方ぶりの侵攻を始めた。
強制帰国令が発令されると、各国から母国ヴェリカへ戻らなくてはならない。
戻れぬ者は、帰国拒否弁明書を提出する。
戻らぬ者は、国家に背く反逆者としてみなされ、暗殺部隊の餌となる。

どれくらいの時間、無口でいただろうか…

重い空気の中、エリフが切り出した。

『もう、開発は今日で終わりだ。母国へ帰り、今日から私とは敵同士になってしまう
戦争が終わるまで、どうせロクな開発もできないだろうからね…
早く戻らないと反逆者にされてしまうよ。』

私は、この街が好きだ。

緑に溢れ、機械達が同じリズムを刻み、鳥達が謡う。
静かに時間の流れる、この街が好きだ。

戦火に包まれれば、緑は赤に変わっていく。
私はそんなこの街を見たくなかった。

だがしかし、上意には逆らえず。
母国ヴェリカへ戻る事を決意する。


- 西暦5503年 帝都:ヴェリカ -


この頃ヴェリカは、国家始まって以来の好景気を迎えていた。
おおよそ昨年発掘された、永久石炭と言われる石炭のせいだろう。
また、厄介なものを掘り当てた物だ。

何だかんだ言いつつも、結局この国を支えているのはS;;eed達だ。
彼らが奴隷の様に働き続けるお陰で、この国の皇族貴族達は潤うのだから。
彼らが地獄のような毎日をおくっているというのに…まったく世の中は不公平だ。
だが、私に何が出来ようか。こんな胸中をL≠iqidに察せられようものなら、またお得意の反逆者だ。
上意に背く者は、例え、E:liteレベル5であろうとも容赦なく斬る。
それがこの国のやり方だ。
私を含め、ルチアに逆らう者は、誰一人いない現状だ。

徴集の議は明日だ。明日、選ばれた部隊が進撃部隊として出発する。
ラドゥバスが選ばれれば、私もセイクリッド・ヒル殲滅部隊の1人となってしまう。

また、私は罪もなき人々を殺めねばならないのか…。
それがこの国の為だとしても…なぜ、共存という選択肢が存在しないのか…。
私の胸は張り裂けそうだった。

─ 翌日 ─

ヴェリカに属する全部隊が集結した。
いつものように、ルチアが進撃部隊の名を読み上げる。

『今回の進撃部隊を命ずる。
E:liteレベル5、イグニス!
E:liteレベル4、ジルドアーム!
E:liteレベル3、フレ・オ・ヴェプレス!
E:liteレベル2、アグニトゥアース!
E:liteレベル1、ラドゥバス!
以上、5部隊に此度の進撃部隊を命ずる!』

確かにバランスの取れた部隊編成だ。
誰の目から見ても、現状のヴェリカで一番バランスが取れた部隊編成だろう。

攻撃と防御に平均的に特化したパラディン部隊のイグニス。
ただひたすら目下の的を殲滅する事に特化したウォリアー部隊、ジルドアーム。
火と水を使わせたら誰も敵わないだろう魔術部隊、フレ・オ・ヴェプレスに、
雷鳴を轟かせ風を自在に操る万象術者部隊、アグニトゥアース。
そして、医術と暗殺に特化した私の所属部隊、ラドゥバス。

何故、今までこの組み合わせがなかったのかが不思議でならない程の好パーティだろう。
大方、ジェイドを甘く見ていたのだろう。
何度も侵攻に失敗し、いよいよヴェリカが本腰を上げた…というところか。

出兵は明日。

明日には罪なきジェイドの民達を…
私はこの手で…

SEEDER - 第三話:報われない者。

January 18 [Fri], 2008, 6:51
家に着くと私はエリフの手当てを始めた。
深い傷は随所にあれど、致命傷はない。
よくもまぁあのクレイモアで切られて生きているものだ。

昔とった杵柄か。医学の知識がこんなところで役に立つとは。

15歳になったE:lite達は年に1度開催される属部隊選抜を任意で受ける。
そしてE:liteは16歳になると、皆どこかしらの部隊に属する。

勿論、任意だから属部隊選抜は受けなくも良い。
ただし、E:liteで属部隊選抜を受けない者は皆無に等しい。
地位と名誉を重んじるE:liteが、その力をいかんなく発揮できる場をみすみす見送るわけはない。
これは一族の名誉でもあり、属部隊選抜を受けない家系はE:liteでも最下層になるからだ。

己の心臓に挿されているカードの種類により、特化された能力、
そして自分が持って生まれた運動能力。
それから秘めたる力、潜在能力。

全て緻密にテストされ、属部隊が決まるのが1年後。

この国の成人は16歳なのだ。

私は16歳でE:liteレベル1、特殊5・暗殺部隊『ラドゥバス』へ入隊した。
そこから約4年間、属部隊で一人前になれるように下積みが始まる。

数ある暗殺部隊の中でもラドゥバスは異端だった。
『特殊5』というのは『医術に特化する』をさしている。
医術と暗殺に特化する部隊というわけだ。
もちろん暗殺術は、暗殺に特化した部隊よりは劣る。
ただし、暗殺に特化した部隊に医術ができるか?と言われれば、それはない。
どこも一長一短で足りない部分を補い合う部隊構成となっているわけだ。

また、数ある部隊の中でも白い装束はラドゥバスだけだ。
暗殺にはいささか不向きかと思われるこの色にも実は色々な意味がある。
まぁここで述べるようなことではないが。

それにしてもラドゥバスは全部隊が集まると一際目をひいていた。
その為か、ラドゥバスは別名『白夜』とも呼ばれ、憧れる者も少なくなかった。


そんな医術が敵国の民に使われようとは、人生わからないものだ。

エリフは薬が効いて昏睡している。
特殊調剤の薬だ。大よそ1週間は目覚めない。
目覚めた頃には傷も完治している事だろう。

それにしても、さっきのジルドアーム兵とエリフの会話が気になる。
他人の芝生に足を突っ込むとロクな事がないのはわかっているのだが、気になってしまうのが人というものだ。

だが…まぁ、何も聞かなかったことにしておこう。


そして、1週間後、エリフが目覚めた。

『あぁ…あなたが助けてくれたのか…ありがとう…』
私は微笑みを浮かべながら頷いた。
『全部聞いていたんだろう?』
『いや…いいんだ。助けてくれたお礼もロクにできないからね…』
そういうとエリフは静かに話し出した。

『あなたは…見たところ鋼鉄の心臓だろう?この国は今まで機械の力であなた達と争ってきた。
敵国のあなたには悪いが、機械の力でこの国はまだ守られたままだ。
だがね…機械には限界があるんだ。あなたも心臓の持ち主ならわかるだろう?
日々尋常ではなく成長していく自分が。
この国の民は自分達の工業能力に誇りを持ってる。自分らが守り通せないわけがないと。
私はね、機械が争いに使われるのが嫌なんだよ。
機械は今まで通り、生活の一部として使われてこそ、その真価を発揮すると思っているんだ。

だから私は機械の開発をやめ、新たに戦争兵器となる物の開発に取り組んだんだ。
ヴェリカの鋼鉄の心臓に対抗できる程になりうるであろう兵器をね。

それがこの覚醒種だ。
やっと1週間前に完成したんだ。効果は本当に素晴らしいものだよ』



エリフは嬉々として語る。


『これがあれば、日々成長していく鋼鉄の心臓とも渡り合える。

…そう思っていたんだ。

だがね…、開発を続けていくうちに、これがゆくゆくは戦争兵器になるのかと思うと心が痛くてね。
使い方によっては、人を傷付けるのではなく、幸せにできる種だろうから。

だったらいっそのこと、戦争兵器だと公表しないでおいたほうが、
本当の平和の為なんじゃないか…そう思ったんだ。

あのジルドアーム兵の母親は不治の病だった。
もうずっと長いこと、笑顔の消えた家庭だったんだ。

私は、自分が何かできないかと思ったんだ。
この種を使えば、あの家族に、再び笑顔が戻るんじゃないか!?そう思ったんだ。

そうして、あの母親の心臓に、この治癒の種を植えた。

結果は…あの兵士の憤慨を見ればわかるだろう?

開発途中のまま投与された種は暴走し、母親の胸を貫くほど成長してしまった。

私は結果的に人を殺してしまったんだ。

あの家族の笑顔が見たかっただけだったんだ…

こんな風になるなら、せめて完成を待つべきだったよ。

だけど時間がなくてね。。

あの母親ももう限界だったんだ。

セイクリッド・ヒルで異端扱いされるこの私に、唯一優しく接してくれた人だった。
私は敵国の民なのに。

私は恩を返したかっただけだったんだよ。

こんな風になるなら…』

そう言うと、エリフは布団の中へ潜り込んでしまった。
すすり泣く声が静かに響く夜だった。

SEEDER - 第二話:赤獅子。

January 11 [Fri], 2008, 1:41
- 西暦5598年 春 -

この国に第二の転機が訪れた。私がもう少しで400歳になろうかという頃だったろうか。

霞む父の姿を探し求め、当てのない旅を続けていた私だったが、もうこんな歳だ。
父は既に他界した。父の話しはまだもう少し先にしよう。

マルスから遥か南、スタウト半島と呼ばれる半島がある。
生者の呼吸がまるで邪魔であるかのような切り立った断崖。
波は命を拒むように激しく打ち返す。

別名、死者達の揺りかご。

崖に立ち、海を眺めていると、死者達の歌が聞こえてくる。
そうして、生者は帰らぬ者となる。
故に、此の場所に好んで来る者は自ら命を絶つ者くらいだろう。

私が無数にある洞穴の1つに身を隠すようになって、どれほど経ったかは定かではない。

ただ、この頃が私の人生の大きな転機だった。

- 西暦5500年 セイクリッド・ヒル -

大きくそびえ立つ城門。
長年ヴェリカと紛争を続けてきた国、ジェイド。

ジェイドは炭坑で栄えたヴェリカとは打って変わって、機械で発展した国家だった。
そんなジェイドの首都、セイクリッド・ヒル。

当てのない旅の果てに辿り着いた街だ。

敵国と言えど、躍起になっているのはヴェリカのL≠iqidだけで、
事実E:lite達でさえ、ジェイドとの戦争は望んでいない。
ジェイドの高い工業能力に目を付けたヴェリカの侵略と思ってもらえばいいだろう。
だがしかしその侵略も未だ成功ならず。ジェイドとはそれほど堅固な国なのだ。

戦争さえ起こらなければ敵国同士であろうと平和そのものだ。

このジェイドの民達の風貌は、いささか奇怪である。
長く伸びた頭に三本の角、膝まである立派な白い髭、目を隠すほどの眉毛。
そして身の丈が小さい。どんなに成長した者であっても1mあればかなり大きい方だ。
長く伸びた指も特徴である。

とにかくこのジェイドの民、身長以外が長い。
あぁ…彼らは足は短いな。

その大きな脳で日々機械の事ばかり考えているのだろう。
この民達は基本的には争いは好まないのである。

私はこの街が好きだった。
ゆったり流れる時間、せわしなく走り回る民達も、見慣れてしまえばまた、可愛いものである。

ここでの暮らしにも慣れて、もはや此の場所に骨を埋めてしまおうかと思っていた頃、あの出来事が起こる。


ある夕暮れ、夕食の食材を調達しに街を歩いていた時だった。
『フギャァァアアアア!!!!!』
大きく響きわたる悲鳴が街を貫く。

一斉に人々が声の場所へ駆けつける。
悲鳴の主はジェイドの民でも特異で奇妙な男、エリフだ。
私が駆けつけた頃、血だらけでうずくまるエリフ。

そしてエリフを見下したまま、ニヤニヤと立ちはだかる男…

誰が見てもヴェリカとわかる甲冑。
クレイモアと呼ばれる大剣を振りかざすその姿に獅子の紋章。
間違いなくE:liteのレベル4、
そのレベル4の中でも接近戦に特化した鋼鉄の心臓を持つ荒くれを集めた部隊『ジルドアーム』の兵卒だ。

ジルドアームはレベル4ながらも、冷徹非道なその殲滅力から戦争ではL≠iqidに大きく期待されている部隊だ。
相手は一人とはいえジルドアームだ。
エリフが殺されるのは明白だった。

まわりのジェイドの民達も突然の悲劇に動けずにいる。

いや…『動かない』と言った方が正しいだろう。

誰も助けようとしないのだ。

このエリフ、先に言った通り、かなりの変わり者である。
機械工業に精を出すのが民族としての誇りであるこの民達の中で、
機械工業もせずにひたすら何かの研究ばかりしている男だ。

まるで社会不適合者でも見るような目で、ある意味蔑んでいたのだろう。

国のためにならぬ男の為に危険をおかす者は、この街には居ない。そういう事だろう。

ジリジリとジルドアーム兵がエリフに詰め寄る。
『た…助けてくれ!!』エリフが叫ぶ。
『うるせぇ!!てめぇのしたことをあの世で悔やみな!!』一蹴する男。

この二人に何があったのかすらどうでもいいと言わんばかりに、
ジェイドの民達はその場を去っていった。

残ったのは私だけだ。

『助けてくれ!私はあなたの家族が平和に暮らせるように…』エリフが泣きすがる。
『馬鹿にするんじゃねぇ!落ちぶれても俺はE:liteだ!それを…それを…てめぇは…』

その時だった。

静寂の中にひとつの銃声。

崩れ落ちるジルドアーム兵。

『勝手な行動は困りますね…』

腰まである銀色に輝く髪に深紅に光る鎧。
ジルドアーム部隊長、ロアだ。

ロアはその冷徹さと天才的な知略から部隊長まで登りつめた女だ。

『あなたのような単細胞を抱える私の身にもなって欲しいわ…まだ機は熟していないというのに、火種を作ろうとは愚ねぇ。…本当に愚かだわ…あぁ…死んで当たり前のゴミだわ』

背を向き、高らかに笑いながら沈む夕陽に消えていく。

私はとっさにエリフの元へ走る。

まだ息はある。

敵国の民なれど、同じ命を持つ者として放っておけなかった。
いずれ戦争になれば命を奪い合う存在だとしてもだ。

私はエリフを担ぎ家路についた。

この男が私の人生を大きく変えていく存在になろうとは、この時はまだ、知るよしもなく。

SEEDER - 第一話:回想。

January 02 [Wed], 2008, 3:49
- 西暦5200年 希望の都、マルス -

帝都ヴェリカから遥か東に位置する街、マルス。
マルスはもともと大して栄えていなかった港町だったが、
他国への交易の便の良さに気づいたルチア2世が巨額の税金を費やし発展させた。

この強引な政策に当時は異を唱える声も多かったが、今となっては昔のこと。
発展してしまえば、誰も文句を言うものはいない。

今ではこの街は希望の都の意を込めて、エターナル・マルスと呼ばれる程である。

私が生まれたのは、マルスが栄える少し前だった。

母親と私の2人家族で兄弟は居ない。
本当は兄が居たらしいが、生まれてまもなく流行り病で死んでしまったらしい。

母子家庭だったが、裕福なE:lite階級の家庭だった。
食事に困ることなどなく、着たいものを着れ、欲しい物は手に入り、何不自由なく育った。

無論、私の意志に関係なく鋼鉄の心臓はついていた。

お気づきだろうが、私はもう既に650年以上生きている事になる。
私の心臓にはスロットが4つ。全て『命のカード』だと教えられたのは、
20歳を超えた頃だったろうか。

人間の平均寿命が120年のこの時代に、650年以上である。
この心臓に挿されている『命のカード』が異常なまでの生命力を物語る。

命のカードはこの国に5枚しか存在しないと言われている。
そして、その4枚が、この体の中にある。
それほど貴重なものを集められるほど、権力・財力・人脈のある家庭だった、そういう事だろうか。

父がどこで何をしているかは知らなかったし、知ろうとおも思わなかった。

母は平穏を好み、暖炉の前でよく編み物をしていた。
『マロゥ、いずれあなたはお父さんのように立派な人間になるのよ』
母は私に父を重ねていたのだろう。

どんな理由にせよ、居ない父親のようになれと言われても簡単に理解できるはずもなかったが、
母親の言うことに間違いはないのだろう、そう言い聞かせていた。

私が18歳の頃、母親が不治の病にかかった。
そこから亡くなるまでの2年間、一度も父は姿を現さなかった。

最後の最後まで母は『父のようになりなさい』そう繰り返し、死んだ。

母親の葬儀が終わり、部屋を片付けている時、一通の手紙を見つける。

どうやら、母親が私に残した手紙らしい。

手紙には弱々しい字で、こう、綴られていた。

- 親愛なるマロゥへ -
あなたがこの手紙を読んでいるという事は、もう私はこの世にいないんでしょう。
あなたが生まれた日の事を今でも昨日の事のように想い出します。

あなたに1度話した事があるけれど、あなたにはお兄さんがいました。
生まれてまもなく流行り病で亡くなってしまった。
あの時私達は行き場の無い悲しみに打ちひしがれ、幾日も幾日も泣き続けました。

そして、あなたが生まれた直後、あなたも後天性の心臓病であることが告げられました。
帝国で一番高名な医者ですら首を横に振る程の病だったのです。

私とお父さんは絶望し、運命を呪いました。

だけど諦めたりしなかった。

色んな方法を使って、病気を治す方法を探しました。

だけど見つからず、代わりに見つかったのが、あなたの心臓に挿してある『命のカード』だったのです。

今まで沢山あなたに隠し事をしてきました。

あなたの心臓にはスロットが4つあり、その全てに命のカードが入っています。

何としても生かしたかった。
何としても生きて欲しかった。

4つ【改心】することは違法だったけれど、スロットがいくつあるかなんて、言わなければ誰も気づかないし気にも留めないでしょう。
だからこのことは誰にも言わず過ごしなさい。

そして、あなたはちゃんと生きなさい。

お父さんはきっとあなたが来るのを待っているはずだから。


母より


自分の心臓にスロットが4つあり、全て命のカードだと知った。
命のカード1つで小さい国なら1つ手に入ってしまうと言われるほどのカードが、4つも体内に。

私は自分が何をすべきなのかわからなかった。

待っているという父親が誰なのかも、何処に居るのかもわからぬまま、当てのない旅に出る事になる。

SEEDER - プロローグ

December 30 [Sun], 2007, 1:36
人間ってのはいつの時代も愚かなもんだ。

残念ながら、この時代の人間も愚民どもである。
全ての人間が愚かかというと、そういうわけでもないが。
しかし大多数は愚かだ、そう断言できてしまう程、この都は荒んでしまった。


─ 西暦5999年、帝都:ヴェリカ ─

炭鉱で一躍有名になったこの都が栄華を極めていたのは、今は昔の話しである。
時の王、ルチア13世の悪政に頭を痛めているのは何も民達だけではない。
生きとし生ける命全てに被害は及んでいた。

家屋から剥き出しのごついパイプ、超高温の蒸気が無数に噴出す。
一家屋に最低一つのこのパイプ、街自体の温度を上げるのにも一役買っている。
大昔には温暖化なんてものが存在したらしいが、今のご時世、温暖化になってくれた方が
どれほどの民達が救われるだろうか。

ヴェリカに本日最初の機関車がやってきた。
いつもと変わらぬ夜明けだ。何も変わらない。

機関車が通り過ぎると、複数の足音が近づいてくる。
言わずとも知れた【E:lite】達である。

説明が遅れてしまったが、この帝都ヴェリカには大きく分けて以下の4つの階級が存在する。

@L≠iqid(皇族)
AE:lite (貴族)
BS;;eed(奴隷)
CMist(罪人)

見ればわかると思うが@→Cで位が下がる。
ついでに自己紹介もしておこう。
私はマロゥ。Mistのレベル5である。
Mistにもレベル1からレベル5まで存在する。レベルは極悪ランクみたいなもんだ。
S;;eedのレベル5よりMistのレベル1の方が良い暮らしが出来る。ここは、そういう街なのだ。

西暦5000年に行われたと言われる大世紀祭【解呪】の辺りから、
この国はおかしくなったと言われる。

その頃の王、ルチア1世の元に独りの術者が訪れた。
かの者の名はジル。今では知らぬ者はいない。E:lite達に神と違いないほど称えられている存在だ。

ジルがヴェリカにもたらした【改心】という秘術。
それは生まれて間もない赤子の胸を切り開き、心臓に拡張スロットを追加するという業だった。
この頃から鋼鉄の心臓を持つ者達の事をE:liteと呼ぶようになる。

この拡張スロットに、例えば智のカードを挿入しよう。
智のカードを挿入された赤子は、20歳になるまで恐ろしく早いスピードで智力が進化していく。

心臓の大きさにもよるが拡張スロットは4個まではつけられるだろう。
ただし4つ装着できるのはL≠iqidのみだ。法で定められている。
これは単に謀反や反乱を恐れたL≠iqidの政策と思ってもらっていいだろう。

E:lite達は大概1〜2つ装着している。
E:liteの中でも余程の富豪でなければ3つは無理だろう。

それ程、法外な額なのである。

そして、この【改心】を受けられぬ者が、S;;eedとなる。
S;;eedは当然E:liteから差別され、人の扱いを受けない。
その扱いは、もはや奴隷だろう。
残念な事なのだが、これが現状なのである。

裕福な家庭に生まれれば…S;;eed達は羨望の眼差しでE:lite達を見る。
E:liteはそんなS;;eed達を笑って蹴り飛ばす。
虫でも潰すかのようにS;;eedの顔を踏み潰す。

これが約1000年の間続いてきた、日常である。
プロフィール
  • ニックネーム:kaito
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この小説はWizardの音源に付属している歌詞カードだけでは伝えきれない、カイトの脳内で繰り広げられている世界を文字におこした物です。
話しによっては、グロテスクな表現や不適切な表現、青少年の育成に対して不適切な表現を含む可能性があります。ご注意下さい。
また、何かあっても一切責任は取れませんので、重ねてご注意下さい。

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