鎮痛剤<前編> 

2013年08月26日(月) 11時55分

何故か最近、八田に避けられる。
話しかけても無視、飯だって別々。
毎日一緒に帰るはずが今日は先々帰ろうとしている。今当に八田が帰ろうとしている。なんだよ急に態度変えやがって、きもちわるい。
ここで引き下がったらもう話しかける機会が無いような気がした。
嫌だ、と素直な感想が自分の中にあった。

そそくさとスクールバッグに筆箱やら教科書やらを適当に放り込んだと思うと、八田は後ろの席の俺を見向きもせず帰ろうとしていた。
は。ふざけんな美咲。

「おい八田、待て。何一人で帰ろうとしてんだよ」

腕を掴んで問い詰めた。すると八田は意外な反応を見せた。

「え、別に約束なんてしてないだろ?」

事実だった。確かに今まで約束して帰ることはなかった。最初は八田が無理矢理乗り気でない伏見を勝手に跡をつけるように帰っていて、気がつけば自然に二人横並びで帰るようになっていたのだ。

「…まあ」
「だろ?変な奴。じゃあな。」
…なんなんだ…?
「いや待て、じゃあ一緒に帰る。帰ろう、どうせ道は一緒なんだし」

猿比古が行かせんとばかりに理由を無理に付けて誘う。八田はそんな伏見を見て驚くようだった。

「八田…?」

表情を確認するようにまじまじと八田の顔に覗き込んだ。すると八田は耳の先から頬へ、頬から顔全体を覆うように、一気に顔面一帯が染まっていた。薄紅色に。
俺は何が八田をそうさせたのか、振り返ってみてもわからないままだった。

「や、八田…?」
「おれ…!俺さ、」

伏見が話しかけると被さるように八田の口が開いた。声が少し震えていた。
もう一度と八田は深呼吸を二回繰り返してから、伏見の目を見つめて話し始めた。

「俺…お前といると、おかしいんだ、いや、可笑しい訳じゃねえぞ、なんか…こう……痛い、痛いんだ。」

伏見は眉間に皺を寄せた。まさかと思った。自分自身の心臓の動きが忙しなくなるのが伏見は分かった。その“痛い”の意味を理解出来た故の素直な反応だった。だが敢えてこう問いた。

「…どこが」

確証が欲しかった。俺には。

「ここが。…心臓が!
なあ猿比古、俺もう死んじゃうのかな…でも、不思議と嫌じゃないんだ。やっぱおかしいのかな…」

ああ、それはおかしくなんかない。俺が望んでいたことだ。 おろおろして、眉がきゅうっと下がっていて、上目遣いで俺を見ている。そんな姿の八田が俺にはかわいくて、愛おしく見えていた。

「ちょっと、こっちに来い。治してやるよ。」
「治る…のか?
もしかして猿比古って医者だったのか…!?」

やっぱこいつ阿呆だな、と考えながら両手を広げて八田を待っていた。

「ほら、来いよ」

八田は頭上に疑問符を掲げ、取り敢えず俺の言う通りに近寄ってきた。
俺はそっと、そして力強く抱きしめた。

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後半へ続きます。

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