わかれたから見せるよ

February 16 [Sat], 2013, 7:59
「君は食べたくなったりしないのかな?」


「人間とか」


「しないよ」


「じゃあ何が食べたくなるの?」


「お菓子?かな」


「そっか」


君はそんなこと最初から興味が無かったのだろう
再び僕の部屋のお菓子に手を伸ばした。


僕は僕で興味があること
など無かったのだろう





ただ


天井をながめ


分厚い体毛ごしにきみの体温を感じていた。。





簡単に言うと僕は狼男だ。丸い月を見ると狼になってしまう。








ただ

それだけだ

他に

何もない。





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「前々から思ってたんだけどさ」



「その爪って、重そうだね?」



「もうなれたかな」



「それより背中のほが重い」



「そっか、私は鼻が痒いよ」



「アレルギーって知ってる?」



「うん」



「じゃあ、学習能力って言葉は?」



「それも、しってる」



「でも、もふもふしてるよ」



君は鼻をすすりながらも、僕の体毛に体を埋めて来る。
僕が獣化する度に、こうして鼻水で顔面を汚しながらも密着してくる所を見る限り、
彼女はバカなのかもしれない。




----------------------------3------------------------------------------------


こいつの名前はあきと言うらしい、僕の家の隣にある施設の子だ


話はよくきかなかった、物心が付く前から預けられ、気付けばその施設を任されている園長先生を
「おばあちゃん」と呼んでいたそうだ。


おそらく、「お父さん」とか「お母さん」とか、そういった家族を呼ぶ言葉を口にした数は、
一般の十分の一程度なのだろう。


そしてあきという名前も本当の名前ではないらしい。
しかし彼女も、今では施設では一番の年長者になり、子供達に「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と呼ばれ、
その世話に追われているとのことだ。


家族を思い出して泣き出す子供達に子守唄を歌っては寝かしつけ、
誕生日には手作りのケーキを作り、クリスマスにはサンタの格好をして、子供達を喜ばせる毎日なのだそうだ


そんな多忙な彼女と狼男の僕が、こんなにもひたしくなり、こうして夜な夜な僕の部屋に侵入しては僕のお菓子を食い散らかして、帰宅するような間柄になったのかというと、




その答えは簡単である。



狼男の姿を目撃したのが、サンタのすがたをした彼女だったからである。



------------------------------------------4-----------------------------------


「ねー」


「私と君がセックスしたら、どんな赤ちゃんが生まれるんだろうね」


「そういう話、好きじゃない」

「うん、私も好きじゃないわ」

言いながらも、彼女はぎゅうぎゅうと僕の背中に体を埋める。
僕に勇気があったなら身だけでなく心も狼になっていたのだろうが、
あいにく僕は僕だった。



背中合わせの状況に安堵しながら
締め付けられて小さくなった心臓からはなたれる鼓動が、



君に聞こえないように願った。



僕は彼女の事がすきらしい




-----------------------------------5--------------------------------------


彼女に出会ったのはクリスマスの夜。つきは丸かった。


獣化した僕と、サンタ化した彼女が鉢合わせた際、周りには少数の子供達が群れを成していた。


子供達は僕を見るなり、泣く事も忘れ、彼女の背に隠れてガタガタと震えていた。


獣化することには慣れていたが、獣化した自分を目撃されるのは、初めてだった。
その時の子供達の目を、僕は今日まで忘れられずにいる。


傷、ついた。



すごく


目撃されればどういう反応をされるか解らないほど、僕は馬鹿じゃない。
ただ想像どおりの現実が

僕の心をギスギスと傷つけた。




「大丈夫だよ」




だから、そんな風にうろたえ、傷ついた僕の心に、その言葉はいとも容易くすり抜けてきた。



「怖くない、怖くない」
子供たちは彼女の後ろに隠れていた。ただかばっているわけではない。
彼女がたっていて、後ろに子供たちがいる。ただそれだけだった



[怖くないよ]
もう一度だけ彼女はそううなずくと、優しい瞳で僕をみつめた
「ね?



そのときの瞳を
僕は今日まで忘れられないでいる。



だからその時は、アレルギーという存在を知りながら、こんな風に何度も何度も人の毛並に身を埋めては、顔面を汚すような子だとは思わなかった。



僕が思うに彼女はアレルギーだ。だれだってそう思う。だから僕は一度何故そうまでして僕の毛並に顔を埋めるのか、聞いてみたことがある。彼女はわけの分からないくらい考えた様子をみせて、



「もふもふしてるから」





答えた


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「もふもふしてるからじゃないんだよ」


いつの間にか月が窓から消えていた。


静かな夜だったから。


小さく響いたその声がえらく僕の耳に残った


僕の毛をなでる彼女の腕は、白くて、柔らかくて、暖かい。
ふとした瞬間手首に見えるその傷は、もう見慣れたものだ



「もふもふしてるからじゃ、ないんだよ」

「……じゅぁチクチクしてるから?」

「それは君なりのボケ?」

「.......分かってたんだけど」

「自惚れ家さんだね」




手を握ることはしなかった
僕の手についている爪は重たくて、するどい。


だから彼女を振り払わないことでしか、彼女の気持ちにこたえることが出来ない。



施設に通ってるからって学校に通えないわけじゃない。
だから気持ちを伝える言葉が分からないわけではない。


誰だって、ある。


「伝えたくても、上手に言葉に出来ない」ことは

だから僕を優しくなでることでしか、僕に気持ちを伝えるこができない。

受け取る側が、上手に受け取ってやらなければいけないんだ。僕のことが好きなのは毛がもふもふしてるからではなくて、もっと他に理由があることを上手にうけとってやらなければいけないんだ。



あの時彼女は誰に向かって「怖くない」と言ったのだろうか?


あの時彼女は誰に向かって「大丈夫だよ」と言ったのだろうか?



僕は、わかっている

彼女は不幸ではないんだ




「いらない子」と施設に預けられても、母親と父親の顔を知らなくても、夜な夜な子供達の世話に明け暮れていても、
サンタの衣装のまま、狼男と遭遇してしまっても。




彼女は不幸ではないんだ




そんな彼女の気持ちを無視して飛び交う同情の声は、カッターという媒体を通して、
彼女の手首を傷つけ続けたのだろう。



不幸という烙印を押された彼女がどれだけ傷ついたが僕には理解できる。




怪物を、恐ろしいモノだと認識したのは、誰だろう?

怪物は、無条件に人を襲うものだと認識したのは、誰だろう?

狼男は、恐ろしいモノだと認識したのは、誰だろう?

狼男は、無条件に人を襲うものだと認識したのは、誰だろう?



この世界でただ一人、彼女だけが、僕を理解してくれている。

この世界でただ一人、僕だけが、彼女を理解している。



僕は天井を見つめるをやめて背中をなでる彼女の方は向いた。

もうじき夜明けだ。体中の毛が抜け落ちて、爪が縮めば、彼女の肌を傷つけることなく、抱きしめることが出来る。


もふもふではなくなってしまうけど。

君と触れ合うのにもうもふもふはもう必要ない。

僕は狼男だ。

満月の夜、月を見ると狼になってしまう。




けどそれだけだ

ただ

それだけなんだ。
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