手口そのA「カム送り」<後> 

2005年05月31日(火) 20時55分
「カム送り」はマスコミに先んじて警察発表と
いうこともあり、俄かに注目された感がある。
たしかに開錠可能な方法には違いないし
実際、鍵屋さんが「鍵を紛失した人の為」に
仕事で用いていた技術でもあった。

警察が新聞で発表したことで、ピッキングと同じ
くらいの「被害」が出ていると思われた方も多か
ったに違いないが、実際はピッキングに比べて
被害件数というのは極めて少数だったと聞いている。

遅れてマスコミが騒ぎ出し、テレビでその手口の
実演などを公開(ぼかしは入っていたが)したことで
「カム送り対策」で今度は忙しくなった。

(カム送り対策部品)

ただカム送りはよほど練習をしないとそうそう簡単に
開けられるものでもないし的(まと)も限られている。
この頃にはすでにメーカーも業者も「次の手はどういう手」
かということを予想しはじめていた。ヒントは「鍵屋さんの
既存技術」。そして熟練した技を必要としないもの。

次の手口が出てきたとき、「やっぱり」と思わされた。
予想した手口が出てきたからである。

手口そのA「カム送り」<前> 

2005年05月29日(日) 11時37分
ピッキングパニックが少し落ち着きを見せ始めた頃、
新聞紙上に新しい手口として「カム送り開錠」を
警察が発表した。鍵屋さんの間で「バイパス開錠」
と呼ばれている解錠方法である。

「カム」とは錠前ケース(扉の中に埋め込まれている本体)
の部品の呼称でシリンダーと連結する部分のことだ。
シリンダーのローズ(可動する傘の部分)を持ち上げて
ドアに空いている取付け穴の隙間から器具を差込み
直接カムを動かして開ける方法を警察は「カム送り」と
命名した。

     

ピッキングと違いどんな錠前にも通用するものでもなく
限られた種類の錠前にしか使えない方法で、新聞にも
その手口を使える錠種の一覧を掲載していた。

<後へ>

オートロックへの過信 

2005年05月28日(土) 20時46分
お客さんと話をしていてよく耳にする言葉が
「うちのマンションはオートロックだから鍵がふたつ
ついてるのと同じでしょ」である。残念ながらそれは
「過信ですよ」と言わざるを得ない。



オートロックが有効なのは、例えば新聞勧誘とか
悪質なセールスマンとかに対してくらいだと
思っておられたほうがいい。「侵入」を目的とした
「プロ」には大した障害にはならないからだ。

もっとはっきりと言ってしまえば、私は十秒以内
でオートロックのマンションの中に入れる。
ということはすなわち泥棒も同じだと思っていい。
機械の仕組みに精通すれば弱点も見えてくる。
ネットで言えばネットの仕組みに精通すれば
ハッキングもできるのと同じ理屈である。

もちろんお断りしておいたことだが、このブログは
そういった「方法」を公開するブログではないし
倫理的にも許されることではないので方法は教えられ
ない。だが言ってることは事実である。

オートロックのあるマンションは一度入ってしまうと
居住者以外の人間が簡単にはいってこれない分
人目につきにくいという側面もある。また、最初の
お客の言葉ではないが「オートロックがあるから」という
安心感が隙を生み出しやすいとも言える。

オートロックは確かに便利である。だが利便性と防犯性
は同時に成り立ちにくい背中合わせの面があるということも
頭の片隅に置いておかれたほうがいい。

実例:ワンドアツーロックの効用C 

2005年05月27日(金) 19時23分
「う・・うちも入られてますぅ・・・・」

その人はドアの前で立ち尽くしていた。
作業を中断して隣の事務所の中を覗くと、やはり同じように
めちゃめちゃに荒らされていた。
声を聞きつけて中にいた警官が出てきた。
「うちも入られてます」その人はもう一度警官に向かって
震えながらそう言った。

「おい こっちもだ。俺はこっちを見る」 もう一人の警官に
そう告げると警官は隣の事務所に入っていった。
そこにまたエレベーターから人が降りてきた。
「何事ですか?」その人が聞いてきた。私が「この部屋と
お隣が泥棒に入られたんです。 お宅はこちらの事務所の
方ですか?」と聞くと「いえ・・私は向こうの事務所ですが・・」
その人は三つ並んだドアの一番奥を示した。
「そうですか、お宅も調べてみてください」そう告げるとその人は
足早にドアのほうに向かった。

「うちは大丈夫だったみたいです」その人がそう告げにきた。
「そうですか よかったですね」私がそう言うとその人は
自分の事務所に戻っていった。

同じビルの同じ階、そしてまったく同じ材質のドア。
ただ一点、泥棒に入られた二つの事務所と違うところがあった。
それは一番奥のドアにだけは鍵が二箇所ついていた。

実例:ワンドアツーロックの効用B 

2005年05月26日(木) 9時35分
賊はなぜドアの鍵に接着剤を詰めていったのか、
それは時間稼ぎをするためなのだ。

その頃は今ほど偽造カードやスキミング(カードの
磁気情報を盗み読むこと)は耳にしなかった。
印鑑と通帳が同じところに入っていれば、それを
銀行の窓口に持っていって引き出す。そのためには
窓口が開いてからお金を下ろす時間が必要になる。
発覚が遅ければ遅いほど事のリスクは少ない。



鍵穴に接着剤を詰めて入室までの時間をかけさせ
発覚を遅らせる手口は私も実際に現場に遭遇したし
そういう手口があちこちで起きているのも聞いていた。

警察がその盗まれた通帳の口座名からお金を引き出そうと
する人間が窓口に来た場合、銀行側に通報をするように
連絡しておけば犯人が捕まる可能性は高いのだ。
(しかしその後犯人が逮捕されたかどうかは聞いていない)

破壊した鍵の交換をしているところに隣の事務所の人が
出勤してきた。私たちの姿を見てその人は「なにかあった
んですか?」と怪訝そうに聞いてきた。「泥棒です」と私が言うと
「ええええ??」と目を見開いた。そして急いで自分の事務所の
ドアの鍵を開けた。そっちの事務所のドアはすぐに開いたが
開けた瞬間その人は「あああ!!」と叫んだ。
     <続く>

実例:ワンドアツーロックの効用A 

2005年05月25日(水) 22時50分


「無傷で開けるのは不可能ではありませんが
時間がかかりすぎます。壊しますよ」
私は客にそう言った。「はい お願いします」
客は戸惑った顔をしながらも承諾した。

さっそく私は破錠(シリンダーを破壊する意)に
移った。やがて鍵は開いた。ドアを開くと案の定
事務所の中はゴミ箱をひっくり返したように
荒らされていた。

「通帳を調べてください」私がそういうと客は
当然開けられているものと思ったのだろう、
経理の机の引き出しを一気に開けようとした。
しかし引き出しの鍵はかかっていた。
「経理の人が来ないと開かないです」
「じゃ開けますから中を確認してください」

私は今度は引き出しの鍵を開けた。中を見ると
やはり通帳と印鑑はすべて無くなっていた。
(またこの手口か・・・・・)私はそう思った。
こういうケースは初めてではなかった。

敵はドアを開けて、引き出しを開けてそして
ご丁寧にまた鍵をかけてさらにドアには接着剤まで
詰めていった。時計を見るとまだ9時前である。
そこへ警官ががやってきた。警官に事情を話すと警官は
無線で所轄に連絡していた。銀行に張り込みを手配
したようだ。   <続く>

実例:ワンドアツーロックの効用@ 

2005年05月24日(火) 11時05分
警察が「ワンドアツーロック」をお題目のように掲げてから久しい。
しかし「ツーロック」が平均的になってきたのはごく最近のような
気がする。「ツーロック」のおかげで助かった事例は多いはずだが
そのことはあまりに喧伝されてこなかったような気がする。
私の体験を話せば次のようなことがあった。



数年前、午前8時30分頃。店の電話が鳴った。声の主は若い男性
だった。「事務所の鍵が開かないんです」「鍵を間違えていることは
ありませんか?」「はい 開かないというより鍵が入っていかないんです」
私はピンとくるものがあって、「すぐに警察にも電話してください、それと
銀行口座も止めてください」と言った。男性は「わかりました」と答えた。

店のすぐそばにあったその事務所は小さなオフィスビルでワンフロア
に小さな事務所が三つはいっていた。さっそく鍵を借りて挿そうとした
が鍵は少しはいっただけでそれ以上は入って行かなかった。
鍵穴に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと瞬間接着剤の溶剤の匂いが鼻を
ついた。 <続く>

ピッキング依頼人A 

2005年05月22日(日) 12時19分
朝方、ご婦人の声で電話があった。

「Iさんの紹介で電話したのですが、実は近所のお友達
 が二日前に最後に電話したときに頭が痛いと言ってて
それ以来電話しても出ないんです。家に行ってもドアに鍵
がかかってるし出かけるなんて言ってなかったし・・・」

私は嫌な予感がしてこう言った。「警察にも電話して来て
もらってください。」ご婦人は「はい わかりました」と
答えた。

私は住所を聞くとさっそく車に乗り込み現場に向かった。
15分後現場に着くと数人の婦人が待っていた。ドアのノブを
回しても確かに鍵がかかっている。念のためにドアを叩いた。
が、反応はない。警察が来るのを待っているとやがて大柄の
お巡りさんがやってきた。



数人の婦人とお巡りさんの注視の中、ピッキングがはじまった。
すぐに鍵は回ったが、ドアを開こうとするとドアチェーンがかかって
いる。ということは確実に中に居ることを物語っていた。
ドアの隙間から友人の女性が大声で呼んだ。だがやはり返答は
なかった。事件性が確定していないかぎり、居住者本人の承諾なく
鍵を壊すこともチェーンを切ることもできない。方法の詳細は省くが
数分後にドアチェーンがはずれた。

お巡りさんが先にはいった。バスルームの照明が点いていた。
そっとドアを開けるお巡りさん、そしてこちらを振り向くとゆっくりと
顔を横にふった。

あとで聞いたところによるとその婦人はくも膜下出血だったらしい。
友人の支払いは辞退したが、どうしても受け取って欲しいというので
やむなく規定の料金をいただいたが後味悪い仕事になった。

ピッキング依頼人@ 

2005年05月21日(土) 20時35分
7年程前のある日の午後、焦った感じの声で電話があった。

「もしもしあの鍵を開けてください」「どうしました?鍵を落とされた
んですか?」「いいえ、中に居るはずの人間と連絡が取れないんです」
話によると電話をかけてきた男性は依頼された部屋の住人の親戚
ということだった。バイクを飛ばしても5〜6分ほどのそのマンションに
ついてみると、男性が三人待っていた。一人は電話の主、もうひとりは
そのマンションの管理人、そしてもうひとりは制服の警官だった。
管理人の話ではここ3日ほど姿を見ていないという。



さっそくピッキングを開始、数分後にはそのドアは開いた。
中に飛び込む依頼者、そしてその後を警官が続く。
幸いにも住人は生きていた。具合が悪く動くこともままならなかった
らしい。すぐに救急車が呼ばれた。
あと一日過ぎていたらどうなっていただろう。

「本当にありがとうございました」 深々と頭を下げる依頼者。
こちらは仕事でやっていることなのだが、「助かりました」という
言葉はやはり嬉しい。

この一連の動きの中で、ピッキングで開けられる鍵は消えつつある。
ピッキングできなければ壊せばいいことなのだが、壊すことすら
困難にされたシリンダーが主流になりつつある。

防犯強化は知らず知らず緊急時のリスクをも増している。

ピッキング蔓延 

2005年05月20日(金) 22時01分
前にも書いた通り、そもそも「ピッキング」という技術は「カギ屋さんの特殊技能」です。いわば「門外不出の技」という暗黙のルールがあったように思います。「カギを紛失した人の為に開ける」技術は悪用すれば「泥棒に入る手口」に変わります。まさしく両刃の剣の技と言えるでしょう。しかしどう使うかはその人の道徳観、資質に委ねられていたのも事実です。しかし残念ながらその技は「悪意の外部」に流出し蔓延を呼び起こしてしまいました。



日本の最大手のメーカーM社のディスクシリンダー(通称ニーヨンパー<スペアキーのNOがH248からそう呼ぶ)が主なターゲットにされました。お客さんの中には「欠陥商品だったんじゃないか?」と仰る方が多くいらっしゃいましたが、私は決してそうは思っていません。M社のディスクシリンダーは耐久性(潮風にさらされる環境でも開かなくなることがなかった)に優れ、量産品である為価格もリーズナブルでした。事実、桜田門の警視庁の新庁舎建設の際はこの鍵が採用されたと聞いています。当時はほとんどの人が「ピッキングの蔓延」など予測していなかったでしょう。

圧倒的なシェアを誇ったこの鍵は市場に出回っている数(鍵違いは約8000万通り、そのほとんどが市場に送り出された)の多さがかえって仇になり「M社のディスクを開けられるようになれば入り放題」と狙い撃ちされた感は否定できません。(ほかにもっとピッキングで簡単に開けられるものは存在しますが出回ってる比率が少ない)

最早、ピッキングの蔓延を止めることはできません。ならば「ピッキングできない鍵=値段は高くなる」に取り替えるしかない・・・というのがことの始まりでした。