陸遜あまーっ! 

December 09 [Tue], 2008, 23:05
「陸遜、さむい!」

けたたましい音をあげながら私の部屋の戸を開ける。すると少女はずかずかと私の前に来た。

「貴女が寒いのと私に何か関係があるのでしょうか。」

そりゃあ、布団で暖めてあげることもできますが。いきなりそんな思考にとぼうものなら確実に怒られる。

「いや、実はさむいのは特に関係ないんだー。ただ言っただけ。」
とぼけた調子で彼女は笑いながら後ろ手に持っていた竹簡を私の前に広げて見せた。


「……はあ、なんなんですか?」
彼女といると調子が狂う。

「えっとね、お勉強してたんだけど…」

しかしその心地よい狂い方に酔っているのは百も承知だ。

「ここわかんない、教えて?」

そういって、ある地形が描かれた竹簡を指差す。

「ああ、ここですか…貴女がもし伏兵をおくならどこにおきますか?」

「うぅーん…」

そう唸って彼女の細い指が竹簡の上をさ迷う。
細い道、十字路、獣道、山の茂み、

「ここと…ここかな?」

その指は開けた場所と山の中に止まった。

「できれば殿と前を分断させたいなあ…」

「でもそこじゃあ…」

そういって私も指を動かす。するとふと彼女の手に当たった。
うわ、冷たい。

「あ、陸遜の手、あったかい…」

彼女も同じようなことを思ってたのか、と彼女を見てみると、
幸せそうに目を細めて笑っているものだから。

「ふぁっ、陸遜!」

「あったかいでしょう?」

そう笑いかけながら首筋に手をやる。ぴくん、と肩が跳ねたけどすぐにまた気持ち良さそうに目を細めた。
その顔に調子にのって次は顔を近づけ、深く口づける。

「っん、…ふ、」

ちらりと盗み見すると、なんとも言えない恍惚に耽る顔。
気付かれないように腰にあてていた手を下に滑らせた。

「っ、りくそっ…!だ、め!」


ゴッ
鈍い音がしたと思ったら頭が揺れた。彼女の右手が固く握られている。


「いっ、今そんなことしたら、頭の中全部とんじゃう、からっ、だめ!」

赤い顔で、息を切らして、
頭の中全部飛んじゃうだなんて…


「いつもそんなに気持ち良かったんですね」

「わっ!ばか!私のばか!」


顔は更に赤くなって、今にも泣きそうな顔。

「良いですよ、じゃあ全部教えてからにしましょう」

「うっ…とりあえずお願いします」

いつまでたっても変わらない私の可愛い恋人です。

電車通学 

November 25 [Tue], 2008, 2:23
こてん、と肩に重みが加わった。
横を見ると彼女が頭をかしげている。
髪がかぶさって顔は見えないんだけど規則正しい寝息と、軽やかなリズムで胸が上下する。
オレと触れている場所がじんわりと暖かくなる。

ああ、なんだこの美味しい状況!



朝、オレが電車を乗り込むと眠り込んでる彼女が見えたから、これ幸いと何食わぬ顔をして隣に座ってみたんだ。
そりゃあ、こっちに倒れてこないかな、って言う下心があったんだけど…
本当に倒れてくると緊張する…

起こした方が良いのかな、
でもぱって離れられちゃうのもさみしいっつーか、せっかくなのにっつーか…


「…ん、んーッ…」

あ、起きちゃった。

「…あっ、ごめんなさい」

そう呟いてゆっくりと体をもとに戻す。
まだなんとなく夢の中な様子で、
ぱちぱちと瞬きを繰り返してた。

(うわあ、眠そう。)

なんてじーっと見てたら、彼女が不意にオレの方を見るからしっかり目が合ってしまった。

「…お、おはよう…」

取り敢えずそう声をかけると、彼女はふんわりと笑う。


「やっぱり、栄口くんの匂いだと思ったもん。」


ああ、起きてくれて良かった!

文化祭 

November 03 [Mon], 2008, 10:41
袴を着て、髪は上であげてちょんまげ。
そして竹刀(本人いわく竹光と言うらしい)を腰にぶら下げている野球部マネの女子は


「9組劇やりまーす!来てくださーい!!」


どうやら時代劇をやるらしい。


【文化祭】


「おー、7組達じゃん!あ、劇来て下さい劇!」


そんな彼女とうっかり目があってしまった。
水谷は目をキラキラとしてるが、阿部は明らかに面倒くさそうな顔をしている。

「わー、わー、すっげー!お侍じゃん!」

「おーよ、かっこ良いだろう。」


そういって鞘から竹光を抜き出してみせる。
ぶん、と上に構えると、そのまま水谷の肩寸前に振り下ろした。


「ーーっ!!こっえー!!」

「つーか、もしかしてお前主役なの?」

「はは、おうよ!なんか時代劇って決まったと同時に私の主役が決定していた」

「歴史オタクが認めて貰えて良かったんじゃねェの?」

「黙れ阿部」

水谷の肩にあった剣先がすぐ阿部の目と鼻の先にうつされた。

「見に来るよね?」



そんなこんなでオレたちは9組の劇を見に行くはめになった……が、オレはくじ運が悪いことをつくづく思い知らされた。







さて、劇の説明をしておこう。
どうやらマネジは雇われた用心棒侍で、田島は盗みに入った…落ちぶれた侍(なんか使えてた家が潰れてどーの)で
オレが、

「花井じゃん!はーなーい、ちょっと劇上がって!」

「はぁ!?なんでだよ!」

「いーいーかーら!」

「たっく……うわあッ!?」

「こいつの命はオレが預かった!殺されたくなければ刀をおけ!」

…人質らしい。


「…ッ!卑怯だぞ貴様!」

「ほら、早くおけ!花井んこと斬るぞ!」

あー、なんつう面倒な…。
しかしこいつらはもう劇の役者だ。オレの話なんて聞いちゃくれねぇ。

「与一様ッ!もう、刀を置いてくださいまし!」

与一?ああ、マネジの役名か。
そんな与一は刀を鞘に戻し、両手を上にあげる。
ん、終わりか?

「上出来だ。そんじゃこいつの命だけは…」

田島が半分棒読み具合にセリフを言う……
と、その時だった。
たん、と小さい音が聞こえると同時に田島に後ろに追いやられ
飛んだ。
下には与一もといマネジの足。と、いうか蹴り。
って…

「はぁああぁあ!?」

「少年、私の方へ!」

そういってマネジが俺の方に手を伸ばす。
少年ってオレか!

「お、おう!」

「させるか!」

ひゅん、と耳元で風を斬る音がしたと思うと次にはがんっと思い音がした。

薙いだ田島の竹光をマネジが鞘で受けたのだ。
オレに差しのべたはずの手を一度戻し、鞘から竹光を抜く。

「少年、下がっててね!」

とん、とオレを押して田島の方へと踏み込む。
鍔迫り合いになるも薙ぎ払い、更に竹光を振り下ろした。
これ、まじでやってねぇか?
竹光つったって、当たればいてぇぞ!

こっそりマネジに近づいて耳に口を寄せる。

「おい、一応言っとくけど田島に怪我はさせねぇようにな!」

「ふぁ!?」

そう耳打ちすると、びくっとマネジの体が跳ねてかくっと足が折れた。
その隙に田島が竹光を飛ばす。

マネジは舞台奥の方に飛んでいった竹光を真っ赤な顔で口をパクパクとさせ見つめていた。

なんとも言えない微妙な空気が流れる。

「はっ」

「花井くんは何をするんだ!盗人の手に渡りたいのか!」

「そうだぞ!花井はオレのものになりたいのか!」

でもマネジがなんとか機転を利かせて劇を本筋に戻すことができた。
って

「田島お前んな変な言い方すんな!!」

水谷と阿部が笑ってやがる!
そうなると回りの観客もどっと笑った。

「てな訳で花井はオレのな!」

くいっと田島に腕をひかれて右舞台の方へ連れ込まれる。

「このっ盗人めー!!」

マネジの叫び声だけが後ろから聞こえた。

舞台裏は暗くなってて、そこに泉もいた。

「おす、花井、田島、お疲れー」

「あ、なあ泉、オレ田島の方に来ちゃったんだけどいいのか?」

「あー、おっけおっけ。台本でも田島が勝つから。」

ふい、と舞台の方を見るとマネジがもう一芝居していた。
今はもう町に舞台が移ってるらしく、田島の行方をおっている。

「てゆーかさー!」

ふいに田島がオレの肩に手をおいた。

「あいつ耳弱いんだなー!すげー顔真っ赤だったじゃん!」

「あー…」

泉が微妙に濁しながら同意。

「あー…」

ああ、マネジ、ごめん。

「ちょー可愛い!オレもふーってやりてーっ!」

 

 

 

 

そして劇の終盤、
マネジが田島と戦い勝って、オレがマネジの手に戻った瞬間。

オレもマネジに倒された。
(しかも台本外)

観客のあっけからんとした顔を引き連れてマネジは舞台袖にひっこみ、劇は幕を閉じた。

阿部くんと友情を育んでみた 

October 20 [Mon], 2008, 23:05
我がクラスの日直は、男子は前から、女子は後ろから出席番号順。
だからってなぜ…なぜ阿部くんと…!




「ちょっとちょっと阿部くん、君が手に持つべきものはそこにある鉛筆じゃなくて黒板消しですよ、おいてめー。」

「っせーよオレは今宿題やってんだよ」

「知らねーよてめーも日直だろうが!」

阿部くんとは同じ中学て、それなりによく喋っていたんだ
…んだけど、
私はいつの間にか女子でただ一人阿部くんに口答えができる奴になっていたとは。

「うら、こーくばーん!」

「ちっ、水谷にやらせろ」

野球部が忙しいのは知っているが…水谷くんだって野球部じゃんか!

「…はあ、もー…まあそうね、水谷くんのが身長高いから、その方が楽かもねー……ちび」

「はぁ!?…て、ちげ、んな安い挑発にのっかよ!はいはい行った行った」

「うぃー」


まったくもって自己中な男だ!
日直はこれで三度目だけど、毎回こんな感じ。
頼むとにへら、と笑って手伝ってくれる水谷くんとは本当に大違い。
我関せず、唯我独尊、じゃ●あんめ!

そんで水谷くんと黒板を消していると、前のドアから地学の先生が顔をだした。

「日直さーん、次化石使うので取りに来てくださーい」

「あ、はーい!」

化石かあ、重たいかな?
でも阿部くんに頼むのめんどくさいや。

「あ、オレ手伝う?」

「ううん、大丈夫!」

しまった!
いつもの猫かぶりでつい…
ていうか水谷くんは優しいから、あんま頼みたくないないんだよう…利用してるみたいなんだもん。

「気を付けてねー」

「はーい!」

でもあんな笑顔で送り出してくれたんだし、まあ、がんばりますか。
重たいって言っても…持てる、がんばれ私!
地学室は向こうの棟の2階。
古くさいにおいがする扉をからからと開ける、と


「お前おせーよ」

「うを阿部くんなんでいんの!?お前宿題やってたじゃんか!」

うわ、超不機嫌そうな顔。
阿部くんは先生からすでに受け取ったのであろう化石の箱を、なにやら仕訳している。

「終わった。それよりほら、これお前の分。」

そう言って仕訳が終わった箱を一つ机においてけぼりに、自分はさっさと地学室を引き上げようとする。

「あ、阿部くん待った!一緒に行く!」

だからあわてて箱を持って阿部くんの方へと走りよった。

「て、あれ?阿部くんの化石多いじゃん、少し持つからちょーだい」

「あぁ!?」

「ひぁっ!んな睨まねーでも良いじゃん!まったく君は…びっくりしたなあ」

「るせー」

そう言うと、ぷい、と顔をそらしてしまった。
今のうちに、と阿部くんの箱の中から少し大きい化石をちょこちょこより分けてみる。
片手で箱を支えてると、体ちょっとぐらっとした。

「あぶねっ、だから、オレが持つから良いって!」

「だって重そうじゃんかー!」

「お前はそう言っても、中学の時からよく転んでたじゃねーか!」

「はあ?」

「3年の体育ん時もお前ボール持ちながら歩いてて転んでたろ!」

いや、まあ、確かに転びましたが…阿部さん?

「あんときだって転んだだろ、ゴミ捨てん時!」

「お前国語で辞書抱えてた時もじゃねーか!」

「つかお前重たいの無理して持つなよ!中学ん日直の時だって美術の木ぃいっぱい持っててこけただろ!」

あれはコケたんだけど木に躓いたから不可抗力だ!
ってゆかなんか阿部くん暴走してないか…?

「あ、阿部さーん?」

「ああ、そうだ、だからオレが運ぶっていってんの」

「いや、うん、ありがとう。で、なんでそんな覚えてんの?」

「はあ?」

「てゆかなんでそんな事細かに覚えてんの?」

君はどんだけ私のこと見てんだよ!
って言ってみたかったけどそこはこらえて…じっと言葉を待ってみると、阿部くんはあっけからんとした顔のまま

「はあ?んなもんずっと見てたんだから覚えてるだろ」

まさかのカウンター。
ずっと見てた?なんで?なんのために?

「…え、今のって爆弾?」

そう聞いてみれば阿部の眉間のシワはますます深くなって、より不機嫌な顔になった。

「あ?爆弾?」

「…本人気付いてないんだから不発弾か。」

「おい、意味わかんねー」

「ううん、こっちの話」


(無自覚の恋)
(意識下の友情)


「阿部くん、」

「あ?」

「ありがと」

「おー」

「今度なんか奢ってやるよ」

「…おー。じゃあ明日部活終わったらメールすっから中学ん前のコンビニな。」

「いやいやなんでそんなに奢らせたいんだよ!成り行きで機会があっときで良いじゃんかよ!」

「んなもんお前忘れっかもしんねーだろ?ちゃんと来いよ」

「さもありなん!…はぁ、お手柔らかに頼むよ」

「おーす」

栄口くんとお勉強会 

October 19 [Sun], 2008, 20:08
「ブッタは悟りを開いた人って意味なんだよ、ちなみにその一歩手前は菩薩なの。」

「あ、聞いたことある!」

「ほんと?クシャーナ朝のカニシカ王のとき、大乗仏教ができたの。その時のやつなんだ。」

「そんなのあったっけ…?」

「もー、世界史に寝るのは許さないんだからね、栄口くん!」

「寝てはないんだけどなあ…」


【お勉強会】


「さて、と。世界史終わり!古典教えてー!」

ふう、と息をついて、オレの方にばっ、と手を開いてきた。

テスト前の部活休みで、そんでもって明日の教科は世界史と古典。
これは利害の一致だ!と世界史が得意な彼女と、古典が少しはできるオレでお勉強会が開始した。

まさかの彼女の部屋でふたりっきり。
さっきまでは彼女のお母さんがいたけど、今は買い物に行ったらしい。
彼女の部屋は何もかもが可愛くって
棚に飾ってある外国の絵本とか、
レースのついたカーテンとか、
鞄や、かけてある私服。
どれもこれもが本当に可愛い。
だからオレはそわそわしちゃうんだけど、彼女はそんなの関心ないらしい。
ぱらぱらと古典のノートを開いて、どこ訊こうかな、と呟いてる。

壁にかかった、ピンクのワンピースと、黒いコート。
彼女って学校だと制服来てくるから、私服見えるって珍しい機会だよなー。

「…栄口くん?」

「うあ、ごめん!えっと、どこ?」

「んー、ここ、ここ教えて?」

「うん、えっとね」

そう言って差し出してきたノートに視線を戻す。
あー、これはかかり結びだ。こその時だけ結びは已然形になるんだよなあ。

「栄口くん、栄口くん、」

「うん?」

名前を呼ばれて彼女の方を見れば、目があった途端に視線をはずした。
少しだけ、顔が赤い。
なんで?なんかオレした!?

「あんまり、見ないでほしいな、部屋の中」

「え、あ、ごめん!」

「あ、いや、悪いことじゃないん、だ、けど!」

反らした目線を、またオレに合わせて、

「なんか男の子に見られるの、恥ずかしいの、…です。」

なんて真っ赤な顔のまま言う。
親はいなくて、彼女の部屋の中で二人きり、
そんでもってオレのこと、男子って意識してて……

これは、これは!
もしかして、チャンス?

「オ、オレッ、君のこと…」

「あーもう、栄口くんはお友達だから良いけど、他の子だったらすっごく緊張しそう!」


(越えたい一線)
(聳える防壁)


「ん?なんか言ってた?」

「な、なんでもないよ…」


がんばれオレ!

泉くんに勘づかれてみた 

October 14 [Tue], 2008, 1:10
栄口が同じクラスの美術部の女子に誕生日プレゼント、って買った英数字スタンプ。
んで、オレの目の前で田島たちと話してる、1組で美術部の女子。



これは……もしや?


【甘口美術部員と辛口野球部員】


まず初めは情報収集。
美術部は1年は3人しかいないらしく、
1組に一人、5組に二人らしい。
て、すでにビンゴじゃん!

ついでに聞いた話では、2年は5人、3年は6月の展覧会で引退。
少ない人数の中で、あいつはかなり絵がうまい…らしい。
製作意欲もあるからと、先生が誉めてるそうだ。

5組の奴らとは話をするくらいには仲が良いが、
同じクラス仲良し二人組、なそいつらに若干気を使ってるらしい。



ちなみに全部巣山…を通しての本人情報だったりする。


「…よし、田島と三橋ちょっと先着替えてきてくんね?」

案の定田島はこっちを見てぽかんとする。

「へぇ?何で?」

「いや、ちょっと確認」

軽く言葉を濁すと、田島は少し眉をしかめた。

「ふぅん…まあいいや!またあとでなー!ほら、三橋行くぞ!」

「う、うん。ばい、ばい!」

「んーばいばーい!」

そういってぱたぱと走っていくのを見終わってから、話を振る。


「…なあ、お前って栄口と仲良い?」

不意の質問。オレが気付いてるって知ってか知らないでか顔を一瞬で赤らめる。

「はぁ!?え、いや、なんでいきなり!?」

「いーや?で仲良いの?」

やっべー顔にやける。

「ふぇ?なんか泉くん顔がやらしいですよ?」

「で?」

「うー…仲は、良い、よ!なんで?」

よし、言わせた!
あー、オレってSだよなあ、絶対。


「そーだよなあ、プレゼント貰う仲だもんなあ」

そういってにっこり笑うオレをよそにもっと真っ赤になる顔。

「い、ずみくん!?」

「どんなプレゼントだったかオレに教えて?」

「ちょっ君は何を知ってるんですか!?」

「ただ訊いてるだけだけど?あ、嘘吐くなよー」

あー、うー、そう呟きながら手をうろうろさせる。
そしたら人差し指で四角を作った。

「ス、タンプ…」

「へぇ、どんな?」

「どっどんな!?」

またさっきより赤くなる。
目を泳がせて、また手をうろうろさせている。
それがなんかすげー気持ち良い!


「普通の英語のスタンプ…」

「ふ つ う の ?」

「…!!」

あーもう、にやにやとまんねえ。

「ちゃんと並んだ英数字スタンプ?」

「な、らんでた、よ」

もうオレと目を合わせない。

「嘘吐くなよ?てかお前、嘘吐いても顔で分かるんだよ。」

にっこりと笑顔で脅すと、うっとどもりながらオレの方をちらりと見て
また目を逸らす。


「……順番ちょっと違った。」

「へー、なんて?」

「うぅ、もうやだあ!てゆか泉くん全部知ってんじゃないの!?」

「何かはしらねー」

「やー、うー、……」

じっと次の言葉を待つ。
遂に完全に下を向いているけど耳が真っ赤。



「…君が、好きだよ、を英語で…どう、ぞ」


「つーかオレ全部知ってたけどな」

「ちょっ、はぁああぁあ!?なにそれ!!?」

「だってオレそれ買ったとき一緒ににいたし」

「そんなの聞いてないよーッ!!」

ついには真っ赤な顔のままオレの背中をぼかぼかとぐーで殴ってくる。
あ、結構いてぇ。
オレんことバカバカ言ってまだ殴り続けられると…
兄貴とケンカばかりの弟の身分としては、
反射的に殴る寸前の手首を掴んでそのまま勢いでフェイスに体を押し付けた……て、やべぇ!

「うわ、わり、女子なの忘れ…」

「泉何してんだよ!!?て、うわあ!?」


走ってくる栄口の顔を、きっと睨んだ顔とフェンス越しに見た瞬間…

がっ

「い!?」

と脛に鈍い痛み。
見れば黒いニーソックスをはいた細い足が、見事なローキックをきめていた。

「ゆーとくん!!」

うずくまるオレをよそにその加害者はすぐに栄口の方を向く。
けど、栄口は状況が飲み込めないようで口を開けてぽかんとしていた。

「ねぇ泉くんに全部バレてたー!!」

「…え?」

「スタンプのこと全部ーっ!私逐一説明させられたんだよ!?恥ずかしかったぁあ!!」

「え、あ、ごめんね、えっと…泉大丈夫?」

「なんとか…」

実はすっげーいたくてうずくまってた。
張本人はここでやっとオレへのローキックを思い出したらしく、ごめんね!と同じようにしゃがんだ。

「実は私も…お兄ちゃんいるからさあ、ケンカの反射で……てへ☆」

「お前なあ…」

道理で慣れてると言うか弁慶の泣き所をピンポイントでと言うか…
つか、そういえばさっき…

「お前栄口のことゆーとくんって言った?」

「「あ」」

「じゃやっぱり付き合ってんだ。」

そういうと二人揃って顔を赤くして口を開けてる。
それがおかしくて思わずふいてしまった。

「うわあ、ごめん栄口くん!ついいきなり過ぎて癖で…!!」

「いいよ、泉には絶対バレると思ったからさ…」

「ごめんねーッ!」

別に良いよ、そういって栄口が笑うと
ありがとう、ってあいつも笑った。


(あぁ、なんかこいつらお似合いじゃん。)



「水谷も気付くかな?」

「あいつは無理だな。」

「え!?水谷くんもいたの!?」

「てゆかあの方法考えたの水谷だし」

「まじですか!どうりでなにやら乙女チックだと…あ!」

「「…」」

美術部のことらーぜ(栄口くん) 

October 06 [Mon], 2008, 23:50
長くて、ふわふわしてる茶色の髪。
いつもはおろしたまんまなのに、今は上できゅっと結わえてる。
同じようにエプロンの紐も後ろできゅっと結んで、
彼女は野球グランドのとなりで絵を描く。


【絵描き少女と絶賛青春中少年たち】



「なーあ、今日も飴ちょーだい!」

「オ、オレに、も…!」

「もー、部活前には食べ終わるんだよ、はい!」

「つかお前来んの早くね?」

「1組終んの早いんだって。栄口くんと巣山くんも来てるよー。ん、泉くんにもあげる」

「さんきゅ」



かれこれ彼女が野球グランドの隣に居座ってから2ヶ月近くたった。
今では正式に場所をもらえたらしく、
ブルペンの横のフェイスを越えたところには小さい犬小屋(自作)が建っていて
前まではオレらの部室に置いておいたものは全部引っ越した。

それでもって巣山とオレは元から知り合いだし、阿部がちょこちょこ喋るところからブルペンに上がる捕手コンビ、投手トリオを中心に持ち前の人懐っこさで野球部たちと仲良くなっていた。


「うーら、9組早く着替えてこーい!」

そんなやつらにフェイス越しから声をかける。

「ふらね、来てるって言ったじゃん」

「おー、ほんろだ!わりぃ、今はらっ、…ん、着替える!」

また飴貰ってんのか。
田島たちは毎日もらってるよなぁ。

「じゃねー、部活頑張ってねー!」

「おー!」
「おーう」
「うっ、うん!」

そう言って手を振る彼女に応えながら9組は着替えに行った。


「…ごめんね、あいつら邪魔した?」

「んーん、べつにだよ?あ、栄口くんと巣山くんには飴あげないから。部活前だもん。」

「や、それは別に良いよ…。」

「すぐ噛むからくれ。」

「て、巣山あ!」

「はは、頑張れ!はい、あげる!」

袋から飴を一つ取りだし、にっこりと笑って金網ごしに飴を渡す。
巣山の手に飴が渡ると、えへへ、と声を出してもう一度笑った。
なんか和むなあ。
オレがその笑顔をずっと見てると、ふいに目があって、とぼけたような顔をした。


「ん?栄口くんには帰りにあげるね」

「…帰り?」

彼女が帰るのは大体日が落ちる5時から6時。
オレたちが終るのは夜の8時から9時くらい。
…あれ?

「帰りになんでいんの?」

「あれ?聞いてない?今日千代ちゃん休みだから、おにぎりと飲み物は私がやるの。」

「……えぇええぇ!?」

「みんなのかーっこいい部活姿、いっぱい観察しちゃうぜ!」


これは、これはひょっとして…


「え、今日しのーか休みなの?」

「つーかお前にできんのかよ、お前超ドジじゃん!」

「あ、お帰り9組さん。てゆか泉くん失礼じゃん!」

「ほんとのことだろー」

「違うって巣山くん!回りの人が機敏過ぎて私がドジに見えるだけだよ!」

「何それ意味わっかんねー!!」

「もー、このやろう!」

彼女のまわりに笑い声がからからと響く。
ほらー、みんなすっごく楽しそうじゃん!
どうしよう、これはどうしよう!


「おまえら部活はじめっぞー!」

遠くで花井が呼ぶ声。

「おー!」

みんながとことこと駆け出していく。
うぅ、オレ、頑張んなきゃなあ…
ちょっと気が重くなったら後ろでオレの名前が呼ばれた。

「な、何?」

「栄口くん、栄口くん」

金網に顔を寄せて、同じように寄せたオレの耳にこっそりと喋る。
息が、息がくすぐったい!

「栄口くんにね、もういっこお菓子あるの。」


(お菓子いっこ分の彼氏)


「栄口くんのために、手作り!だから皆にはないしょ」


実はオレたち、…付き合ってます。
なんか、困難な道になりそうだけどさあ…ッ!




――――――――――

阿部くんのお話と、
スタンプ栄口くんのお話と繋がってます。
シリーズ化しちゃった!笑
多分これからもちょこちょこ書く…のかな?

栄口くんに告白してみた。 

September 29 [Mon], 2008, 0:35
「そういえば私ね、恋愛の延長上に結婚があると思ってたの。」

ふいに、ぽつりと言った。
それまで話していた漫画のことなど全部忘れてしまったのか、本当に唐突だった。
でもまだ目線はその漫画にあるから、多分忘れてはないのだろう。

「だからなんかね、結婚と恋愛は別ーっていう人を見てね、すっげびっくりした。」

「まあ、でもそれは人それぞれだからねぇ」

ですよね、そう言って少し笑う。

「じゃあさ、」

すると急に目線をオレに移した。


「栄口くんは?」

「へ?オレ?―オレは…」

うーん、どうだろう?
考えたことなかった……
顎に手をあて、うつむいて考えていると
ふいに影が落ちた。
見るとオレはなぜか指を突きつけられてる。


「では栄口くん、私は栄口くんが旦那さんだったら幸せだろうに、と思うのですが、
これは恋愛感情じゃないのでしょうか?」





「…え!?」

「違うの?」

ニヤつくわけでも、怒ってるわけでもなく、
ただあっけからんとした顔でオレのことを見つめてくる。
つーかむしろニヤけてんのはオレか!?


「そッ、」

「そ?」

「それ、は…恋愛感情、です…!」


意を決してそう言ってみれば、
恥ずかしそうに笑う君の笑顔。


「だったら、栄口くん、君が好きです。」




――――――――――――

あれだ、結婚が恋愛感情じゃなければ
離婚なんて、無くなるんじゃないか。

かといえ私には、利益のために人と一緒になるなんてまるで遠い国の王室事情のように思えたんだよ。

栄口くんは、きっと両親仲良さそうだなあ…
だから結婚はそういうものだと信じてるに違いない。

出張の行きと帰りにお母さんの仏壇に手を合わせるお父さんを見て
仲の良かった二人に思いを馳せるんだろうな。

カオス栄口くん夢。癒されたい! 

September 21 [Sun], 2008, 0:37
「ココア飲みたい。」

そういうと彼女は

「私、コンビニまで戻る。」

「はあ!?おま、こんな暗いんだぞ!?」

「うん、でも飲みたいから。一人で大丈夫だよ、私のわがままだもん。だからばいばい、おやすみなさい!」

一人自転車で、暗闇の中帰路を引き返した。


【安定剤】


「あいつって…あんなだったか?」

「あ?前から変なやつだったろ。…まあ、確かにこんなに我は強くなかったけどな」

花井と阿部が、その小さくなってく影を目で追いながら言った。
泉と沖も不思議そうにしている。

(ココア…)

ふと巣山を見ると、巣山もオレの方を見てた。

「あいつのココア飲みたい、ってよくあるよな。」

「うん、オレもそう思う。」

どうやら巣山も同じことを考えていたらしい。
するとひょい、と泉が話に入ってきた。


「そなの?オレ聞いたことねぇけど」

「割りと聞くよね」

「そーそ、いきなりすっげ静かに言い始めるんだよ。無表情で。」

「はあ?何それ」


うん、本当にそう言うんだ。すっごく静かな顔で、どこか解らないところを見て ココア飲みたい と。

「すっごくもしかしてなんだけど……ココア飲みながら泣いてそうな気がする。」

オレは本当に何となくだけどそう思った。

「はぁあ!?まさかだろ!?」

泉がすごい否定してる、けど、あの子は人前では泣かない子なんだよな。

「オレ、ついてってみる。」

「オレも行くか?」

「オレ一人で大丈夫だよ。」

まじかよーッって未だ叫んでる泉を横に巣山は頑張れよ、って言っていた。
どうやら巣山も同じようなことを考えてたらしい。


「行ってくる。また明日なー」


と、言うわけでオレも帰路を引き返し始めた。









「あれ、栄口くんだ。」

学校近くのコンビニで彼女を見つけた。
手にはココアの紙パックが2つある。

「部室に忘れ物?一緒取り行こうか?」

そういってにこにこと話しかけてきた。
あれ?オレの思い違いか?
いつもの彼女の笑顔だ。


「ううん、オレも何か飲みてぇなあ、って思って…」

「あ、そうなんだ。大変だねぇ……栄口くんもココア飲む?」

そういってオレに手に持っていたココアを一つ差し出す。
泣きそう、って思ったのが嘘みたいだ。

「じゃあ、オレももらう、ありがと」

そう言って差し出されたココアを受けとる。
彼女は残りの一つをレジへと持っていった。

「で、これからどうすんの?」

ごく普通の質問をしたはずなのに、
彼女は少しだけ困った顔をして笑った。

「えー…どっかで座って飲んでから家に帰るの。遅くなるから、栄口くんはばいばいした方が良いかも。」

あからさまな拒絶だ。
彼女にもこういうことがあるんだあ。
と言うか、これは、もしかして

「一人じゃ危ないし、オレも一緒して良いかな?」


「んー……ごめんね、ありがと」



とことこ、とことこと歩く彼女の後ろをついてって、近くの駐車場のブロックに腰かけてココアを飲んだ。

「…あつい……あったかい…」

「大丈夫?猫舌?」

「猫舌だけどココアはそれが心地良いのだ。」

やっぱり、なんか雰囲気が違う。
なんだろう、ココアにすごい集中してる…?オレのことなんかいないみたい。
彼女の世界に、入れない。




「さ、…かえぐちくん…」

「うぇ!?え、何!?」

いきなり小さく、戸惑いがちに名前を呼ばれた。
ごめんね、困った顔でそう言う。


「これはね、私の安定剤なの」


ココアを両手を暖めるように持った。そんなココアを大事そうに見つめている。

「安定…剤?」

「ん、ちょっと参っちゃうことがあるとね、ココア飲むと落ち着くの。」

「…何かあったの?オレでよければ聞くよ?」

「うーん、ちょっと参っただけだよ。」

そういって目を伏せて笑って言った。

「うん、参っただけ。」

まるで自分に言い聞かすように小さく呟いている。
そしたら、伏せてる目が…あわわ、な、泣いてる!?
どうしよう!?
どうせれば良いんだろ!?


「栄口、くん?」


気付いたらオレは彼女の手を両手で握っていた。
ココアを持っていたからか、あったかい。


「…部活んときみたいに、元気とか、暖かさ、分けてあげようと思ったんだけどさ、オ、オレの方が冷たいから…どうしよう…」

何も考えないで一気に喋っちゃったからよく解んないこと言っちゃった。
どうしよう、この手…
とか思ってたら、ふわり、と暖かみが増した。
見れば、彼女も両手で握り返してきた。

その上に、ぽたりと雫が落ちる。


「ごめん、栄口くんの手が、あったくなるまでで良いから、このままでいさせて…」


小さな子供みたいに震えて、オレの手を握ったまま口許に持っていった。その上にぽろぽろ涙が落ちる。
じわりと、滲んでくる熱。



「…いつでも貸すよ?オレの手くらい、さ」

「ココアより、あったかい?」

「それは無理かなあ。オレ結構手ぇ冷たいんだよねー」

もうオレの手は暖かくなって彼女の手は躊躇いがちに離された。
涙に濡れた目が、じっとオレの手を見たあと、目線をオレ自身へと写した。
小さく、唇が開く。


「でも栄口くんの手の温度、気持ち良かった。


…ありがとう」

そして、ぱっと笑った。



「帰ろうか、帰れる?」

「うん、帰れる!危ないから送ってくよ」

「それオレのセリフじゃ…」

「マネより選手の身体優先!」

「女子なんだからさあ、オレが送るよ」

「えへへ、じゃあ途中まで一緒に帰ろう」



その日から、彼女の(ココア飲みたい)が
(栄口くんに会いたい)
になった……らしい。(巣山談)
『栄口だって満更じゃねぇんだろ?』




まあ、確かに

「栄口くん、おてて貸してー!」


そう言ってオレの方に来る彼女を見るのが、
嬉しくて、嬉しくて
たまらないんだ。

バースデーネタ泉甘いの? 

September 18 [Thu], 2008, 23:49
『泉くん、今日は何の日か知ってるかい?』

「……体育祭だろ?つかもう終わってんじゃん!」

『うん、まあそうなんだけどね。』


もう一日が終わる23:35にいきなり電話が来た…と思ったら話の核心が見えねぇ!
いつもと同じ声のトーンだから、怒ってんのか喜んでんのかもわかんねーし。


『ちなみに言うと、9組は誰も覚えていませんでした。』

「は?」

『そんでもって栄口くんはあざみの花を一本くれました。』

「…なんで栄口が?」

栄口が贈り物?
まさかこいつら付き合ってんの?

『んー…巣山くんはお歌を歌ってくれました。』

は?次は巣山?

「あー、早く用件を言え!」

『泉くんはせっかちさんだあ』

くすくすと笑う声が受話器越しに聞こえたあと、
小さく小さく歌われる、お誕生日の歌。

(9月18日)(あざみの花の女の子)

『泉くんにおめでとう、って言って欲しかった乙女心を分かっておくれ』

けらけらと笑う声をよそに
オレは身体中の体温が一気に上がった(気がした)。

あぶね、電話でよかった。



「…おめでと」

『ん、ありがと』