曾根崎心中 角田光代 (リトルモア)
February 28 [Tue], 2012, 16:49

「本書は近松門左衛門作『曾根崎心中』を翻案したものです」
と最後のページにある。人形浄瑠璃の古典演目として有名である
が、私は角田さんのおかげで初めて物語を知った。
「この世の名残、夜も名残、死にに行く身をたとふれば、あだしが
原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。あ
れ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘
の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなりー」
上の文章は『曾根崎心中』「お初・徳兵衛」道行の原文である。
二人が手に手をとって死出の旅に向かう冒頭の部分。七五調の
名調子が続く。
「ねえ徳さま、来世で会うたとき、どないしたらわかるやろか」
「どないとせんかてわかる、あ、お初やとわかるに決まってる」
「せやけど、もしわからなんだら。何か決めごとしまひょ」
「ほな耳をこう、いらう」
「耳がかゆいんかて思うだけかも」
・・・・・・・
「だいじょうぶや。すぐわかる。きっとわかる」徳兵衛が言い、初はう
なずく。(本書より)
角田さんは、関西の出ではないようですが、会話はすべて上方言
葉で、私はこの言葉の温かさに心がとろけそうになった。心中とい
う結果になった恋物語に300年前の大阪人か狂喜したように、今
もまた、私たちの心を掻き立てる。この世で出会った運命の人とは
来世でも必ず出会えるという希望は、誰の心の中にも、そっと潜ん
でいるものだろう。
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