Present for you!

July 10 [Sun], 2016, 0:00
横殴りの雨の音が学校の校舎に、教室に、至るところに響いている。でもそんな音が気にならないくらいに、わたし矢口美羽は焦っている。目の前の数学のテスト、ほとんど内容があってる気がしないのだ。たいちょーかく? って何だっけ? 記号の順番ってこれで合ってる? ううう。もう少し勉強出来てたら違ったのかな。ほんとの日付にテストが出来てたら……なんてちょっと考えて、いやいや、と思い直す。わたしは特別に今日受けさせてもらってるわけで、それはわがままだよね。ちゃんと勉強出来なかったわたしが悪い、けど全然わからない……。

「矢口さん? テスト、回収しますよ?」
「えっ」
思わず声が出ちゃう。何故か先生が吹き出した。
「そんな顔しないで、そこそこ出来てるんじゃない?」
「い、いやいや。最近勉強出来てなくて……」
「アイドルだからって勉強を疎かにするのは感心しない、かな」
さすがにそれは失言でした。失言しました。うん、流石に忙しいのを仕事のせいにしちゃいけないよね。
「う! 聞かなかったことにして下さい」
「うん、何も聞いてませんから。そうだ、お誕生日おめでとうございます。気をつけて帰ってね」
柔らかい口調、にこりとした微笑みとは対照的にサッサと教室を出ちゃった先生。
「わ、わたしの誕生日……明日なんだよねぇ」
言うのは野暮かなと思って、言えなかった。

「あははははははは!」
「そ、そんなに笑うのも……可哀想だよ、誕生日祝ってくれたのは嬉しいんだし……」
「いや、美羽的にはネタになった! って喜ぶところでしょ?」
「ここでしか話せないローカルトーク過ぎてねぇ……」
さっきの誕生日を間違われた話を、絵美子と叶奈美に言うとめちゃくちゃ笑われた。そんなに面白かった、かなぁ? わたし的にはなんというか、微妙なんだけど。トークショーでは話せないかなー? そう思うと、こういう下らない話が出来るからこの二人でいるのは楽しいなと思う。
由愛ちゃんは笑いどころが分からなくて困りそうだし、早耶ちゃんの前だと私はどうにも聞き役になっちゃうし。というのも……早耶ちゃんのマイブーム話、なかなか面白い。筋トレにハマって腹筋道具を買ったら機材を組み立てなくちゃいけなくて、結局開けずに終わった話とか。ラーメンにハマって3日目で大盛り系ラーメン屋さんに行ったものの、出されたものが食べきれずその日でブームが潰えた話とか、オチがあってなかなか話の参考になるし。
「じゃあ私たちからもおめでとう……私たちはちゃんと覚えてるから。明日って知ってるから」
「強調しなくていいから!」
「というわけでプレゼントー、開けてみて! みて!」
にやにやしながら四角い包みを渡してくる絵美子。……これは、本かな? 叶奈美の方をチラリと見ると、しらけた目線を送ってくる。……何だろ? 開けてみると真っ赤な調子に黒のゴシック体で
「超受験対策 保里野越高校版 数学」
ってこれ赤本じゃん!
「ネタになるでしょ?」
そんなにネタに飢えてない! あ、補足すると後でちゃんとしたプレゼントももらえました。3人お揃いのブレスレット、星のチェーンがゆらゆら揺れて可愛いんです。

誕生日当日、雑誌のインタビューに映画の舞台挨拶、目まぐるしくお仕事が入って事務所に戻ったのは午後の四時です。これでも早く帰れたほうです、えっへんなんて仕事の多さを自慢してみたり。事務所には由愛ちゃんと早耶ちゃんがいました。
「あぁ?! 本日の主役がお帰りですね?っ」
「み、美羽ちゃんお帰りなさい……!」
「ただいまー! ……これからお仕事? 珍しい……ね?」
というと早耶ちゃんが膨れ面。ちひろさんが「美羽ちゃんのこと、待ってたんですよ? 直接お誕生日おめでとうって言いたいからって……」と小声で教えてくれました。
「ご、ごめん! ごめんなさい早耶ちゃん! 由愛ちゃん!」
「……許しませぇん☆」
でこぴんされちゃいました。
「ま、まぁ……朝言うんじゃなくてゆっくり出来るお仕事後に言うっていう話だったから……ね?」
「むぅ。そんな美羽ちゃんには……プレゼントですぅ。」
まさか参考書じゃないよね、なんてこと言ったらでこぴんどころじゃすまなそうだから黙って受取ります。……由愛ちゃんからは、シュシュ。黄色とオレンジにポピーの柄。ふわふわな感触は髪に結んでも手につけても心地いい。そして早耶ちゃんからはリップグロス。
「つけてみて!」
というので唇につけてみると……おお、ほんのりピンク色に色づいてちょっとお姉さんみたいです。桃の香りがふわっと漂って、なんというか。早耶ちゃんらしいプレゼント。
「二人ともありがとう!」
「いいえ、喜んでもらえて嬉しいですぅ☆ 大事にしてくださいねぇ?」
「これだって思って……良かったぁ……とっても似合うよ……!」
そう言って和気あいあいしてると車を止めてたプロデューサーさんが事務所に入ってきます。
「おお……プレゼント、もらったんだ。良かったな」
「はい! ……ん?」
外から何か聞こえます。笛の音、太鼓の音……お祭りの音、かな?
「あぁ、近くで祭りやってるみたいですよぉ?」
「お、行くか? とうもろこし買いに」
「とうもろこし! 行きたいです!」
「わ、私……お母さんに連絡……!」

とうもろこしに、たこ焼きに焼きそば。縁日の食べ物ってどうしてこんなに美味しいんでしょう。普段食が細い由愛ちゃんもあれ食べたいこれ食べたいというのでプロデューサーさんがデレデレになりながら色々買ってます。……今日の主役、わたしですよー。
「美羽ちゃん、拗ねない拗ねない☆ ほらとうもろこし、こっちはバターが聞いてて美味しいですよぉ?」
そういい手渡されたとうもろこし、美味しい。早耶ちゃんはバター醤油味、わたしは普通の醤油味。……同じじゃないんですよ?
由愛ちゃんがりんご飴を持っていると、浴衣の撮影を思い出してにやにやしてしまいます。
「由愛ちゃん、浴衣の撮影でりんご飴持ってたよね」
「そう……あの時は食べられなくて……今日が初めて……」
「えっ? 食べられなかったの?」
「浴衣……汚しちゃいけないって……」
納得。そういえば去年の夏に比奈さんたちとグラビア撮影した時も、汚さない程度に! って言われたっけ。結局わたしは水辺だから濡らさないでのほうが大きかったけど。

いろいろ食べていろいろ遊んで、由愛ちゃんと早耶ちゃんと別れて。プロデューサーさんと二人きり。そういえば、まだプレゼントもらってなかったような。
「そういやさ、今井さんからプレゼント、もらったんだって?」
「加奈ちゃんさんから? あっ、もらいました!」
ちっちゃなパッションオレンジのメモ帳。ネタ帳に使ってねって、加奈ちゃんさんとお揃いだって、言ってたな。
「木場さんや吉岡さん、だっけ。いろんな事務所のアイドルからからプレゼント貰っててすごいな、お礼いっぱいしなきゃな」
「そうですね、ファンのみんなからもおめでとうって言われて……ふふ。ほんとにアイドルになって良かったなって、思います」
「んでさ矢口さんよ……これでお礼状を書くとかどうかな?」
ちょっと芝居じみたことをいいながら、細長いケースを渡してくるプロデューサーさん。中を開けると、一本のスリムなボールペンが入っていました。水色と黄色のチェック柄のボールペン、ノックするペントップにはリボンのモチーフがついてます。
「……この前の野外ライブのときの衣装みたいで、思わず衝動買いしたんだ。あの時の気持ちを思い出して毎日頑張れるようにって……んー。イマイチ?」
普段は自信満々のプロデューサーさんが、少し弱気で話すので思わず笑ってしまいます。
「いえ……いえ! とっても嬉しいです!」
友達やアイドルのみんな、そしてプロデューサーさんがわたしのために選んでくれたものなら何だって……それこそ参考書だって嬉しいんですよね。あ、これ今度のトークで話せるかも!
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