かぜっぴき 

December 09 [Wed], 2009, 23:20
眩暈がした。

ここのところ急に寒くなった。帰り道、マンションまで歩く短い時間すら辛い。
今日もそんな冷たい空気の中を帰った。とても体が重い、部活後だからだろうか、それだけではない気がする。
「だたい…」
言いかけて、靴が無いことに気付いてやめた。雲水は小さく溜め息を漏らす。今夜は遅くなるとか言っていた、どうせ合コンやらコンパだ。嫉妬はまるで感じないのに、物寂しい感じはして、これはこれで厄介だと思う。

今夜は一人だし、あるもので済ませてしまおうかな。冷蔵庫を開けてみて、作り置きのおかずがあるのを確認した矢先、震えが走った。寒い、暖房をかけていないから部屋の中は当然寒いのだが、それにしてもちょっと異常だ。冷蔵庫の冷気のせいだろうか、どうやら頭も働いていなかった。
「寒い」
そう、とにかく寒い。ああこれは風邪だな、漸く気付く頃、雲水は食事も放棄して布団に包まっていた。携帯のサイドボタンを押す、サブディスプレイに浮かんだ時間は、まだ23時。
きっと今頃片割れは楽しく女達と酒でも飲んでいる。それを妬むわけではない、けれど、自分がこんなに辛いのに、と、ちょっと恨めしい。頭が働かない所為にして、嫌がらせをしてやろう、雲水は、電話帳から阿含の名前を選択する。あとは簡単、真ん中のボタンを二度押した。呼び出し音が響く。
『―――――ぁーい、どったのおにいちゃん』
出た。周りが騒がしい、それに語調が緩い、酔っ払いめ、眉間に皺が寄る、無意識だった。
「阿含、辛い、寒い」
『は?なに、どうした雲水』
弱った声で告げてやった。こういうとき、自分達は双子なのだと思う。演技は得意だ。
「帰ってこい、阿含…」
『おい、どうしたの雲水、何かあった?』
問い掛けながらもがさがさと物音がするし、その直後に甲高い女の声が聞こえてきた。えーあごんかえっちゃうのお?そんな感じだった。ざまあみろ、阿含は、そうだ、帰っちゃうぞ、お兄様のもとへ。
「阿含…」
『うん、今すぐ帰るから、だからちょっと待ってろ、大丈夫、すぐ帰るから』
浅く息をする口元が、笑みに歪んだ。これも無意識だった。


「…お粥、食う?」
結局阿含が帰ってくるまで起きていられなかった(だから、阿含が帰ってきて雲水から反応が無いのにえらく心配して不安げにしていた姿も見ていない)。目を覚ましたら、部屋は暖房で適度に暖められていた。加湿器もかかっているし、阿含はずっと傍にいてくれたらしい、風呂にも入っていない所為で香水臭いことだけが腹立たしい。
「帰って来たのか」
「お前が言ったんだろ、あんな声出しやがって」
心配した。そう言ってベッドに乗り上げては抱き締めてくる。もともとぼんやりしていた頭の芯が、またぼんやりとしてくる。こんなときくらい、素直に甘えてもいいかもしれないな、かすれた声で囁いた。
「食べたい、食べさせてくれ」
「寧ろ俺はおにいちゃんをいただきたいね」
軽口叩きながらも大人しく粥を作りに向かうその背中に、こんなときくらい、素直に、

「ありがとう、阿含」


駄目! 

October 29 [Thu], 2009, 23:17
「駄目だ阿含、絶対駄目だ」
「あ?いいじゃねーかどうせ皆潰れてンだから」

寝室では双子の静かな攻防戦が行われていた。
互いの大学も試験は一段落、もうすっかり遊びに来るのに慣れてしまった水町、その水町に連れて来られた甲斐谷、チームメイトとは友好を深めなくてはとかなんとかもっともらしいことを言ってやってきた大和、いつまで経っても双子の弟分である一休。
そこに二人を合わせた六人での宴会はもう終わりを告げ、リビングでは四人が見事に眠りこけている。水町は床で、大和はちゃっかりソファーで、甲斐谷はそのソファーを背もたれに、一休は何故かテーブルの下だ(起きたら絶対に頭をぶつける)。
「起きない保証は無いだろう」
「また眠ってもらえばいいじゃん」
指の骨を鳴らしながら物騒なことを言う弟の頭を叩く。悪戯っ子のように歯を剥いて笑うあたり、阿含も酔っているらしい。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「だ…こら、だから、駄目だと、」
んー。返ってきたのは生返事だ。雲水をベッドに倒して、持ち前の馬鹿力でもって腕を押さえ付ける。首筋に鼻先を寄せたら、酒の匂いに混じって雲水の匂いがした。欲情するなあこれは、他人事のように考えながら、阿含が首筋を齧った。
「あっ」
おお、良い声を聞いた。しまったというように慌てて口を閉じた雲水だったが、今更遅い。出てしまった声は消えてくれない、阿含の頭の中にきっちり記憶された。
「いまのなあに、雲水」
にこにこと嬉しそうに聞いてくるのが憎らしい。それでいて手首を掴んでいる力は痛いくらいだ。大きな子供とはこれだ。
(ああでも子供はこんないやらしい目をしない)
黒目が小さいせいで目つきが悪い。けれどその小さい黒目いっぱいに自分をうつし込んで笑う弟は、とても可愛い。
「お前のほうが可愛いよ」
考えを読んだかのように、阿含が呟いた。そうして首筋にいくつもキスマークをつけていく。待て待て、なんて言い訳すればいい、明日の朝、起きた彼等になんて説明すれば、
「いいよ、お前は俺のだって、俺がちゃんと言うから」
くすくすと笑いながら、子供みたいに甘ったれた口調で阿含が言った。そのくせ肌をしゃぶる口元はいやらしく器用に動く。ああこのままでは押し切られてしまう、みんないるのに。

「シようぜ、雲水」
「馬鹿阿含…」
解放された腕は、自然と首に巻きついた。

ああどうしよう、みんないるのに。

明日から、 

August 05 [Wed], 2009, 16:16
「忘れ物無いか?」
「ガキじゃねーんだよ、大丈夫だって」
その日の部屋はやけに騒がしかった。阿含が大きなスポーツバッグに荷物を詰めているその横から、雲水が口を出していた。明日から、阿含は合宿なのだ。
「だって心配じゃないか」
「お前俺をなんだと思ってるわけ」
あまりに子供扱いで、こんなときばっかり兄貴面する雲水に阿含が顔を引きつらせる。雲水の本当の気持ちなんて分からない、なにかと鋭いくせに、一番身近で一番大事な相手のことにはとことん鈍い片割れである。

「怪我するなよ、あと喧嘩するな」
「なに、今日はえらい絡むねオニイチャン」
むっとした雲水に、阿含は不思議そうに首を傾げた。普段ならシャワーで済ますところを、明日からはゆっくり浸かれないだろうから、と湯を張ってせっかく一緒に風呂に入っているのに、兄の機嫌は斜めのようだ。それでも腕の中に納まっておとなしく…むしろ身を寄せてくるのだからますますわからない。
「ねえ、雲水どうしたの、なんか変だぞ」
「……馬鹿、馬鹿阿含」
濡れた耳の後ろにキスをしたら、白い肩がぴくりと跳ねた。この夏もきっと雲水は赤くなるだけ赤くなって焼けなくて、自分は真っ黒になるんだろうなあ、そんなことを考えていたら、腹に回していた手を雲水が掴み上げた。そして、くちゅり、なんとなくいやらしい音を立てて、指を口に含む。
「っ、マジでどうしたよ雲水」
「明日から、しばらく会えないから、だから」
今日は沢山構ってもらおうと思って、でも、そんなの言ったらばかにされると思ったから…―――――可愛すぎる、この体勢でそんなことを言われて止まるはずがなかった。
「なにそれ早く言えよ馬鹿になんてしねえよ可愛いなクソ」
「お、俺にだってプライドが…」
「そんなくだらねえプライド捨てちまえ」

そんでべたべたに甘えてよ、溶けるくらい甘ったるく構い倒してあげるから!

お邪魔します 

July 13 [Mon], 2009, 22:13
「あ、こ、こここんばんは」
「よー、久しぶり!」
「ただいま」
「……どゆこと、これ」
雲水が帰って来た、と思ったら、チビとでかいのがついてきた。水町にセナだ。睨む阿含に、セナは怯えているし、水町は変わらずへらへらと笑っている。
「おーいうんこちゃん、俺、出かけていい?」
「なに言ってるんだ、せっかくこんなに買ってきたのに、肉」
そう、今日はしゃぶしゃぶだっていうから、たまには高い肉買うとか雲水言うから、休講で早く学校を出ても女と遊びにいかずにおとなしく家にいたのに、なのに、
「寂しいこというなよ阿含、一緒に肉食おうぜ」
「ぼ、僕はあの、邪魔なら帰りますから」
「何言ってるんだセナ君、気にしなくていいんだぞ」
オニイチャンはとびきり優しい笑みだ。どうにも年下に弱いらしい雲水は、一年生連中にやたらと甘い。勉強を見てやったりもしているようだった。
「とにかく、準備するから大人しく待ってろ、二人をいじめるなよ」
有無を言わさぬ兄の笑顔に、阿含は舌打ちひとつ漏らしただけだった。


「だーからそうじゃねえって」
「ええ?そうなん?」
「あのー…ああ阿含さんここは?」
「あ?あー…それ文法滅茶苦茶」
キッチンで具材を切ったりと下準備をしている雲水は、聞こえてくる会話に表情が緩みっぱなしだ。なんだかんだ言って二人の面倒を見ている阿含の姿は、とても微笑ましい。なにせあの性格だ、人付き合いが下手なわけではないが、好き嫌いが激しすぎる彼に友人らしい友人なんてほとんど居なかった。けれど今はこうして雲水が連れて来るチームメイトとも、文句は言いながらも仲良くやっている。優しくはないけれど、勉強だって見てやっている。それは雲水にとって嬉しいと同時に、少しだけ寂しい。互いが世界の全てだった頃を羨むつもりもないし、あの頃は互いを傷付けてばかりだった。今の方がよっぽどましだ。けれど、やっぱり雲水の一番は阿含だから、ちょっとだけ、寂しい。


「ほら、出来たぞ運べ」
「はーい」
まるで母親とその夫、そして子供達だ。四人使うには小さいテーブルに鍋と器と飲み物と箸、そしてメインの肉を並べると、子供二人は表情を綻ばせた。母はそれを見て嬉しそうにしているし、父は相変わらずの仏頂面だが文句は言わない。

「ちゃんと野菜も食えよ」
「えー、俺肉だけがいい」
「ちょっと水町君っ」
「俺の肉とったら潰すからな」

今夜は喧しい食事になりそうだ。
まあとりあえず、みんな揃って

いただきます!

夏ですね 

July 08 [Wed], 2009, 20:07
「なにしてンの」
「暑い…、しんどい」
フローリングの床で雲水がつぶれていたので、その頭のすぐ脇にしゃがみこんで聞いてみた。成る程、ここ一週間くらい急に暑くなったが、それで少々バテているらしい。冷房でもつけたらいいのに、このあたりの我慢強さというか頑固さは阿含には理解できないところだった。
「あ……、」
「あぁ、食べたい?」
阿含の派手なシャツから伸びた腕のその先、手首にぶら下がった半透明のビニール袋からは、アイスのパッケージが透けて見えていた。雲水が珍しく素直に頷いたので、阿含も特に意地悪せずにひとつの袋を破って兄に差し出した。


「こ、こら…食べ、にくい…、ん、ぐ」
「おーおーえろい顔ですねーお兄様」
棒のタイプのそれを雲水の口に突っ込む。手首を掴んで引き離そうとする雲水だが、それを許さない阿含が後頭部を押さえ込んでしまう。
あ、なんかこれいいなやべーたちそー。煩悩まみれの頭でも一流大学に入れるし簡単に進級もしているのだから憎らしい。
溶けては唇を汚すアイスは、それでも冷たくて美味い。食べ方には幾らも問題があるが、雲水の口の中はひんやりとしてきた。時折溶けたそれを飲み下すと、体が内側から冷えていくようだ。
「ン……、っ、ふ、あ」
「あ゛ー…誘ってる?誘ってンだろ、なあ」
ずるり、もう半分以上食べてしまったアイスを雲水の口から引き抜いて、その冷たい唇を阿含の熱い舌が這う。痺れるようだった。少し涼しくなったような気がしていたのに、これでは意味が無い。あ、あいつ床にアイス放ったな、食べ物を粗末に…というか掃除が面倒だ、くそ。
それ以上思考は働かなかった。結局余計に熱くなることをするんだなあ、ぼんやり考えて、その思考も早々に放棄した。


わざと、棒のミルク味のアイス、買ってきたんだぜ、俺。


夏は、これから。

テレビ 

June 25 [Thu], 2009, 22:39
「まさかあの人が黒幕とは…」
「やーバレバレっしょ」
「なんか腑に落ちない」
「ぁによ、ああいうのがタイプ?」
「そんなこと言ってないだろ」
「俺も髭でもはやすか…」
「ごめんなさいやめてください」

雲水の部屋で並んでベッドに腰掛けて、ドラマを観ている二人。これがなんか結構楽しくて、毎週この曜日はバイトも入れずに早く帰って、時間になると仲良く並んで座っていたりして。
「俺だったらもっと、こう」
「お前みたいなテロリストがいたらこの世は終わりだ」
「そしたらオニイチャンはほら、俺特別対策室に入れるよ」

下らない会話も、楽しい。
こんな日がやってくるなんて、あの頃は思わなかったけど。
幸せな今があるから、あの頃を思い出せるのかもしれない。






あのドラマを見ながら、ぱぱっと携帯から更新(笑)

好き嫌い 

June 22 [Mon], 2009, 23:31
「げ…、」
「ちゃんと食えよ」
用意された夕飯を見て、阿含があからさまに嫌そうな顔をした。そして雲水はそれを見逃さずに釘を刺す。食卓には白米、豚肉の生姜焼き、ほうれん草の御浸し、それから何か小鉢が少しと、
「わかめ…」
味噌汁に入った、もう黒に近いくらい濃い緑色を前にして阿含はぼそりとその名を呟いた。雲水はといえばもう先に食事を始めていて、付け合せのキャベツと一緒に豚肉を頬張っている。
「やだ、要らね」
「好き嫌い言うなっていつも言ってるだろ」
行儀悪く味噌汁のお椀を箸で退けようとする弟を、雲水が叱り付ける。偏食気味で好き嫌いが激しくて、小学生の頃からジャンクフードばかり食べていた弟がどうして自分と同じに健康に育っているのか未だに理解できない。
海藻は嫌い、なんか生臭いしぬるぬるする。茸も嫌い、形グロいしぐにゃぐにゃして気持ち悪い。タコイカも無理、あんなん食うもんじゃねえ。それからそれから…
阿含の嫌いなものなんていくらでも出てくる。けれどいちいちそれを考慮して食事なんて作っていたら栄養バランスは崩れてしまうし、そもそも食べられるものが限られてしまう。だからこうして一緒に暮らしていても雲水は阿含の嫌いな物を容赦無く食卓に並べる。そうして嫌そうにしながらも叱られて渋々それを食べる弟はちょっと可愛いと思っているなんて、絶対に言ってやらない。

「うえ…やだやっぱ無理雲水半分食べて」
「まあ、ここまでよく食べたしな…」
最後の最後まで残して他を食べきってしまってから、漸く味噌汁に手をつけた阿含。そもそもこれが兄の手料理でなければ無理して食べたりなどしないのだけれど、そんなことは絶対に言ってやらない。
なんとか半分ほどわかめの減ったお椀を雲水の方に突き出しながら、阿含はお茶を飲んでいる。よほど嫌いらしい、若干涙目なのが笑えるし、やっぱり可愛い。
「俺の嫌いなモン入れんなよー、味噌汁は豆腐にネギでいいって」
「ミネラルが足りん、ミネラルが」
ずず。弟の残した味噌汁を啜りながら首を横に振る。何度言われたってやめてやらない、兄として振舞える数少ない機会を自ら潰したりするものか。
「肉、もう無えの?」
無い。短く答えた雲水に、こんなときばかり子供っぽい阿含が拗ねた顔をしてみせた。




偏食な阿含は可愛い、そんなお話(笑

そんな、記念日 

June 18 [Thu], 2009, 23:42
「ま、こんなもんかな」
部屋中の掃除を終えた雲水は、満足げに息をついた。ベランダに射す光は、もう赤からもっと暗い色に変わり始めていた。
そもそも半日かけて掃除したのには理由がある。今日は、このマンションに越してきてちょうど一年になる日なのだ。一年住んでみて愛着の沸いたこの部屋を、せっかくだから綺麗にしてやりたかった。雲水らしいといえば雲水らしい。

そしてそんな事きっと覚えていないのだろう、今日も阿含は帰ってくる気配がない(というか連絡すら無い)。落ちていく陽を見ていればなんだかちょっと感傷的な気分になって、それを払拭しようとゆるく頭を振ってみた。
「今日はどこをほっつき歩いているんだか…」
一週間の半分程度は家にいるようになった阿含だったが、まだまだ遊び歩く癖は無くならない。コンパだ合コンだと急がしい。そもそも雲水という存在がありながら合コンというのもまったく酷い話なのだが、雲水自身これを気にしていないのだから話にならない。少しは嫉妬するなり怒るなりしてほしい弟の気持ちに、兄は未だに気付かない。

今夜は何にしようかな、どうせ一人だろうし、掃除して疲れたからコンビ二で済ませてしまおうかな…
雲水にしては珍しい選択だった。デニムのポケットに財布を突っ込んで、携帯を手に取ろうとしたところでそれは着信を知らせて震えだした。
「もしもし」
『おー、雲子ちゃん、今から帰っから』
「なんだ、帰ってくるのか」
『あ゛あ?悪いかよ、つーかお土産あるから待ってろよ』
どうやら愚弟は帰ってくるらしい、出かけようとしていたのをやめてキッチンに戻る。冷蔵庫を覗き込んで今夜の食事を考える。あれしかないな、よし、あれにしよう、腕を捲って冷蔵庫に手を突っ込んだ。


「たでーまー」
「お帰り」
お、この匂いは…。玄関のドアを開けるなり鼻先を擽った香りに、阿含が子供のように嬉しそうに笑う。そうしてキッチンに立つ雲水の背後から手元を覗き込む。
「うまそーね」
「急に帰ってくるなんて言うから、このくらいしか…」
「いいじゃん、いいにおい、美味しそ」
機嫌がいいらしい、阿含は終始笑顔だ(ちょっと気持ち悪い)。荷物を置きに部屋に向かう前に、なにかテーブルに置いて行った。ビニール袋の音がしたから、きっとコンビ二にでも寄ったんだろう、特に気に留めず、雲水は夕食作りの仕上げにかかった。

「ケーキ…?」
「そ、今日は、俺達の同棲始まって一年だろ?」
覚えていたのか。雲水は面食らった。テーブルに食事を並べて飲み物を注いでいたら、先程置いて行ったそれを阿含が自慢げに開けて見せたのだった。ビニール袋の中身は小さな箱で、その中には彼が買うにはあまりに可愛らしい小ぶりなケーキが二つ。
「お前たまに女みたいなことするよな」
「どうせ食うなら美味いのがいいだろ」
なんでも姉崎に教わった店で買ったらしい。二人が並んでいるところを想像してみたけれど、清楚で真面目なイメージの強い姉崎と阿含ではお似合い以前の問題なので特に嫉妬も覚えない。寧ろ妙な画だと思う。
「俺も、一年だなあって思って、部屋中掃除してしまった」
「そゆとこ雲水らしいよな」
少し馬鹿にしたように笑った阿含だったが、とりあえず今日は何も言わずに許してやる。というか、二人とももう腹が減って仕方なかった。
「じゃ、いただきまーす」
「ん、いただきます」

記念日の今日、テーブルには、どちらも子供の好物。カレーとケーキ。
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