1. 変化 -怪文書- @

November 22 [Mon], 2010, 0:00


POLO 第一章 変化 −怪文書− @


ゾディアック神殿はレジーナ教の総本山であり、同時に女王の神殿でもある。
レジーナ王国は女系国王の統治する国で、その歴史は5世紀にも及ぶと言われている。
四季折々の顔を見せる大地はまさに世界の美しさの結晶とされる美神レジーナが
そのまま大陸となったと言われるにふさわしい豊かさと美しさであり、
人々も温和で皆が幸せに暮らしていた。


女王アマネットは若干24歳の若さで王座に就いたが、彼女は決して政治には手を出さず、
民の話をよく聞き、贅沢をしない立派な女性であった。
そして、それと同時にその絶世ともいえる美しさで民を魅了していた。

彼女は誰からも愛される、まさにレジーナの代理人、
否、レジーナそのものであるといっても過言ではなかった。


この国には王城というものはなく、女王の間は神殿の最深部にある。
王族は皆神殿で上級神官らとともに生活しており、ゆえにその手前贅沢ができないと言ってもよかった。
神殿で暮らせるのは上級神官のみと決まっており、
まさに彼らは城下や地方の教会や修道院の神官見習いの小僧たちの憧れの的だった。
上級神官への道のりは平坦ではない。
数多くの試練や難しい試験を受けなくてはならない狭き門である。
しかし上級神官を目指す神官、小僧は後を絶たなかった。

それほど女王の膝元での生活は魅力的だったのである。



ゾディアック神殿の一番近くの修道院はまさにその名もゾディアック修道院と言い、
将来有望な小僧たちが集まるエリート修道院だと言われている。
しかしその実態は大半が貴族の子息であり、
本当に実力や才能があって修道院へ呼ばれた人間は数少ない。
ポロはというと、平たく言えばどちらでもない人間だった。
家は貧乏であるから金に物を言わせて無理やり入ったのではないが、
修道に明るいかと言えばそういうわけでもなかった。

勤勉ではないし、なにより神の道に対する情熱が薄いようで
礼拝に遅刻はするわ聖典は無くすわで、
修道院では『良い子なのだが問題児』として有名であった。


あまりに朝の礼拝に来ないポロにしびれを切らした
学園長でもあるエリーク神父は子どもたちにあるルールを課した。
とても不人気で、発表当時は(今でもだが)大ひんしゅくを買ったルールだ。


『朝の礼拝は寮の部屋ごと6人の連帯責任とする。全員がそろって礼拝に出ること。
              一人でも遅刻した場合、残りの5人も一緒に罰を受けること』


誰がいちばん反対したかというと、もちろん当時のポロのルームメイトたちだった。

そんなの自分たちが毎回罰を受けることが決まったようなものじゃないか、なんとかしてくれ!

と怒り狂い収集がつかない子どもたちの事を考えたのか、そうでないのか。
とにかくエリーク神父は

「確かに公平ではないな。ならばこうしよう。もう一度、部屋割をかえようじゃないか」

と提案し、かくして修道院内で大々的な部屋替えが執り行われた。
部屋ごとに一人の上級神官の教師がつくのだが、
エリーク神父がこの連帯責任を教師の神官にも負わせようというのだから
教師神官たちもかなり真剣である。


果たして公正なるくじ引きの結果、
ポロはゾディアック修道院付属寮第2棟の3階の角部屋へと移動になった。

ルームメイトは一歳上のキキ、アルフ、ベーグ、同い年のルシアン、ケンの6人。
教員は上級神官の中でも若いが『カタイ』と評判のレイナード上級神官だった。
皆さぞ不満を漏らすだろうと思ったが、案外他のルームメイトもポロを普通に受け入れ、
ポロ自身も皆と仲良くやっているようだった。
何より驚いたことに、少し生意気なところを除けば模範生と名高いキキとポロは
前々から仲が良かったというではないか。
ポロとキキが同じ部屋になったことによって、
キキがポロを事実上見張っていられる時間が増え、
結果的にポロの礼拝への遅刻やさぼりは四回に一回ぐらいに減少した。
 

しかしいくら減ったといっても四日のうち一日は居なくなっているのだから、
一週間に最低一回は連帯責任の名のもとにレイナードを入れた7人はペナルティを受けている事になる。

前回は真冬の噴水掃除。
前々回はライブラリーの図書整理。
前々前回は馬小屋の馬のシャンプー。

そして今日は神殿前の石畳の落ち葉掃除だった。



ここまでされるとポロがルームメイトに嫌われたりいじめられたりしてもおかしくないのだが、
不思議と誰一人としてポロを仲間外れにしたりいじめたりする人間は居なかった。
ポロの人間性がそうさせるのかもしれない。
ポロは良くも悪くもぼんやりしていて、しかし人一倍真面目なのだ。
友情には厚いし、なによりそのゆったりとした癒しのオーラは
つい怒りや苛立ちを忘れてしまうほどのものだった。

 
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さて、先も述べたが今日も三階角部屋の五人はペナルティという名の掃除に精を出していた。
さすがに掃除の時間は皆しょんぼりとうなだれてしまうのだが、
今日はなんだか様子が違う。

皆うれしそうだ。



決して落ち葉掃きが楽しいわけでもなんでもない。
喜びの理由は掃除の場所にあった。
今日の掃除場所はなんと神殿の前。
しかも滅多に行くことのない『門の中』なのだ。いつも門の前までは城下に行ったついでとか、
買い物の帰りとかに通ることはあるのだが、仲間で入ることはめったにない。
別に入ってはいけないわけではなく、自由に出入りできるのだが、
小僧たちにとってなんとなく入ってはいけないような、
そんな妙な気持が起きる場所であることは間違いなかった。
しかし今日は違う。掃除とは言え、堂々と入れる理由があるのだ。
皆意気揚々と箒をふるうフリをしながらきょろきょろと、
興味深そうに神殿を観察していた。

――ただ一人を除いては。


ペナルティの原因を作った張本人は、なぜか浮かない顔だった。
普段から覇気のないように感じる顔がいつにも増して元気がないようだった。
「ポロ?大丈夫??」
心配そうに顔を覗き込んできたのは同い年のルシアンだった。
寒いのだろう。褐色の肌でもわかるくらい頬を真っ赤に染めている。
瞳の色と同じ深緑のマフラーを巻きなおして、
心配性の彼女は真っ白な息を吐きながら「寒いの??具合悪い?」と眉を寄せている。
ポロは「ううん、大丈夫。ごめんね」と言うとにっこり笑った。
ルシアンも笑顔を返してまた自分の持ち場に小走りで戻っていった。

確かに寒い、寒いのだけどだから気分が悪いわけではない。
ポロは複雑な思いで忙しそうに駆けずり回る上級神官たちを
いっそ憎しみがこもっていると言ってしまったほうがいいような目で見つめた。

「ポーロ、大丈夫か??」
「ルシアン・・・心配しないでいいってば・・・・」


再び声をかけられ少し不機嫌そうな声を出しながらポロは振り返る。
そこには先ほどの褐色の肌の少女ではなく、
小柄な金髪が立ってポロを真っ赤な目で見つめていた。

キキだ。

「俺、ルーシーじゃないけど」
そういいながらポロの足元にこんもりと積まれた落ち葉をビニール袋に詰めていく。
キキは顔を上げ、忙しそうな神官たちを見つめた。
「あいつらって気取ってるよなぁ・・・ただの金持ちのくせに大っ嫌いだぜ」
なあ、と同意を求めるようにキキはポロに視線を向ける。
そのキキの言葉にポロは無言で同意する。

ポロも神殿の神官たちが、というよりも神官全般が大嫌いだったからだ。
見るからに無能そうなその神官たちは慌てきった様子で右往左往している。

その様子は子どもの目から見ても滑稽だった。

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慈愛と公平を掲げるレジーナ教だが、
5年ほど前に大司祭室に女王の従姉妹とその側近が入ってからというもの、
神殿付きの神官のほとんどは従姉妹への寄付の額に物を言わせて入った連中であふれていた。

こうなると自動的に神殿の中は貴族の『にわか神官』が増えていき、
気がつけば知識もなければ信仰心も疑わしい単なる金持ちの集まりと化していた。
それに嫌気がさして、ここ4,5年で神殿を出ていった人間も多い。

ポロたちの教師であるレイナードもその中の一人であった。
神殿には2人の大司祭がおり、それぞれ派閥を作っていた。

一つは大司祭ナフタ率いる予見派、そしてもう一つが大司祭マーカス率いる教典派だ。
今優勢なのが教典派で、このマーカス大司祭こそ女王の従姉妹の側近であり、
神殿の腐敗の片棒を担ぐ一人なのだ。
彼らにとっては信仰心や知識などは全く必要ない、むしろ邪魔なものだった。
必要なのはただ一つ、

教典。

教典に従いさえすれば後は何でもよいのだ。
対してナフタ大司祭の予見派は、教えと信仰心のつながりを非常に重要視していた。
女王からもたいそう信頼された人物であったが、
つい半年ほど前に疫病に関する予見をはずしてからというもの
めっきり勢力をおとし今では完全に教典派の影に入ってしまっていた。

大司祭の元についていた優秀な神官たちは次々とよその教会に移ったり、
レイナードのように見習い神官を育成する教師となってしまったりして神殿を出てしまった。

神官の『なり』を見ればその人物がどちらの派閥に属しているかすぐ分かる。
以前レイナードがそう言っていた。
ポロは直感的に
「慌てふためく亀たちはきっと経典派なんだろうな」
と思った。


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「なんだか落ち着かないよね」
いつの間にかそばに来ていたベーグが鼻水をすすりながら言った。
風邪でも引いているのか、すすっても、すすっても
まるで鼻血のようにぼれてくる鼻水を彼は何の躊躇もなく袖で力いっぱい拭う。
「きたないなぁ、ほらティッシュやるよ」
ケンまで掃除の手を休めてこちらにやってきた。
差し出されたティッシュを受け取ったベーグはこれまた力いっぱい鼻をかむ。
「さっきからずっとざわついてるよ。レイナード先生の姿も見えないし、絶対何かあったんだよ!」
「噂によると女王率いる予見派と女王の従姉妹率いる教典派が対立してるんだって。
 エリーク神父様が言ってたわ
 『慈愛と公平がレジーナの教えなのに、神聖な神殿で争い事などけしからん!』って」
 これはルシアンだ。
「でも最近女王様見ないよね。お祈りにも来てないし・・・
 あれ?女王様を最後に見たのっていつだっけ??」
アルフまでもが掃除の手を止めて議論に参加し始めた。
気がつけばルームメイト6人全員が一か所に集まり顔を突き合わせていた。


「お?ルーシー、それ何だ?」

みんなが黙って考え込んでいた時、不意にキキが声をあげた。
視線の先にはルシアンがかき集めた落ち葉を入れた透明の袋が無造作に落ちている。
キキは何かに気付いたようで、落ち葉の中に手を突っ込む。
ガサガサ、としばらくかき回すと中から薄黄色い紙が一枚現れた。
ところどころインクがにじんではいるものの、何が書いてあるかははっきり読み取れた。


人々よ、神聖なる神の子よ、目を覚ませ。
女王はお前たちを欺いている!




その紙にははっきりとそうつづられており、
子どもの目から見ても、この文書が不穏なものであるのがはっきりとわかる。
「おいおい、なんだよこれ」
 一番に声をあげたのがベーグだ。驚いて鼻水をすするのも忘れている。
「女王様が僕たちをだましてるって意味?」
「いたずらよ、きっと」

時が止まっていたように硬直していたルームメイトたちは、
再びわいわい話し始めた。
その顔は心なしか少し楽しそうでもあり、
同時に少し恐怖しているようでもあった。


みんなが口々に言い合う中、ポロだけはその話にも文書にも全く興味がなかった。
みんなに気づかれないように、音をたてないようにこっそりと議論の輪から抜け出し、
ポロは小走りで門のそばの、噴水の向こうにある大木の下に向かった。




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