日航1兆円損失の“水膨れ” 銀行団不信頂点     

July 10 [Sat], 2010, 19:00
 会社更生手続き中の日本航空の債務超過額が1兆円規模に達した。余剰人員や老朽化した航空機など“負の遺産”を処理し身軽になって飛び立つのを狙い、リストラ損失が膨らんだためだ。一方で破綻(はたん)の責任をとって退任した旧経営陣が関連会社の役員に収まっていたことが判明。追加の債権放棄を求められた取引先銀行団の不信感は頂点に達しており、8月中の合意を目指す交渉の難航は必至だ。

 ■退職金割増で数千億

 「どういう理屈で、(放棄額を)積み増したのか理解できない」

 7月1日に日航から説明を受けた主要取引銀行の幹部は怒りを爆発させた。

 連結ベースの債務超過額は9500億円。1月に会社更生法の適用を申請した段階の見込みよりも1千億円も膨らんだ。このため、日航は債権放棄額を当初の7300億円に500億円程度を積み増す方向で調整したい考えだ。

 日航の管財人で再建を主導する企業再生支援機構の瀬戸英雄・企業再生支援委員長は30日の会見で、「ジャンボ機の一斉退役による評価損処理や人員削減に伴う引当金の積み増し」を理由に挙げた。

 グループで1万6千人の人員削減では、早期退職者に給与の6カ月分程度を割り増しなどの優遇措置を設けており、そのための引当金が数千億円規模に上るとみられている。

 日航に対しては、債権放棄に加え、支援機構による3千億?3500億円程度の出資を通じ公的資金が投入される。割り増しに税金が使われる以上、透明性の確保は最低条件。だが日航は損失の詳しい内容を明かしておらず、大盤振る舞いによる“水膨れ”の疑念がくすぶっている。

 ■引責役員の去就

 銀行団の不信の原因は放棄の増額だけではない。

 日航の旧経営陣は法的整理を受け、全員が退任したが、西松遥前社長は日航財団の理事長に就任。さらに数人が6月に関連会社の役員に相次いで就いた。

 関連会社へ推薦したという日航は「職務の適性などを踏まえ判断した。不適切という認識はない」と説明。大西賢社長も6月30日の会見で、「特定の役員があたかも利権のように天下りしたとは思っていない」と強調した。

 だが、取引先銀行関係者は「無給というが、理事長ポストは晴れて役目を終えたトップが就く名誉職。元役員の再就職先も含め、世間がどう受け止めるかという常識が欠如している」と不快感を隠さない。

 再建を担う稲盛和夫会長が掲げる「親方日の丸体質からの脱却」は、容易ではない。

 ■「虫が良すぎる!」

 裁判所への提出期限を当初の6月末から8月末に延期した更生計画の策定には、銀行団の不信感を払拭(ふつしょく)し、協力をあおぐことが不可欠だ。

 日航では、債務超過が当初よりも膨らんだ1千億円分について、支援機構の出資と銀行の債権放棄を折半で積み増すことを想定している。しかし、取引銀行幹部は「債権放棄は丸損だが、出資なら株式を売却して回収できる」と、不公平感を募らせる。

 そもそも日航の法的整理では、「運航継続」を大義名分に、本来なら一定の債権カットが求められる航空機のリース代や燃料代など一般の商取引債権は全額保護され、そのしわ寄せで銀行団の債権カット率が異常に高くなった。

 銀行団は、これまでの支援で引き受けた優先株も紙くずになっており、おいそれとは放棄の増額には応じられない。

 しかも、日航は、銀行団に対し、航空機の更新などに必要な再融資の実施も求めている。額は当初見込みよりも約1400億円少ない約3600億円を提示したが、銀行団は「債権放棄は増やし、ニューマネーもよこせというのは、虫が良すぎる」(幹部)と突っぱねる。

 支援機構は、回収を担保する事実上の政府保証を検討し、銀行団からお金を引き出そうと懸命だ。しかし、日航の法的整理が山場を迎えていた昨年末、当時財務相だった菅直人首相が日航へのつなぎ融資に政府保証を付けることを拒否したことを念頭に、銀行団は「首相になって心変わりするとは思えない」(関係筋)と相手にしていない。

 日航の足元の業績は、5月の国際線の利用率が70.8%と前年同月に比べ14ポイント改善。「6月も堅調な手応えがあった」(大西社長)と上向きつつある。銀行団との交渉にも自信を深めているが、その溝は思った以上に深い。(日航取材班)

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