維水 

May 07 [Fri], 2010, 18:12
「笑い声?子供の?」
「ああ…気のせいかもしれないが」
遊星は自信が無さそうではあったが確かに頷いた。
…ならば、きっと本当に笑い声があったのだろう。
「それが、何か関係があるとでも言うのか?…その声の主が、ジャミングの犯人だとでも言いたいのか?」
ジャックは再びタイピングに勤しみながら、訝しむようにそう言った。
「別に、そういうつもりでは…」
「でもよ、あんな時間に子供が外を出歩いているはずもないんじゃないのか?だったらそいつが[鬼柳]に何かをやったって考えても自然だと思うぜ?」
俺がそう言うと遊星に「だから、結論を出し急いでは駄目だ」と再び窘められてしまった。
…だが、遊星も心の底ではそこに関連を見出しているに違いない。そうでなければこんなタイミングでそのことを話すはずがない。
「ともかく[鬼柳]のことは俺に任せて、遊星はチップの解析に集中しろ」
「…分かってる」
ジャックの言葉にそう応えながらもまだ遊星の視線は[鬼柳]に向いたままだった。…やはり、心配なのだろう。
それを言ったら俺だって心配だ。あいつがこうやって動かなくなることなんて滅多になかったし、なったとしても直ぐに回復していた。
なのに、今回は何もかもが悪い方向へ向かっているのだ。…ひょっとしたら、目覚めないということもあるのかもしれない。
そんな悪い想像ばかりが頭を過ぎって仕方がないので、
「お前に任せるのは不安だってさ、ジャック」
などと言って場を和ませようとしてみるとジャックに本気で怒られてしまった。
「俺の何処に不安要素があると言うのだ!?」
「全部だよ全部!プロテクトの解除すらロクに出来ねぇくせに!」
「ならば貴様なら出来るというのか!?」
「はぁ?無理に決まってんだろ、俺ロボットだし肉体派だし!」
一瞬だけでもいい、悪い想像を頭から引き剥がそうとして俺達は無意味な言い争いを繰り返した。所詮気休めだってのは分かってる、でもそうでもしていなければ俺達は沈黙に押し潰されそうだったのだから仕方ない。
そんな様子を、狂介はただ丸い瞳でじっと見つめ続けていた。
そして視線を動かない[鬼柳]へと移し、彼のボディに飛び乗る。
「おい、お前――」
そんな所に座るんじゃない、と言おうとしたその途端に、

来た。

「っ!?」
頭をぐわんぐわんと掻き乱される感覚。脳髄がぐちゃぐちゃになっていくような気分。
体を動かそうにも頭の痛みが強すぎて何も出来ない。前に進もうと一歩踏み出した途端にバランスを崩し、呆気なく床に崩れ落ちた。
「[クロウ]!?まさかお前も!」
「…っつ、ああ…っ!」
立たねば。
俺はこんなところで倒れてはいけないんだ。
せめて、[鬼柳]の意識が戻るまで――!!
その想いで胸がいっぱいになって、気力だけで立ち上がろうと手を伸ばす。その先には[鬼柳]が、狂介がいて――
狂介が、無邪気そうな眼でじっとこちらを静かに見下ろしていた。
やはりコイツは、ジャミングの影響を受けていない!だがそれは俺だけが狙われた結果なのかそれとも狂介がこんな妨害電波にも耐えうる構造をしているからなのか!?
分からない、頭が上手く働かない。まあでもきっとジャックと遊星がこの妨害電波についてのデータを今取っていてくれてる、後でそれを解析すればきっと全部分かる、全部全部…全部って何だ?何があって何が分からなくて何が分かりたくないんだっけ!?痛い痛い、痛みが意識を蝕んでいく。これ以上蝕まれたら俺はもう取り返しがつかなくなる、でも、でも俺はこんなところで――!!!

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





――全てのプログラムを強制終了。

柳星張 

May 04 [Tue], 2010, 11:57
[鬼柳]の記憶データを[クロウ]経由で、ジャックは彼が倒れた原因を調べている。
彼――[鬼柳]はまだ目を覚まさない。
[クロウ]は、寝台のようなものに横たわる彼の前で、簡素な椅子に座って黙っていた。だが、落ち着かない様子ではあったが。
狂介もずっと[鬼柳]を見ている。理由は[クロウ]と同じだろう。

「[鬼柳]…」

パソコンのキーを打って、件のチップの何層にも及ぶプロテクターを次々解除していく遊星だが、時折、結構な回数[鬼柳]の方を振り返る。当然手が止まっている。

「遊星、手が止まってるぞ。」

ジャックの声に、遊星はハッとした。

「すまない。」
「気持ちは俺も同じだ。だが、[鬼柳]の回路中枢に深刻なダメージはないから安心しろ。」

それを聞いて、いささか険しかった遊星の表情が和らぐ。
[クロウ]も同様に、さっきとは違う安堵の溜息をついて背もたれに寄り掛かる。

「うわっ!」

が、その椅子に背もたれが無い事を背中の感覚で気付き、慌てて体勢を立て直した。
そして2度目の安堵の溜息。

「全く…心配かけさせやがって…」

狂介は何の事だか分からない様子だったが、遊星や[クロウ]の様子から、[鬼柳]の無事を察したようだ。

「[鬼柳]は回路中枢を守る為に無意識だが強制的にシャットダウンしたのだろう…記憶データの最後がブッツリだ。」

強制終了が芳しいものではないことを、彼らは知っている。[クロウ]に至っては明日は我が身かもしれないのだ。

「……!」

ふと、ジャックのキーを打つ手が止まった。
目を見開いている。何かとんでもない事を見つけてしまったらしい。

「どうしたんだよジャック?」

[クロウ]が問うが、ジャックはまだ返答できる様子ではない。ただならぬ様子に、再び手を止めて遊星は目を細めた。

「…何者かがジャミングした痕跡がある。」
「ジャミング!?」

[クロウ]は思わず言葉を返した。ジャミングは主に電磁波を利用する通信妨害工作。調整の仕様によってはメカを著しい機能低下に陥れる事も可能だ。

「だが狂介は無事だった。」
「だとしたら、犯人は[鬼柳]にのみ標的を絞れるような高い技術を持っているか、」
「…狂介が[鬼柳]ほどの奴を倒すくらいのジャミングを意に返さなかったか。」

[クロウ]はそういいながら、[鬼柳]をじっと見守る狂介に目をやる。

「…少ない証拠で結論を出し急ぐのは危険だ。」

[クロウ]の視線を知ってか知らずが、遊星が言った。そして続ける。

「それから…[鬼柳]が倒れた時、確か子供の笑い声がした。」

こま 

April 27 [Tue], 2010, 0:19
走った。

[鬼柳]と連絡が取れないなんて、今まで経験したことがない。
ロボットの反応を探すも、どれも違うデータばかり。
いつもならすぐ見つけるのに、これだけ手間取ってるってことは俺自身同様してるのか。
それとも、

「くそ!何処にいやがる…!」


完全に、気を失ってやがるのか。

高いビルが並ぶ街を走り抜けて、薄暗い路へ入る。
あいつらは好んで人通りの多い所は通らない、もしかしたらの期待を秘めて走った。

「!遊星ッ![鬼柳]にメッセージが届かな…!」
「[クロウ]!いい所にきた、[鬼柳]を運んでくれ!」

目に飛び込んできたのは、狂介を抱いたまま遊星の腕の中でぐったりしてる[鬼柳]の姿。
最悪のパターンだ、何がどうなってんだよ!

「っ、ジャックが呼んでる。ジャックの所でいいか」
「ああ、頼む」

遊星から[鬼柳]を受け取って背負う。
狂介は遊星に託して、しっかりと遊星の腕を掴む。

「[クロウ]?」
「しっかり捕まってろよ遊星、ダッシュで戻るぞ」

遊星の声にならない声が聞こえた気がしたが、気にしない事にした。




「遅いぞ遊星!ん、どうした顔色が悪いぞ」
「…いや、何でもない…用はなんだ?」
「チップに強力なプロテクトが掛かっている、俺にはどうにも出来ん」
「なるほど、分かった。…ジャック、代わりと言っては何だが、お願いがある」
「お前からのお願いとは、また珍しいな。何だ」
「[鬼柳]が、倒れた」

顔を見なくても、ジャックの目が見開くのが分かる。
続けて口を開いた。

「[クロウ]が側にいる。今[鬼柳]の記憶データを貰ってるはずだ…原因を、調べてくれないか」
「…やってみよう」

ジャックが部屋を出るのを見て、ため息が出た。


「一体何がどうなっているんだ…」

五十嵐 叶 

April 20 [Tue], 2010, 1:01
「つまんないなー、もう」

 遊星たちが去った後の道に、二つの白い影が静かに佇んでいた。

 意識を失った[鬼柳]を、遊星は狂介ごと抱えて走って行った。狂介は一体何が起こったのかわからずに、自分を抱く[鬼柳]のことを心配そうに見上げている。時折[鬼柳]の服の端を引っ張ってみたりもするが、当然のことながら返ってこない反応に、どうしていいのかわからないようだ。そんな狂介のことは意識に入っているのかいないのか、遊星はただひたすらに走り続けた。

 そんな遊星をしばらく見つめるようにしていた影であったが、子供ほどの身長しかない方は飽きたかのようにくるりと踵を返した。それと頭三つは差があるのではないかと思われる方は遊星たちの姿が見えなくなった後もじっとそちらを見据えている。

 しばらく沈黙していた影であったが、ばさりと風が纏った真っ白な衣服を撫でていったのを皮切りに、片方が軽い口調で言葉を紡ぎ始めた。

「まさかあれくらいのことで気絶しちゃうなんてね。もしかして買いかぶりすぎたかな?」

「……」

「何、機嫌悪いの?言っとくけどあれは僕のせいじゃないだろ。あいつが弱すぎたんだ」

 気味悪く笑う小柄なそいつとは対照的に、長身の方は何も言わず黙ったままだ。その様子を不思議そうに眺めた後、小柄な方は一歩前を歩きながら心底つまらなそうに呟いた。呟くといっても辺りは人の気配もなくまったくの静寂に包まれていたために長身の耳にはしっかりと届いていたのだが。

「……あまりあいつを傷つけすぎるなと言われなかったか」

「そうだったっけ?まあ、大丈夫だと思うけどね」

 何故だ、そう問うような瞳に、小柄な方は再び甲高い声で笑い出した。

「だってそうじゃなきゃ楽しくないだろ?」

詠永 

March 20 [Sat], 2010, 23:25
 
「…あれ、」

俺の数歩後ろを歩いていた[鬼柳]が小さく呟き、歩みを止める。

「どうした、[鬼柳]?」

振り向き[鬼柳]に歩み寄り背中をさする。
頭を押さえて俯いている顔を覗き込むと、[鬼柳]は小さくうぅと唸る。

「遊星、なんか、頭ん中で変なノイズ、響いてる…痛い…」

そう言ってしゃがみ込んでしまう。
そんな[鬼柳]を見て流石の狂介も心配そうに腕の中から[鬼柳]の顔を見上げていて、背中をさする俺の方もちらちらと見てくる。

「痛い…」

俺の服を掴み、痛い痛いと繰り返す。
大丈夫じゃない事は見てよくわかる。俺だってどうにかしてやりたいのは山々だ。
ただ、[鬼柳]の言うノイズの原因が分からない。せめて家に帰ればメンテナンスが出来るのに。

「…[鬼柳]、歩けそうか?」

そう聞くと、[鬼柳]は小さく首を振る。あまりにも辛そうだ。
こうなれば抱き上げてでも連れて帰った方がいいのだろうか。
どうにも出来ずに頭の中でぐるぐると考えていると鬼柳が「あ」と呟いた。

「どうした、」

「なんか…多分、[クロウ]から、通信が…うぐっ」

「[鬼柳]?どうし…」

た、と聞き終わる前に、突然[鬼柳]が叫び声を上げる。

「…痛いッ!痛い痛い痛いぃ!!変なノイズのせいで…、[クロウ]からのメッセージ、頭痛い…っ!何かもうわかんない…っ、痛い、痛い!![クロウ]のメッセージもノイズのせいでわかんない、何言ってんのかわかんない痛い痛い頭いたいぃぃ!!!」

「[鬼柳]!!」

混乱状態の[鬼柳]に驚き狂介は肩を震わす。

どうにか[鬼柳]を落ち着かせようと肩を掴むと、[鬼柳]は小さく何かを呟き、気を失い倒れた。

「[鬼柳]…!?」

気を失っても尚[鬼柳]は狂介をしっかりと抱きしめ、離さない。
俺はとにかく早く[鬼柳]を連れて帰らないと、と思い[鬼柳]抱き上げる。

その時、何処からか子供の甲高い笑い声が聞こえた気がした。



 

維水 

March 06 [Sat], 2010, 22:09
「うーむ…」
「何わざとらしく溜め息吐いてんだよジャック」
ジャックがチップの解析を続けること1時間。そろそろジャックの集中力は限界が近いらしい。
先程からずっと唸ってばかりいる。正直五月蠅い。
「溜め息を吐いたところで、やるべきことが無くなるわけじゃないんだぜ?」
「それくらい分かっている。ただ、肝心な部分に強力なプロテクトがかかっているんでな」
「プロテクト、ねぇ…」
確かにそういうものに関してジャックは不得手だ。基本的に与えられた情報を解析して一から十を見つけ出すことがジャックの得意分野であって、そっちの方は寧ろ遊星の得意分野だ。
そういう点を鑑みるとやはりジャックと遊星のコンビは完璧なのかもしれない。
「じゃあどうすんだよ?」
「ここを変に弄ったらデータが飛んでしまう恐れがある…済まないが[鬼柳]に連絡を取って遊星をこちらに呼んできてくれ」
「だと思った」
ジャックは先程[鬼柳]があれ程荒れたのを覚えていないのだろうか。
狂介のことが気になって仕方がない[鬼柳]は、遊星がこちらへ来るというのなら確実についてくる。
そして遊星がプロテクトを解除したら、解除して何かが分かったら…。
「[クロウ]、早くしてくれないか」
「…少しは俺の葛藤を感じ取ってくれよ…」
扱いが荒いのは信頼故なのか俺をパシリと思っているからなのかは定かではないが、後者でないことを切に祈る。

「…って、あれ?」

「どうした[クロウ]」
「[鬼柳]と連絡が取れない」
いつもなら、メッセージを送ったら数秒後には必要以上にハイテンションに何かを言い返してくる[鬼柳]が、今回は何も言ってこない。
…何か、嫌な予感がする。
「ちょっと遊星達のところへ行ってくる!」
そう叫ぶと俺は家を飛び出した。背後からジャックが何かを言っていたがそんな言葉に耳を傾ける余裕なんて俺にはなかった。

柳星張 

March 03 [Wed], 2010, 8:25
帰り道、あのチップのこともあってか、[鬼柳]は狂介を放さぬようにしっかりと抱き抱えたまま、黙り込んでいた。
いつも表情がころころ変わるのに、ずっと浮かない顔だ。
マスターの遊星も遊星で、日頃から多弁ではないので、歩く道は足音を大きく錯覚させる。

「[鬼柳]、」
「なに?」

ようやく沈黙を破ったのは遊星だ。
しかし良い問い掛けを期待してないことが、[鬼柳]の表情からまざまざと分かる。

「そんな顔するな。」
「だって…」
「仮にだ。あのチップが狂介のもので、あの記憶が正しかったら、寧ろお前には好都合だ。狂介と別れなくてもいいかもしれない。」
「本当!?」

バッと、飛び付かんばかりの勢いで[鬼柳]が話に食い付く。実に分かりやすい。

「昔の俺が狂介に会っていたなら、マスターは俺の知り合い…いや、もっと近い人物かもしれない。しかも当時の技術で狂介ほどのロボットを作れる人は限られてくる。」
「…『もっと近い人物』って?」
「例えば…親。」

一つそう言うと、鬼柳は目をキラキラさせた。
喜んでいる。本当に分かりやすい。遊星はそう感じた。

「もし狂介のマスターが遊星の親なら、一緒にいられるね!」
「…だが、俺は親の記憶がほとんどないんだ…マスターどころかロボット作れたのかどうかすら…」
「え〜!?」

10秒吟味してから発言しろとはよくいったものだ。遊星は[鬼柳]の落胆した顔を見て、少し反省した。肩透かしをさせてしまったのはいささか罪悪感がある。
だが、じきにジャック達がチップを調べたら狂介のことも分かってくる。
[クロウ]に、まず自分に知らせろと言ったが、万が一それがかんばしい結果でなく、更に最悪[鬼柳]がそれを知ってしまったら。
それを考えると、無闇に期待を持たせてその時突き落とすよりは、今の方が衝撃が弱くて済む。
それに、仮にチップが狂介のもので、マスターが遊星の身近な人物なら、どうして記憶回線を切る必要があったのか。反対に、別の誰かが人為的に切った可能性もある。

「遊星?」

途中で、遊星は歩みを止めていた。それに気付いた[鬼柳]も歩みを止める。

「…[鬼柳]、もしお前の希望通りに事が進んだとして、その時狂介を守れるか?」

一体マスターは何を言い出すのか。[鬼柳]はその真意を理解出来なかった。
だが、

「当たり前じゃん!」

[鬼柳]は答えた。真意があろうとなかろうと関係ない。

「狂介は俺が守るんだ。」

そして、[鬼柳]は狂介の頭を撫でてやる。狂介を見るその目は優しいが、確かに強い意志を秘めていた。

「……」

遊星は無言で[鬼柳]を誉める。
狂介は何らかの事件に関わっている。考えすぎかもしれないが、越した事はない。









路地裏に、白い影が2つ立っている。
片方は子供のように小柄で、もう一方は長身だ。

「やれやれ、オーパーツのくせに僕達の手を煩わせるなんてね。」

小柄な方が、わりかし高めの声色で言う。

「俺はお前の愚痴なんぞ聞きたくない。」

長身の方は、それ相応の低い声だ。
その言葉に、小柄な方は含んだような笑みを浮かべて、無言で長身の方を見上げる。

「…まあいいや。尻尾を掴めば、」

小柄な方は目線を移した。

「面白そうなことが待ってそうだし。」

そこには折れた電柱が、倒れていた。

こま 

July 16 [Thu], 2009, 23:12
「…関係、ないよ…」

小さい声で、でも確かに聞こえる音量で[鬼柳]が言った。
見ると震えてて、若干泣きそうな顔をして、弱々しいのか強くなのか分からない程に狂介を抱きしめてた。

「遊星は狂介の事知らない、狂介も遊星の事は知らない。それでいいじゃないか」
「[鬼柳]…」
「だってどうしようもないじゃん!チップの記憶配線は切断されてる、じゃあどうしようもないじゃない!」
「おい[鬼柳]、お前いきなりどうし」
「[クロウ]だってそう思うよね!?それにそのチップだって狂介のだって決まった訳じゃないもん!」

無理矢理、納得させるかのような言葉の数々。
まあ確かに、この記憶チップが狂介のものって決まったわけじゃないのは確かだ。
それにこの記憶も、本当に正しいのか…。

「まあ、さ。まだ詳しい事調べてねーんだし、この話しはもっと分かってからにしね?」
「[クロウ]、お前」
「いや、ちゃんと俺も手伝うさ」

一時凌ぎだ。調べれば調べる程、謎は解ってくんだ。
もし…チップが狂介のものだったら、マスターが分かったら…

「だから、もう今日はお開きにしようぜ?」
「[クロウ]…あ、ありがと」
「また分かったら、連絡するさ」
「…[クロウ]」
「んあ?」

「[鬼柳]に連絡する前に、俺に連絡を入れてくれ」

小声、本当に俺にしか聞こえない程度の音量。
何故だ?と視線を送ろうとしたけど、やめた。なんとなく、理由はわかる。
わかった、と小声で一言返すと、遊星はジャックの方へ行ってしまった。

「ジャック、すまないな」
「まったく、面倒になったものだ。だが調べるならとことん調べてやるさ」
「ああ、頼む。[鬼柳]、帰るぞ」
「あ、うん!じゃあね、[クロウ]。ほら、狂介もバイバイしよ?」
「……」

さすがに、ガンは飛ばされなくはなったが、何とも言えない視線だな。
「じゃあな」と言って頭を撫でたら、若干嫌そうな顔をしてそっぽを向かれた。
…前よりかは、マシか?





「[クロウ]、お前はどうするつもりだ」
「あ?どうするって?」
「もし、狂介の記憶が解り、マスターも判明。…いや、判明しなくてもだ、もし危害を加える存在だとしたら、お前はどうするつもりだ」

それは、つまり[鬼柳]と最悪戦えるかという事か。
まだ何も解ってない。このチップが正しい記憶なのか、狂介のものなのかも。
もしかしたら人工的に造られたものかも知れない。

「その時は…俺が嫌われ役を買ってやるよ…」
「・・そうか。さぁ、詳しく調べるとするか」

五十嵐 叶 

July 14 [Tue], 2009, 23:06
「愚問だな。マスターがいるのならば、そいつに返すのが当然だろう」

「でも……」

「[鬼柳]」

「……うん」

 [鬼柳]はまだ何か言いたそうにしていたが、遊星にたしなめられてしぶしぶといった具合に口を閉じた。その横顔は不安と不満の2つで彩られている。そっと視線を外した先の狂介は、不思議そうに[鬼柳]の顔色を窺っていた。好奇を含んだその瞳には、[鬼柳]の姿がどう映っているのか。まあ何も考えてないのかもしれないが。

 それにしても、マスター。もっと別に言い方はなかったのかよ。それじゃああまりにもストレートに言いすぎだ。[鬼柳]がどれだけ狂介を大事にしてるのかわからないわけでもないだろうし。確かにジャックの意見には賛成なんだが。マスターがいるなら返すべきなんだろうな。

「もしいたら、だ。迷子だということも考えられるが、あるいはマスターに捨てられたか、すでにいない可能性もある」

 続く遊星の言葉に、狂介を抱く[鬼柳]の腕の力が少しだけ強くなったような気がした。

 初めて見た時、狂介の身なりは荒れ放題だった。服には汚れや破れが目立っていたし、髪はつやを失ってくすんでいた。今では遊星のおかげか、すっかり綺麗にされてるが。(服は遊星が縫ったのだろうか。その光景は少しシュールだ)

 どうやって今まで生活していたのかという新たな疑問が湧いてきた。叩けば埃が出る、とはちょっと違うか。叩けば謎がたくさん出てきそうだ。

「まあ、調べればわかることだ」

「頼んだぞ、ジャック」

「ああ」



 ジャックがチップの解析のために家へ戻り、[鬼柳]と狂介がそれについていってから3時間ほど経過した頃、[鬼柳]から通信が入った。内容は「すぐに戻ってきて」というもの。きっと狂介について何かしらわかったことがあるのだろう。

「しかし何なんだろうな、狂介って」

「わからない。誰が何の目的で造ったのか」

「戦闘用ってわけでもなさそうだしなぁ」

 あたりを一通り探したものの、手がかりになりそうなものは何もなく、そろそろ俺たちも行くかという雰囲気になっていたところへの呼び出しだった。恐ろしいほどちょうどいいタイミングだ。休憩がてら座り込んで適当にしていた会話を中断して、遊星に通信内容を伝えてから、3人がいる家へと戻ってきたのが、ちょうど今。

 [鬼柳]と狂介はあまりに暇だったらしく(人に労働押しつけて暇も何もないが)、ベッドの上で2人飛び跳ねて遊んでいる。ジャックが何か怖い顔で睨んでいるが、それは見なかったことにしよう。遊星は待ちきれないとでも言いたげに、早急にジャックの元へと歩み寄っていた。

「どうだ」

「遊星、狂介のことを知らないというのは本当なんだな」

「どういうことだよ?」

「ああ、本当だ」

 いつの間にか[鬼柳]と狂介もベッドから下りてジャックの顔を見上げている。

「狂介のメモリの中に貴様、正確には幼い頃のものだが、その姿があった」

 ジャックの目は真剣そのものだ。嘘や冗談を言っている風ではない。指先が机を打ち鳴らす規則的な音だけが、しばらく部屋中に響き渡る。

 遊星は驚き以外の表情を作れなかったらしい。確認できないが、きっと俺も同じ状態だ。そんな中、最初に自分を取り戻したのは[鬼柳]だった。

「でも、狂介も遊星のこと知らなかったよ?」

「記憶をつかさどる配線の一部が切断されていた。くわしく調べたわけではないが、おそらく人為的なものだ」

「おいおい、一体どうなって……」

「わからん」

 俺は今更ながら、この得体の知れないロボットである狂介を恐ろしいと感じた。一体俺たちは何に関わってしまったのか。

詠永 

July 09 [Thu], 2009, 16:03
 
「何、それ?」

[鬼柳]が呟くと、遊星は[鬼柳]の目の前にチップをかざして、若干笑顔になる。
遊星は何かと物を拾って来てはこの満足気な顔をしている。
きっとマスターがこんな何でも拾ってくるやつだから[鬼柳]も狂介みたいなのを拾って来たんだと思う。

「おそらく狂介のものだろう。中には狂介について…もしくは狂介そのものの記憶が入っているんじゃないか?」

遊星はチップをまじまじと見つめ、このタイプは見たことが無い、だとか最新版…もしくはかなりの古いタイプか?だとかぶつぶつ言っている。
そんな遊星が見つめているチップを[鬼柳]は何故だか凄く不安気な表情で睨んでいた。

「狂介の…記憶…」

それを知ってか知らないでか、遊星は[鬼柳]に背を向け、チップをジャックに投げる。

「ジャック。チップの中身を調べるのを頼んでもいいか?俺達はもう少し何か無いか近くを探してみる」

そう言う遊星は何というか、わくわくした表情をしていた。

「わかった任せろ。…俺は一旦帰るが、[クロウ]は残って遊星達を手伝え」

俺が「はいよ」と適当に返事をするとジャックは歩き出した。
その時、[鬼柳]がいきなりジャックの長ったらしいコートの裾を掴んでジャックを止めた。

「ま、待って、ジャック…」

「…なんだ」

ジャックが渋々と振り返る。きっとジャックもチップの中身が気になって帰りたくて仕方ないんだろう。
[鬼柳]はコートの裾を掴んだまま、あーとかうーとか言って、はっきりしない。

その状態のまま暫くするとジャックが痺れを切らした。

「だから!何なんだ[鬼柳]!?」

「うっ…ごめんなさい…!でも…!……ねぇジャック、もし、そのチップで、全部狂介の事がわかったらどうするの…?」

目線を合わせない[鬼柳]に、ジャックは不審な顔を向ける。

「お前は…狂介の事を知りたいんじゃなかったのか?」

「そうだけど…そうじゃなくて…」

また[鬼柳]はどもり始める。ジャックもかなりイラつき出している。
そんなジャックの目が怖かったのか[鬼柳]はジャックのコートから手を離し、両手でぎゅっと狂介を抱きしめた。

「…もし、もし狂介がどこかよその子で、マスターが居たなら、帰っちゃうの…?」

そう言う[鬼柳]の顔は今にも泣きそうだった。
P R
2010年05月
« 前の月  |  次の月 »
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
最新コメント
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:名前など必要ないわ
読者になる
Yapme!一覧