「招福巻」事件とブランド管理 

2011年01月05日(水) 21時46分
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1 今回の判例 招福巻事件とブランド管理
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大阪高裁 平成22年1月22日判決

X社が、「招福巻」(本件商標)という商標権(本件商標権)を有していました。他方、全国でスーパーマーケットを展開するY社は、各店舗で節分用に販売した巻き寿司の包装に「十二単の招福巻」という標章(Y社標章)を付していました。

これに対し、X社は、このY社の行為がX社の商標権を侵害するとして、前記行為の差止を求め、かつ損害賠償を請求しました。

なお、Y社は、広告ビラに「穴子、海老など色とりどりの12種の具材を贅沢に使った恵方巻です。」という紹介文とともに、ゴシック体文字で「十二単の」の部分を小さく横書きし、かつ、「招福巻」の部分を大きく横書きしていました。


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2 裁判所の判断
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大阪高裁は、以下のように判断しました。

● 本件商標とY社標章とは類似する。
● しかし、Y社標章にある「招福巻」の部分は、商標法26条1項2号の「普通名称」に該当する。
● 本件商標の商標権の効力は、Y社標章には及ばない、つまり、Y社標章の使用は、本件商標権を侵害していない。


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3 解説
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(1)商標権が及ばない場合の例:「普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」

 商標法26条1項各号は、ある商標権の効力が及ばない(つまり商標権の侵害とはならない場合)を列挙していますが、その一つが、同項2号の、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標」です。

 普通名称を商品名などに使用しても、商標としての機能(自他商品識別機能、出所表示機能)が失われますし、そもそも普通名称につき特定人に独占的使用を許すことは社会経済上適切ではないからです。


(2)商標の普通名称化とその原因

 商標として登録された名称であっても、その後普通名称となってしまうことがあります。つまり、登録時には、ある名称が、特定の企業が提供する商品を識別する標識としての機能(自他商品役務識別機能、出所表示機能)を有していたところ、徐々にその機能が弱まって消失し、取引者や消費者といった需要者の間で、その商品や役務を表す一般的名称として意識されるに至ることがあります。これは「商標の普通名称化」といわれています。

 商標が普通名称化する原因にはいくつかありますが、その主なものを取り上げると次のとおりです。

● 商標権者がブランド管理を怠った場合
 ある商標が広く知られ、周知・著名になった場合、これを無断で同種の商品に使用しようとする事業者が多く出現するようになります(いわゆる「ただ乗り」「フリーライド」です。)。このときに、商標権者が、適切な禁止措置をせずに放置する場合があります。その結果、多数の事業者がその商標を広範囲に使用するようになり、消費者などの需要者から見ればその商標を見ても特定の会社の提供する商品の名称であるという認識を持たないようになり(商標が自他商品識別力を失い)、普通名称化することがあります。

● もともと自他商品識別力が弱い商標の場合
 もともとの商標が、元来強い自他商品識別力を発揮持たないいわゆるウィークマークである場合、普通名称化しやすい傾向があります。このウィークマークの中には、その商品の、品質、原材料、効能、用途などを表示する語や、これらの略称を組み合わせることにより構成した商標があります。


(3)ビジネス上の留意点 〜 不断のブランド管理の重要性

 すでに述べたとおり、商標が普通名称化すると、商標としての機能は失われ、商品などに用いても、顧客吸引力を発揮しなくなりますし、第三者による無断使用を排除することができなくなります。その結果として、これまでの営業努力によって築きあげられたブランドとしての価値を失いますので、その商標権を保有していた企業にとっては、大きな財産的損失となります。

 それで、商標権者は、自社商標の普通名称化を阻止するために不断の努力を払う必要があります。つまり、同業者等が自社商標を無断で使用していないか、また、市場において取引者等が自社の登録商標を商品の慣用的な名称として使用していないか、等を常に監視しなければなりません。そして、無断使用や不適切な慣用的名称としての使用が発見された場合には、適切な対処をする必要もあります。

 具体的には、同業者の無断使用に対して適宜に警告を発したり場合によっては裁判上の差止請求をすることが考えられます。また、不適切な慣用的名称に対しても、使用を中止してもらう、表現を改めてもらう、この名称が自社の商標であることを明示してもらう、といったことを求めていきます。

 自社商標の使用状況を監視する方法のうち、主なものを取り上げれば以下のとおりです。なお、個々の手段についての詳細な解説は、別の機会に譲りたいと思います。

■ 新聞(業界紙含む)、雑誌、書籍、辞書(専門用語辞書を含む)のチェック
 自社商標が普通名称や商品の慣用的な名称として使用されていないかチェックします。

■ インターネット上での使用状況のチェック

■ 現実の営業活動における情報収集
 現実の営業活動において、同業他社・商品の納入先等が自社商標と同一・類似の商標を使用していないか、使用方法が適切かをチェック します。

■ 他社の広告、チラシその他の宣伝媒体のチェック

■ 自社商標と類似商標の出願・登録情報のチェック
 本来は登録されるべきでない自社商標と類似の商標が出願・登録されていないかチェックします。

商標の「使用」と不使用取消 

2011年01月05日(水) 21時45分
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1 今回の判例  商標の「使用」と不使用取消
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知財高裁平成21年10月8日判決

 X社は、時計、貴金属を含む第14類の複数の商品を指定商品とする「DEEP SEA」という登録商標を有していました。これに対し、Y社が、この商標について、不使用取消審判を申し立てました。この判決は、不使用取消を認めた特許庁の審決に対して提起された審決取消訴訟にかかるものです。

 X社の当該商標の使用態様は、腕時計(ダイバーズウォッチ)の文字盤に、中心から上部に「ELGIN INTERNATIONAL」の文字が表され、さらに文字盤の中心下部から、順に「WATER RESISTANT」「AUTOMATIC DEEPSEA」「660ft=200M」「DATE」と4段で表示され、このうち、「AUTOMATIC DEEPSEA」の文字が、他の部分とは異なり赤色で表示されている、というものでした。

 特許庁は、以下の理由で、不使用取消を認めました。

● DEEPSEA」の欧文字は、いずれも腕時計の機能及び主な仕様表示であることを容易に認識させる「WATER RESISTANT」、「AUTOMATIC」、「660ft=200M」、「DATE」とともに表示されている。

● 「AUTOMATIC DEEPSEA」の後半の「DEEPSEA」の文字は、その下段の「660ft=200M」とあいまって、水深200メートルの深海においても使用できる機能及び主な仕様表示として認識される。

● 以上から、腕時計に表示された「DEEPSEA」の使用は、商標の本質的機能である自他商品識別機能を果たし得ないものであって、商標法上の商標としての使用ということはできない。


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2 裁判所の判断
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 知財高裁は、以下のように判断し、X社が「DEEP SEA」を商標として使用していた事実を認め、審決を取り消す判決を下しました。

● 「DEEPSEA」については、次行の「660ft=200M」の表示とあいまって、需要者において、水深200メートルの深海においても使用できる耐水性を有する機能を表示するものと理解し得る可能性がある。

● しかし、「DEEPSEA」の語は、深い水深の場所でも使用できる腕時計の品質を表示する語として一般的に使用されているものではない。かえって、「深海」の意味を示す用語として、需要者において、深海や深い海の神秘的なイメージをも与えていると理解することができる。

● このことは需要者に対して、「DEEPSEA」の表示が、X社商品に自他商品識別機能を果たす態様で用いるものとして付されているということができる。

● 商品に付された1つの標章が常に1つの機能しか果たさないと解すべき理由はなく、「DEEPSEA」の表示が耐水性機能を表示すると理解し得るとしても、同時に、自他商品を識別させるために付されている商標でもあると解することができる。

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3 解説
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(1)商標の不使用取消審判

 ある登録商標が一定期間(3年間)使用されていない場合、第三者は、これを理由として、特許庁に対し、その登録商標の取消の審判を請求することができます。これを、不使用取消審判といいます。

 商標は、特許等と異なり、商標そのものに価値があるわけではありません。むしろ、商標が事業活動に使われ、その商標に信用が化体し、他の商品と識別されるようになることで初めて価値が生じることになります。他方、現実に使われていない商標には価値が乏しい上に、現実に使用したいと思う他者がこれと同一又は類似する商標権を取得できないといった不都合があります。そのような不都合を解消するための制度が不使用取消審判です。


(2)不使用取消審判の概要

 不使用取消審判の概要は次のとおりです。

 A 審判を請求できる人
  請求が権利の濫用と判断される場合を除き、利害関係人に限らず、誰でも請求することができます。

 B 取消効果の遡及
 ある登録商標が不使用だと判断された場合、取消の効果は、審判の日から将来にわたってのみ生じるものではなく、審判請求の登録日まで遡ります。

 C 駆け込み使用の防止
  先ほど述べたとおり、不使用取消審判が認められるためには、登録商標が過去3年間使用されていないことが必要で、逆にいえば商標権者は過去3年間のいずれかの時点で使用したことを証明すれば不使用取消を免れることができます。
 しかし、商標法は「駆け込み使用」では、不使用取消審判を免れるための「使用」とは認められないことを定めています。つまり、この登録商標の「使用」が不使用取消審判請求前3か月以内の使用であり、その使用がその審判の請求がされることを知った後であることを
請求人が証明した場合には、正当な理由がない限り、この「使用」は、不使用取消審判を免れる「使用」とは認められないことになります。


(2)商標の「使用」とは

 以上のとおり、商標の不使用取消審判においては、商標権者は、その商標を使用していたことを証明する必要があります。それで、商標権者は、商標法が意味するところの「使用」をしている必要があり、この「商標の使用」の意味が問題となります。

 一般に、商標の本質的機能は、自他商品識別機能と商品の品質保証機能であると言われています。それで、ある商標が商品に関して使用されていても、客観的に見てこれら商標の本質的機能である自他商品識別機能及び商品の品質保証機能を有せず、また、その主観的意図からしても商品の出所を表示する目的をもって表示されたものではないと認められれば、その使用は、商標法上の「商標の使用」とはいえない、ということになります。


(3)商標権の保全と商標の使用態様

 今回の判例の事案では、商標権者であるX社による「DEEPSEA」の使用は、裁判所によって、辛うじて商標法上の「商標の使用」と判断されました。しかし、特許庁では不使用取消の判断がなされたとおり、今回の使用は、別の見方(商標法上の使用とはいえないという見方)もありえる、やや危うい使用態様であった、ということもできると思われます。

 ある商標が商標法上の「使用」といえるか否かの判断は、ケースによっては困難なものもあります。そのことは、この点に関する判例が少なくないことからもいえます。自社にとって重要な商標であれば、具体的な商品への使用に関しては、その商標がきちんと保護されるように万全を期すべく、デザイン段階から、弁理士や知的財産を重点的に取り扱う弁護士へのアドバイスを求め、商標法上の使用といえるか否かを検討する必要もあるのではないかと思われます。

独占禁止法と大規模小売業者告示 

2011年01月05日(水) 21時45分
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1 今回の判例   独占禁止法と大規模小売業者告示
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平成21年6月19日公正取引委員会排除措置命令

 今回は、第40号のケースと同様、裁判所の判例ではなく、公正取引委員会の排除措置命令を取り上げます。

 X社は、家具、家庭用品、工具・住宅用建材などのDIY用品等の小売業を営む会社です。

 公正取引委員会は、X社に対する調査を行った結果、X社の納入業者に対する行為の中に、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(大規模小売業者告示)第1項、第2項及び第7項に違反する行為があると判断し、排除措置命令を発しました。

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2 公正取引委員会の判断
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 公正取引委員会は、主に、X社の以下の行為を違反行為として排除措置命令を出しました。

(1) X社は、店舗の閉店又は改装に際し、当該店舗の商品のうち、当該店舗及び他の店舗において販売しないこととした商品について、その商品の納入業者に対し、納入業者に責任がないにもかかわらず、当該商品を返品している。

(2) X社は、家具商品部で取り扱う商品のうち、定番商品から外れたこと又は店舗を閉店するに当たり当該店舗において売れ残ることが見込まれることを理由として割引販売を行うこととした商品について、当該商品の納入業者に、納入業者に責任がないにもかかわらず、当該割引販売に伴う自社の利益の減少に対処するために必要な額を当該商品の納入価格から値引きさせている。

(3) X社は、店舗の開店、改装又は閉店に際し、当該店舗に商品を納入する納入業者に、当該納入業者の商品以外の商品を含む商品の搬入等の作業・商品の陳列等の作業を行わせることとし、派遣の条件について合意せず、かつ、派遣のために通常必要な費用を負担することなく、従業員等を派遣させている。

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3 解説
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(1)不公正な取引方法と公正取引委員会の指定

 独占禁止法は、私的独占やカルテルなどの不当な取引制限を禁止するとともに、競争の実質的制限に至っていない公正な競争を阻害するおそれのある行為を「不公正な取引方法」として禁止しています。

 独占禁止法2条9項によれば、「不公正な取引方法」の具体的な内容は、公正取引委員会が指定することになっています。この公正取引委員会の指定には以下のものがあります。
 (a) 一般指定:すべての業界に一般的に適用される指定
 (b) 特殊指定:一定の業界のみを対象とした指定
 
 現在特殊指定がされている業界としては新聞、大規模小売業、教科書、海運、食品缶詰・瓶詰などがあります。
   

(2)大規模小売業者告示の概要

 今回の違反行為として指摘された「大規模小売業者告示」も、この特殊指定の一つです。この指定は、百貨店、スーパー、ホームセンター、専門量販店、コンビニエンスストア本部等の大規模小売業者が、納入業者に対して、優越的地位を濫用して行われている不当な行為を規制するために定められました。

 規制の対象となる大規模小売業者は、おおむね、売上高100億円以上の小売業者又は店舗面積1500平米以上(ただし特別区と政令指定都市については3000平米以上)の店舗を有する小売業者です。そしてこの大規模小売業者と、納入業者との取引が規制の対象となります。

 具体的に規制される内容は、上記の主に以下のとおりです。
 ● 大規模小売業者が購入した商品の不当な返品
 ● 不当な値引き(大規模小売業者が商品を購入後に値引要求をすること等)
 ● 不当な委託販売取引、特売商品等の買いたたき
 ● 特別注文品の受領拒否
 ● 押し付け販売等(納入業者に自己の指定する商品等を購入させること等)
 ● 納入業者の従業員等の不当使用
 ● 不当な経済上の利益の収受等


(3)取引条件の交渉と独占禁止法

 以下、納入業者側にとって、この大規模小売業告示などの独占禁止法上の規定をどのように活用できるかを考えてみたいと思います。この点、確かに、納入業者にとっては、大規模小売業者から本来の取引条件にはない不当な要求が求められた場合であっても、取引の継続を危ぶむことからこれを断るのは難しいと感じる場合もあるでしょう。

 しかし、必ずしも最初からあきらめる必要はないように思われます。公正取引委員会が実施した大規模小売業者に対するアンケート調査では、『大規模小売業告示を知っている者は92%であり、そのうちの97%が同告示の内容についても「よく知っている」又は「ある程度知っている」と回答』『89%が「社内の全職員に周知されている」「比較的多くの部署又は職員に周知されている」又は「一部の部署又は職員に周知されている」と回答。この結果から、告示等が大規模小売業者の社内において、おおむね周知されている状況が認められる。』と述べられています。

 また、公正取引委員会の「大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査報告書」(出典1)では、各種の不当な行為又はその要請について、取引先大規模小売業者からこれらの不当な要請があった場合にどのように対処しているかについて、以下のような回答があったとしています。
 ● 断るようにしている 20.0%
 ● 告示を引き合いに出して断るようにしている 4.6%
 ● 応じるようにしている 14.7%

 そして、同報告書は、不当な要請に対し「断るようにしている」「告示を引き合いに出して断るようにしている」と回答した者のうち、「不当な要請を断ったことを理由として不利益な取扱いを受けたことがある」と回答した者は4.4%となっている、と述べています。

 また、平成20年度食品産業における取引慣行の実態調査報告書(平成21年3月 財団法人 食品産業センター 出典2)は、全般的に量販店との取引において、最近3年間位の間に取引慣行に関して小売側に改善を認めるかとの設問に対し、「かなりの改善が認められる」(11.0%)+「ある程度の改善が認められる」(53.1%)の回答の合計(64.1%)が、改善傾向が足踏み状態にあった前回調査に比べると若干改善し、4年連続で50%を上回った、と述べ、「取引慣行の改善はなかなか進まない状況にあるという結果となったが、ここ数年の流れでは全体として緩やかではあるが改善していることは、これまでの調査結果にも表れて」いると述べています。

 以上のような調査結果が実態を反映しているとすれば、大規模小売業者の多くが大規模小売業告示についてある程度知っていることになります。そしてその告示違反については、独占禁止法の不公正な取引方法に該当し、排除措置命令等の行政処分を受けるほか、差止請求・損害賠償請求の対象となることなど重大なペナルティが課されうることもある程度認知されていると思われます。また、平成21年の独占禁止法改正で、優越的地位の濫用行為が継続して行われた場合が、新たに課徴金の対象となりました。

 そして、上記の実態調査結果によれば、不当な要求に対して「応じる」と回答する事業者も少なくないものの、すでに、断ることとしている事業者は応じると回答する事業者よりも上回っています。

 以上を考えれば、納入業者としては、契約や取引の場面において、納入先の小売業者からの不当な要求に対し、要求に応じない方向で交渉することが非現実的とはいえないと思われます。この点、納入業者においては、大規模小売業告示やその運用基準の概要をある程度知っておくことは重要ではないかと思われます。そうすれば、小売業者からの不当な要求に対し、これらの規定に抵触する旨を指摘することで、小売業者に対し不当な要求を思いとどまらせる一つの理由になると思われます。

 近年ではコンプライアンスがますます重要視されてきていますので、中小企業においても、法律の知識を一つの手段としてできる限りの交渉を行うことは、結果として自社を守るための一つの有効な手段となるのではないかと思われます。

出典1
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/06.december/06122604-01-hontai.pdf

出典2
http://www.shokusan.or.jp/publication/index.html

「SIDAMO」商標事件と記述的商標 

2011年01月05日(水) 21時44分
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1 今回の判例  「SIDAMO」商標事件と記述的商標
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知財高裁 平成22年3月29日判決

原告であるエチオピア連邦民主共和国(X国)は、指定商品を「コーヒー、コーヒー豆」とする商標「SIDAMO」(「本件商標」)について商標登録を取得したところ、被告である全日本コーヒー協会が、当該商標登録の無効審判請求をしました。

特許庁は、(1)本件商標は、エチオピア国内のコーヒーの産地であるシダモーコーヒーエリアを表しており、商品の産地である地理的名称を用いた商標であること(商標法3条1項3号)、及び、(2)他の商品に使用された場合に、商品の品質の誤認を生ずる恐れがあること(商標法4条1項16号)を理由に、本件商標の登録は無効であると審決しました。

これを不服とした原告が、特許庁が挙げる上記(1)及び(2)の理由は誤りであるとして、無効審決の取消しを求めたのが本事案です。

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2 裁判所の判断
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裁判所は、X国の請求を認めました。ただし、裁判所は、特許庁の(1)の判断は取り消し、(2)については、特許庁の判断を支持しました。以下は、(1)の理由に絞って述べます。

○本件商標が、その指定商品である「コーヒー、コーヒー豆」について用いられた場合、コーヒー豆の産地というよりも、コーヒー又はコーヒー豆の銘柄又は種類を指すものとして用いられることが多く、本件商標は、自他識別力を有する。

○本件商標が、X国による品質管理の下でエチオピアから輸出されたコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒーについて用いられている限り、かつ、商標権者がX国である限り、その独占使用を認めるのが公益上不適当でもない。

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3 解説
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(1)商標の不登録事由:記述的商標

商標法3条1項各号は、登録に適さない商標を列挙していますが、本件で問題となったのは同項3号の「商品の産地、販売地、品質、その役務の提供の場所、質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」です。

それは、このような商標を登録し独占使用を認めてしまうと、取引に関係する人たちが誰でも使用する必要がある、産地、販売地、その他の特徴を表示することが妨げられてしまいますが、そのような結果を生むような商標の独占使用を認めるのは公益上適当ではないとされているからです。

また、産地や販売地は、取引上普通に使用されるものですので、これらを商標として使用しても、多くの場合、自分の商品を他の商品から識別する機能(「自他商品識別力」)に欠け、結果として商標としての機能を果たさない可能性も高いからです。


(2)ビジネス上の留意点

今回の判決は、産地名を使用した商標であるにも関わらず、記述的商標と判断されず、登録が維持されたものでした。しかし今回の判決は、本件の事例のもとでの判断ですので、これを一般化することはできません。

商標法においては産地等を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は登録されないのが原則、という点は頭に入れておく必要があり、商品名の選択では、このような商標を選択することは極力避けるべきでしょう。

もっとも、ある商品について、その産地等を表す表示が消費者にアピールできると思われる場合、それらの表示を商標として組み入れたいと考えることでしょうし、それ自体は不可能ではありません。

この点、登録できない商標は、「普通に用いられる方法」で表示する標章「のみからなる」商標ですので、これらのいずれかの要件を外せば、不登録事由にはならない、ということになります。

例えば「普通に用いられる方法」と判断されないようにするためには、ロゴデザインの視覚的特徴に強い印象を持たせるようなデザインをする、といった方法が考えられます。

また、「のみからなる」という要件の適用を回避するために、他の造語・図形・記号と組み合わせることもできます。

以上のとおり、ある商品やサービスに商標(商品名)を選択する時点で、その商標について商標登録を受けられる可能性を検討し、商標法の観点も踏まえて商品名を選択することは重要であると思われます。そうしないと、いったん選択して営業努力によって信用を築いた商品名が、いざ登録されずに至り、商標の選択をやり直さなければならない、ということになりかねないからです。

特許実施契約とライセンシーの調査義務 

2011年01月05日(水) 21時44分
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1 今回の判例  特許実施契約とライセンシーの調査義務
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知財高裁平成21年1月28日判決

 X社が、Y社との間で、Y社の特許につき専用実施権設定契約を締結し契約金を支払い、同特許の実施製品とされたZ装置を使用しました。しかしその後、同特許を無効とする審決が確定しました。また、実際は、このZ装置は、同特許の実施製品でもありませんでした。それで、X社は、同特許にかかる装置を独占的に使用することができなくなったという理由で、Y社に対し、損害賠償請求と不当利得返還請求をしました。

 X社は、請求の理由の一つに、「錯誤」を挙げました。すなわち、X社は、Z装置が同特許の実施製品であると考えて実施契約を締結したもので、Z装置が同特許の実施製品ではなかったという事実との間に錯誤があった、それゆえにこの実施契約は無効である、という主張です。


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2 裁判所の判断
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 知財高裁は、実施契約を締結するに当たり、X社の認識した事実に何らかの点で誤りがあったとしても、それは重大な過失に基づくものというべきであり、X社が実施契約の無効を主張することはできないとしました。

 それは、営利を目的とする事業を遂行する者は、自ら調査検討して契約を締結する義務がある、という理由からです。

 すなわち、契約を締結する際の取引の通念として、「発明の技術的範囲がどの程度広いものであるか」、「当該特許が将来無効とされる可能性がどの程度であるか」、「当該特許権(専用実施権)が自己の計画する事業においてどの程度有用で貢献するか」等を総合的に検討、考慮することは当然であり、かかる調査検討を怠ったことは重大な過失である、という判断でした。


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3 解説
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(1)錯誤とは

民法では、契約やその他の意思表示の「要素」に「錯誤」があった場合、その契約等が「無効」となる、と定められています。例えば、判例に表れた例としては、土佐犬の売買契約につき、買手が当該犬が全国横綱としての実績を有し即時試合出場可能な闘犬であるものと誤信したが、実際はフィラリア症に罹患して激しい運動ができる状態ではなかったという事実のもとで、売買契約に錯誤があったと認めた例があります。


(2)契約締結と事業者の調査義務

本件では、特許実施契約について、ライセンシーであるX社が主張したのは、この「錯誤」でした。しかし、民法は、錯誤に陥った者に重過失がある場合には、無効を主張することはできない、と述べています。

この点で知財高裁は、X社が使用するZ装置が仮にY社特許の実施製品ではなかったとしても、それは、ライセンスを受ける者が調査して判断すべきことであって、調査検討を怠ったことには重過失があったとしたわけです。

この点、多くの場合、ある特許の技術的範囲や無効理由の有無などには高度な専門性が必要な難しい判断が必要ですが、知財高裁は、「仮に、自ら分析、評価することが困難であったとしても、専門家の意見を求める等により、適宜の評価をすることは可能である」と述べました。

「営利を目的とする事業を遂行する者は、自ら調査検討して契約を締結する義務がある」という理屈は事業者にとっては厳しいように思えるかもしれませんが、銘記しておくべき点ではないかと思われます。そして、特許実施契約であれば、そして特に関係する特許が自社の事業を大きく左右するような重要なものであれば、弁理士などの専門家にその特許と自社の事業との関係などを調査してもらうことは決して無駄なコストではないでしょう。


ピンクレディーdeダイエット事件とパブリシティ権 

2011年01月05日(水) 21時43分
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1 今回の判例  ピンクレディーdeダイエット事件とパブリシティ権
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知財高裁 平成21年8月27日判決

ある女性週刊誌が掲載した「ピンク・レディーdeダイエット」と題する記事において「ピンク・レディー」の写真を無断で使用したことについて、ピンク・レディのメンバーであった歌手2名(AB)が、この記事についてパブリシティ権(肖像権)の侵害を主張し、出版社C社に対し、損害賠償請求をしました。

この記事は、ピンク・レディーが歌唱し演じた楽曲の振り付けを利用してダイエットを行うという記事で、振り付けを実質的に説明する部分が約3分の2を占め、ピンク・レディーの写真は誌面の3分の1程度でした。

また、使用された写真は、かつてC社がABを取材したときにABの許可を得て撮影した写真でした。ただし、写真を今回の記事に使用することについては許可は得ていませんでした。

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2 裁判所の判断
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裁判所は、ピンク・レディー側の請求を認めませんでした。つまり、パブリシティ権の侵害を否定しました。その理由は以下のとおりです。

● 写真の使用は、ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをするという記事に関心を持ってもらうため、また、社会的に著名な存在であったピンク・レディーの振り付けを記憶喚起のための手段として利用されているにすぎない。

● 写真は、C社が保管していたものを再利用したものではないかとうかがわれる。

● 以上を考慮すると、当該記事における写真の使用は、ABが社会的に顕著な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担を超えて、自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利が害されているものということはできない。

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3 解説
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1)パブリシティ権とは

 CMなどの宣伝に著名人が起用されるのはなぜでしょうか。それは、有名人の肖像や名前を使って商品やサービスを宣伝すると、販売が促進されると考えられているからです。また、同様の理由で、商品やサービスに著名人の写真や名前が使用されることも珍しくありません。

 このように、著名人の氏名や肖像は、それ自体が顧客吸引力を備えますので、一つの経済的利益又は価値を有するようになります。この、自己の氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利(つまり無断で第三者に使わせない権利)を、パブリシティ権といいます。

 したがって、第三者が、ある著名人の肖像や名前を使って商品やサービスを宣伝したり、肖像や名前を商品に使用したりすることは、その著名人の許諾(ライセンス)を受けない限りこのパブリシティ権を侵害することになり、原則として許されないわけです。


2)パブリシティ権とビジネス上の留意点

 今回の判例では、著名人にパブリシティ権の成立が認められる場合であっても、一定の場合には、その氏名や肖像の他者による使用を一定の限度で甘受しなければならない場合がどういう場合か、その範囲を明らかにしたものでした。

 この判例は、何らかの商品・サービスにおいて著名人の氏名や肖像を使用しなければならないような事業者にとって、許諾を受けずに行えるのか否かを判断するに当たって、一定の参考になると思われます。

 例えば、著名人の写真を使うのであれば、まず自ら撮影したり合法的に入手した写真を使うのは当然であり、他のウェブサイトから無断で使用するなどは問題でしょう。また、著名人の写真や氏名の使用が、あくまでも商品やビジネスの主たる目的に必要な範囲の副次的・付随的な用途である必要もあり、著名人の写真や氏名の顧客吸引力を利用することが目的・用途の一つと考えられるような使用は避けるべきでしょう。また、写真についていえば、写真自体が鑑賞の対象になるような写真の使い方も避けるべきでしょう。

 この点、今回の週刊誌の記事の場合は、「写真の使用は、ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをするという本件記事に関心を持ってもらい、あるいは、その振り付けの記憶喚起のために利用している」とされ、パブリシティ権の侵害は認められないとされました。

 しかし、実際のところ、上記のような、許諾を受けずに著名人の氏名・写真を商品やビジネスに使えるケースは、さほど多くはないと思われます。というのは、例えばカレンダーなどに写真を使えば著名人の肖像の顧客吸引力の利用がその主たる用途といえるのが通常でしょうし、他の一般的な商品でも、著名人の写真を、顧客吸引力の利用が主たる目的の一つとはいえないような用途で商品に使用するケースは稀だからです。

 また、実際のところ、今回の判例の判断に立っても、ケースバイケースで事実関係によっては結論(ある使用がパブリシティ権の侵害になるか否か)は変わり得ますので、いずれにせよ、許諾を受けることが最も安全であることは間違いありません。許諾を受けずに使用することを検討する場合には、判例の正確な理解と実際の事案への当てはめ等に関し、「素人判断」をするよりは、弁護士の意見を聞きながら慎重に進めることが望ましいと思われます。

オークション出品カタログと著作権 

2011年01月05日(水) 21時41分
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1 今回の判例  オークション出品カタログと著作権
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H21.11.26 東京地裁判決

 美術オークション会社であるA社が、オークションに出品する美術品の画像を、カタログ等に掲載しました。これに対し、その美術品の作家が、著作権の侵害を理由に提訴したのが今回の事案です。

 争点は多数ありますが、ここでは、「展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か」という論点に絞ります。

 ここでA社は、カタログとパンフレットは、オークション等で著作物(美術品)を展示するに当たって観覧者にその著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法47条の「小冊子」に該当するので、これに美術品の画像を掲載したことは適法な行為であると主張しました。

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2 裁判所の判断
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裁判所は、以下のように判断しました。

● 著作権法47条の「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは、「小冊子」に当たらない。

● A社のカタログは、このカタログが綴じ込まれたフリーペーパーは、6万部が発行され、美術館、画廊、コンサートホール、劇場等の場所に備え置かれ無料で配布されていたものであり、その綴じ込みカタログは、オークションに参加し美術品を観覧する者であるか否かにかかわらず、自由に受け取ることができた。

● それで、A社のカタログは、著作権法47条の「小冊子」に当たるものとはいえない。
        
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3 解説
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(1)美術品の著作物の展示と小冊子への複製

 美術作品などにおいては、販売・転売されることによって著作権者と所有者が異なることはよくあることです。そして著作権者ではない所有者にも、その美術作品(原作品)を公に展示する権利があります(著作権法45条1項)。

 しかし、美術作品の所有者は、このような展示する権利はありますが、美術作品を複製することはできません。しかしそれを徹底すると、美術作品を紹介する図録、解説するパンフレットなども作れないこととなり、大変不便です。

 それで、著作権法47条は、美術の著作物等を「公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と定めました。

 したがって、ここでいう「小冊子」とは、この展覧会などの観覧者に美術作品の解説または紹介を目的とするものに限られます。それで、それ自体が実質的にみて観賞用と評価されるような豪華本や画集はこの「小冊子」には含まれないことになります。

 また、今回の事例のA社が作成・頒布したカタログは、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものであったため、現行法のもとでは、ここでいう「小冊子」には当たらないと判断されました。


(2)オークションにおける複製画像の取扱いと著作権法改正

 ただし、近年の社会状況の変化とともに、著作権法47条だけでは不都合な事態が生じるようになりました。

 最近では、インターネットオークションなど対面で行われない取引が広く普及しています。その際、取引される美術作品について、所有者が商品紹介用の画像をネット上に掲載することは、著作権法47条の「小冊子」には入りません。そして、他にこれを根拠づける規定もないため、美術作品の著作権を侵害する可能性があると指摘されていました。しかしこの行為を違法とすることは、明らかに現在の取引の実情に合っていません。

 そのため、平成21年6月19日の著作権法改正により新たな47条の2が挿入されました。ここでは、美術品の所有者らがこの美術品を譲渡する際に、その譲渡の申し出を行う目的のために、作品の複製・ネットワーク掲載等ができるようになりました。

 ただし、複製され掲載された作品がそれ自体鑑賞の目的になってしまうと著作権者の権利を害します。それで、例えば、美術作品をデジタル画像にしてインターネットに掲載する場合は、サイズが32400ピクセル以下(複製防止措置がなされていれば9万ピクセル以下)とされています(著作権法施行令7条の2、著作権法施行規則4条の2)。つまりいわゆるサムネイルといわれる程度の大きさというわけです。

 この著作権法47条の2は、本年1月より施行されています。


(3)時代の変化と法改正

 多くの法律は時代の変化にあわせて改正がなされてきました。しかし多くの場合、時代の変化が先行し、しばらく時間が経過した後に法改正がなされ、立法的な解決がなされるということが見られます。著作権法は特に多くの改正がされてきた法律ですし、昨年6月に成立した資金決済法もそういえるでしょう。

 それで、問題はこの立法的な解決がなされるまでの「グレー」な期間、どのように対応するかについては、頭の痛い問題ではないかと思います。コンプライアンスを重視する必要もあり、他方で正式な法改正まで待っていては事業機会を逸することになりかねない、その間をどのように両立させていくか、という問題です。

 このような場合には、他の場合よりもさらに、事前のリサーチによるリスクの把握とできる限りのリスク回避が必要になってきます。少なくとも、現行法とその現行の解釈に抵触する行為が含まれないようなスキームを作ること、仮にリスクがあるとして、刑事責任まで及ぶ可能性か、行政上の処分がありえるか、せいぜい民事上の損害賠償責任にとどまるのか、負わなければならない損害賠償等の民事責任の程度はどうか、そのリスクが公になったときのレピュテーションの毀損によるダメージの程度、株主からの責任追及の可能性等々が考えるべき要素となると思われます。

 これらの要素の検討においては、単なる法律の条文の解釈だけでなく、判例や学説も踏まえた解釈の限界点のようなところを見ていく必要も生じますし、一見関係ないと思って見過ごしている法律が実は関係するなど、広くかつ専門的見地から検討する必要がある場合も多いかと思います。

 したがって、これらの問題については、担当者が独自に調査・検討することはもちろん必要ですが、弁護士等の法律の専門家への相談・場合によっては意見書等の書面の取得を検討することは、有益又は必要でしょう。

商品の効果・性能の表示と景表法 

2011年01月05日(水) 21時37分
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1 今回の判例  商品の効果・性能の表示と景表法
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今回は、判例ではなく、公正取引委員会の排除命令を取り上げたいと思います。

H21.3.16 公取委排除命令

 「いびきクリップ」という商品を販売するA社とB社、「磁力クリップ」という商品を販売するC社は、それぞれ、「いびきスッキリ、静かに快眠。」「睡眠時鼻につけるだけで、いびきを軽減。」など、いびきの軽減の効果を標ぼうして商品を販売していました。

 これに対し、公正取引委員会は、以下のように判断しました。

 3社は、それぞれ、商品の包装容器及びインターネット上のウェブサイトにおいて、あたかも、当該商品を鼻に取り付けることにより,いびきを軽減するかのように示す表示を行っているが、当委員会が3社に対し当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、A社及びB社は資料を提出せず、C社が提出した資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない。

 そして、当該商品の表示が、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)4条2項の規定(不実証広告規制)により、同条1項1号(優良誤認)に該当する表示とされ、景表法6条1項に基づき、以下の排除命令が出されました。

ア 前記表示は、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものである旨を公示すること。
イ 再発防止策を講じて,これを役員及び従業員に周知徹底すること。
ウ 今後、同様の表示を行わないこと。
            
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2 解説
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(1)優良誤認表示と資料の提出
  
 景表法4条1項1号は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」に該当する表示を禁止しています(優良誤認表示の禁止)。

 そして、景表法4条2項によれば、このような優良誤認表示の疑いがある場合に、公正取引委員会は、その表示を行った事業者に対し、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるとされています。そして、事業者が一定期間内に資料を提出しないときは、その表示が優良誤認表示であるとみなされ、排除命令の対象となる、と定められています。

 この規定の趣旨は、公正取引委員会による優良誤認行為の立証にかかる時間を短縮し、合理的な根拠がなくなされている優良誤認表示に対する迅速な規制を実現できるようにすることにあります。


(2)資料が「合理的根拠」となるための要件
 
 「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針(不実証広告ガイドライン)」は、景表法4条2項の「合理的な根拠を示す資料」といえるためには、以下の要件を求めています。

 ア 提出資料が客観的に実証されたものであること
 イ 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

 また、資料の提出期限については、公正取引委員会が資料の提出を求める文書を送達した日から、原則として、15日後とされています(不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の規定による資料の提出要求の手続に関する規則2条)。


(3) 商品販売開始前からの資料準備の必要性

 以上のとおり、ある商品の販売を行うに際し、その性能や効果等をうたった表示をする場合には、その販売開始前にその合理的根拠を示す資料を確保しておく必要性は高いといえます。

 そもそも、商道徳・ビジネスモラルの観点からも、実証されていない効果を表示することは問題がないとはいえないでしょうが、既に述べたとおり、公正取引委員会から資料の提出を求められてからはじめて準備しようとしても、15日という期間では短かすぎるからです。

 そして、合理的な根拠を示す資料を提出できないときには、その表示が実際には正確な表示だとしても、優良誤認表示とみなされ、排除命令の対象となってしまいます。また、その排除命令が公表・報道される場合には、自社の評判にも大きな影響が生じかねません。

 なお、資料が「合理的根拠」となるための要件の詳細については、別の機会に詳細に紹介したいと思いますが、商品の表示が落とし穴とならないよう十分に注意すべきでしょう。

東京メトロ事件と商標の不使用取消 

2009年11月12日(木) 6時59分
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1 東京メトロ事件と商標の不使用取消
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知財高裁平成19年9月27日判決

X社は,第16類「新聞・雑誌」を指定商品として,「東京メ
トロ」という標準文字の商標の出願を,平成14年1月18日
に行ないました。そして,この商標は,平成14年10月4日
に,設定登録されました(登録第4609287号商標)。

この登録商標に対して,東京メトロを運営するY社が,平成1
7年10月26日,上記商標が使用されていないとして,本件
商標の登録取消を求める審判(不使用取消審判)を請求しまし
た。

特許庁は,平成18年12月5日,この商標の登録を取り消す
旨の審決を行ないましたが,X社はこれを不服としてこの審決
の取消を求める裁判を起こしました。

なお,判決によれば,X社は,平成17年4月29日から5月
にかけて,世田谷区内において,「とうきょうメトロ」の表題
が付された印刷物約8000部を無料で配布し,その後もその
新聞は,継続して,創刊号から少なくとも第4号まで同一の商
標を付して発行されていました。

しかし,特許庁は,この新聞は,広告の収入により事業展開を
行っているものであるから,他人の広告を掲載し,頒布するた
めに用いられる印刷物にすぎないものであって,市場において
独立して商取引の対象として流通に供されたものとは認められ
ないから,指定商品「新聞,雑誌」のいずれにも含まれない商
品である,よって,この商標は使用されていないと判断してい
ました。

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2 判決の概要
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【結論】
 審決を取り消す。

【理由】

商標法上の「商品」は,商取引の対象であるから,商品が対価
と引換えに取引されるのが一般的である。しかし,「商取引」
は,営利を目的として行われる様々な契約形態による場合が含
まれ……取引を全体として観察して,「商品」を対象にした取
引が商取引といえるものであれば足りる。

この新聞のような無料紙は,配布先の読者からは対価を得てい
ないが,広告については,広告主から広告料を得ており,これ
により,利益が得られるようにしている。したがって,読者と
の間では対価と引換えでないとしても,無料紙を広告主に納品
し,あるいは読者に直接配布することによって広告主との間の
契約の履行となる。このように全体として観察するならば,商
取引に供される商品に該当するということができる。

よって,この商標については,3年以内に日本国内において,
指定商品につき商標を使用したことが認められる。

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3 解説
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【商標の不使用取消審判】

商標の不使用取消審判とは,ある登録商標が一定期間使用され
ていない場合,これを理由として,第三者が,その登録商標の
取消を請求することができる特許庁の審判をいいます。

 商標権者は,不使用取消審判の請求を受けたときは,請求に
ついての商標を,この商標の指定商品・指定役務について,そ
の審判の請求の登録(予告登録)前3年以内に,日本国内にお
いて,使用していることを証明しなければ,取消を受けること
になります。なお,自ら使用していなくても,通常使用権者,
専用使用権者が使用した事実でも足ります。

したがって,特に重要な商標である場合,他社から不使用取消
審判を起こされる場合があります。そのため,登録商標を使用
していることを立証できるよう,取引書類,広告といった書類
を証拠として保存しておくことは重要であると思われます。

また,出願登録したものの,何らかの社内の事情で使用されて
おらず,しかし,権利を保持していたい,といった商標がある
場合も,十分注意が必要です。


【商標を使用する商品】

今回ご紹介した判決は,商標を使用する対象たる「商品」の意
味を明らかにしており,参考になります。他方,特許庁は,X
社が「東京メトロ」の題号を「無料配布の新聞」に使用したこ
とについて,「新聞,雑誌」という指定商品への使用とはいえ
ないと判断しましたが,これは妥当とはいえないでしょう。

なぜなら,無料であっても営利目的で新聞や雑誌や印刷物を配
布するケースは多数あるわけで,これらの無料の新聞等が「商
品」に該当しないとするならば,多くのビジネスが商標上保護
されず不都合な結果が生じることになってしまうからです。

ソフトウェアの改変と損害賠償 

2009年11月12日(木) 6時55分
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1 ソフトウェアの改変と損害賠償
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東京地方裁判所平成19年3月16日判決

事案は次のとおりです。

フランスのソフトウェアメーカーA社は,製品設計や開発を最
適化するための三次元作図に関するソフトウェアを開発,販売
していました。

他方,デザインモデル等の製作会社B社は,自動車産業,電気
産業,情報産業等の様々な業種の企業にデザインモックアップ
試作品を製作,提供している会社でした。

本件で問題となったのは,A社のデジタルモックアップソフト
ウエア(以下「本件ソフトウェア」といいます。)でしたが,
このソフトウェアは,多くのモジュールを収載しており,これ
らモジュールの使用については、モジュールごとに,A社から
個別にライセンスを受ける必要がありました。

ところが,B社は,このライセンスを管理するプログラム部分
( dllファイル)を改変し,ライセンスを受けていない部分の
モジュールについても使用可能とすることで,ライセンスを受
けずに,11台のコンピュータで,同時に,本件ソフトウェア
を使っていました。

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2 判決の概要
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上記のように,本件ソフトウェア中の Dllファイルについての
改変行為により,11台の各コンピュータですべてのモジュー
ルを使用でき,かつ,本件ソフトウェアを同時に使用できるよ
うになったものであるから,B社の行為は,本件ソフトウェア
全体に対する著作権(翻案権)侵害に当たる。

B社の行為によるA社の損害額は,11台につき使用可能となっ
た本件ソフトウェア全体の使用許諾料相当額を算定し,それか
ら実際の支払額を控除して算定すべきである。

以上から,裁判所は,B社に対し,15億8911万2875
円の損害賠償の支払を命じました。

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3 解説
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判決によれば,B社は,本件ソフトウェアについては,初回ラ
イセンス契約時に請求する基本ライセンス料4611万020
0円と,基本ライセンス料の約14%である年間ライセンス料
(647万8300円)をA社に支払っていました。ところが,
B社は,この不正使用によって,約16億円という,非常に高
額な損害賠償を行なうことになったわけです。

本件は,法律的には著作権(翻案権)侵害であるという判断に
ついては,大きな法律上の論点もなく,さほど問題があるケー
スではないと思われます。

B社は,「著作権法114条3項による損害額は,現実に使用
したモジュールのみについて算定すべきである,また,B社が
エンドユーザとして支払うべき金額(小売り価格)ではなく,
A社が受けるべき金額(卸売価格)で算定されるべきであると
主張しましたが,いずれも裁判所はあっさりと退けました。

本件は,高額な損害賠償が認められた例として,ソフトウェア
を業務に使用する多くの企業にとって身が引き締まる事例とな
ると思い,ご紹介しました。

石下雅樹法律・特許事務所

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