その1 

February 23 [Mon], 2009, 9:08
眠ることができないまま、朝を迎えた。

時折、眠れない夜がある。

いつもだったらひとりの時間を持て余してしまうのだが

なんとなく手に取った本に夢中になってしまった。

私がこの本を読むことをやめてしまったら

もう救うことができない気がした。

だから、頁をめくる手を止めることができなかった。

読了後の何とも形容し難い、しかし心地よい余韻に浸っていると

目覚ましがけたたましく鳴った。

今まで考えていたことが全部、とんだ。

予期せぬ衝撃に止まった思考が、緩々と回復していく。

私はコンロにやかんをかけて、君の名前を呼ぶ。

眠気をずるずると引きずりながら起きてきた君はいつもと同じところに座り

「寒い」

とだけ言うと、視線はつけたままになっていたテレビに注がれる。

ゆっくりと座っていられる時間がそう長くはないのは知っているから

簡単な朝食を用意する。

やかんが湯が沸いたことを知らせて、遠慮がちに鳴く。

特に何も言わず、出されたものを黙々と口にする君。

私が用意したものを、当たり前のように口にしてくれる。

それだけでいい。

感謝の言葉も、労いの言葉も、要らない。

多分、好きなのだ。

会話もなく、君につられるようにテレビに目をやる。

テレビはいつも同じようなことばかり言っている。

少し温くなったココアを半分ほど残して君は立ち上がる。

「いってくるよ」

玄関のドアを開けると、朝の冷たい空気が駆け込んでくる。

このざわざわと駆け込んでくる空気たちと入れ違いに出て行く君。

いつも、行かせたくないと思う。

好きなのだ、きっと。

「いってらっしゃい」

ああ、またひとりの時間がはじまる。
P R
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    ・読書-推理物やファンタジー、ライトノベル等いろいろと読みます。好きな作家さんは有栖川有栖さん・京極夏彦さん・上遠野浩平さん・森博嗣さん等々。
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ちまちまと更新していくつもりです。

よろしくお願いします。
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