"Cafe Strada"でお茶を 

May 08 [Thu], 2014, 19:52

"Cafe Strada"でお茶を


そこは誰もが知っている場所で、誰も知らない場所

「いらっしゃいませ」
男の人の声が聞こえて我に返った私は自分が何処かの店にいることを理解した。ボーッとしていたせいか、ここまでどうやって来たのか分からない。
「あの…」
私が戸惑っていると
「ここは“Cafe Strada”」
カフェ、ストラーダ?
聞いたことのないお店。
「ここ、どこですか?」
私の質問に穏やかな声が返ってくる。
「ここは、誰もが知っている場所で、誰も知らない場所です。」
矛盾している台詞に首を傾げた。
「分からなくていいんです。しかし、貴方がここに来たのは偶然ではないと言うことです。」
どうぞ。と言われてお店の奥へ入る。お店の中は白や茶色を基調としたヨーロピアンな雰囲気。席に座ると紅茶とケーキが出された。
「ミルフィーユ…」
「ええ。うちの自慢なんですよ」
そう言って微笑む。
「美味しいです。」
一口食べると優しい甘さが口に広がるそれは、料理好きな母が昔よく作ってくれたものと同じ味で、思わず涙が出そうになった。
「自慢の味ですからね…ところで、此処に来た、という事は、何か悩みでも?」
まるで悩みがあったからここに来たんだろうと断言されているようで。
「悩みは無いわけじゃないですけど…」
私は今年受験生で、家族と進路について揉めていた。
私は、専門学校を目指している。しかし家族には専門学校ではなく大学に行くことを勧められている。
親と絶讃喧嘩中なのだ。
「貴女の悩み、私でよければ話してみませんか?口にすると気が楽になりますよ。」
ここでなら、独り言になりますよ。と、よくわからないことを言った。
「じゃあ…独り言、なんですけど…私、美容師を目指しているんです。どうしても。昔、ある美容師さんに助けられたから。私もあんな風に人に希望を与えたいって思ったんです。でも、親に反対されていて。専門学校に行くなら資金援助はしない、とまで言われてしまって。」
独り言、と前置きをして悩みを口にする。
「では、こちらも独り言ですが…もう一度、きちんと話し合いをしてみてはいかがでしょうか?きっと、貴女の大切な方々は、貴女の想いを、決意を確かめたいのだと思いますよ?」
何故かは分からなかったけれど、この人の言葉には説得力があった。
「分かってもらえるかな…」
それでも、私は不安で仕方がなかった。今まで何回も否定されてきたから。
「貴方は否定されたことで迷い、立ち止まってしまっているのでしょう?ご両親はきっと貴女を応援したいと考えているはずです。だからこそ、貴女の決意を確かめたいのだと思います。自分の意思を伝える事は、きっと辛いでしょうが、前へ進んで下さい。どんな道であろうと、いつか幸せに出逢えますから。」
男の人はそう言うと椅子に座り、本を読み始めてしまった。
「そう、ですよね…逃げてばかりじゃダメか…あの、お会計は?」
ミルフィーユを食べ、紅茶を飲み切ると私は立ち上がる。男の人はお代は、そうですね、貴女のその笑顔で。とまた意味の分からない事を言っていた。
「ありがとうございました。また、来てもいいですか?…」
ドアに手をかけ、ふと立ち止まり振り返って聞いてみた。
「またの御来店お待ちしております。…それから、素敵な夢ですね、応援していますよ。」
とカウンターの中から笑顔を向けてくれた。
その言葉に私も笑顔を返し、ドアを開けて一歩、外へと踏み出す。するとそこは家の近くで見慣れた曲がり角。辺りを見回しても店は見つからない。不思議な出来事に首を傾げながらも、私は家にいるであろう私の大切な人に伝えたい言葉を、想いを胸いっぱいに抱え歩きだした。

「“strada”とは、“道”と言う意味。例え道が見えずに立ち止まっても、道は目の前に広がっているものです。貴女が気が付かないだけで。そして、進む道が見えたなら、ここはもう必要ありません。ですが、また立ち止まってしまったなら、迷ってしまったなら…何度でも言いましょう。“いらっしゃいませ”と。」



P R
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