1.始まり 3 

April 14 [Thu], 2011, 0:55
 ここ、と腕を引っ張られ、リヴはアルタの横に腰かけさせられる。ベッドは尻をついた瞬間ぼすっと沈んだ。リヴの感覚でいうならずいぶんよいもののようだった。
 ここにいてと言うからには何か命令があるのだろうと思えば、主人は何も言葉を発さない。何を考えているのか察したくても、こっそりと顔色をうかがうにはややためらう位置関係である。腕を掴まれたまま、息のしづらい時間が過ぎた。
「……お手洗い」
 リヴは小さく声に出した。隣のアルタの視線が自分に向いたような気がした。
「お手洗い、遅いですね」
 返事はない。おずおずとアルタに視線を移すと、アルタはようやく合点がいったように声を漏らした。
「ああ……アリー」
「はい」
「うん、だって代わりに君がここにいてくれるんだもの」
「……はあ」
 釈然としない様子で、リヴはうなずいた。理屈は理解できなかったが、アルタが何の問題もないような言い方をするのだ。解説を求めようか、それとも話題を変えようか、リヴが迷っていると、アルタはおもむろに続けた。
「アリーはここに居たくないんだよ」
「え?」
「アリーもヤコンもね、ここにいたくないみたい」
「それって……」
「君はなんでここに来たの?」
 アルタはリヴを見やった。顔立ちはそう悪くない気がするのに、妙にのっぺりとして見える表情をしていた。その年の頃を少年と言っていいのか青年と言っていいのか、はたまた壮年と言っていいのか、リヴには判断がつかなかった。
「ここには少しのお金しかないよ。それも減っていくしかないんだよ」
「それは……伺いました」
「じゃあなんで?」
「……生活が欲しかったんです」
 リヴはちらりとアルタを見やる。アルタは変わらない表情でリヴを見つめていた。
「帰る家と、それなりの服と、温かいご飯が欲しかったんです。後、そう、仕事が欲しかった」
「仕事はあってもお金はたまらないよ」
「いいんです」
 アルタはリヴから視線を外すと、また無言でどこともつかない場所を見つめた。ややあってリヴも傾けた首を戻すと、ようやく廊下で駆け足が聞こえた。
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