その二

March 09 [Fri], 2012, 21:54
一人の青年は導かれるように森の奥へ、奥へ、入って行った。森の奥には小さな湖があった。その近くに小屋をみつけた。中に入ろうとしたが鍵がかかっていたため入れない。青年は手を出した。すると光の粒が集まり、一枚のカードに変わった。鍵穴にカードを近付けるとガチャリと音を立てた。どうやら鍵が開いたらしい。恐る恐る扉を開けてみる。ギィィと扉の鈍い音を聞きながら青年はその中に入った。小屋の中は誰かが住んでいるかのように綺麗だった。しかし、人の気配はとうの昔になくなったようだった。
普通の家という以外はとくになんの変哲もなかった。ただ、ひとつだけ普通と違うものが目に入る。ベッドの上に二つの人形が寝かせてあったことだ。人形は胸の上に錠前をつけていた。錠前から延びる鎖は人形の体を縛り、抑えつけているようだった。
触れてはならないような空気をはなった錠前に手を触れてみた。錠前は崩れ、光となって消えた。

「私(わたくし)達を起こしたのは誰?」

「僕らの封印を解くことができたのは誰?」

声が頭の中で響いた。その瞬間、二つの人形の目が開く。
少女の人形はルビーのような濃い赤色。少年の人形はサファイアのような澄んだ青色をしていた。双子の人形は青年の前に立った。そして、
「やっと起こしてくれる人が来たよ姉(ねえ)様(さま)」
「何年待ったかしらね兄(にい)様(さま)」
お互いを姉(ねえ)様(さま)、兄(にい)様(さま)、と呼び、どちらが姉なのか兄なのか妹か弟かが判断できない。
青年は突然起きた出来事にただ驚くしかできなかった。青年は頭の中がおかしくなりそうだった。
「き、君たちはいったいなんなんだい・・・?人形じゃないのか?」
青年は問う。
双子はそんな青年を笑うように答えた。
「私はアリス。」
「僕はアニス。」
「貴方の名前はなんというの」
アリスは優雅に聞いた。青年は言われるままに名乗った。
「僕はリオン。リオン・ミルフォードだ。」
「良い名前ね。その名前を大切にしなさい。」
アニスは美しく微笑んだ。その微笑みに思わずリオンは息を飲んだ。
「リオン、僕らの封印を解くことができるということは君はカードを持っているね?」
リオンは手をだしてカードを出す。二人はやはりという顔をしていた。
「そのカードには魔力が込められているの。私たちが自分にかけた封印を解くことができるのはそのカードだけ。そしてそのカードは選ばれた能力を持つ者のみよ。」
双子は手をつないでくるくる、くるくる、踊る。そして繰り返し言う。
「君は選ばれた。」
「選ばれてここに来た。」
「僕らは選ばれし者を探し、求めていた。」
「待っていたわ。」
リオンは恐れた。
双子は笑う。
「私」
「僕」
「と一緒に」
「呪われた人形(ドール)を」
「探して」
「探して」
不気味な笑みを浮かべて双子は言う。吐き気がこみ上げるように頭に響く声。
「呪われた人形は私たちみたいな者のこと。見た目は普通の人間だ。だけど強力な魔力をもっている。放っておくとこの国に・・・いや世界全体に悪影響を及ぼす」
「そしてカードを持つ能力者を狙うわ。魔力を欲してね。」
ぞくりと寒気が背中を走った。
「その能力ははっきりはしていないわ。けれどとても大きな魔力よ。世界を滅ぼすと言われている。そんな巨大な魔力を欲する呪われた人形達。それがカード持ちを狙う者よ。」
ぐにゃりとゆがんだ気がした。
世界を滅ぼす力。
そんな恐ろしい力が自分の中にあっただなんて信じられるだろうか。いきなり現実離れしすぎている。悪い夢を見ている気分だった。
「私たちは貴方を待っていたの。守るために。」
「守るために生まれてきた人形だから。」
まっすぐなまなざしで双子はリオンを見つめた。
「私達と契約を結んで。そうすれば最大の力で貴方を守ることができる。」
「契・・・約・・・」


「契約」

無意識につぶやいた。それと同時に青白い光が手のひらから放たれる。手の甲には青い紋章が刻まれていった。十字架の形だった。
アリス、アニスがリオンに跪いて言う。

「ブラッディガーディアンドールズ、アリス。」

「ブラッディガーディアンドールズ、アニス。」

「リオン・ミルフォードと契約する。」

やがて光は小さくなり、消えた。手の甲も光らなくなっていた。しかし紋章はくっきりと刻まれていた。
アリスとアニスは首にかけていた十字架をはずした。
「これは僕たちの命。これがあれば僕と姉様は死なない。でもこれが割れてしまうと二度と僕らは動かなくなる。」
しっかりとリオンをみつめて言う。
この十字架を受け取れば双子の命を預かることになる。かなり責任が重い。しかし契約を交わした以上もう後戻りはできない。
リオンが考えているとアニスは笑った。
「その十字架は落としたりとか叩きつきたりしたぐらいじゃ傷も付かないよ。割れるとすれば他の人形にやられたときかな。だからそんなに思いつめなくてもいいよ。」
自分の命をあずけているというのにまったく焦ったりもしていない。よほど自分の腕に自信があるらしい。リオンはそんな二人を見て預かることを承諾した。
受け取ると十字架は光を帯びて消えた。体内に不思議な力が湧いた感覚がした。
 「この小屋は時が止まっているのよ。どのくらいだったかしらね。たしかまだこの世界に本物の神様がいた時代だわ。」
神様!そんな昔のときからだなんて信じられない。普通じゃあり得ない。
アニスは口角をあげながら言う。にやりとした笑みがまた不気味だった。綺麗な顔立ちなのに悪魔のようだった。
「私たちはその時代に生まれた。今は人形だけど最初はみんな本物の人間だったんだ。」
「僕らは狼と人間のハーフってとこかな。狼の血を引く子の話、聞いたことあるだろう?」
狼と人間の話。聞いたことがある。
「そう、神話よ。私たちは神話にでてくる捨てられた双子。今からあなたには神話のその後を見せてあげる。」
そういってアリスはリオンに渡した十字架とは違うものを出し、アニスのものと重ねた。瞬く間に光が広がり、すぐに消えた。そしてそこには血に染まった死体が転がっていた。若く、美しい容姿の夫婦だった。しかし無惨にもぐちゃぐちゃにされていた。
血の濃いにおいが鼻にツンときた。リオンはあまりの恐怖と血なまぐささに吐きそうになった。
「これは僕らの親さ。生みの親。そして捨てた親さ。」
「殺したのは私と兄様よ。理由は簡単。捨てたから。」
簡単すぎるほど簡単な理由だった。だけれど殺し方が簡単ではない。
まともな人間のすることじゃなかった。
「まともな人間のすることではないぞ・・・これは・・・」

だから言ったじゃない。
人形だって・・・ね。

ブラッディガーディアンドールズ

【血の守護者人形】

「またの名を」

【クレイジーツウィン。狂った双子】

この双子にぴったりの名だった。
もしかしたらとてつもなく恐ろしい人形を拾ってしまったのかもしれない。引き換えしたくても引き返せない。


そしてリオンとアリス、アニスは出会ったのだった。



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