様々なメディアに登場し、連載漫画化もされた伝説の人物、モーターサイクルクラブ「横浜ケンタウロス」の族長、飯田繁男さんを囲んで、能楽に関する座談会を実施しました。
一見、能楽とは無縁の世界にいるかの様に思えるバイク集団の族長が、何故、能楽を大切に思い、自ら舞台を企画するまでに能楽に入れ込むのか。。。飯田さんの能楽に対する、熱い思いを伺いました。
1.バイク集団が何故能楽を?
バイク集団として、全国的にも伝説的な存在となっている「横浜ケンタウロス」。
実は、「横浜ケンタウロス」は、バイク集団であると同時に、自ら能楽の舞台をも催す能楽集団という側面も持っている。何故、バイク乗りが能楽を。。。
その経緯について、飯田さんは、こう語る。
「人は、体験した事を、言葉で伝え合う(コミュニケーションする)。体験した事を、適切に言語化できる様になる為には、まず、きちんと単語を覚える事、そして論理的な言葉の流れを覚える事が、必要だ。
その研鑽の場として、横浜ケンタウロスでは、毎満月の夜に、ツーリングと併せて、詩、短歌、俳句を作る集会を開いてきた。」
「能楽の舞台を催す様になったのは、この満月の夜の集会で、ツーリングをしている時に、同じく、バイクに乗ってツーリング中だった、能楽家の大蔵正之助氏(世界的にも有名な能楽囃方・大蔵流の大鼓奏者)と、偶然にも出会った事がきっかけだ。彼との交流の中で、いつか能楽の舞台を自分達で催す事を、考える様になった。」
<座談会の様子(中央奥が飯田さん)>
「実際に、能楽の舞台を興行する様になるまでに、まずは、毎満月の集会で、和楽器の音を"聞く"事を始めた。和楽器の音を"聞く"事から始めたのは、能にせよ、月夜にせよ、"見る"事よりも、"聞く(感じる)"事の方が、大切だと思ったからだ。
和楽器は、月夜の野外によく合う。その音色は、風の音と寄り添い、自然に従い、自然の一部として感じる事ができる。自然環境とは切り離された室内で演奏される事を前提としている洋楽器とは、まるで違う。」
「日本の伝統芸能は、薩摩琵琶などの和楽器が、戦前の日本軍の軍楽器として用いられていた事もあり、戦後教育下では、軍国主義、全体主義の一要素として排除されてきた様に思う。一方で、バイク乗りも、戦後教育の影響を多分に受け、個人主義に走り過ぎているのではないか、という懸念も感じている。
"ケンタウロス"が、日本の伝統芸能(能楽)に関わり、その振興に努める理由は、この様な戦後教育の影響を見つめ直すという事の中にもある。
クラブ名である"ケンタウロス"は、ギリシア神話の中では、粗暴な種族として描かれている一方で、教育者としての一面も描かれているのだから。」
<能楽について熱く語る飯田さん>
2.能楽に対する熱い思いは続く
実際に、数多くの能楽公演を主催されてきた飯田さんは、これからも能楽の舞台を催し続ける上での、意欲・展望について、2つの熱い思いを語ってくれた。
1つは、飯田さんが主催者となり、2007年9月に、横浜能楽堂で催した、横浜の海と山の繋がりを、横浜の過去、現在、未来(三時空)の中で見つめ直すという内容の能"横浜三時空"の、とある反響に対して抱いた思いだ。
「この公演を催すに当り、何万枚ものビラを配布した。その内の1枚を見て、公演を鑑賞した方から、後日、"開港以前の横浜の浜辺には、800年位前に建立された弁才天を祭る社(洲干弁天)があった。"との情報を貰った。
1枚のビラがきっかけで、横浜の浜辺でも、(水に関わる女神として、水辺で祭られる事が多い)弁才天が、古くから祭られていた事を知り、驚くと同時に、とてもうれしかった。
いつか、この弁才天を題材にして、浜辺で"薪(たきぎ)能"をやりたいとも思っている。」
もう1つは、2002年に、スペイン・バルセロナでの、"ガウディー生誕150 年記念能"に参加した際に、抱いた思いだ。
「能楽は、世界的にもその価値が、評価されるものだと感じた。能楽は、ギリシア悲劇とも形式が似ている部分があると思うし、能楽家には、もっと自国及び他国の風土に対する理解を深めて貰い、いずれ、横浜の港から、横浜発祥の新たな能楽を、世界各国に輸出していける様になれば。と思う。」
<飯田さん(前列左から2番目)とツアー参加メンバー>
3."知の暴走"族
「横浜ケンタウロス」は、世間的に暴走族としてみなされ、語られる事も多い。
飯田さんは、そんな声を意にも介せず、こう語る。
「暴走族と呼ばれようが、バイク乗りと呼ばれようが、そんなものは、欧米人から見た時の、中国人、朝鮮人、日本人という違いの様なもの。総体で見ると、特に違いはないだろう。
そもそも、バイクに乗ってようが、乗っていまいが、それすらも大した問題ではない。
バイクに乗っていなくても、自分が心に決めた"何か"にまたがって、全力で"生きている"奴は、俺達"ケンタウロス"と同じだ。」
東工大名誉教授で、物理学の"1/fゆらぎ"に関する草分け的存在である、武者利光氏は、彼らの際限なき探究心と、貪欲な行動力を指してか、この「横浜ケンタウロス」の事を、"知の暴走"族と呼ぶそうだ。
ツアー参加者の感想
・飯田さんは、「今回のツアーで、狂言を観に行くなら、能楽に詳しい飯田さんにお話を聞こう!」と、メンバーのcookieさんが提案、セッティングして下さらなかったら、とてもお会いしてお話を伺う事などできなかった方だと思うので、飯田さんのお話を伺えた事は、本当に貴重な体験でした。(特に、メンバーや横浜の将来を真剣に考え、厳しくも温かい心をお持ちなのが、本当に印象的でした。)
・飯田さんのお話を伺って、一度観たきり敬遠していた「能」も、事前準備をしてから観れば十分楽しめるのかも!と思い、観てみたくなりました!
・飯田さんの話は、凄く歴史を感じて、裏話とかも色々と聞けて、ほんとに素晴らしかった。別格でした。
参考リンク
横浜ケンタウロス
大蔵正之助
ハマには浜を!(飯田さんが理事を務める、横浜に砂浜を復活させる事を目指すNPO法人のブログ)