ミュンヘン

February 19 [Sun], 2006, 2:39
1972年のミュンヘン・オリンピックで起きたパレスチナ・ゲリラ"黒い九月(ブラック・セプテンバー)"によるイスラエル選手殺害事件とその後のイスラエル暗殺部隊による報復の過程を描いたサスペンス・ドラマ。
原作は、暗殺部隊の元メンバーの告白を基にしたジョージ・ジョナスの「標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録」。
主演は「ハルク」「トロイ」のエリック・バナ。
共演に、新ジェームズ・ボンドに決定した「トゥーム・レイダー」「シルヴィア」のダニエル・クレイグ、「カレンダー・ガールズ」「ヴェロニカ・ゲリン」のキアラン・ハインズ、「アメリ」「バースデイ・ガール」のマチュー・カソヴィッツ、「さすらい」「太陽の雫」のハンス・ジシュラー、「シャイン」「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」のジェフリー・ラッシュなど。
監督は「ターミナル」「宇宙戦争」のスティーヴン・スピルバーグ。

スピルバーグと言えば誰もが認める世界一のエンタテインメント作家。
「E.T」や「インディ・ジョーンズ」「ジュラシック・パーク」などの娯楽作品を作る一方で、「太陽の帝国」や「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」などシリアスな作品も世に送り出してきました。
しかし、この「ミュンヘン」はこれまでのスピルバーグ作品とは一線を画す作品です。
派手さも感動も無く、あるのは重苦しい空気に包まれる終わりなき復讐の連鎖だけ。
9.11以降、「ターミナル」「宇宙戦争」とテロを意識した作品を撮ってきたスピルバーグですが、この作品のテーマはまさにそのテロそのもの。
全編に痛いほど張り詰める緊張感と、徹底して登場人物や、そして観客さえも冷徹に突き放すかのような娯楽性皆無のリアリズムが、テロと、そこから始まる復讐の連鎖が如何に恐ろしく、悲惨で、救いを得られないものかを描き出していきます。

「宇宙戦争」のトム・クルーズ同様、この作品の目線は常にエリック・バナ演じる主人公アヴナー。
妊娠した妻を祖国に残し、テロリストたちの暗殺という任務に就くアヴナーの苦悩と葛藤、そしていつしか追われる立場になり感じる見えない恐怖を、観客はアヴナー自身を通して感じていくわけですが、このエリック・バナの演技が予想以上に良かったです。
人を殺した事もなかった一人の男が任務を遂行する中で冷酷な人間へと変貌し、そして徐々に精神的に追い詰められていく様を見事に演じていました。
脇を固める俳優陣の抑えた中にも自己主張のある演技はどれも素晴らしかったのですが、その中でも特にキアラン・ハインズが際立っていました。
これまでの作品でも見せたあの重厚で人間味溢れる演技がこの作品に一時の安らぎを与えていたように思います。
敢えてスターを起用しなかったこの国際色豊かなキャスティングからも、この作品に対するスピルバーグのスタンスが見て取れます。

世界一のヒットメイカーという自分の地位を最大限に利用してスピルバーグが表現したかった、訴えたかった事。
それは様々な歴史的、宗教的問題を考えると、決して容易な事ではないかも知れません。
しかし、だからこそユダヤ系移民であるスピルバーグがこの作品を撮った意義は大きいと思います。
ラストの光景に重なるスピルバーグのメッセージが、時間が経てば経つほど重く心にのしかかってきます。

  • URL:http://yaplog.jp/imagination/archive/886
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sin
>でんでんさん
いつも娯楽である事を忘れない作品作りをしているスピルバーグだけに、そのギャップの大きさもインパクトありましたね。
ラストシーンはほんと印象深かったです。

>ミチさん
ほんとそうですよね。
例えば他の一流監督が同じような作品を撮ったとしてもここまでは注目されないでしょうからね。
普段娯楽作家として活動している自分のポジションさえも利用した、このスピルバーグのメッセージは多くの人々の心に響いていると願いたいです。

>たましょくさん
中立の立場で描く事に対して批判もあるようですが、当たり前の事ですもんね。
どちらにも信じるべきものがあり、守るべきものがある。
そこにお互いを理解しようとする気持ちがないと悲劇はいつまでも繰り返されるんだと思います。

>のりやすくん
良い作品にはそれだけ言葉が自然に出てくるって事。
でも、これは日本ではヒットしないやろなぁ。
February 20 [Mon], 2006, 0:06
のり
いつもに増して熱の入ったレヴューですねー
メモメモφ(*-д-)
February 19 [Sun], 2006, 17:50
 TBありがとうございますm(_ _)m

 ただただ重い作品かと思っていたの
ですが、やる側とやられる側、互いに
生活があり、守るべきモノがあったん
だと。
February 19 [Sun], 2006, 12:28
こんにちは♪
TBありがとうございました。
スピルバーグが作ることで世界が注目する!
まさにそれなんですよね。
名も無い方が問いかけるよりも、映画人の頂点に立つ彼が問いかけるからこそ意義があったと思います。
たとえ賛否両論の嵐に見舞われようと、それを覚悟で世に問いたかったのだと思います。
February 19 [Sun], 2006, 11:41
こんにちは。
トラックバックありがとうございます。

>ラストの光景に重なるスピルバーグのメッセージが、時間が経てば経つほど重く心にのしかかってきます。

淡々と、それでいて衝撃的な物語、そしてラストの短く語られた会話が今の世界を表していますね。娯楽に徹する彼の違う一面を見る事ができました。
February 19 [Sun], 2006, 9:47
P R
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