米菓製造について

January 07 [Mon], 2013, 17:47
「えゝ、えゝ、二十年にはなりませんが、このへんでは古顔になりました。さうしますと、その以前は、どちらで……?」
 ぢりぢりと詰め寄るやうに、彼は、返事を待つた。
「東大の附属病院にしばらく勤めてをりました。免状だけは早くに取つておきましたんですけれど、なんですか、独立するのがこわいみたいで……」
「なるほど……良心的な医者が、たいてい学校の医局勤めをなん年かやるやうなもんですな。いろいろ伺ふやうだけれど、ご郷里は?……」
 この質問には、ちよつと、意外だといふ顔つきをしてみせ、
「あたくし? あたくし、生れは西の方でございます。田舎者ですの」
「西の方とおつしやると……関西ですか」
 相手が明らかに言ひ渋つてゐるのを、彼は容赦なく追求する。
「いゝえ、そんなに遠方ぢやございません。あたくし、自分の郷里があんまり好きぢやないもんですから、つい……。あの、愛知県ですのよ」
 鈴村博志は、ぐつと唾を呑んだ。

[#4字下げ]三[#「三」は中見出し]

 その翌日、大野登志は、主治医に一度会つておきたいといつて顔を見せた。主治医の樫倉は、昨日、産婆が引きあげた後に、のこのことやつて来た。ちよつと気まずい応酬の後、この分なら産婆でもよからうと言つて、ろくに後の注意も与へずに帰つて行つたのである。
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