昼食を終えて、街から60〓ほど離れた南疆鉄道のトルファン駅に着いた。
今の時季の乗客は、綿摘みの出稼ぎから帰る人達が多いのだという。
列車が到着すると、荷物を抱えた人達がどんどん乗り込む。
軟臥・硬臥(寝台)、硬座・軟座(座席)の車両が連なる。
私達の利用する軟臥は食堂車の隣だった。
一晩を過ごすコンパートメントでひとまずお茶を飲み、すぐに車内探検に出かけた。
寝台車ではハミやウルムチから乗車していた人達が熟睡している。
ちょっと昼寝というより、終着駅まで眠り続ける感じ。
通路の窓の傍らに取り付けられた折り畳み椅子に座り、インスタントラーメンをすする人も多く
車内にいい匂いが充満している。
座席車も程よく空いていて、通路には寝そべっている人の足が幾つも飛び出していた。
人のいないボックス席で、持参した「シルクロード 絲綢之路」を読み始めた。
30年前のトルファンの写真。交河故城を歩く作家・陳舜臣氏の姿もある。
この本が出版された時点では、南疆鉄道の終着駅はコルラだった。
「タクラマカン砂漠の西の端の街・カシュガルまで鉄道が延長されるのはいつのことか
今はまだわからない。
しかし、それが歓声すれば幾多の人々を苦しめた砂漠の旅は快適な汽車の旅へと
変わることになる。」
まさに今、私はカシュガルまでの快適な汽車の旅をしている。
読書していると通りすがりの人に何人も声をかけられた。
「それは何語?」「何の本?」「どこに行くの?」「旅行?仕事?」
中国語が解るかどうかなんておかまいなし、しばらくは質問攻め。
「これは日本の本です」「もう少しゆっくり話して」
中国語と英語と日本語とジェスチャーがごちゃまぜの私の返事を聞きつけて、益々人が寄ってくる。
そのうち中国人同士で盛り上がり始めた。
一人旅している北京の女性編集者、ウルムチのビジネスマン。ハミの出稼ぎ青年。旅行中のカップル。
話は全く途切れることがない。まるでご近所の会話のように見える。
時々話の内容を英語で教えてくれる北京の女性に「みんな知り合いなの?」と訊くと、首を振る。
会話にはほとんど参加できないけど、この雰囲気を味わっているだけで楽しい。
袖振り合うも他生の縁。まるでNHKで現在放送している「中国鉄道大紀行」みたいだ。