笑った顔の君が好きだ(浅萩)

April 30 [Fri], 2010, 16:34
目の前にいる年下の男は、自分が数分前には命の危険にさらされたと言うのに脳天気に笑っていた。



何がおかしい

死ぬ所だったんだぞ

死ぬって事はもう誰にも会えなくなるって事だぞ

身近にいる大切な人間に辛い思いをさせる所だったと言うのに何故お前はそんな風に、


「えへー」
尚も笑う萩間に僕は苛立ちが隠せなかった。
「……何笑ってんの。不気味な……」
「心配してくれたんですねえ。それでもってわざわざ来てくれたんですねえ。」

その言葉ではっと我に返った。
そうだ、僕は――

「うーん、やっぱ浅葱さんいい人だァ」

言葉に詰まる。
いい人?そう言う問題じゃない。
僕はただ僕自身萩間がいなくなるのが恐かっただけだ。
大切で大切で仕方なくてでもそれを認めるのが悔しくて、


「ありがとうございますっ。あー俺も無事だったしめでたし、めでたしですねっ。」


「……帰る」
やっとの事でそれだけ言うと僕は萩間に背を向ける。
これ以上萩間の顔を見ていたら思わず口元がゆるみそうだったのだ。
この脳天気な笑顔がたまらなく憎らしくて、愛しい。
全く、どうかしてる。


くそ、と心の中で自分を罵る。
悔しくて仕方ないのに、それでもやっぱり嬉しくて。

夜中だと言うのに後ろから「お茶でも飲んで行ってくださいよー」騒ぐ萩間の声に、僕はそれ以上その場から離れる事が出来ず、


仕方がないから腹いせに引き返して思いきり萩間の頭を叩いてやる事にした。

さぁ、続きを聞かせて(浅萩)

May 22 [Fri], 2009, 8:14
ひとしきり喋り続けていた萩間が、はっとして口をつぐむのが薄闇の中でも確認出来た。
「・・・浅葱さんごめんなさい、オレまた暴走しちゃって。もう眠いですよね、浅葱さんも明日仕事だし。」
寝ましょうか、と布団の中に顔を潜り込ませる萩間はいつになくばつが悪そうだった。

それと言うのも昨日の夜の事。
布団に入ってからも、飽きもせず他愛もない話を続ける萩間を、ここの所寝不足が続いていた僕は少しだけ叱り付けてしまったのだ。
さすがに僕も昨晩は大人げがなかったと反省したのだが、根が素直な萩間は気に病んでしまったのだろう。
今日はいつもの数倍潮らしくなっている。

大体何を今更気にする事があるのだろうか。
シングルベッドに大の男二人詰めて寝ていると言う時点で十分な睡眠を確保出来たとは言い難い。
そしてそんな事も既に諦めはついている。
それでもいいから、と萩間に家に住む様持ち掛けたのは他でもない僕自身なのだ。


「…萩間」
小さく呼び掛けると、萩間がおそるおそる布団の中から顔を覗かせた。
半分以上布団に覆い隠されているとは言え、その怯えた表情はすぐに見て取れる。
僕は思わず微笑んだ。
その小動物のような仕草が、自分が寝不足である事などどうでもよくなる程可愛かったのだ。


「聞かせてよ」
「・・・え?」

戸惑う萩間の顔を覆っている布団を引きはがし、その頬にそっと触れてみる。





「続きを、聞かせて。」

視線が交わっただけで、ニヤけてしまう顔(浅萩)

May 08 [Fri], 2009, 8:01
「浅葱さん、こっち向いてくださいっ」
「何」
「…んーやっぱ眼鏡外してると印象変わりますねえ。」
「仕方ないだろ壊れちゃったんだから。当分はコンタクトで…何にやけてんの」
「え?にやけてましたオレ」
「うん、元々しまりのない顔がさらに緩んでる。」
「やー相変わらずクールビューティーだなあと思って。」
「だから誰がビューティーか。」
「自覚ないんですかー?浅葱さん眼鏡外すと相当な美形ですよ。ホントにかっこよくて惚れ惚れしちゃいます。」
「はいはい。」
「まあ浅葱さんは眼鏡しててもしてなくても、すごくかっこいいんですけどねっ。」
「……。」
「浅葱さんー?」
「…前にも言ったと思うけどさ、萩間は僕を美化しすぎ。僕よりかっこいい人なんていくらでもいるんだから。」
「でもオレの中では浅葱さんが一番だし、浅葱さん以上にかっこいい人なんてオレ的には有り得ないんですよっ」
「…萩間」
「え?」
「…もういいから。さすがにちょっと恥ずかしい。」
「わっ、照れてるんですか?浅葱さん!」
「うるさい。」
「浅葱さん素敵!かっこいいクールビュー…いたたたた!何で耳引っ張るんですか浅葱さん!いたい!」




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萩間がノロけているだけのお話

僕に言えないことがあるなら、それでもいい(浅萩)

February 21 [Sat], 2009, 18:07
「言いたくないなら、無理して言わなくてもいいよ。」

目に涙を溜めて俯いている萩間の頭に軽く手を置くと、その表情は更に辛そうに歪んだ。
僕はそれ以上何も言えず、萩間の頭を撫で続けた。
萩間が小さく震えているのが手の平から伝わって来る。


つい先刻の事だ。
夜遅くに突然家に押しかけてきた萩間は、玄関先で僕に抱き着き何の前触れもなく泣き叫び始めた。
何があったのか聞いても泣きじゃくるばかりで会話にならない。
深夜二時半に「幽霊が出たから助けて下さい」と電話が来た時も、実の所随分動揺したが今日はその比じゃない。


萩間は泣いている。


それも酷く怯えた様子でだ。
幽霊より怖いものと言ったら一つしかない。
人間だ。
人間に何かされたのだろう。
それも口にするのをためらう程の事を。

ならば、せめて思い出さないようにさせてやる事しか今の僕には出来ない。

「萩間」
名前を呼んで、震える体を抱き寄せる。
自分より一回りも大きな体が酷く頼りない。
「あさぎ、さん」
好きです、と小さく続ける萩間の声はどこか憂いを帯びていて何故だか無性に不安な気持ちになった。
思わず萩間を抱く腕に力が込もる。
「好きだよ」
僕達はそのまましばらく抱き合い、一時間程経った頃ようやく落ち着いた萩間は罰が悪そうに帰って行った。






萩間が、同じ大学の男達にされた酷い事を偶然会った野々宮に聞いて知ったのはそれから数日後の事だった。
それは十九歳の男の子にとってあまりに過酷で、口にするのも汚らわしいような事だった。
萩間の人懐こい性格に付け込み、集団で――ああ、考えたくない。



あれから数日萩間とは連絡が取れずにいる。
大学にも来ていないらしい。
僕はその足で萩間の家へ急いだ。


胸の中で激しい怒りと自責の念が渦巻く。


何故、

何故あの時僕は無理にでも聞き出さなかったんだ。
何故あんな状態の萩間をそのまま帰してしまったんだ。



萩間

萩間

萩間!!


頬を熱いものが伝って行く。
それは止めようもなく僕の頬を濡らし続けた。
ここ数年泣いた事などなかったのだが、そんな事は気にならなかった。


今はただ、萩間を抱きしめたい。
それだけだった。

君がする話だから僕は耳を傾けずにはいられないんだ(浅萩)

February 10 [Tue], 2009, 17:58
「それでさ、その人何するのかと思ってずっと見てたらいきなり座席から立ち上がって大声で――」
「うんうん」
「…何ニコニコしてんの、萩間。そんなに面白い話だった?」
「浅葱さんのする話ですからっ」
「はい?」
「浅葱さんが自分の事話してくれるだけでオレ、楽しくて幸せで仕方なくなるんですよー。」
「何で」
「うーんそれは…浅葱さんだから。」
「会話になってない。」
「浅葱さんの事、好きだから。」
「……」
「ああ、あからさまに嫌そうな顔しないで下さいよー!」
「別に嫌じゃないよ。ただそう言う事よく堂々と言えたもんだなって感心してるだけ。」
「え…そうですか?照れるなあ。で?」
「ん?」
「話の続きですよっ。食堂に面白い人がいたーって話!」
「ああ、なんかもういいや。」
「え、なんでですか!」
「オマエ見てる方がよっぽど面白い。」
「どう言う意味ですかーーっ!!!」