爆発

July 11 [Sun], 2010, 22:13
どこかで見たことのある顔だった。
すごく馴染みのある顔だと思った。
でも思い出せなくて、隙を見てはちらりちらりと盗み見た。
芸能人…いや、違う。
同じ学科の人でもなさそうだし。
うっかり、その女の子の向こう側が透けてしまいそうなくらい強烈な目線を送っていた。
女の子が本にしおりを挟んで、顔を上げる。
目が合ってしまった。
何となく窺うような、怯えたような卑屈な雰囲気の目をしている。
俺の頭の中でチカッ、とカメラのフラッシュが弾けた。
ごく自然に目を逸らして、なるべく物音を立てないように席を立つ。
伝票をテーブルからむしり取る。
忘れていきそうになった鞄をしっかりと抱えて、静かに、でも早足でお会計、と掛かれたプレートの下に向かう。
財布は小銭でいっぱいなのに万札を出した。
店員が教えてくれた細かい金額は耳を通り抜けていたから。
やたらと多いごちゃごちゃしたお釣りを受け取って階段を上がる。
一気に駆け上がって地上に出る。
外はむっと迫ってくるような暑さで、次から次へと押し寄せてくる人の波をかき分けて地下鉄の駅に向かって早歩き。
精一杯の早歩きは、たぶん見た目ものすごくかっこ悪い。
それでも走る気にはなれなくて無理やり早歩きを続けて、やがて人ごみを抜けた。
思いついたように立ち止まって、後ろを振り向いた。
あの女の子は、居なかった。
向こうも気付いて追い掛けてくるなんて、そんなドラマみたいなことある訳ない。
だいたい、自分であの女の子に気付かれないように店を出てきたのに。
芝居がかった自分の行動が恥ずかしかった。
本当は、「久しぶりだね、元気?」なんてへらへらした顔で声掛けても良かったんだ。
こんな逃げるみたいに避けるなんて、自分でも正直驚いてる。
あの女の子を目を見て思い出した景色とか温度とか匂いとか気持ちが俺の正常な思考をぶっ壊した。
はっとして携帯を開いたけど、連絡が来てるはずもない。
彼女は別れてすぐにアドレスを変えてて、俺もそれからしばらくしてアドレスを変えたから。
訳も分からないまま電車に乗ったら夏休みなのに大学に行ってしまった。
帰ろうと逆方向に乗ったらバイト先に着いた。
家に着いた時も、玄関で彼女が待ってる気がして恐る恐る帰った。
思い出したくなかった。
認めたくないけど、この動揺っぷりはたぶん、悔しいけど、変だけども、俺はあの子がまだ好きだから。
P R
プロフィール
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文章を書く練習をしています。
日記ではありません。
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鶯谷ゆめか(大手町まちのしん)…1988・6・18、栃木県に生まれる。平凡な学生。おしゃれ空間に憧れるが、実際おしゃれな街に行くとそわそわしてしまう田舎者。音楽とまったりとユーモアをこよなく愛するのんびり野心家。
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