第一話・女の子(1) 

2005年05月26日(木) 5時27分
いつもは騒々しい学校も、夜中の12時を過ぎるとひっそりと静まり返ってしまっていた。

「なあ、肝試しって何するんだ?」
「やっぱ学校の七不思議検証?」
「うちの学校にそんなもんあるのかよ」

菊地は上履きに履き替えながら小さな声で呟いた。
それに答えたのは大谷響(オオヤヒビキ)と榎木涼(エノキリョウ)だ。
その3人の小さな声すら静まり返った学校には大きな音で、無人の体育館で話しているように不気味に響く。

「俺は聞いた事ねぇな」
「大体、うちの学校ってそんなに年季入ってないだろ」

河内七貴(カワチナナキ)と中目慧(ナカメケイ)がぼそりと告げる。

彼らが通う私立東宮学園中等部は、少子化による生徒数の激減で経営が困難になった私立校数校を統合させて5年程前に新しく建設されたまだ新しい部類に入る学校だった。
しかし、校舎が真新しい事、建っている場所も駅から近い街中と言う事で学校の七不思議系の噂は皆無だった。

「じゃあ学校にありそうな怖い話を思いついた順に攻略していくとかは?」
「いいじゃんそれ。花子さんって下水管伝って全国の学校巡りしてるらしいしな」
「下水管て…」
「だって花子さん、全国の小中学校に出没してんじゃん」

杉原侑(スギハラユウ)の面白がるような声にその場の雰囲気が柔らかくなる。
菊地は内心、かなり緊張していた。
別にホラーが嫌いなわけではない。だからと言って好んで首を突っ込みたいわけでもないが。
呪いとか取り憑かれたなんて事になったら嫌に決まっている。想像にしてもその可能性は潰しておいた方が良いに決まっている。
それに正直に言えば、怖いものは怖い。
これから何が起こるのか、不安が菊地の中を渦巻いていた。

――バタンッ ガチャンッ

「ひぃ!」
「な、なんだよっ」
「誰だよ、ドアなんか閉めた奴!ご丁寧に鍵まで閉めやがって」

急に閉められたドアと鍵の音に全員が飛び上がった。
大谷がその驚きを隠そうとわざと大声で怒鳴ってドアに近付く。

「あれ?」
「響?どうしたんだよ」
「鍵が開かない…」
「ふざけんな、ここ非常口だぜ?」
「非常口までコンピュータ管理なわけねーだろ」
「だってマジで…」

そのとたん、あらゆる場所の鍵が連続で閉まる音。
そして非常灯がぱつん、と切れる小さな音がした。
一気に辺りが暗闇と化した。

序章・はじまり 

2005年05月25日(水) 4時13分
「…お前ら何してんの」

全中前強化合宿最終日。
午前12時の10分程前に呼び出された場所は、学校の校門前だった。

「肝試ししようと思って」
「俺、パスイチ」
「何言ってんの。春陽(ハルヒ)は強制参加に決まってるデショ」
「フザケンナ」

中学3年。中高一貫の私立校で、外部受験でもしない限り離れ離れは有り得ない。
だけど思い出作りなのか、そこには仲が良い連中5人が集合していた。

「ハル、付き合い悪くね?」
「いつもじゃん」
「お前ら、今合宿中だぜ?1、2年ほったらかして遊べるか」
「大丈夫だって」
「その根拠はドコから」

幹部のお前らがそんなんでどうする。
菊地春陽は深いため息をついた。
強化合宿は今日で最後だから別段、問題はない。
強いて言えば、監督にバレたら怖い事と、他の部員の事だ。
部長である菊地はどうしたって責任者と言う立場がある。放っては置けまい。

それじゃなくても自分がつるんでいる仲間は有名なのだ。
それは部活の実力だとか人より少しだけ恵まれた容姿だとかそこそこに人付き合いの良い性格のせいではない。
悪戯。これで有名なのだ。
消火器の非常ベルピンポンダッシュだとか、授業中に教師をおちょくるのは日常茶飯事。
窓ガラスを割ったり、ちょっとした騒ぎを起したり、自主休講(つまりサボリ)は当たり前。
それでも注意で済まされるのは、菊地たちが所属する水泳部に於いて、彼らが全国的にも上位に当たる選手である事、勉学の成績が平均点より少し上は取っている事、教師受けが非常にいいからであろう。
どの時代も学校は部活や勉学で秀でている事とどれだけ教師受けするかで立場が変わってくるものだ。

「起床時間までに部屋に戻ってれば問題ないだろ」
「明日はリレーメンバーの発表と、全中の激励会だけだしな」
「そう言う問題じゃないだろが…」

言うだけ無駄だとは思う。
いつもいつもこのメンバーに連れまわされ、教師の説教を受けているので変に諦めるのが上手くなった。
だけども、それをも甘受しているのは自分だと菊地はため息をついた。

「…花子さんに殺されかけたらてめぇらのせいだからな」
「そしたら焼香くらいは上げてやんよ」

テメーらは生き延びる気なのか。
菊地は再び眉根を寄せてため息をついた。

――この時は、全員何も考えずにただ目先の未知なる恐怖に少しばかり緊張していた。
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