さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを 

July 28 [Sat], 2007, 17:17

かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを




笑う熾天使




「オイ」

呼び掛ける声に目が覚めた。またぱしられるのか、と憂鬱な気持ちで顔を上げよ
うとしたがどうやら俺を呼んだんじゃないらしい。隣の席で携帯をいじっていた
音が止んだ。そう、俺を呼ぶ回数よりもこの人を呼ぶ回数の方が文字通り圧倒的
に多いんだ。土方さんは。

「何ですかィ?」

隣の席になれた事は運命としか言いようがない。けれど、それでも距離は縮まら
なかった。これっぽっちも。土方さんには、全く及ばない。

「ちょっとよ、」

そこで言葉をきり、沖田さんの前の席に向かい合わせになるように座った。沸き
上がる好奇心に勝てず、寝たフリしたまま盗み聞きする。腕の隙間から微かに見
える沖田さんの唇はいつものように赤い。

「口、貸してくんね?」

は、思わず声がもれそうになったがギリギリ堪えた。口を貸す、って、何だ?手
を貸すなら聞いた事はある。けど口って・・・貸してどうするんだ?悶々と考え
ていると、赤い唇が笑みの形をつくった。人を小馬鹿にしたような、それでいて
見惚れてしまう独特の笑顔。はっきりいって俺に向けられた事は五指に収まりき
るくらいだけど、土方さんには常に向けられている。
羨ましいことに、当人はその笑顔があまり好きじゃないようだけど。

「いいですぜ。何、また禁煙?」
「ま、な。そんなトコ」



次の瞬間、唇が合わさった。



驚いて顔を上げ、教室の中を見回すが、誰も気にもとめてない。男子校だから、
とありふれた光景なのかただ気付いていないだけか、多分後者だと思うが。
改めて、まじまじと見てしまう。好きな人が他の奴とキスしてんのをまじまじと
見んのは自虐的な行為な気もするが、目がはなせない。残念なことに。
慣れてる気がする。沖田さんも、勿論土方さんも。相手の唇の感触を確かめあう
ように重ねた後、今度は恋人同士のように舌を軽く絡ませあって。沖田さんの睫
が陰を白い頬に落とすのにつれ、その頬に向かって手が伸ばされていく。
今更だけど目を瞑り再び顔を伏せる。けれど今度は、水音が耳に響き、もっとい
たたまれなくなる。

「・・・あんた欲求不満でたまってんじゃね?」
「仕方ねぇだろ。ヤり盛りの思春期なんだから」
「ただの発情期だろィ」

くすくす笑うその声にまで、耳を塞ぎたくなる。さっきの情景が瞼の裏に焼き付
けられて、目を開けてもまだ、残像が見える。
勝ち目なんてない、不毛な恋だとわかっていたけど、淡い期待を抱いていた。だ
って、土方さんの次に仲良いの俺だし、暇潰しに、だけど放課後色んな所に遊び
に行ったこともある。
沖田さんが目で土方さんを追っていたのも、土方さんも同じようにそうしてたの
も知ってたし、時折沖田さんが第一釦まで閉じていた理由も知ってる。
それでも、こんな場面を目にしても、諦めきれない。
まだ勝ち目はあると淡い期待をする。だって。

「彼女とはシねぇんで?アンタのことだ。もう喰っちまったんだろィ?」
「ヤり過ぎはよくねぇだろ。いくらなんでも」

いつかは、沖田さんが諦めるんじゃないか、って思うから。二人は本気だけど、
“遊び”で付き合ってるようなフリを互いにしていて、互いに片想いのままで。
卑怯な真似だけど、俺は黙って待つしかしない。

「・・・放課後、空いてるか」
「アンタの為なら喜んで空けやすよ」

本心を冗談のように言いながら、土方さんの首筋に、口付けた。シャツの隙間か
らギリギリ見えるその位置に、赤い痕が一つ。

「・・・お前此処につけんなよ」

文句を言いつつ予鈴の為立ち上がった彼に向かって、沖田さんは寂しそうに微笑
む。

いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ 

July 28 [Sat], 2007, 17:13
みかの原 わきて流るる いづみ川 
いつ見きとてか 恋しかるらむ






小さな幸せ




「ただいまでさァ。・・・アッレ。これ見てたんで?」

内側から玄関の鍵をかけ部屋に入ると、一人ソファにふんぞり返り、土方は特番
を見ていた。今日の特番は、セロだとかいう手品師のびっくりショーをやってる
はずで沖田は少々驚いた。
土方は、こういった類が嫌いなのだ。幽霊だとか、そういった魔可不思議なもの
が。タネなんて考えてもわかるはずがないのに、一人で一晩中悶々と考える羽目
になって結局わからなくてイライラして、一晩中考えた自分にもイライラして・
・・とはたから見てて馬鹿馬鹿しいし、当事者としても馬鹿馬鹿しいから。

「・・・んで紙から林檎が出てくるんだ?おかしくね?」
「おかえりくらい言いなせぇよ」

文句だけ言って考え事に没頭しだした土方さんに後ろら抱きついた。徐々に、首
を絞めていく。

「ちょっ・・・ギブギブ!!」

バンバン腕を叩き苦しそうに顔を歪ます姿に満足して手を離した。かったるいス
ーツから着替えようと、寝室へ向かう。
土方さんの仕事は、結構エリート職で残業が多いしその分給料も高い。だから、
俺より先に土方さんが部屋に帰ってるなんて珍しくて、少しだけ仕事のストレス
とかが晴れる。って元々ストレスなんて塵ぐらいしかないけど。ふと気になるの
が、一人の時あの人はどうしてるんだろうとか何考えてるんだろうとか、仕事の
時はどんな感じなのか、って事だ。別に俺は仕事中も、年がら年中土方さんの事
を考えてる訳ではないけど殆どいつも考えてる。どういじめよう、とかそういう
事を。
ネクタイを外していると、ドアが開いた。手を動かしながら振り返ると何か悩ん
でいるようで、またテレビの事かと見当をつける。

「お前さ、紙から林檎出せる?」
「思考回路ショートでもしたんで?無理に決まってんだろィ」

真顔で幼稚な質問をされ嘲笑を返すが気付かなかったようで、ベッドに腰を下ろ
した。早く戻ればいいのに、と思いつつシャツを煩雑に床に投げ捨てる。それを
律儀に広い、土方は丁寧にたたみ、自分の隣に置いた。

「アンタ、何したいの?」
「あ?ただ畳んでただけだろーが。文句あんのかよ」
「だから、何で此処にいるんだってことでさァ。テレビ見てたんだろィ」
「それはなァ、」
「?」
「・・・」

魚みたいに口をパクパクさせるだけで、土方は何も言わない。心なし頬を赤くし
、珍しく狼狽している。
あ〜もう!と前髪をかき乱し土方は立ち上がった。そのままリビングへ戻ろうと
歩き出す。

「なんでもねぇかんな!」
「いや、超気になるんですけどねィ?」
「言わねぇよ。絶対」

すねたような態度に笑いを堪えつつ後を追い歩く。ただ、淋しかったくせに、矜
持が邪魔して言えないんだと、勘でわかった。

「淋しかったんだろィ?」
「なっ・・・!!んな訳ねぇだろ!」

耳まで真っ赤にして再びソファに座る。思わずもれた笑い声に反応してキッと睨
まれる。その顔が可愛くて、もっと笑ってしまうのに。

「何笑ってんだよ!」
「あまりにも・・・アンタが可愛すぎるからですぜ」
「可愛いくなんてねぇよ」

今度は不機嫌そうに眉を寄せる。
まるで百面相だ。コロコロ表情が変わる。“俺”という存在の為に。可愛すぎる
この人を独り占めしていると思うと、嬉しくて堪らない。

「いい加減にしねぇと・・・いじめちまいやすぜ」
「はァァ!?俺なんもしてねぇよ!?」
「存在自体が罪なんでさァ」

軽く唇を重ねると苦笑まじりの溜め息が二人の間に消えた。

「・・・俺を可愛いなんて言うの、お前ぐらいだ」
「そりゃあ俺だけがアンタを知ってやすから」

特別な事なんて出来なくていい。ただ、傍らに居てくれれば。

滝川のわれても末に 逢はむとぞ思ふ 

July 28 [Sat], 2007, 17:08
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ






未来予想図




「ワタシ、お前の事好きヨ」

頬杖ついたまま、沖田は窓際に佇む神楽を見上げた。あ、そう。と返事を返し再
び本に視線を戻す。いま、ちょうどいい場面なのだ。とある美女が、誘拐され、
監禁される―――――その、一歩手前辺り。

「嬉しくないアルカ?」
「そりゃあ、まぁ」

どんなに嫌いなヤツにだろうが好かれてるのは気分がいいものだ。まして、自分
が気にかけてる相手に好かれるのは。だから、嬉しいっちゃあ嬉しい。
「じゃあ何が不満なのヨ」当然の如く首を傾げる神楽にまた視線を上げる。逆光
で眩しいのだけれど、白い肌が日の光に煌めいて、ちょっと神秘的だ。
彼女自体はこれっぽっちも神秘的ではないけれど。それだからこそチャイナ娘な
のだ。餓鬼くさい、生意気なチビだからこそ、惚れたんだ。いや、惚れてない。
惚れてない。

「いや、だって、毎日そのセリフ聞いてりゃ有り難みなんて雲散霧消しちまう」
「そんなことないヨ。どっかのアツアツバカップルは常に愛を囁きあってるアル」
「俺は少なくともバカップルの片割れにはならねェ」

パラパラページを捲り、分厚い本を閉じる。学校の図書室は中々いい。ただで本
が読め、バスとか乗り継ぐ必要がないのだから交通費も掛らず財布にも優しいし
そこでどんな本を読んでいようが、後輩・先輩・はたまた同級生から知的な人物
に見られる。まぁ、それは俺にとっちゃあどうでもいい。救いようのない馬鹿だ
と自覚してるから、今更、そんなイメージもつようなヤツはあまりいないと思う。

「そもそも、俺ら付き合ってねぇだろィ?」

神楽と向き合うよう、机に座り口角を上げる。すると、え、と小さな感嘆符が。
え、って何だ?こっちが驚くっての。だって、よく少女漫画で見るような、“好
きです付き合ってください”という儀式もしてないし。前に、今みたく“好きだ
”っつわれて軽くあしらう為に“はいはい俺もでさァ”って返した事もあるけど
、流石に冗談だとわかっているだろう。
姉上は二人っきりの時に厳かな雰囲気で、出来ればオプションに花束をつけて告
白して貰いたいと言ってた。その後頬を赤らめたのは絶対あのマヨラーの所為で
そこは気にくわないけど、理想としては同意できる。だから、俺は告白するとき
ぐらい真剣に、と馬鹿馬鹿しいかもしれないけど真面目に思ってる。

「お前私の事好きって言ったヨ、この前」
「冗談だろィ」
「ふ〜ん。ま、私も冗談で言ってるアルけどネ」

腰に手をあてふんぞり返る。けれど、威厳も何もない。逆に虚勢のような、餓鬼
くささが滲みでている。

「なんかおかしかっただろ。今の台詞、なんかおかしかっただろ」
「気にするじゃないヨ。ドS野郎が」
「うるせぇ。チャイナごときが」

鼻で笑うと、舌をべーっと出し、神楽は拳を握った。が、おっやる気か、と沖田
が思うより早く、神楽は拳を下ろした。
土方さんだったら、啣えてた煙草をポロッと落としただろう。どうしたんだ?い
ったい。今なら物凄く間の抜けた顔をしている自信がある。それぐらい、不可解
で。マジマジと顔を見つめる。
喧嘩おっぱじめるんじゃないのか。図書室が半壊いや、全壊する、なんて考える
ガラじゃない、俺も目の前のコイツも。だったら、何故?

「どうしたんでィ・・・?」
「十年後、後悔しても知らないヨ。世界一いい女になってやるからな。覚えとく
ヨロシ」

ニヤリといい女の笑みとはかけ離れた笑いかたに絶対なれないと確信する。
―――――でも、もしかしたらなれるかもしれない。

「後悔なんてする訳ねぇだろィ」
「何でアルカ」

きょとん、とする神楽に身を乗り出し、問う。

「お前、俺に惚れてんだろ」
「なっ・・・!」

瞬時に真っ赤になった神楽の渾身の一撃をかわしつつ、沖田は語る。次から次へ
と襲ってくる、手加減なしの手足の攻撃をスレスレで避けながら、例えば、と夢
想する。

「十年後、色男になって求婚しにきてやしやすよ。アンタがまだ売れ残ってたら

「売れ残るわけねぇだろーがァァァ!!」

大きく振りかぶり、繰り出されたストレートを受け止め、片手を顔面に向け伸ば
す。流石怪力女で、受け止めた左手は軽く痺れている。そんなこと気にもとめず
、よく探偵が犯人を追い詰める時のように人指し指を伸ばすとビクリ、と神楽は
身をすくめた。
グイ、と鼻を押し上げる。

「ぶっさいくな顔だねィ・・・。ま、楽しみにしててやりやすよ」

再び驚き目を見張る神楽を一人置いて、沖田は足取り軽く図書室を後にした。
P R
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