半透明の少女 

August 14 [Tue], 2007, 15:53
「ん〜・・・」
指を交互に組み、掌を後ろ斜め上に上げながら背伸びをする。
一仕事(マスターベーション)終えた後の背伸びは最高だ。
しかし、一回するごとに確実にハゲに近づいているかと思うと、あまりいい気持ちはしない、まぁこれでハゲても自業自涜(自業自得)なんだがな・・・。

「今、上手いこと言ったな」
ニヤニヤが止まらない、自分キモイ。


ふと、真後ろに視線を感じることがある。
大抵は気のせいで、何気なく感じた視線が心霊的なものであったなんてことは江原さんや三輪さんのような特異な人たちだけに限定されたイベント・・・という私の考えは根底から覆されたのである。
えらい美人がそこにいた(キョン)。
声がでない、足がすくむ、全身にミミズが這い回るような静かな寒気が走る、が、何故か怖くはない。
青白い肌、不気味なほど綺麗な髪、黒尽くめな服を着て地面からやや浮いてる半透明のその”えらい美人”を、私はただただ見つめることしかできなかった。

うちの壁は暖簾 

August 14 [Tue], 2007, 16:07
振り向いた私の先にはえらい美人が立っていた。
いや、正しくは浮いていた、空間的にも空気的にも状況的にも。

「え・・・」
驚きのあまり硬直していた私の第一声。
「だれ・・・」
その美女が幽霊的なものであることは間違いない、いや、もしかしたら私の長年の願いが叶ってPCの画面からでてきたのかもしれない、そんなわけない。

冷や汗だらだらの私を見ながら美女は言った。
「ハルカ・・・」
いや、確かに「誰?」って聞いたけど、名前を聞いたわけじゃないだろ。
「そう、ハルカちゃんか、何でここにいる・・・の・・・?」
状況に対して台詞が適切じゃないような気もするが、そこは童貞、基(もとい)動転してたんだから仕方ない。
「ん?」
ん?じゃなくて・・・
「えと、どうやって入ったの・・・?」
「壁スーッって」
うちの壁は暖簾(のれん)か何かですか。
「あ、スリ抜けたんだ」
「うん」

今まで数々の奇異な状況を(二次元で)経験してきた私だからこそ、あえて言おう、「かわいい」。
何、ガチャガチャのフィギュアに精液をかけたら急に動き出したり、たまたま下宿してた先の家の娘が鳥人の生まれ変わりだったり、ある日突然神にも悪魔にもなれる男になることに比べれば全然普通。
ちょっと浮いてて半透明なだけじゃないか、むしろ萌え要素だよ萌え要素。
なわきゃねーだろ、ゲーム脳。

「君、幽霊・・・?」
「多分」
「いや、多分じゃなくて・・・」
「ん?」
「いつからいたの・・・?」
そう聞くと多分幽霊のハルカちゃんは、少し考えたような素振りを見せた後、右手の人差し指を立てて「1」を表現してみせた。
「一分・・・?」
「時間」
「一時間・・・って・・・俺の紳士の嗜みとか、某フォルダに厳重に隠してある虹エロ画像とか、ニコ動で落としたらき☆○た観てニヤニヤしてたのとか全部見てたのかぃ!?」
ハルカちゃんは少し恥ずかしそうにしながらうなずいた。

頭の中でカーンという鐘の音とキートン山田氏の「こーはんへぇつづくっ」という声が響いてた。
多分顔に縦線も入って木枯らしが吹いてたと思う。

これ、何てエロゲ? 

August 14 [Tue], 2007, 16:34
前回までの粗筋。
うちの壁は暖簾か何か、多分幽霊の美女のハルカちゃんにシコシコしてるとことかにやにやしてるとこ見られた、キートン山田「こーはんへぇつづくっ」。

「で、だ、君は何でここにいるんだい」
「わかんない」
「じゃあ、なんで壁すり抜けて入ってきたの?」
「あ、お邪魔します」
まぁ、礼儀正しいのはいいことなんだけどさ、道理はどうしたよ。
「うん・・・何で浮いてるの?何故半透明?」
「わかんない!」
「ごめん・・・」

埒が明かん。

「あんた誰と喋っとるんけ・・・」
げぇ、おかん来るなよ。
何ですか、その危ないものを見るような目は。
「え、あ、ほら、この娘見える?この浮いてるコ」
カタン・・・
何も言わず物静かに戸を閉められた。
スカトロ系のエロ画像で抜いてるのを見られたときと同じ反応だ。

「君は・・・何処から・・・きたの・・・さ・・・」
もうやめて!私のライフは0よ!
「えと、ここ何処?」
2DKのボロアパートですが?
「ここは、俺の部屋なわけだが・・・」
「住所は?」
「富山県 高岡市 ×× ○○○-○○○○ でございますが・・・」
「東京」
「東京からきたんだ」
「ん」
何故うちの住所を訊いた。

「家は・・・何処・・・?」
「わかんない」
「幽霊が記憶喪失?」
「ん?」
ん?じゃねーだろ。
「自分が住んでたとことか覚えてないの?」
「ここ、いてもいい?」
「いてもいいって?」
「住んでい?」
これーなんーてエローゲー。
おい、誰かコバリュー呼んでこい。

「いあいあ、幽霊ってあれだ、成仏するとかさ、誰かの背後霊になるとか、行くあてあるっしょ」
「できない」
誰かギボアイコ呼んでこい。
「とりあえずだ、自己紹介してくれ」
「ハルカ、18歳」
2つ年上だよ、こんな○ホな18歳とかあっていいのか。
「それだけ・・・?」
ハルカ18歳ちゃんは軽く頷いて、また沈黙が始まった。

不完全燃焼 

August 15 [Wed], 2007, 15:00
この幽霊と長々と話した後でこんなことを考えるのもなんだが、幽霊などという非科学的な存在がいてもいいものか、もしかしたらこれは俺の妄想なのかもしれない。
ほらあれだ、ハウスダストか何かで幻覚を見てるのかもしれない。
こないだ机の後ろに生えてた食べたらトリップしそうな色のキノコとか食ったし、そうだよ、これは幻覚なんだ、そうに違いない、明日病院で診てもらおう。

「よし、寝るか」
「うん」
お前に言ったんじゃない。

私は病的なまでにキッチリと布団を広げると、電気を消して光の速さで布団に潜り目を閉じた。
そう、寝て目が覚めれば何事もなかったように今まで通りの生活、今まで通りの自分がいるはずだ。
なんか背中をツンツン突付かれてる気がするが気にしない、なんか自分はどこで寝るのかとか訊かれてるが気にしない、何かが布団に潜り込んできたけどきっと近所の猫か何かだよ。

「ねー」
ねーだって、やっぱり猫だよ猫、にゃーと同じナ行じゃないか、猫猫間違いなく猫。
「寝た?」
うん、寝た寝た、ここからは夢の中だよきっと猫が喋ってるに違いない。
「起きてー」
寝たかどうか訊いといて起こすのはおかしくないか。
「なに?ってか何で布団に入ってんの」
「寝るから」
「本当に居座るつもり?」
「だって私が見えるの貴方だけだもん」
「江原さんにでも会いに行けばいいじゃん」
「あの人インチキだもん」
まぁ、それには私も同意だ。
そして今更なんだが何故布団に”入れる”?壁は通り抜けれても布団は無理ですか、そんなバナナ。
そうこう考えてるうちに私はいつの間にか眠りに就いていた。

うおっ、眩しっ、強い光が瞼を直撃する。
カーテンはどうしたカーテンはきちんと自分の役割を果たせよ布め、などと寝起きから心の中でカーテンに説教をしていた。
朝か、こんな時間に起きるのは何ヶ月ぶりだろうか、いつもは日が沈みかけた4時ごろに目を覚ますんだが・・・。
「おはよ」
こいつ、勝手にカーテンを開けてやがる、眩しいわけだよ。
「えーっと、眩しいから閉めてくんない?」
「いい天気だよ」
聞いちゃいない。

「あのさ、厳しいこと言うようだが出て行ってくんないかな、こうやって君と話をしているだけで親からは変な目で見られるし、添い寝なんてされたらやっぱりこみ上げてくるものとかもあるしさ。
何より君が仮に本物の幽霊だとしてもこうやってお互いに見えていて、コミュニケーションも取れる状態で年端も行かぬ男女が同じ部屋で同じ布団で寝るというのは社会的に許されないことだと思うんだ」
「ん?」
(´・ω・`)ショッボーン
真面目に言った私がバカだったのか。
「だから、自分の家へ帰れないんなら出てけって言ってんだよ」
「あんた、おかーちゃん仕事から帰ってきたら一緒に病院いこな・・・」
お おかん、最悪なタイミング。
「あ いや おかん 違う 違うんだよ これには深い訳がなっ」
パタン・・・
また、物静かに戸を閉められた。
俺の人生オワタ。
「ほれみろ、君がいるせいであんな」
「・・・ごめんなざい・・・」
泣いてる、泣きたいのはこっちなのに。
こういうときはとりあえず謝っておけばいいものを、変に強情になってしまい気まずい時間が流れた。

その間ハルカちゃんは泣き続け10分ほどして泣き止んだら、会釈して閉まったままの窓から外へ出て行った。
「これでよかったよな」
泣かしてしまったことは別として、私は間違ったことはしてないだろう、正しいかどうかは別として。
何も正解じゃないことが間違いじゃないし、正解が正しいこととは限らないだろう。
そう、あそこで変に関わったところで私にできることなんて何もない。
ここで何か行動を起こすぐらいの甲斐性があるならニートなんてやってない、それに何かしたところで得するわけでもないだろう。

もう忘れよう、昨日のこともさっきまでのことも全部夢だったんだよ。
「おかんにどう説明するかな・・・」

 

August 16 [Thu], 2007, 15:21
自分で追い出しておきながら落ち着かない。
さっき自分で夢だったと思うことにしたばかりじゃないか、それなのに何だこの気持ちは。

”「だって私が見えるの貴方だけだもん」”か、ずっと独りだったのかもしれないな。
私だって独り・・・いや、独りの意味が違う。
私は友達もおらず家に引き篭もっているから一人なわけで、この世界とは違う世界の存在で誰とも接することができなくて独りな彼女とは”ひとり”の意味が根本的に違う。

私はやろうと思えばなんでもできる、こなせるかこなせないかは別として、何でもできる。
そんな私が自分じゃどうしようもない彼女を放り出していいものか。
私は何でもできる、もちろん彼女の力になることだってできるかもしれない、そして私が力を貸すことで彼女も何かできるかもしれない。

私はどうすればいい?
私は困ったときはいつも心の中で何かに問いかける。
誰かが答えてくれるのを待っている”待っている”ことを言い訳にしてただ逃げてるだけ、答えはもう出ている。

「答えはもう出てる・・・」

数ヶ月ぶりに私は玄関に立っていた。

走るゴム長 

August 17 [Fri], 2007, 15:36
靴が小さい。
なんという誤算だ、引き篭もってた間にこんなにも足のサイズが大きくなっていたとは。
踵入らないし、幅も狭くて爪先立ちしないと履けないぞこれ。
他に履くものは長期間放置されて樹脂の部分がカピカピになってるビーチサンダルと、長靴。

樹脂の部分がカピカピになってるサンダルは下手すると履いてる途中でバラバラに砕け散ってしまうかもしれない、かといって雨も降っていないときに長靴履くのは気が引けるし、かといって爪先立ちってのは・・・。


「ガッポガッポ」
笑うなら笑え、こんな天気のいい日にゴム長を履いて必死な顔で全力疾走してる私を笑うがいい。
なーに、普段から外に出るたびに中高生の女子から指差して笑われてるんだ、今更長靴で走ってるのを笑われるくらいどうってことない。
つーかどうやって探したらいいんだ?向こうは半透明でただでさえ見難い上に、どっかの建物の中にいるかもしれないのに。

何も考えずに走り回るより頭を使え、この小学校の間は常に平均以上の成績をキープしてたこの頭脳を。
えーっと・・・あー、何も手がかりないな。
昨日出会ったばかりで大して会話もしたことがない人間(幽霊)が何処行くかなんてわかるはずがない。
そんなのバーローの人やーーの人でもわかるわけない。

「おおおおおおーい!ハルカちゃーん!どこだー!」
周りにいた人が驚いた顔で私の方を向く。
そりゃそうだ、ゴム長で疾走してたヤツが急に奇声を発して驚かない方がおかしい。
でも、一番驚いてるのは私な訳で、何もここまでする必要はないんじゃないかと我ながら思う。
「おーい、うちに住んでもいいし、なんなら東京で君の家を探してもいい、だから出てきてくれー」
一度叫んだら少し楽になった、恥?世間体?気にしたら負けだ、人の(自分と)気持ちと世間体を天秤にかけたらどっちが重いかなんて知れたこと。
それに、引き篭もりでヲタクでニートなんて人間の屑がこれ以上落ちるわけない、気にする恥も世間体も
「持ち合わせてねーよ!」

そして初恋は2度散り 

August 18 [Sat], 2007, 21:19
長靴を履いて女の子の名を呼びながら街中を全力疾走する私を見て、他人はどう思っただろう。
怖い、キモイ、キチガイ・・・何にせよ間違いなく異質で不気味に感じただろう。
小学校の頃とても仲良かった友人とすれ違った、彼は私を見て一言「キモイ」と言った。
中学校の頃の恩師と交差点で目が会った、すぐに目を逸らされた。

小中学校でずっと思いを寄せ、そして中学校三年生のクリスマスイヴイヴに告白して「ウザッ」と言われ、私の引き篭もる原因となった真紀ちゃんにまで会ってしまった。
私は立ち止まり「ひ、ひさしぶり」と絵に描いたように引きつった挨拶をしたが、真紀ちゃんはそんな私を無視して通り過ぎ、3mくらい離れてから友人と思われる女子に「誰あれ、キモーイ」と言っていた。
こうして私の初恋は2度散り、心は完全に砕け散った。

罰ってこういうことを言うんだろうな、誰かを傷つけた罰として自分が傷つく。
当然といったら当然、寧ろ罰を受けられたことを喜べきか。
そして謝って、償うんだ。

もう陽は落ちている。

ダメ、ゼッタイ 

August 20 [Mon], 2007, 11:44
午後10時、流石に今日は帰った方がいいか。

結局見つからなかった。
もう何処か遠くへ行ってしまったのだろうか、それとも成仏してしまったのか、もしかして陰陽師にでも捕まって封印された、なんてことはまずないだろう。

そうこう考えてるうちに家の前についていた。
「ただいま」
16歳にもなって夜遅くに帰っただけでこの罪悪感はどういうことだろうか。
「おかえり、おそかったやないの!」
「ゴメヌ」
般若のような形相のおかんに10分ほど説教された。
別に10時くらいいいじゃないか、箱入り娘でもあるまいし、仮に箱に入ってたとしても多分スーパーで貰ってきた蜜柑箱だよ。

今日一日の疲労とおかんからの説教でフラフラになりながら部屋の戸を開けると、そこには私が探し回っていたハルカちゃんがちょこんと座っていた。
「え・・・」
「おかえり」
あるぇ〜(;・3・)、確かに今朝私が追い出してハルカちゃんは出て行ったはず、そして私はそのことを悔やんで自分の全てを棒に振りながら今私の部屋にいるこの娘を探し回っていたわけで・・・。
「え、なんでいるの?」
「いくとこない」
「そか、今朝はごめん。
それと俺にできることがあったら、可能な限り君の力になりたいと思ってる。
しばらくは此処に住むとして、後々東京に行って君の家や家族を探したりとかさ」
「うん」

「でだ、ちょっときてくれ」
私はハルカちゃんの手を掴んで、いや実際は掴もうとしたけどすり抜けたんで手招きしておかんの部屋へ連れて行く。
「おかん!信じられんかもしれんし、俺のこと変やと思うかもしれんけど聞いて欲しい」
おかんがポカンとした顔でこっちをみている、ぶっちゃけ顔からメラゾーマが出るほど恥ずかしい。
「見えないかもしれんけど、ここに多分幽霊らしき女の子がいて、俺以外の人と会話することもできんし他にいくとこもない、自分が住んでた家の場所もわからないらしくて・・・」
私は唖然としているおかんに全てを話した、そしてハルカちゃんを泊めてもらうよう頼んだ。
見えなくても、信じてもらえなくても、伝えるしかないんだ。

「あんた、薬やってんやないやろね」
至極当然の反応が返ってきた。
「いや、そんなんじゃなくてさ」
「幻覚見えてるんやろ」
「ちがっ、頼む信じてくれ!」


信じてもらえませんでした。
そして私は救急車で運ばれて病院にいる。

理解 

August 21 [Tue], 2007, 18:49
「えーっと、何か最近辛いことでもあったりとかは―」
「ありません」
「じゃあ、不安なこと―」
「ありません」
「夢と現実の区別がt・・・
「ありません」

医師は淡々と私に質問してくる、それに対して私も淡々と答える。
私は正常なんだ、むしろ異常というか超常的なのはハルカちゃんの方なわけで。
そしてその張本人はすぐ隣でぼーっとしてる、というか暇ならこの医者を何とかして説得してくれ。

「ん〜、君は家で誰と話をしていたのかな?」
「ハルカと名乗る18歳の少女の霊です」
「う〜ん、君はあれかな?陰陽師か何かに憧れてるのかな?」
「例え其れが異質なことであっても、真実を見るためには嘘に思えることをも信じることから始めるべきだと思いますが。
最も過半数の人間、特に貴方のような中途半端に歳ばかり食った大人は、自意識過剰で自信過剰なあまり自分が今まで経験してきたことしか信じられないでしょう。
でも考えてもみてください、貴方が信じられる『常識』だって生まれたばかりの頃からしたら、未知なる存在だったはずです。
ほとんどの動物園に当たり前のように一頭や二頭はいるようなキリンだって、初めてそれを見るまでは首が2メートル以上ある動物の存在なんて信じられなかったでしょう。
貴方が信じられず、信じようともしていない異質な者が見える私という存在だって、貴方は初めて異質な者が見える人に出会ったから、貴方にとっての『常識』ではないただそれだけの話です。
無理に信じろとは言いません、むしろ理解しようともしない天邪鬼な赤ん坊のような人の理解なんて求めません」
「うん、うん、君の言いたいことはわかるし、君の事を信じてないわけじゃないからね」

そう、大人はいつもこう言い訳する。
『信じていないわけじゃない』は『信じてるとは言っていない』ということだ。
信じるという字は人の言葉と書いて『信じる』人の言ってることを理解して、信用して始めて信じることになるのに、ほとんどの人間は特に大人は自分が見たことしか信じはしない。
更に言えば本当の意味で理解していれば信じるはずなのに、『信じていないわけじゃない』という言い方をするのは、理解すらしようとしていない証拠だ。
でも、たとえ相手が心の底から『信じてる』と言ったとしても私は信用しない、自分が言ってることが異常なことだと解っているから、たったこれだけの会話で信じるような偽善者や馬鹿に話をしたところで無駄なだけだから。

「『信じていないわけじゃない』というのは、逆に言えば『信じてるとは言っていない』と解釈できますが」
だがあえて揚げ足をとってみる。
この詰問への正しい答えは正直に前言を撤回して相手から更に詳しく話を聞くことだ、それ以外だと信用するに値しない。
「いや、どういう意味で言ったんじゃないんだよ、君の言ってることはすごく興味深いし、幽霊がいないなんて誰も断言できないわけだからね」
精神科医やカウンセラーなんて得てしてこんなものだ。
『幽霊がいないなんて誰も断言できない』この時点で私の言ってることが嘘だということを前提として話をしている。
『すごく興味深い』というのも、自分の世界に篭っていたり超常的な存在が見えるという設定の人はそのことを人に知って欲しがる、要するに夢見がちな子供は構ってチャンだから少しでも興味をもった振りをすれば簡単に診察ができる、ただそれだけのために言ったのだろう。
私はそもそもこんな人間に理解は求めないし、ハルカちゃんの力になれるのは現時点で私だけなのでがんばって理解者を増やしたところでなんの意味もない。

「帰っていいですかね、貴方が相手にするに値しない無価値な人間だというのはよーくわかりましたので」
「何でそういうこというのかな?聞かせてくれない?」
「相手するに値しない無価値な人間だというのはよくわかりましたので」
私が部屋から出て行こうとすると後ろから舌打ちが聞こえた、偽善的でいることすらできないなんて本当に無価値な人なんだとしみじみ感じる。

おかんは別室で話でもしているのだろう、待合室にもロビーにもいなかった。
「ハルカちゃん・・・」
「話していいの?」
「少なくとも俺には君が見えてるし声も聞こえる、俺は他の人が認知している君と話しをしたいんじゃなくて、今目の前にいる君に話しかけてるんだよ」
「うん・・・」
責任を感じているのか、ハルカちゃんは病院にきてからずっとおとなしい。
このままじゃだめだよな、全く気にしてない素振りを見せねば。
「暇だったろ、家帰ったら人生ゲームでもする?俺友達いないから4年くらい埃かぶったままだけど。
あ、でも俺は強いぞー、少し手も有利にゲームを進められるように独りの時にたっぷりイカサマの練習したからな!」
「ふふっ」
初めてハルカちゃんの笑顔をみたが、やっぱり綺麗だ。
月並みだがまるでフランス人形のようで、私はなんとも言えない気持ちになった。

「笑ってる方がかわいいじゃん」

 

August 23 [Thu], 2007, 17:31
「かわいくないよ」
顔を真っ赤にして照れながら言ったって説得力ないだろ、照れてる女の子ほどかわいいものはないんだから。
ふと隣を見ると、いつの間にか暗い顔をしたおかんが戻ってきてた。

「おかん、俺が言ってることが非現実的で信じられないことだというのはよくわかってる。
わかっててあえて信じてもらおうとした、けどもう諦める、家も出てく。
俺にとってもおかんにとってもその方がいいやろ」
「あのな、あんたが何でそういうこと言うんかわからんから、しばらく入院して検査してもらお」
「は?」
「だから、ここで入院して・・・」
「ざけんな!」
「おちついて」
「入院?俺がお前らに見えないものが見えるからって入院か、それって入院て名を借りた隔離やろが」
「あんな、誰もいないところに話しかけてるのってな、すごい怖いことなんよ、そんなんやったら仕事もできひんやろうし、あんたの将来のこともあるからな」
「だったらいっぺん死んで本当にいないのかどうか確かめてみろよ」

私は怒鳴りながら思い切りおかんを殴った。
初めて、生まれて初めて親を殴った、何でこんなに腹が立つのかわからない、ただ言えるのはおかんも私も声を殺して泣いてるということ。
その後も何度も何度も殴り続けてると、驚いて駆けつけてきた男の看護士に止められた。
正直、止められて安心してる。

「帰るわ」
少し離れたところでオロオロしてるハルカちゃんに手招きして、出口ヘ向かおうとしたら三人ぐらいの看護士に捕まった。

「離して下さい」
「落ち着いて、落ち着いて、怯えなくてもいいから」
いや、怯えてるって意味がわからん。
私が錯乱してるとでも思ってるのか。
「落ち着いてるし、怯えてもいません。
それに入院なんてしません」
「別に入院って言ってもね、全然怖くないんだよ、ただ先生とお話したり写真取ったりするだけだからね」

怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない
この言葉が一番怖い。
なんでこの言葉が怖いんだろう。
この看護士の不気味なほどに優しい口調が怖い。
何か思い出しそうだけど何も思い出せない。
私の記憶じゃないのか、何か遠いところにある恐怖。

小さな頃にサーカスで見た泣きながら笑っているピエロを見たときのような、柔らかで纏わりつくような静かで誰にも理解されない恐怖に包まれてゆく。

「離せよ!離してくれ!」
逃げないと終わってしまう気がする。
全てが。
逃げないと、逃げないと、逃げないと、逃げないと。
「ハルカ!」
ハルカちゃんは泣いていた。
虐待されている子供のように、蹲って声を殺して。



ベッドが一つ、カーテンで遮られた小部屋には子供が使うような小さな便器、真っ白な壁には爪跡と、誰かが遺した悲痛な叫びが刻まれていた。
そして外からは鍵がかけられていた。


罪無くして入れられた牢獄で、生まれてきたことを呪った。
罪無くして入れられた牢獄で、人への思いやりを呪った。
罪無くして入れられた牢獄で、漠然とした恐怖を味わった。


其処は月すら見えない部屋だった。
P R
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