に別れちゃうと思う

May 28 [Thu], 2015, 10:48
実はすぐに酔ってビールと缶酎ハイを混ぜはじめ、間々田君はまずいまずい、何をするんだと、珍しくはしゃいで飲んでいた。

 まだまだ宴が続くと思われた頃、
「なんだか私、お腹がいっぱいですっかり満足して眠くなっちゃった。だからこれ、焼いて食べようかと思ったけど、持って帰るわ」
 突然冬実が言い出した。
 じゃあ送っていくよ、くらいのことを言えばいいのに、そういう気が利かないのが間々田君で、「気をつけてね」という一言を背に、冬実は一人、ずんずんと去って行った。
 何に気をつけろというのか、気をつけないといけないのは自分だろう、私は救い難くあきれた気持ちで彼を見ていた。伊達に言外のニュアンスをたっぷりこめて「いい人」と言われがちなわけではない。キャスターをつけて転がしているのに、冬実の荷物はひどく重そうだった。

 トイレに立った時に冬実に電話した。電波が悪く、今時珍しいほどひどく混線していた。
「私、どうせきっとすぐに別れちゃうと思うんだよ。だけどね」
 それが間々田君のことなのかシノブ君のことなのか、わからない。
「帰ってこれ、一人で食べるのか。どうしよう」
 こちらの言ったことは聞こえていない気配のまま、まだ酔いの残った言葉の断片を残して電話は切れた。

 それから冬実の姿を見なくなった。電話も通じずに数日経つ。
「旅行にでも行ったのかも。気まぐれだから」
 間々田君は言った。本気でそう思っていそうな能天気さがちょっと怖い。シノブ君も一緒なのだろうか。まさかあの荷物の中に本当に、とは思はないが、彼は今どこにいるのだろう。
 行きがかり上、この間のファミレスで間々田君と二人で向き合っている。外は暑そうだが、店内の冷房は寒い。彼は手を組み替えてまた両肘をテーブルにつくと、窓の外を見やり、半分笑顔のまま、寂しげにため息をついた。
 ふと、何もかもこの人はわかっているのでは、という疑念が浮かぶ。いや、考えすぎか。ただ、自分でそれと気づかぬまま、皮膚で捉え、皮膚だけで感じるようなやり方で、この人も冬実の「言葉」を受け取っていたのかもしれない。
 何だかんだで、自分で選んだわけだよね、この人。でもどうするの。と、ここにはいない冬実に語りかける。

「しょうがないなあ、本当に」
 コーヒーを飲み干し、寂しげな笑顔のまま言う間々田君はちょっといい男に見えた。私はなんとなく、冬実が何事もなかったかのように、空のキャリーケースを引いて帰ってくるのではないかという気がした。

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