長い長い3日間D 

September 16 [Sat], 2006, 0:43
「しんれー・・・・・・あいしてる・・・・・・・・」
「朝からなんなら! 気色悪いのう!」
その声に眼を醒ますと、恋人と思って抱き寄せたのは、なんと!
「げっ、庵曽新///」
「げっ は、こっちじゃあや!」
兄弟数の夥しい庵家では、部屋争奪戦が激しい。
文字通り「出た者の負け」なのである。
浜松にいるほたると、東広島市で寮生活を送る庵曽新には、既に自分の部屋はない。
東京の大学を出て実家に戻った遊庵は自分の部屋を奪還し、ほたると庵曽新は仕方なく二人で五つ子3兄弟の部屋を拝借したのであった。

「もう起きとる? 朝ご飯食べたら出かけるんじゃけーね、早う降りて来んさい!」
階段の下から、庵奈の呼ぶ声が響きわたる。

ご飯を食べながら、横で庵曽新が聞いてくる。
「のう、しんれーいうて、彼女か?」
「しっ!」
慌てて斜め向かいにいる遊庵を見ると、知らんぷりを決め込んでいるが、口元がにやけている。
聞き耳を立てているのは明らかだ。
「・・・・・・まあね。」
「もう、その・・・・・どう言うたらええんかいの、じゃけー・・・・・」
何が言いたいのかと、顔を見れば、庵曽新は赤面している。
「はーそういう関係、なんか?」
「まあね。」
庵曽新は食卓の上の梅干と同じくらいに赤くなった。
「結婚、するんか?」
「たぶん。少なくとも、オレはそのつもり、だけど?」

言いながら、今朝になっても携帯に着信もメールもなかったことを思い出し、ほたるはため息をついた。
「こら、食事中にため息、お行儀悪いねー!」
遊庵のご飯のお替わりを運んで来た庵樹里華に、後ろから頭を小突かれる。
「・・・痛いし。」
「彼女からメール来ねーんだろ? さては、ふられたんじゃねーか?」
遊庵の言葉に、ほたるは一瞬青ざめた。
俯いて黙りこんで食べているほたるの様子に、皆、それ以上のことは聞けず、重い空気の中で朝食を終えたのだった。

食後、一番に辰伶にメールしようと思ったが、庵奈には急かされるし、遊庵には絡まれるしで、そんな余裕もなく、出発した。

庵奈の運転するワゴン車は、広島I.Cから中国道へと走る。
「高速がない頃は、あれ通って行きよったんよ。」
母が指差す方を見ると、下の方に、川と並行して走るくねくねした道路が見える。
「昔は半日かかりよったけど、高速なら1時間で行くけーすごいよね。」
中国道はお盆でもそんなに混んではいない。
あっと言う間に、クルマは戸河内T.Cを降りて、そこからまた山道を走り、庵里の家に着いた。

広い敷地にクルマが入ると、すぐに五つ子と庵里の子どもたちが走り出て来た。
「おかえり、ほたる!」
「いらっしゃい、ほたる兄ちゃん!」
「やあ、みんな、大きくなったね。」
鈴生りの甥っこ姪っこたちを腕にぶら下げるようにして、ほたるは座敷に入って行った。
「おう、ほたる、来たか。」
父と長兄は、まだお昼前だというのに、もうできあがっている。
「これからお墓まいりなのに、酔っばらっちゃって、どうすんの?」
「いいからおめーも飲め。」
「いいよ、オレは夜になってからいただくし。」
ほたるはそう言うと、廊下に出た。
ここで一緒になって一杯やっていては、庵奈にどつき回されるのは明白。
「お義姉さんも、大変だね。」
ビールを運んで来たアスカに声をかけると、「まあね。」と、笑って部屋に入って行った。

まだ辰伶からは何の連絡もない。
遊庵に冷やかされないように、携帯は弱小バイブにして、ズボンの前側のポケットの奥深くに入れてある。
「メールしてみようっと。」
トイレに入り、携帯を開いたほたるは愕然とした。
「ああああぁぁっ/////」
携帯のアンテナマークが圏外に!

迂闊であった。

長い長い3日間C 

September 10 [Sun], 2006, 21:40
スラリと伸びた手足を気持ち良さそうに辰伶は伸ばした。

「う〜〜ん……やはり、風呂は気持ちがいいなぁ…」

実家の風呂は総檜造りだった。
自然の香りが立ち込める湯気と交じり合い、その香りを胸の奥に吸い込んだ辰伶はホウ…っと息をついた。

予想通り夜まで手合わせが続いた。その後、大広間で親族達を交えての夕食が始まった。
手の込んだ料理は美味しかったが、気の使う親戚や門下生達と一緒の食事は気の休まる暇もなかった。
それに続く酒の席は、今までは未成年を理由に退席できたが、もうその手が使える年ではなかった。
酒を片手にやってくる親戚や門下生に笑みを浮かべながら挨拶を交していた辰伶が
ようやく開放されたのは、もう真夜中に近い時間だった。





湯船に浸かりながら目を閉じていると、疲れが飛んでいくような気がして辰伶は目を閉じた。
お湯の揺れる音が心地好く耳に響く度に、身体がフワリと軽くなっていくような気がする。

「…………ほたるもちゃんと風呂に入って……」

思わず零れた言葉に慌てて目をあけた。

「な、なんで俺がアイツの心配など……まったくメールの一つも寄こさないヤツなんか誰が心配してやるものかッ!」

風呂に入る前に履歴をチェックすると何件かメールが届いていた。
逸る気持ちを抑えながら受信ボックスを開いたが、肝心のほたるからは何も届いていなかった。


憮然とした表情のまま風呂場に直行してきた。





透明な湯の中でハッキリと咲く紅い華。
目立つ首筋や腕にはないが、その代わりに大腿など見えない所には数多く咲いている。

昨夜はほたるの誕生日だった。求められるまま、二人で入るには狭いバスタブの中で互いの身体を洗いあった。
勿論、そのまま・・・・・思い出しただけで顔が火照ってくる。
一緒に入ればどうなるか分かっていたが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
思わず辰伶がバシャリと湯を叩いた。

「お、俺は嫌だと言ったのに……アイツは……/////」


此処では嫌だと言った辰伶をほたるは巧みに追い詰め、バスルームは甘く淫らな時間に変わった。
音響効果で互いにいつも以上に感じ、ベットの上に場所を移すまでに、何ラウンドか終えていた。
何度も離れたくない…帰したくないと囁かれ、満たされた朝を迎えたはずなのに、
それが嘘のようにメールも電話もない。


「こっちから絶対に折れてやらんッ!」

昨夜のことを思い出した辰伶は一人でこう宣言すると立ち上がった。






ベットに入った辰伶はすぐに眠りに落ちていった。
昨夜はあまり眠らないまま帰省して、そのまま久しぶりに稽古に出た身体は本人が思っていた以上に疲れていた。
枕に頭を付けて、眠る体勢を取っているうちに眠ってしまっていた。

何時ものようにベットの半分……ほたるの場所を空けながら……。





長い一日が終った。

長い長い3日間B 

July 30 [Sun], 2006, 23:20
新幹線が最後の府中トンネルを出た時、ほたるは、すぐにメール送信のボタンを押した。
「ふう・・・・・やっと送れた。ほんとに長いんだから。」
見慣れた風景が広がったかと思うと、列車は広島駅のホームに入って行った。

「おう! ここじゃあ!」
見ると、改札口の外で、一才違いの弟、庵曽新が手を振っている。
「わざわざここまでありがと。ロータリーのとこでよかったのに。」
「姉貴が、ほたるは方向音痴じゃけー、あんた降りて行って来んさい、言うたんじゃ。お? 姉貴、あがーなとこへ停めてから、大丈夫なんかの?」
あれ見いや、と庵曽新が指差す方を見ると、一目でその筋の方々のものとわかる、黒塗りのベンツ5.6台のど真ん中に、庵家の大型ワゴン車がある。
「庵奈なら負けないでしょ?」
「そりゃあそうじゃが、ありゃー姉貴が邪魔しとるみとーなで?」
「大丈夫。あの人たちは、カタギは相手にしないもん。ハイ、これおみやげ。」
ほたるは浜松駅で買った包みを庵曽新に持たせる。
「夜のお菓子 うなぎパイ・・・・・夜の? なんならこりゃー///」
赤面して慌て出す弟に、ほたるは『相変わらず、純情!』と、眼を細める。

純情という点で、庵曽新といい勝負の漢は、もう、仙台に、着いたのだろうか?
メールを送信してから、もう10分近く経っているが、まだ返信はない。
『辰伶も、トンネルとかに入ってるのかな? それとも・・・・・まだ、怒ってる?』
想いを巡らせながら、ワゴン車のドアを開ける。
「ただいま、庵奈。お迎え、ありがと。」
「お帰り、ほたる。新幹線、混んどった?」
「うん、でも、何とか座れた。」
「ほいで、寝とって、おでこ、ぶつけたじゃろ?」
「むう・・・・・何でわかるの?」
「あははっ、あんたのやりそうなことくらい、わかるわいね!」
庵奈は笑いながら、両隣りのベンツを全く気にもかけず、難なくクルマをバックで出すと、快調に走らせ始めた。

長い長い3日間A 

July 22 [Sat], 2006, 16:38
「まったく何故アイツは俺を信用しない?」

手の中の携帯を見つめながら、辰伶が小さく口の中で呟いた。
東京駅ではやて号に乗り換え、座席に座った途端に携帯を取り出していた。

心の何処かでは期待していた。
が、ディスプレイはいつもと同じ。
メールの着信を告げる手紙のマークは見えない。

落胆している自分に眉を潜めた。
これではまるで自分だけがほたるを恋しがっているように思え、辰伶は携帯を閉じた。

窓の外、景色が流れていく。
窓ガラスに映る車内の風景に辰伶は目を閉じた。
瞼の裏に映るのはほたるの姿。

(……今頃は名古屋あたりか?ちゃんと乗り換えに成功しただろうか?)

思わず、手に持ったままの携帯を握り締めた。





定刻通り、新幹線は仙台駅に着いた。
ホームは出迎える人でごった返している。
どの顔にも笑顔が溢れ、つかの間の再会を楽しんでいる。

なるべく人とぶつからないようにと、辰伶は細心の注意を払いながら改札を出た。
駅前のペレストリアンデッキからケヤキ並木の緑が涼しげな木陰を作っているのが見える。
久しぶりに見た故郷の風景に辰伶の足が止まった。


照りつける太陽は住んでいる浜松よりはいくらか優しい気がする。
立ち止まっている辰伶の横を両手にお土産を持った家族連れが足早に通り過ぎた。
その姿に、頭の上に手を翳し、目を細めていた辰伶が我に返った。

「きっと、吹雪さまが待ってらっしゃる……」

父である吹雪の姿が目に浮かんだ。
礼儀作法に厳しく、時間に遅れるなど許さない厳格な人だった。

辰伶は両手に持ったお土産をもう一度持ち直すと歩き始めた。



長い長い3日間@ 

July 08 [Sat], 2006, 0:06

「はあ・・・・・また送信失敗か・・・・・」
ほたるのため息と独り言は、もう何度目になるだろうか。

ほたるは浜松の大学生。
今、彼は、広島の実家に帰省するため、山陽新幹線に乗っている。

彼は、同じ大学に通う辰伶と一緒に下宿している。
その辰伶は、現在、これまた東北新幹線に乗り、仙台の実家に向かっている。

愛し合う二人は、しばしの別れも惜しくて、これまで何かと理由をつけては帰省を避けていた。

ほたるの姉の庵奈から電話があったのは1週間前のこと。
「ほたるっ! あんた何で帰って来んの? お盆くらい家の手伝いでもしてーや!」
「えー、だって忙しいんだもん。切符代だって、もったいないじゃん?」
「何ね、そのいなげな東京弁は。お金足りんのなら送るけー、絶対帰りんさい! 帰らんにゃー、みんなで押しかけちゃるんじゃけー!」
・・・・・・・それだけはやめてほしい。
表向きはルームメイトとしてごまかすことはできるだろうけれど、辰伶との幸せな生活を、たとえ肉親と言えども、誰にも邪魔されたくない。
「判ったよ。帰る。お盆の3日間だけね。うん。じゃーね。」
ほたるはそう言うと携帯を折りたたみ、ため息を一つつくと、傍らにいた辰伶を見た。

「どうした? 電話、お姉さんか?」
「うん・・・・・・・お盆に帰って来ないと、こっちに押しかけて来るって怒るんだ。」
「そうか。じゃ、帰らなくてはな。それなら、俺もお前のいない間、帰るとするか。」
淡々と言う辰伶に、ほたるは少し機嫌を悪くした。
「帰ってほしくないって、言わないの?・・・・・・オレに3日も逢えなくて、平気なの?」
「・・・・・・・だから、お前がいないと寂しいから、その間、俺も帰ろうと思ったんだ。」
そう言う顔は、いつもの純真な辰伶で。
「うん、そうだよね・・・・・・・・・ね、逢えなくなる前に、しっかり、仲良くシよ?」
言うが早いか、ほたるは辰伶を押し倒して唇を塞いでいた。

帰省の日は来た。
しばしの別れも惜しんで、二人はほぼ同じ時刻に新幹線に乗れるよう、電車の時刻を決め、切符を手配した。
3日しか帰らないから、荷物は軽いが、二人の心は重たい。

まほろば紀行N 

July 02 [Sun], 2006, 16:03
百舌鳥の声が空に吸い込まれていくのを聞きながら歩いていると、いつの間にか、表通りに出ていた。

『ささやきの古経』と違い、観光客がガイドブック片手に歩いている姿がかなり目に付く。


楽しい時間は足早に過ぎていく。
気がつくと、昨日見学した国立博物館近くまで戻ってきていた。
相変わらず、入り口には長蛇の列が出来ていた。

「昨日も凄かったが、今日も凄い人手だなぁ」
「そうだね。ところで、お昼どうすんの?」
「え?あぁ……もうこんな時間か」

ほたるの言葉に視線を手首に落とした辰伶が驚いたような声を出した。
お昼の時間をもうとっくに過ぎていた。
現金なもので、言われた途端に空腹を感じ始めた。

「そうだな……」

ガイドブックの地図を頭に浮かべ、考え始めた辰伶にほたるが声をかけた。

「お前の行きたい店がないなら、あそこでお弁当買って食べない?」

ほたるが指差したのは、博物館近くに並んで白いテントを張っている店だった。
お弁当や飲み物、和菓子やアイスまで売っている。
中にはお茶席まで用意してある店も見える。

「いいのか?」
「うん、かえって外の方が気持ちいいかも?」

ほたるにつられて空を見上げたると、澄み切った空が二人の上に広がっていた。
何処までも続く蒼い空。高い位置に真っ白な雲が浮かんでいる。

「そうだな、気持ちいいな」


立ち止まったまま感心したような声を出して空を見上げている辰伶の横顔をほたるは見つめていると辰伶が振り向いた。

「ほたる……その……」
「ん、何?」
「そのな……」

珍しく歯切れの悪い辰伶の顔をジッと見つめた。

「そのな……あ、ありがとう/////」

照れたような笑みを浮かべ、小さく呟いた。

「また、来ようね」
「あぁ……」
「勿論、二人でだからね」
「あ、当たり前だッ////」

約束を取り付けたほたるが歩き始めた。

帰りの電車の時間まで、まだもう少しある。
お昼を食べてから、膝枕をして貰おうと考えたほたるが口元に笑みを浮かべた。


澄み切った空に百舌鳥の少し高い声が響いていた。


【終わり】

まほろば紀行M 

June 06 [Tue], 2006, 16:48

「・・・・・・ここからが、『ささやきの古径』だな。」
辰伶の言葉に、ほたるは周囲を見渡す。
両側に木やススキが茂っている、ゆるやかなカーブが続く道。

坂も緩やかで、自然歩道にしては幅もあり、歩き易い道ではある。
時折、観光客に出会ったり、追い抜かれたりすることもあるが、表通りに比べると、嘘のように人が少ない。

二人きりになった時を見計らって、ほたるは辰伶に近寄り、肩を寄せる。
赤くなって身構える辰伶。

「そんなに硬くならないでよ。別に何もしないから。」
「当たり前だっ///」
言い返す辰伶に、ほたるは更に顔を近づける。
キスされる/// そう思った辰伶は、いつもの習慣で、目を閉じて固まってしまう。

だが、ほたるの唇は辰伶の唇ではなく、耳元に寄せられた。
そして、小さな小さな声で、何か囁く。
「・・・・・・・何だ? よく聞こえんぞ。」
「じゃ、もう一度言うよ。」
ほたるは普通の声でそう言うと、再び辰伶の耳元で囁いた。

「し・ん・れ・い・・・・・・・あ・い・し・て・る」

また小さな声だったが、今度は、はっきりと聞き取れた。
「ささやきの古径 だから、愛を囁いてみたの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
辰伶はまた赤くなって俯いていたが、やがて顔をあげると、少し乱暴ぎみにほたるの襟をつかんだ。
「・・・・・何?」
驚いて見上げるほたるの耳に、辰伶は急いで口を寄せると、早口で囁いた。
「俺も好きだっ」

「え? 何? もう1回言ってよ?」
「二度と言うかッ///」
辰伶はそう言うと、すたすたとほたるより先に歩き始めた。
「あっ! 置いて行くなんてひどい! 待ってよ、しんれー!」
慌てて追いかけながらも、ほたるの口元は自然に綻ぶ。
『しっかり聞いてたも〜んv 可愛い、辰伶。』

道の傍らには丸い実のついた柿の木があり、枝に止まった百舌鳥が二人を見下ろしていた。

まほろば紀行Lー2 

May 16 [Tue], 2006, 23:07
晴れ上がっている空を見上げたほたるの横顔を黙って見ていた辰伶が口を開いた。

「……お前とさっさと別れたい……だッ/////」
「……ソレ……本気なの?」

辰伶の肩を両手で掴んだほたるが真剣な眼差しを向けている。

「馬鹿ッ////人の話しをちゃんと……聞けッ。 さっき、願い事を人に言うと叶わなくなると言っただろう////」

ほたるから視線を逸らした辰伶が告げた。
耳まで赤く染まっている。


願いはただ一つ。
 いつまでも一緒に──‥。


満ち足りた空気を破ったのは辰伶の声だった。
少し上ずっている。

「ほ、ほ、ホラ!い、行くぞ」

早く”ささやきの小径”に行きたいとほたるは思った。

まほろば紀行L−1 

May 16 [Tue], 2006, 23:05
二人連れ立って歩いていた。
右手には若草山の裾野が広がっている。春になると、一面、若草色に染まる山。
その中、菜の花と桜が咲き乱れていく様は万葉の時代から変わらない姿だった。

ほたるに説明をしていた辰伶が信号で立ち止まった。

「じゃ、今度は春に来る?」
「……いいのか?」
「うん、辰伶の話しを聞いてたら、オレも見たくなった」
「そうか」

嬉しそうに笑う辰伶の姿にほたるも嬉しくなった。
辰伶と出掛けられるなら、何処でも良かった。

「あ、ホラ、信号…変わったよ」

信号が青に変わっていた。
この信号の先を右に曲がると春日大社だった。
夏には境内にある全部の燈籠に火が灯り、その幻想的な美しさは見た者を圧倒させる。
だが、この時期、訪れる人はあまりいない。

本殿で並んで拍手を打った。
ほたるは目を閉じて願いごとをしている辰伶の横顔を見つめた。

『いつまで一緒に──‥』

思わずほたるも願っていた。
誰かに祈るなんて自分らしくないと思いながらも願わずにはいられない。
そんな不思議な気分だった。それが表情にも出ていたのかもしれない。

「珍しいな。お前がそんなに真剣に祈るなんて」

辰伶の声にほたるは我に返った。

「え、そう?」
「あぁ」

声に笑いを滲ませた辰伶に何となくムッとしたが、やはり笑う辰伶は可愛い。
ほたるの口元に笑みが浮かんだ。

「ねぇ、辰伶は何を祈ってたの?」

初詣の時よりも長い時間、目を閉じていた辰伶。
その願いが気になった。

「言えないッ!」

強い声で否定された。

「えー、何で?別に減るもんじゃないでしょ?」
「減る、減らないって問題じゃないッ」
「じゃ、先にオレの願いを言うからお前も教えて?」
「ダメだ。絶対にダメだ!!」
「えー、辰伶のケチ」
「ケチで結構だッ!叶わなくなるよりマシだッ!!」
「え?何ソレ??」

ほたるの顔をマジマジと辰伶が見つめてきた。

「……知らないのか?」
「だから、何を?」
「願い事を人に言うと叶わなくなるって事だ//////」

何故か辰伶は顔を赤く染めて、怒鳴るように答えた。

「そうなの?」
「……本当に知らなかったんだな……」
「じゃ、言わないし、聞かない……でも、聞きたい……かも……」

最後の方は呟きに近い声だった。

まほろば紀行K 

March 27 [Mon], 2006, 23:39

二人は旅の疲れもあってか、それからすぐに眠ってしまった。

ぐっすりとよく寝て、気がつくともう朝になっていた。
「ほたる、朝だぞ。」
辰伶は優しく呼びかけるが、ほたるはいつものように、全く目覚める気配がない。
「ほたる、ほたる?」
普段の辰伶なら、このあたりでキレ始める頃であるが、今朝はそんなことはない。
時間の流れがゆっくりとしているように感じられるこの古都では、急いで起こす必要もないように思えてくる。
それに、昨夜の湯あたりのこともある。
「大丈夫か? まだ、具合が悪いのか?」
心配そうに覗き込んでいる辰伶の視界が、突然金色一色になった。
「な・・・・・何っ///」
突然、唇を奪われて、辰伶は更に慌てまくる。
「んー、お姫さまは王子さまのキスで目が覚めましたとさ。」
「バカ者! 俺はとっくに目覚めておったのだ!」
「目が覚めたのはオレ。ま、オレが王子さまだけどね。」
辰伶はまだ何か言い返そうとしたが、何をしてもほたるの餌食になるだけだと気がついたので、さっさと洗面所へ行った。

朝ご飯は、奈良名物の茶粥。
ほたるは平気で食べているが、猫舌の辰伶にはなかなか食べることができない。
『・・・・・・・・・・・・可愛い///』
湯気が少なくなるのをじっとお行儀よく待っている辰伶を、ほたるは目を細めて眺めていた。

「さて、今日は、どこへ行こうか。」
「辰伶が行きたいトコなら、オレは何処へでもついて行くよ。」
「・・・・・俺は、新薬師寺とか、白毫寺とか、行ってみたいのだが・・・・・・たくさん歩いても、構わないか?」
「うん。お前と二人でなら、オレ、一日中でも歩くよ。」
ほたるの言葉をうれしく思いながら、辰伶は持って来た地図を広げた。
ほたるも後ろから覗き込む。
「あ、ここ、オレ、歩いてみたい。なんか、すてきな名前だもん。」
ほたるが形の良い指で差した場所には『ささやきの古径』と書かれていた。
「それなら、先に春日大社にお参りしてからここを通れば、ちょうど新薬師寺の方に出るな。」
「じゃ、決まり。ね?」
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