第一回三題噺

March 28 [Mon], 2011, 19:18
初恋/苺大福/国会議事堂

春。

それは、厳しい冬が終わり、新たな生命が芽吹く季節。

また、盛りのついた犬共がうるさく吠える時期でもある。

どうやら私は、後者の被害にあっているらしい。

周りの男達にちやほやされるのに、正直悪い気はしていない。が、下心が見え見えだ。私を見る目線が、なんというか……、エロい。

折角の新学期だというのに、楽しめる気がしないな。このままでは。


私が、恋の一つや二つできれば良いのだが、全くもって興味がない。

今まで、引く手あまたの男達に告白されてきたが、全て断ってきた。

何故なら、『恋』というのはどんなものか分からなかったからだ。

友達の話では、曰く、一目惚れであったり、曰く、何となくそばにいると感じるものであったりと、珍しい事では無いらしいのだが……。

私には理解し難い。まず、男を好きにはなれないからな。考えて見れば、その時点で無理だ。

まあ良い、恋など知らずとも生きていける。

別になんてことはないのだ。


――――――――――――――――――――――――

ジリリリリリリリ!
6時半にセットしておいた目覚ましが鳴っている。
「うーん、もう少しねたいよぉ。」
と、あまりの騒音に布団をひっ被る。
だが、その音が鳴り止む事はない。
昨日、早い時刻に針を合わせていた自分を恨みながら、目覚ましを止めた。
「んっ、うぅ〜……、はぁ。」
窓を開け、新鮮な空気を吸い込みながら、伸びをする。
うん、天気も最高! 清々しい朝だ。
4月の中旬ということもあり、大分暖かくなってきた。
私は、鼻歌を歌いながら高校の制服に着替え部屋を出た。
廊下にはとてもいい匂いが漂っていて、空腹の私はそれがフレンチトーストによる物だとすぐに分かった。
急いで階段を降りて、
「おはよう!お母さん、親父!」
と朝の挨拶をする。
「あらあら、おはよう奈美ちゃん。朝から元気ねぇ。」
「こら奈美、お父さんと呼びなさいといつも言ってるだろう。」
続いて両親も挨拶をした。
「あっ、やっぱりフレンチトーストだ!いただきまーす。」
ヒョイパクっと、椅子にも座らず口に方張る。
うーん、やっぱり甘くてオイシーイ。
これにブルーベリージャムを加えると甘酸っぱくてもっと美味しくなるんだけど。
「奈美ちゃん、ジャムあるわよ?」
「えっ、ウソ!?」
 お母さんが、冷蔵庫からジャムを出して見せる。
 しかも、ブルーベリーだ!
「さすがお母さん!私の好みわかってるねぇ♪」
 早速、トーストにジャムをつけて食べる。
 うっ、うぅぅぅぅ
「んまーーーーい!旨さで家が建つ!」
 あまりの旨さに絶叫してしまった。
 ご近所の皆さん、すみません。
「奈美、家を建てるのにどれだけのお金がいると思ってるんだ?」
「……あなた、何かずれてますよ?」
 親父は、それを聞き頭をバッと隠した。
「いえ、そっちは大丈夫ですよ?」
「うん、ずれてない。」
「何も二人でフォローしなくとも……。」
 へこむ親父を横目に、最後のトーストを食べ終える。
「ごちそうさまでした!美味しかったー。」
 食器を流し台に運び、自分の部屋に戻る。
「さぁてと、ヒナも待ってるし、髪の毛セットしよう。」
 望月ヒナは、高校のクラスメイトで、私の親友。
生徒会だから、朝は早い。
だから、一緒に早起きして学校に行っている。
「よし!」
 髪をポニーテールにまとめ、鏡で最終チェックをしてから部屋を出て、両親に「行ってきます!」と、元気に挨拶して家を出た。

 ヒナといつも待ち合わせしている場所は、歩いて10分位。
 いつもの道を通って行くと、決まってヤツがいる。
この角を曲がれば……、ほらいた。
 私が来る事を知っていたにも関わらず、あたかも偶然のように振る舞い近づいてくる男……倉崎光司は、何度追っ払っても、しつこく付きまとってくるストーカーだ。
しかも、同じ学校の、同じクラスときたもんだ。
「あれ、奈美さん。おはようございます。奇遇ですね。」
「ほざけ、倉崎。ついてくんな。」
「相変わらず口が悪いですねぇ。まぁ、そういう所が可愛いんですけど。」
 ああ、あり得ない。
本当にこいつはしぶとい。
顔立ちは良いのだが、すかしてて気に入らない。
「おい、何で私に付きまとう? 女くらい他にいるだろう。」
と、当然の疑問をぶつけてみると、
倉崎はフフフと、口をひきつらせた。気持ち悪い。
「決まっているでしょう、あなたに一目惚れしたからですよ。他の女などには、興味ありません」
 台詞も気持ち悪かった。
「それにあなたは……私の物なんですよ?」
「気持ち悪い! 顔を近づけるな!

 ゴスッ
 鈍い音がして、ストーカーは、くの字にうずくまった。
クリーンヒットだったようだ。
「馬蹴りとは……、やりますねぇ。

「ふん! そこでおとなしくしてろ!」
 倉崎を置いて、一人で先に行く。
靴の上とはいえ、感触が残っている。
どこまで私を気持ち悪いと思わせるんだあいつは。
一目惚れなんて理解出来ない事言いやがるし、勝手に所有物扱いするし、くっついてくるし!
恋っていうのは、そういうものなのかねぇ?

「ん? あれ?」
 待ち合わせ場所にヒナがいない。
いつも、私より早く来てるのに。
携帯に電話してみるが、電源が入っていないらしい。
先に行ってるかもしれないと思い、学校へ急いだ。
 
――――――――――――――――――――――――

 学校に着いたが、ヒナはまだ来ていない。
寝坊かな?
でも、ヒナはそんな事しないし……。
 教室に入っても、ガランとしていて、静かさで胸が苦しくなる。
いつもなら、ヒナと一緒に生徒会室にお邪魔してるから、教室に早く入る事がなかった。
 誰もいない教室というのは、何とも言えないものだ。
自分の席について、恒例の行事を行う。
 机に入っていたラブレターを破くというものだ。
金が掛かったであろう、高価な便箋も容赦なく破く。
 そしてゴミ箱へドーン!
 スッキリした!
 今日は二、三十枚って所だったな。
放課後に入れるなんて面倒くさい。
直接来いっての!!
 振るけど。
 大体、男は好きじゃない。
 特に……
「お前みたいなヤツはなぁ、倉崎ィ!」
ガラッとドアを開け、入ってくるストーカーに一喝する。
「何ですかぁ、いきなり。」
 さすがの倉崎も、突然の罵倒に度肝を抜かれたようだ。
「お前は何回私の机にポエムを入れたら気がすむ!?」
「おっ、読みましたかぁ。毎日書くのもしんどいんですよ?」
「何が『おっ』だ! 破かれないように下敷きに書きやがって!」
 他のヤツに真似されるとかなわないから、持ち帰っている。
 幸いこいつは、デカイ封筒に入れてくるから助かる……じゃない!
 今日は秘策があるのだ!
「おい、こいつが何か分かるか?」
 ポケットから、あるものを取り出す。
すると、倉崎の顔が青ざめた。
「そ、それは除光液! 一体どこで!?」
「普通に百均だよ!これでお前の幻想を打ち砕いてやるよ……!」
 ギャーーーーーーーーーーー!
 倉崎の悲鳴が教室に響き渡る。
消すべし! 消すべし! 消すべし!
ポエムはどろどろに溶けて、まっさらな新品の下敷きになった。
 その場にたたずむ倉崎の前に投げつける。
 勝った。
 今日こそは!
「まあいいや、次は焼き入れて書くか。」
 ケロっと立ち直った。 
くっ、やはりしぶとい。

 倉崎とあーだこーだ会話して、始業のチャイムが鳴ったが、ヒナが教室に現れる事はなかった……。


――――――――――――――――――――――――


 はぁ。
どうしたんだろう、ヒナ。
携帯にも出ないし、家にかけても駄目だった。
 何かあったのかな?
「どうしたんですか?くらーい顔して。」
「いや、ヒナのヤツがな……って倉崎!? 何普通についてきてやがる!」
 帰る時までついてくるなんて、初めてだ。
部活で忙しいから、いつもなら来ないのに。
「いつも元気なあなたが、今日は二割程力が無かったものですから。」
「……それだと、結構元気じゃないか?」
 日頃鬱陶しいこいつも、今日に限ってはなんだか心地よい。
「あのよ……、ヒナの事なんだが、
連絡がとれないんだ。」
「望月さんですか? ですが、インフルエンザとの連絡があったと担任が……。」
 そう。
 そうなのだ。
でも、携帯の電源切ったり、家にかけても出ないなんておかしい。
共働きじゃないらしいから、母親がいても言いはず。
「……私、家に行ってみる。」
 何もないと良いけど、胸騒ぎがする。
「私もお供しますよ。クラスメイト、ですからね。」
 ニヒルに微笑みかけてくる倉崎は、とても気持ち悪い。
 けど。
 だけど。
「さんきゅ、な……。」
 こんなヤツでも、側に居てくれるだけで、こんなにも安心するものなんだな。

――――――――――――――――――――――――


「あっ、そうだ! 『あれ』買っていこう!」
「『あれ』?」
「ああ、手土産無しってのもなぁ。」
 そう言って、近くのお気に入りのお菓子屋さんに立ち寄る。
この店は、和洋折衷、色とりどりなお菓子が置いてあり、かつ、美味しいのだ。
「えーと、これこれ!」
「あー、これですか。私は抹茶餡入りが……」
「てめえは自分で買え!」
と、色々あってからたっぷり買い込んだ手土産を持って店を出た私達は、ヒナの家に向かった。

「もうすぐ着くぜ。」
「ただのインフルエンザだといいですねー。」
 ヒナの家の前につきかけたその時だ。
ピリリリリリリ!
携帯の着信音が鳴った。
どうやら私の携帯のようだ。
急いでポケットから出し、相手を確認すると、
……ヒナだ!
通話ボタンを押して、応答する。
「もしもしっ! ヒナ? 心配したんだよ!」
よかった、大丈夫みたいだ。
「ねぇ、奈美。私ね、国会議事堂の噴水前に居るの。奈美ぃ、来てくれるよね? ね?」
「はぁ? 国会?何でそんな所に、インフルエンザは……ッ!」
いきなり、叩きつけられたような音がなり、通話が途切れた。
一体なんだっていうんだ。
「どうしたんですか?国会って?」
倉崎が心配そうに聞いてくるが、説明してる暇はない。
ヒナに何かが「起きた」。
これだけは間違いない。
「悪い倉崎、ちょっと行ってくる。
ここで待っててくれ。」
 手に持っていた荷物を投げ捨てて、走る。
「えっ!?ちょっと!」
倉崎が叫ぶが、構わず走り続ける。
ここからなら、走って二十分あれば着く。
待っててヒナ!

「一体どういう……ハッ!?」
ただ事ではない。
倉崎光司もまた、気づいた。
 望月ヒナの家の、カーテンの隙間から、血みどろの後頭部が見えることで。

――――――――――――――――――――――――


国会議事堂!
着いた!
ヒナは? どこなんだ!
「奈〜美!」
振り向くと、ヒナが噴水前に立っていた。
「優しいねぇ、奈美は。電話してから二十分たってないよぉ?」
声色がいつもと違う。
ヒナはこんな性格じゃない。
もっと硬いしゃべり方をするんだ!
「一体どうしたのヒナ!何かおかしいよ!」
「おかしい? ……フフフフ、可笑しいよね。」
ハハハハハハハハ!
突然高笑いをし始めたヒナ。
自分の体がビクついているのが分かる。
本能的に何かを感じ取っている!
「少し話をしましょう?奈美。私の『初恋』の話。」
「初……恋?」
 ゆっくり。
 ゆっくりと近づきながら、ヒナは語りかける。
「ある日、私は恋をしました。でも相手は位の高い王子様。とても私のような庶民が釣り合うような相手ではありません。」
足元がおぼつかず、フラフラしながらも続ける。
「でも、私は諦めなかった。初恋だから。初めて好きになった人だから。」
もう私のすぐ近くまで迫ってきてる。
「私は頑張って、好きでもない髪型をしたり、高い服を着るために、援交にも手を出しました。」
「ッッ……!」
 バイトしてるって言ってたけど、まさか、援交!?
「しかし、遅かった。遅かったのです。王子様は、シンデレラを妃に選んでしまいました。」
 「……シンデレラ? 王子様って?」
「奈美! あなたと倉崎光司の事よ!」
やっとの思いで紡いだ言葉は、彼女の罵声でかきけされた。
「私と、倉崎?」
そんな!
ヒナがあいつの事を!
「そうよ、シンデレラ。あなたが、奪った。舞踏会にも出ていないのにね。」
ヒタ……ヒタ……。
「でも、まだチャンスはあるわ。」
ヒタ……ヒタ……。
「舞踏会はまだ始まってないから。

ヒタ……ヒタ。

キラリと光るものが、ヒナの腰のベルトから現れる。
私は瞬時に、それが血塗られた包丁だと理解した。

「ここであんたを殺せば、王子はわたしのものになる。王子は、王子様は、はは、は、ハハハハハハハハ!」

逃げなきゃ、でも、動けない。
くそ、足がすくんでやがる。

「ヒヒヒヒハハハハハ!」
その鋭利な刃物を、私に向かって突き立てる。
「……ヒナ、やめろ!」
動けよ!俺の体
「ウアァァァァァ!」

ドッ

終わった。
何もかも。


これが……死?
い、痛くない。
ど、どうして?

「大丈夫ですかぁ、ゲホッ! らしく、ないですよぉ……。」
「倉崎? ……倉崎! お前!」
腹部から血を流し、私をかばって、身代わりになった男は……、倉崎だった。
ヒナは、信じられないような顔をして、時が止まったかのように動かない。

「……望月さんの家に、異様な『もの』が見えたもので、ガラスを割って入ったんですよ……グッ!」
ガハッ、ゴホッ!!
悲痛な嗚咽をあげながら尚も語る。
「そしたら、案の定『死体』でした。多分、望月さんのお母様でしょう。これはまずいと思いまして、駆けつけたんです。」
「もういい! 喋るな! ……私何かのために、無理しやがって!」
「なんかじゃありません。」
えっ?
「あなたはァァァァァァ!!」
バカ野郎! 傷が!
「私が愛した、雄一の人だぁぁぁぁぁ!!」
本当に、バカ野郎……。
ああ、認めるよ。
認めてやるよ。
これが『初恋』だって。
お前は、私が愛した雄一の人だってな。
だから、だからさ。
「黙れよバカ野郎ぉぉぉぉ!!」
傷口の出血が止まらない!
なんで、何でだよぉ!
「もうだめみたいです。……ゲフッォ! ……その子を、ヒナちゃんを責めないで下さい。家に覚醒剤がありました。多分、誰かに射たれたのでしょうね。」
「他人の心配してんじゃねぇ!グスッ。くそッ!」
「最後に、一つたのみごとが。愛してるって言って下さい。」
ああ?そのくらいなら、いくらでも言ってやるさ。
「この私、『河井奈美』様はぁぁぁぁ!」
だからよぉ。
「お前のことを、愛しているゥゥゥゥゥ!!」
生きてくれよ。なぁ、王子様。


世界で一番バカな男は、世界で一番愛した女に見届けられ、旅立った。

――――――――――――――――――――――――


「……。」

「……。」

「……王子様が、死んじゃった。」

「……ああ。」

「私ね、気持ちよくなるからって、おじさんたちにいっぱい薬射たれたの。」

「……そうか。」
悲劇の引き金、私なんだな。
全部私が関わってる。

「……王子様がいない世界なんてつまんない! 私も行く!」

ブシュッ

ヒナが喉を包丁でかっきる。
鮮血がカノジョの顔を染めて行く。

「ねえ奈美!私たち、ずっと仲良くしようね!」
それは、お前とここで、初めて会った時の会話じゃねーか。
フフ、覚えてるよ、その時は……。

ヒナのおびただしい程の流血が止まり、地面に倒れ伏せた。

「……私たちは、一心同体だ。」

そう言うと同時に、私は、自分の首かっ切った。


――――――――――――――――――――――――

全ては偶像。
この世界では起きて、現実では起こり得ない事。

パラレルワールドに、人間が迷いこんだだけだ。

ただ、道端に置いてある苺大福は、『誰か』がいた、確かなる証拠なのだ。

End……
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