■□SOUL彼女3 

November 03 [Mon], 2008, 22:34
今日はどこに連れてってくれるのかライトに期待していたのに。
「下北て」
「まぁまぁ、うまいもんはどこでもうまいんすから」
コインパーキングに駐車すべくバックする横顔にキュンとくるわけでもなくフロントガラス越しにもうすでに3人目のギター少年を見てうんざりする。
なんとなく、この街並が好きじゃない。熱い情熱をもった若者達が集まるとされている雰囲気。ギター担いで、メモ帳持って、夢を持ってここに来れば一人じゃないんだと安心する雰囲気。オシャレだとされる雰囲気。かつて自分もそういう気持ちだった頃、いや曲がりなりにも今でも熱い気持ちは持っているつもりだけれどもそれよりももっと前、一度だけ来たことがある。
そのとき感じた鼻につくいやな感じが蘇ってくる。
そしてなによりもいい歳してそんな気持ちになる自分が一番好きじゃなかった。
孫ができたらするであろう目を細めて愛おしいと言わんばかりの目で見てやればいいじゃないか、と思う。はっきし言ってしまうけど、レベルは違うけれどもベクトルは同じ方向に向けられている事を知っているくせに。
「え?」
西が何か聞き返した。俺は何か口走ってしまっただろうか、なにが、とジップアップのファスナーを上げながらどうでもいい事をアピール。まぁ、うまいものが食えればどこにいるかなんかそのうち気になる事は自分でもわかっているので大人しくついていく事にした。余計な事は考えずに。
「つか、車どうすんの?」
「車?」
「おまえ飲まないの?」
「あ、ミキが取りに来ます」
「なにそのシステム」
「下北で飯食うらしいす」
「俺の為に?」
「ははっ、残念ながら」
そんなわけないと思いつつも、夫婦ぐるみで全面的に手放しで俺の味方なのかと思ってちょっとビビった。だよな、と言いつつまだちょっとは疑っていた。味方でないにしてもなにかこう、俺中心に回ってんじゃないかと心配になった。そうなると感謝を通り越して申し訳ないになってしまって挙げ句やっぱり俺は部品係になるわけで、それは避けたかった。
丁寧にデコレーションされた細い小道を歩いたそこにアジアンテイストの入口。どうしたらこんな店の情報が入るのかと訊きたかったけどもうこの質問には飽きてきていたので入口の爽やか青年に会釈だけしてタバコのストックがあったかどうかポケットを確認して西の後に続いた。
いつもの、っすという何にどうなにするのかわからない感じでグラスをぶつけて乾杯的なものを済ませて、とりあえずビールを体内に流し込む。何もしていないのに何かをやった感が生まれて一瞬身体が緩んだ時西がいつもの、忙しいっすか&笑顔。だから俺は救われてんだってそれに。
「おまえさ」
「はい」
「銀河系って、わかる?」
「なんすかそれ、突然。宇宙の話っすか?」
「ヨメにさ、銀河系が違うって言われたらどう思う?」
「えー、なんすかそれ、心理テストかなんかですか?」
「だよな、がんばって心理テストだよな」
「違うんすか?」
いやまぁ、すんごい大きなくくりで言えば心理テストかもしれなかったけど、そんなこと突然言われたらとかいうくだりを軽く西に話してみた。箸はとまらなかったけれど今日もまた西はナイスなフォローをしてくれた。俺に対して別れると言いたくなかったんじゃないですかと。嫌いになったわけじゃないんですよと。なんでと訊くと柴田さんには嫌いになられる要素が見当たらないと言う。
たしかにいつものところに置いてある玄関の鍵が見つからない時のような不思議な顔をして首を傾げている。生まれかわったら女に生まれてこいつに貰ってもらおう、いやフラれるんだろう、うわーいやだね、それ。
まぁ飲んで飲んでと促され気分がいいのか悪いのかとにかく角煮がうまかった。
「けっこう長かったすよね、あ、うまいすよこれ」
牛肉の寿司をオススメしつつまだ釈然としていない俺にこの話題には飽きてませんよのサイン。遠慮なく寿司もサインも頂き、俺はどこがどうダメだったのかとかちょっとした思い出話とかけっこう好きだった事なんかをかなりの脱線を繰り返しつつ話した。適度な相づちと軌道修正がちょうどいいところに入って俺は珍しく饒舌になった。そしてとりあえず出た結果。
「柴田さん優しすぎるんですよ」
というダメ出しすら肯定の言葉を選択されて頂いた。そんなことないと否定しても、具体的な例をもって説明された。例えば道端で座ってる若者を見てイラッとするけど、自分の彼女がしてると何も言わないでしょうとか、隣のテーブルの女の子を軽く見つつあんなファッション嫌いでしょう、でも彼女が着てると何も言わないでしょうとか、あぁまぁそうだなと思える当たり前かもしれない例になんとなくそれは、優しいというのか?と思いつつそうなのかと思ったりもした。要するに俺は、揉めるのが面倒くさくてそれを受け入れてしまうのだった。好きで付き合ってるのになにも揉める必要はないんじゃないかって思っている。それが物足りないんじゃないかと西は言った。
西に女心がわかるかどうかなんてわからなかったけれどなんとなくそんな気もするしそんな事をいつも言われていたような気がした。かといってこれは変わらない気がするよ、と言ったら西はジョッキを口に付けた瞬間だったので、そのまま笑ってグラスを置いて口を拭った後にもう一回笑顔で、いいと思いますよ、と言った。アイラブ西というTシャツを着ようかと思う。メガネが頬の肉にガッツリ食い込んでる西の笑顔のTシャツ。超オシャレじゃねーか。
なんとなく申し訳なくなったので、おまえはないのと訊いたら新婚なのに問題があったらまずいでしょと余裕の笑顔。これはTシャツにはしたくない。
まぁでも、もうダメっす俺、とごく稀にとてつもなく弱気になる時があるので、そんときに恩返しをすればいいかと今日はとりあえず全面的に慰められた。
そこそこ気分も良くなってラーメン行きましょうと西が言うので、胃袋に若干の不安を覚えつつアルコールで麻痺した判断能力が餃子まで頼ませた。ラーメン屋に向かうまでに前を通りかかったた路上ギター少年に何か言ったはずだったけどすっかり忘れてしまった。オヤジくせー事じゃないことを願う。
今から帰るからというラブ電話を横に、胃袋の飽和量を越えつつある腹を押さえ、タクシーに乗った。
いつもすいません、と西は礼儀正しく挨拶をして先に降りて、けっこうな距離まで手を振っていた。いいやつっぷりに胃のもたれを忘れそうになりながらおつりをもらうのも面倒くさかったのでそのまま降りて玄関をあけるとパーティは最後の語りモードだったらしく、俺に気付いて一瞬話が止まった。その隙を狙って俺はそのまま布団に入ってやった。
P R
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