ハルヒの二次創作

March 28 [Sat], 2009, 17:25
 だんだんと夏の面影が感じられるゴールデンウィーク最終日、俺はいつもの駅へと向かっていた。ハルヒが前に宣言した花見があるからで,今頃駅前にはいつものメンバーがそろっているだろう。いつものというのはハルヒ,長門、朝比奈さん、古泉の事で,結局この前の入団試験の合格者はいなかったからこの間までと何ら変わっていない。
 本当は今日くらいゆっくり休みたかったが、ハルヒがやるというのだからやるのである。いっそサクラよ散れと願うが,それができたらそれこそ神だ。現に,空を仰ぐと快晴というほどではないがよく晴れた空が見える。
「ねえキョンくん、キョンくんとハルにゃんって恋人なの?」
 空を静かに鑑賞しつつ信号を待っていた俺に,荷台から妹の声がかかった。俺は自転車の後ろに乗っている妹の、その知的好奇心からくる質問に渋々ながら答えてやる事にする。答えてやらないと,よからぬ確信を持ちかねんからな。
「ちがう。全く関係ない」
 はあ。谷口も国木田も,果ては妹まで、どうしてこう勘違いするんだろうか。正直に言って、俺が恋人になりたいのは朝比奈さんだ。もっとも無理な話だし、もし実現すれば明日には谷口なりなんなりに殺されているだろうが。
「じゃあ,どういう関係?」
 俺の思い浮かべた愛しの朝比奈天使は、妹の声により消滅する。どういう関係か,か。同級生でまあ友人か。強いて言うなら,団長と団員の関係だな。
「ふ〜ん」
 俺の大変に良くわかる説明を,妹は軽く流した。まったく、妹にもこの1年間にあった奇天烈事件を教えてやりたい。
「あ、キョンくん、信号変わったよ」
 妹が言った。町中でその名で呼ぶのはやめて欲しい。ほら、隣の買い物帰りのおばさんがこっち向いてるぞ。きっと『キョンってこの高校生のお兄ちゃんの事かしら。驚くわねえ』と思っているぞと思いつつ,俺は普段より重いペダルをこぎだした。

「遅い。何であんただけいつも遅刻するの?」
 出会い頭にハルヒは言った。10時集合で今は9時55分だ。何が遅刻してるんだろうか。
「じゃあ、何で団長を待たせるのよ」
 4月の経験からして,お前等はいつも集合時刻の15分前には来ているようじゃないか。全員遅くくりゃ良いだろう。
「ともかく、今日のバス代はキョンが全員分支払って。いいわね」
 ハルヒは俺にそう宣告する。ちなみに、普段の市内パトロール(不思議なものを探すという名目で市内を散歩するSOS団の最も多い活動だ)では喫茶店代を払わされており,おかげで俺の家計は火の車だ。財布の方は空っ風が吹いている。まあもちろん、朝比奈さんとのデートでおごれるくらいは残っているがな。
「はいはい」
 そう生返事してから,愛しのエンジェル,朝比奈さんに挨拶する事にする。
「おはようございます。今日も花見日和ですねえ」
「あ、そうですね、おはようございます。今日もバス代とかいろいろ迷惑かけてすいません」
「いえいえ、朝比奈さんのためだと思えば俺の財布も自然に発熱してくる思いです」
 朝比奈さんが俺に同情して下さったので今日一日の疲れが先払いで吹き飛ぶ思いでいると、
「わ〜いみくるちゃんだ〜」
 妹が朝比奈さんに飛びついた。そのあまりのべたべたぶりに若干の殺意を覚えつつ視線を横に滑らせると,
「おはようございます。調子はいかがですか?」
 うるさい野郎が声をかけて来た。古泉である。無視しても良かったのだが,そこは社交辞令的に、
「まあまあだな」
 とだけ答える。そして長門にも声をかけようかと思ったところで,
「さあ出発よ!早くしないと八重桜が散っちゃうかも知れないわ」
 ハルヒが言った。そんなに早く散るか。雨も降ってないのに。と思ったが,反論するのも面倒なのでそのままハルヒについていく。長門への挨拶はバス停に向かう途中でも良いだろう。俺に続き,朝比奈さん,朝比奈さんにじゃれる妹、古泉,長門もついてきた。

 鶴屋邸にお邪魔するのはこれが始めてというわけではないのだが、やはりいつ見てもでかい。鶴屋家でシャミセンが飼われた日には、シャミセンに俺の家くらいのスペースが与えられる事だろう。そしてそのでかい鶴屋家のでかい庭に、八重桜はこれでもかってくらいに満々と咲いていた。春休みに咲いていたソメイヨシノとは別の庭にである。
「やあハルにゃんたち,こっちこっち。今日は迎えにいけなくてごめんよ!父親が使っちゃってて」
 鶴屋さんに手招きされ、庭の思い思いの場所に座った俺たちに,鶴屋さんは言った。いえいえ、こんな大豪邸に入れてもらえるだけでも幸せです、鶴屋さん。
「まだお昼ご飯には早いわね。そうだ、みんなで短歌でも作りましょうよ」
 ハルヒが言うと,早速鶴屋家の使用人が筆と硯と紙を持って来た。いやに準備が良いな。
「短歌ってなんですか?」
 朝比奈さんがハルヒに訊いた。ハルヒは得意げに、
「みくるちゃん、そんな事も知らないの?短歌って言うのは、5・7・5・7・7で景色とかを詠むものよ」
「あ、あの平安時代とかに流行ったやつですか。そんなの1200、ゴホン、1000年前の風習ですよ」
「ほら,そんな事言わずにさっさとやる!」
「は、はい〜」
 ハルヒは知らないが、朝比奈さんは未来人である。朝比奈さんから見た『短歌』
は、俺たちから見た原始人の踊りくらいのものなのかも知れない。そう思いつつ、俺は短歌を考える。こんなのでどうだろう。『団長に 引きづり込まれ はや一年 既に不満も 少なくなりけり』
「ちょっとそれどういう意味?それに季語が入ってないわ。没よ没」
 季語を求めるか。ならば『朝比奈さん 桜のごとく 美しく 大樹のごとく 永久(とわ)の輝き』でどうだ。
「そんなに恋文にしたいならコンクールにでも出せば?良いコンクールを知ってるわよ。あだたらコンクールって言うやつ」
 俺は知らんな。にしても、だったらお前は,芸術的センスに満ちあふれたやつを作ったのか?ぜひとも見せて欲しいが。
「まだできてないわ。私が言うのは,キョンみたいに適当に作るのはダメってこと。ちゃんと考えてやらないと。部室の外に張り出すわよ」
 それは大変だ。もし俺の恋文?が、部室の外で人目に触れるような事があれば、明日にでも俺は殺されるかも知れない。そんな事になれば、キリストにも釈迦にもマホメットにも見捨てられるに違いない。
「僕のでよければ、見てみませんか?」
 俺が自らが何教に入れば良いかを黙考していると,古泉が横から声をかけてきた。誰が悲しくてお前なんか、と思いつつ何も答えないでいると、
「『初夏になり 暑さは強く なりにけど まだ美しき 桜花かな』」
 勝手に読み上げ始めた。仕方ないので感想を述べてやる事にする。
「お前と同じく人畜無害な歌だな。よくわからんが」
「そうですか?少なくとも、部室の外にあっても誰かが怒鳴り込む事はないでしょう」
 こいつは俺をおこらせたいのか……。そんなこんながあって,結局、俺はこんな短歌らしきものを書いた。『八重桜 雨風しのぐ 事もなく よくやってける ものだなあ』
「なにこれ。5・7・5・7・5になってる上に、意味が分からないわ」
 そうだろうとも。俺だってわからん。
「まあバカキョンじゃこれくらいが良いとこね。今回は許してあげるわ」
 ハルヒは俺にそう告げ、一度受け取った紙を,他の人間のも含めて全て鶴屋さんに渡し、
「今の短歌は,鶴屋さんの知り合いの高名な和尚さんに見てもらう事になってるの」
 と宣言した。マジか。だったら恋文の方が良かったんじゃないかと思っていると、
「キョンくんはどんな歌を書いたんですか?」
 朝比奈さんが訊いて来た。とてもあなたには言えません。
「みんなが短歌を書いたところで、百人一首やるわよ」
 俺が朝比奈さんの質問を軽やかに受け流すと同時に、ハルヒが木製の箱を持ってきた。箱を開けると、何やら古代文字のかかれたカードがでる。すんげえ古い。
「江戸時代のやつなんだって」
 ハルヒが言った。鶴屋家にはなんでもあるな。これで防犯カメラとか言う近代的なものも完備してるんだから,鶴屋家はどれくらいの財力があるんだろう。
「さ、バカキョン、赤い札を読みなさい」
 周りが青い札をばらまき終えたハルヒは言った。俺がか?
「そうよ。どうせ参加したって一枚もとれないでしょ」
 まあそうだな。百人一首なんぞ覚えてないし、たとえ覚えてたとしてもこの古代文字は読めん。しかしそれはこの赤い札も同じだが。
「文句言わないでちゃっちゃとやる!」
 仕方ないので俺は古泉のごとく肩をすくめ、一枚目を読む。
「たごのう……」
「これね!」
 ハルヒが早速取った。ちなみに、俺がこの札を読めるのは何故か読み札だけ現代文字だからである。取り札は古代文字だから,既に朝比奈さんはお手上げのご様子だ。妹はもう付近を走り回っている。
「みよしの……」
「……」
 取り札の一枚が無言で取られる。長門だ。普通に考えると長門にハルヒが勝てるとは思えず、先ほどハルヒが取ったのはただ単に取り札がハルヒに近かったという事か。
「む……」
「これだ!」
 今度は鶴屋さんが取った。一文字しか読んでないんですが。
「バカねえキョンは。百人一首の一部の句は、最初の一文字でわかるのよ」
 取ってもいないハルヒが偉そうに言った。俺は肩をすくめる。さて次の句はなんだろうか。

 俺の目測で残っている札は20枚ほどだろう。この時点での勝者はほぼ長門であり,目下鶴屋さんとハルヒが同じくらい取っている。古泉と朝比奈さんは0で、朝比奈さんはともかく古泉が0というのは意外だ。
「僕にだって不得意なものはありますよ」
 古泉が言った。お前の不得意なものはゲーム全般なのか。
「まあそうですね。特に電子ゲームは」
 そうかい。それに電子ゲームは嫌いなんだろ?
「よくわかりましたね」
 冬の合宿の時を思い出せばそれくらいわかるさ。
「キョン,早く次の読みなさい」
 逆転の可能性が低いハルヒがせかした。俺がハルヒに向き直りつつ札を読み上げようとした瞬間、
「うわっ」
 いきなり妹が追突して来た。別にそれは良い、いやよくない。俺は前のめりになり、ハルヒに追突しそうになった。さてどうでも良いが,俺とハルヒには結構身長差がある。もちろん俺と古泉以上のだ。そのために、俺の唇はハルヒの唇とくっつきそうになった。
「なにすんのよ!」
 なんとかキスだけは免れ、安堵する俺に、ハルヒは言った。おいおい、今の状況見てなかったのか?
「見てたわよ。だけどこれはあなたの妹さんを籠絡して私を襲おうとしたのね!」
 なんでそうなる?これは事故だ。事故なんですよ朝比奈さん!
「何でみくるちゃんに言い訳するの?」
 いや、朝比奈さんがこっちを向いてたからですよ。
「まあ、これは事故のようですし。それほど追求しなくても……」
「そうさ、ハルにゃんにはキョンくんがお似合いさ」
 古泉と鶴屋さんがフォローしてくれるが,鶴屋さんは黙っててくれませんか?
「そうね。事故ってことにしといてあげる。そのかわりキョン、あんたは永久にSOS団を辞めない事。
良いわね!」
 ハルヒはあっさりと追求の槍を引いた。一体どんな深謀遠慮があったのだろうか……。

 その後ハルヒは俺とは一言も話しはしなかった。そりゃそう……だよな。まあハルヒも純粋な(?)女の子だしな。一応。
「謝るべきかね」
 俺は古泉に訊いた。映画上映の時を考えるとな。
「別に必要ないと思いますが」
 古泉は意外にも謝れと言わなかった。なぜだ。
「僕が考えて、涼宮さんは表面上はおこっているようですが、内心は……いえ、黙っておきましょう」
 古泉は微笑んだ。俺はこれ以上の追求に危険を感じ、
「そうか」
 それだけ言って話を打ち切ることにする。古泉もそれ以上は言わなかった。
「では,また明日」
 ハルヒ他とわかれ、駐輪場へと向かう。妹を朝比奈さんから引き離すのが大変だった事は言うまでもなかろう。俺は朝比奈さんと妹がじゃれ合うという精神衛生上よくないシーンを頭から忘却しようとしつつポケットの鍵を出し,自転車の錠前を開ける。
「ほら、行くぞ」
 妹を無理矢理自転車にのせる。ようやくゴールデンウィークが終わった……と思っていたのだが。

 ゴールデンウィーク最終日、俺はいつもの駅へと向かっていた。ハルヒが前に宣言した花見があるからで,今頃駅前にはいつものメンバーがそろっているだろう。いつものというのはハルヒ,長門、朝比奈さん、古泉の事で,結局この前の入団試験の合格者はいなかったからこの間までと何ら変わっていない。
 本当は今日くらいゆっくり休みたかった上、昨日も同じ事をしたような気がするが、カレンダーによれば昨日は町内ぶらぶら歩きの日で,多分春休みの花見の記憶がかぶっているのだろう。
「ねえキョンくん、キョンくんとハルにゃんって恋人なの?」
 空を静かに鑑賞しつつ信号を待っていた俺に,荷台から妹の声がかかった。俺は自転車の後ろに乗っている妹の、その知的好奇心からくる質問に渋々ながら答えてやる事にする。答えてやらないと,よからぬ確信を持ちかねんからな。
「ちがう。全く関係ない」
 はあ。谷口も中河も,果ては妹まで、どうしてこう勘違いするんだろうか。正直に言って、俺が恋人になりたいのは朝比奈さんだ。もっとも無理な話だし、もし実現すれば明日には谷口なりなんなりに殺されているだろうが。
「じゃあ,どういう関係?」
 俺の思い浮かべた愛しの朝比奈天使は、妹の声により雲散霧消する。どういう関係か,か。同級生でまあ友人か。強いて言うなら,団長と団員の関係だな。
「へええ」
 俺の大変に良くわかる説明を,妹は軽く流した。まったく、妹にもこの1年間にあった奇天烈事件を教えてやりたい。
「あ、キョンくん、信号変わったよ」
 妹が言った。町中でその名で呼ぶのはやめて欲しい。ほら、隣の買い物帰りのおばさんがこっち向いてるぞ。きっと『キョンってこの高校生のお兄ちゃんの事かしら。不思議だわねえ』と思っているぞと思いつつ,俺は普段より重いペダルをこぎだした。

「遅い。何であんただけいつも遅刻するの?」
 出会い頭にハルヒは言った。10時集合で今は9時55分だ。何が遅刻してるんだろうか。
「じゃあ、何で団長を待たせるのよ」
 4月の経験からして,お前等はいつも集合時刻の15分前には来ているようじゃないか。全員遅くくりゃ良いだろう。
「ともかく、今日のバス代はキョンが全員分支払って。いいわね」
 ハルヒは俺にそう宣告する。ちなみに、普段の市内パトロール(不思議なものを探すという名目で市内を散歩するSOS団の最も多い活動だ)では喫茶店代を払わされており,おかげで俺の家計は火の車だ。財布の方は空っ風が吹いている。まあもちろん、朝比奈さんとのデートでおごれるくらいは残っているがな。
「はいはい」
 そう生返事してから,愛しのエンジェル,朝比奈さんに挨拶する事にする。
「おはようございます。今日も花見日和ですねえ」
「あ、そうですね、おはようございます。今日もバス代とかいろいろ迷惑かけてすいません」
「いえいえ、朝比奈さんのためだと思えば俺の財布もあったかくなる」
 朝比奈さんが俺に同情して下さったので今日一日の疲れが先払いで吹き飛ぶ思いでいると、
「わ〜いみくるちゃんだ〜」
 妹が朝比奈さんに飛びついた。そのあまりのべたべたぶりに若干の殺意を覚えつつ視線を横に滑らせると,
「おはようございます。調子はいかがですか?」
 うるさい野郎が声をかけて来た。古泉である。無視しても良かったのだが,そこは社交辞令的に、
「まあまあだな」
 とだけ答える。そして長門にも声をかける。
「おはよう」
 長門はミリ単位でうなずく。それだけだった。
「さあ出発よ!早くしないと八重桜が散っちゃうかも知れないわ」
 ハルヒが言った。そんなに早く散るか。雨も降ってないのに。と思ったが,反論するのも面倒なのでそのままハルヒについていく。俺に続き,朝比奈さん,朝比奈さんにじゃれる妹、古泉,長門もついてきた。

 鶴屋邸にお邪魔するのはこれが始めてというわけではないのだが、やはりいつ見てもでかい。鶴屋家でシャミセンが飼われた日には、シャミセンに俺の家くらいのスペースが与えられる事だろう。そしてそのでかい鶴屋家のでかい庭に、八重桜はこれでもかってくらいに満々と咲いていた。春休みに咲いていたソメイヨシノとは別の庭にである。
「やあハルにゃんたち,こっちこっち。今日は迎えにいけなくてごめんよ!父親が使っちゃってて」
 鶴屋さんに手招きされ、庭の思い思いの場所に座った俺たちに,鶴屋さんは言った。いえいえ、こんな大豪邸に入れてもらえるだけでも幸せです、鶴屋さん。
「まだお昼ご飯には早いわね。そうだ、みんなで短歌でも作りましょうよ」
 ハルヒが言うと,早速鶴屋家の使用人が筆と硯と紙を持って来た。いやに準備が良いな。
「短歌ってあれですか?5・7・5・7・7のあれ」
 朝比奈さんがハルヒに確認した。
「そうよ。それは良いとしてさっさと書いて頂戴」
「は、はい〜」
 ハルヒは知らないが、朝比奈さんは未来人である。朝比奈さんから見た『短歌』
は、俺たちから見た原始人の踊りくらいのものなのかも知れないのに、よく知っていたな。そう思いつつ、俺は短歌を考える。こんなのでどうだろう。『団長に 引きづり込まれ はや一年 既に不満も 少なくなりけり』
「ちょっとそれどういう意味?それに季語が入ってないわ。あんたこの前もそんな事言ってなかった?」
 そんな事はないはずだ。短歌を作ったのは今日が始めてのはず……だと思ったが。それより、季語を求めるか。ならば『朝比奈さん 桜のごとく 美しく 大樹のごとく 久遠(くおん)の輝き』でどうだ。
「そんなに恋文にしたいならコンクールにでも出せば?良いコンクールを知ってるわよ。あだたらコンクールって言うやつ」
 俺は知らんな。にしても、だったらお前は,芸術的センスに満ちあふれたやつを作ったのか?ぜひとも見せて欲しいが。
「まだできてないわ。私が言うのは,キョンみたいに適当に作るのはダメってこと。ちゃんと考えてやらないと。部室の外に張り出すわよ」
 それは大変だ。もし俺の恋文?が、部室の外で人目に触れるような事があれば、明日にでも俺は殺されるかも知れない。そんな事になれば、キリストにも釈迦にもマホメットにも見捨てられるに違いない。
「僕のでよければ、見てみませんか?」
 俺が自らが何教に入れば良いかを黙考していると,古泉が横から声をかけてきた。誰が悲しくてお前なんか、と思いつつ何も答えないでいると、
「『初夏になり 暑さは強く なりにけど まだ美しき 桜花かな』」
 勝手に読み上げ始めた。仕方ないので感想を述べてやる事にする。
「お前と同じく人畜無害な歌だな。どっかで聞いた気がするが」
「そうですか?少なくとも、盗作ではありませんが」
 そんなこんながあって,結局、俺はこんな短歌らしきものを書いた。『八重桜 雨風しのぐ 事もなく よくやってける ものだなあ』
「なにこれ。5・7・5・7・5になってる上に、意味が分からないわ」
 そうだろうとも。俺だってわからん。
「まあバカキョンじゃこれくらいが良いとこね。今回は許してあげるわ」
 ハルヒは俺にそう告げ、一度受け取った紙を,他の人間のも含めて全て鶴屋さんに渡し、
「今の短歌は,鶴屋さんの知り合いの高名な和尚さんに見てもらう事になってるの」
 と宣言した。マジか。だったら恋文の方が良かったんじゃないかと思っていると、
「キョンくんはどんな歌を書いたんですか?」
 朝比奈さんが訊いて来た。とてもあなたには言えません。
「みんなが短歌を書いたところで、百人一首やるわよ」
 俺が朝比奈さんの質問を軽やかに受け流すと同時に、ハルヒが木製の箱を持ってきた。箱を開けると、何やら古代文字のかかれたカードがでる。すんげえ古い。
「江戸時代のやつなんだって」
 ハルヒが言った。鶴屋家にはなんでもあるな。これで防犯カメラとか言う近代的なものも完備してるんだから,鶴屋家はどれくらいの財力があるんだろう。
「さ、バカキョン、赤い札を読みなさい」
 周りが青い札をばらまき終えたハルヒは言った。俺がか?
「そうよ。どうせ参加したって一枚もとれないでしょ」
 まあそうだな。百人一首なんぞ覚えてないし、たとえ覚えてたとしてもこの古代文字は読めん。しかしそれはこの赤い札も同じだが。
「文句言わないでちゃっちゃとやる!」
 仕方ないので俺は古泉のごとく肩をすくめ、一枚目を読む。これはなんとなく、ハルヒが取る気がするな。
「たごのう……」
「これね!」
 ハルヒが予想通り取った。ちなみに、俺がこの札を読めるのは何故か読み札だけ現代文字だからである。取り札は古代文字だから,既に朝比奈さんはお手上げのご様子だ。妹はもう付近を走り回っている。
「みよしの……」
「……」
 取り札の一枚が無言で取られる。長門だ。普通に考えると長門にハルヒが勝てるとは思えず、先ほどハルヒが取ったのはただ単に取り札がハルヒに近かったという事か。
「む……」
「これだ!」
 今度は鶴屋さんが取った。一文字しか読んでないんですが。
「バカねえキョンは。百人一首の一部の句は、最初の一文字でわかるのよ」
 取ってもいないハルヒが偉そうに言った。俺は肩をすくめる。さて次の句はなんだろうか。

 俺の目測で残っている札は20枚ほどだろう。この時点での勝者はほぼ長門であり,目下鶴屋さんとハルヒが同じくらい取っている。古泉は3、朝比奈さんは0で、朝比奈さんはともかく古泉が3というのは意外だ。
「これでも頑張っているのですよ」
 古泉が言った。そうは見えんが。
「ここだけの話,最後の方の1,2枚は読まれる札がわかる気がします」
 そうかい。うそつけ。気のせいだろ
「よくわかりましたね」
 お前も,もう少し自分がどう思われているのか考えろ。
「キョン,早く次の読みなさい」
 逆転の可能性が低いハルヒがせかした。俺がハルヒに向き直りつつ札を読み上げようとした瞬間、
「うわっ」
 いきなり妹が追突して来た。別にそれは良い、いやよくない。俺は前のめりになり、ハルヒに追突しそうになった。さてどうでも良いが,俺とハルヒには結構身長差がある。もちろん俺と古泉以上のだ。そのために、俺の唇はハルヒの唇とくっつきそうになり、
「なにすんのよ!」
 キスしちまった。ああ一生の不覚。これは事故だ。事故なんですよ朝比奈さん!
「何でみくるちゃんに言い訳するの?」
 いや、朝比奈さんがこっちを向いてたからですよ。おい古泉、お前もなんか弁護しろ。
「ハルにゃん、ハルにゃんにはキョンくんがお似合いさ」
 古泉と鶴屋さんがフォローしてくれるが,鶴屋さんは黙っててくれませんか?
「事故ってことにしといてあげるわ。そのかわりキョン、一つだけ聞かせて。あんたみくるちゃんの事好きなの?」
 ハルヒはなんか意外な事を訊いて来た。肯定すべきか,否定すべきか……。
「ああ、まあな」
 そりゃくっつけるものならくっつきたいぜ。もっとも、朝比奈さんが未来人である事を知っている以上,そんな事はできないが。

 その後ハルヒは俺とは一言も話しはしなかった。そりゃそう……だよな。まあハルヒも純粋な(?)女の子だしな。一応。
「謝るべきかね」
 俺は古泉に訊いた。映画上映の時を考えるとな。
「何をです?」
 そりゃあキスしちまった事だろう。どっちかっていうとまず自分を殺したいが。
「僕が考えて、涼宮さんは表面上はおこっているようですが、内心は……いえ、それよりも」
 古泉は不意にまじめな顔になる。俺はこれ以上の追求に危険を感じ、
「ああその先は言わなくてよろしいぞ。どうせろくな事がない」
 それだけ言って話を打ち切ることにする。古泉は微笑み、
「そうですね。その通りです」
 ハルヒ他とわかれ、駐輪場へと向かう。妹を朝比奈さんから引き離すのが大変だった事は言うまでもなかろう。俺は朝比奈さんと妹がじゃれ合うという精神衛生上よくないシーンを頭から忘却しようとする。
「ほら、行くぞ」
 妹を無理矢理自転車にのせようとし、鍵がない事に気づく。一体どこで鍵を落としたんだ?

 ゴールデンウィーク最終日、俺はいつもの駅へと向かっていた。ハルヒが前に宣言した花見があるからで,今頃駅前にはいつものメンバーがそろっているだろう。いつものというのはハルヒ,長門、朝比奈さん、古泉の事で,結局この前の入団試験の合格者はいなかったからこの間までと何ら変わっていない。
 本当は今日くらいゆっくり休みたかった上、昨日も同じ事をしたような気がするが、カレンダーによれば昨日は町内ぶらぶら歩きの日で,多分春休みの花見の記憶がかぶっているのだろう。
「ねえキョンくん、キョンくんとハルにゃんって恋人なの?」
 空を静かに鑑賞しつつ信号を待っていた俺に,荷台から妹の声がかかった。俺は自転車の後ろに乗っている妹の、その知的好奇心からくる質問に渋々ながら答えてやろうと考えて、一つ気になる事があった。
「お前,この前もそんな事訊かなかったか?」
「そんなことないよ、キョンくん、夢で見たんじゃないの?」
「それはないな」
 どっかで聞いた気がするんだがなあ
「あ、キョンくん、信号変わったよ」
 妹が言った。町中でその名で呼ぶのはやめて欲しい。ほら、隣の買い物帰りのおばさんがこっち向いてるぞ。きっと『キョンってこの高校生のお兄ちゃんの事かしら。不思議だわねえ』と思っているぞと思いつつ,俺は普段より重いペダルをこぎだした。

「遅い。何であんただけいつも遅刻するの?」
 出会い頭にハルヒは言った。10時集合で今は9時55分だ。何が遅刻してるんだろうか、と言いたいが、何だか今日遅刻するのはわかってた気がするんだよな。
「じゃあ、何で団長を待たせるのよ。わかってたんなら,もっと早く来なさい」
 4月の経験からして,お前等はいつも集合時刻の15分前には来ているようじゃないか。全員遅くくりゃ良いだろう。
「ともかく、今日のバス代はキョンが全員分支払って。いいわね」
 ハルヒは俺にそう宣告する。ちなみに、普段の市内パトロール(不思議なものを探すという名目で市内を散歩するSOS団の最も多い活動だ)では喫茶店代を払わされており,おかげで俺の家計は火の車だ。財布の方は空っ風が吹いている。まあもちろん、朝比奈さんとのデートでおごれるくらいは残っているがな。
「はいはい」
 そう生返事してから,愛しのエンジェル,朝比奈さんに挨拶する事にする。
「おはようございます。今日も花見日和ですねえ」
「あ、そうですね、おはようございます。今日もバス代とかいろいろ迷惑かけてすいません」
「いえいえ、朝比奈さんのためだと思えば俺の財布もあったかくなる」
 朝比奈さんが俺に同情して下さったので今日一日の疲れが先払いで吹き飛ぶ思いでいると、
「わ〜いみくるちゃんだ〜」
 妹が朝比奈さんに飛びついた。そのあまりのべたべたぶりに若干の殺意を覚えつつ視線を横に滑らせると,
「おはようございます。調子はいかがですか?」
 うるさい野郎が声をかけて来た。古泉である。無視しても良かったのだが,そこは社交辞令的に、
「まあまあだな」
 とだけ答える。そして長門にも声をかける。
「おはよう」
 長門はミリ単位でうなずく。それだけだった。なんか考えてる風情だが,いつもの事だ。
「さあ出発よ!早くしないと八重桜が散っちゃうかも知れないわ」
 ハルヒが言った。そんなに早く散るか。雨も降ってないのに。と思ったが,反論するのも面倒なのでそのままハルヒについていく。俺に続き,朝比奈さん,朝比奈さんにじゃれる妹、古泉,長門もついてきた。

 鶴屋邸にお邪魔するのはこれが始めてというわけではないのだが、やはりいつ見てもでかい。鶴屋家でシャミセンが飼われた日には、シャミセンに俺の家くらいのスペースが与えられる事だろう。そしてそのでかい鶴屋家のでかい庭に、八重桜はこれでもかってくらいに満々と咲いていた。春休みに咲いていたソメイヨシノとは別の庭にである。
「やあハルにゃんたち,こっちこっち。今日は迎えにいけなくてごめんよ!父親が使っちゃってて」
 鶴屋さんに手招きされ、庭の思い思いの場所に座った俺たちに,鶴屋さんは言った。いえいえ、こんな大豪邸に入れてもらえるだけでも幸せです、鶴屋さん。
「まだお昼ご飯には早いわね。そうだ、みんなで短歌でも作りましょうよ」
 ハルヒが言うと,早速鶴屋家の使用人が筆と硯と紙を持って来た。いやに準備が良いな。
「短歌ってあれですか?5・7・5・7・7のあれ」
 朝比奈さんがハルヒに確認した。
「そうよ。それは良いとしてさっさと書いて頂戴」
「は、はい〜」
 ハルヒは知らないが、朝比奈さんは未来人である。朝比奈さんから見た『短歌』
は、俺たちから見た原始人の踊りくらいのものなのかも知れないのに、よく知っていたな。そう思いつつ、俺は短歌を考える。こんなのでどうだろう。『団長に 引きづり込まれ はや一年 既に不満も 少なくなりけり』
「ちょっとそれどういう意味?それに季語が入ってないわ。あんたこの前もそんな事言ってなかった?」
 そんな事はないはずだ。短歌を作ったのは今日が始めてのはず……だと思ったが。それより、季語を求めるか。ならば『朝比奈さん 桜のごとく 美しく 大樹のごとく 久遠(くおん)の輝き』でどうだ。
「そんなに恋文にしたいならコンクールにでも出せば?良いコンクールを知ってるわよ。あだたらコンクールって言うやつ」
 俺は知らんな。にしても、だったらお前は,芸術的センスに満ちあふれたやつを作ったのか?ぜひとも見せて欲しいが。
「まだできてないわ。私が言うのは,キョンみたいに適当に作るのはダメってこと。ちゃんと考えてやらないと。部室の外に張り出すわよ」
 それは大変だ。もし俺の恋文?が、部室の外で人目に触れるような事があれば、明日にでも俺は殺されるかも知れない。そんな事になれば、キリストにも釈迦にもマホメットにも見捨てられるに違いない。
「僕のでよければ、見てみませんか?」
 俺が自らが何教に入れば良いかを黙考していると,古泉が横から声をかけてきた。誰が悲しくてお前なんか、と思いつつ何も答えないでいると、
「『初夏になり 暑さは強く なりにけど まだ美しき 桜花かな』」
 勝手に読み上げ始めた。仕方ないので感想を述べてやる事にする。
「お前と同じく人畜無害な歌だな。どっかで聞いた気がするが」
「そうですか?実は僕もそうなのです。しかし、一方で,こんな歌見た事ないという気持ちもあるのですよ」
 そりゃ自画自賛してるのか。
「これは失礼を」
 そんなこんながあって,結局、俺はこんな短歌らしきものを書いた。『八重桜 雨風しのぐ 事もなく よくやってける ものだなあ』
「なにこれ。5・7・5・7・5になってる上に、意味が分からないわ」
 そうだろうとも。俺だってわからん。
「まあバカキョンじゃこれくらいが良いとこね。今回は許してあげるわ」
 ハルヒは俺にそう告げ、一度受け取った紙を,他の人間のも含めて全て鶴屋さんに渡し、
「今の短歌は,鶴屋さんの知り合いの高名な和尚さんに見てもらう事になってるの」
 と宣言した。マジか。だったら恋文の方が良かったんじゃないかと思っていると、
「キョンくんはどんな歌を書いたんですか?」
 朝比奈さんが訊いて来た。とてもあなたには言えません。
「みんなが短歌を書いたところで、百人一首やるわよ」
 俺が朝比奈さんの質問を軽やかに受け流すと同時に、ハルヒが木製の箱を持ってきた。箱を開けると、何やら古代文字のかかれたカードがでる。すんげえ古い。
「江戸時代のやつなんだって」
 ハルヒが言った。鶴屋家にはなんでもあるな。これで防犯カメラとか言う近代的なものも完備してるんだから,鶴屋家はどれくらいの財力があるんだろう。
「さ、バカキョン、赤い札を読みなさい」
 周りが青い札をばらまき終えたハルヒは言った。俺がか?
「そうよ。どうせ参加したって一枚もとれないでしょ」
 まあそうだな。百人一首なんぞ覚えてないし、たとえ覚えてたとしてもこの古代文字は読めん。しかしそれはこの赤い札も同じだが。
「文句言わないでちゃっちゃとやる!」
 仕方ないので俺は古泉のごとく肩をすくめ、一枚目を読む。これはなんとなく、ハルヒが取る気がするな。
「たごのう……」
「これね!」
 ハルヒが予想通り取った。ちなみに、俺がこの札を読めるのは何故か読み札だけ現代文字だからである。取り札は古代文字だから,既に朝比奈さんはお手上げのご様子だ。妹はもう付近を走り回っている。
「みよしの……」
「……」
 取り札の一枚が無言で取られる。長門だ。普通に考えると長門にハルヒが勝てるとは思えず、先ほどハルヒが取ったのはただ単に取り札がハルヒに近かったという事か。
「む……」
「これだ!」
 今度は鶴屋さんが取った。一文字しか読んでないんですが。
「バカねえキョンは。百人一首の一部の句は、最初の一文字でわかるのよ」
 取ってもいないハルヒが偉そうに言った。俺は肩をすくめる。さて次の句はなんだろうか。

 俺の目測で残っている札は20枚ほどだろう。この時点での勝者はほぼ長門であり,目下鶴屋さんとハルヒが同じくらい取っている。古泉は7、朝比奈さんは0で、朝比奈さんはともかく古泉が7というのは意外だ。
「これでも頑張っているのですよ」
 古泉が言った。そうは見えんが。
「ここだけの話,最後の方の1,2枚は読まれる札がわかる気がします」
 そうかい。うそつけ。気のせいだろ
「そうとも言えないのですよ」
 お前は馬鹿か?もしくは予知能力にでも目覚めたか?
「キョン,早く次の読みなさい」
 逆転の可能性が低いハルヒがせかした。俺がハルヒに向き直りつつ札を読み上げようとした瞬間、
「うわっ」
 いきなり妹が追突して来た。別にそれは良い、いやよくない。俺は前のめりになり、ハルヒに追突しそうになった。さてどうでも良いが,俺とハルヒには結構身長差がある。もちろん俺と古泉以上のだ。そのために、俺の唇はハルヒの唇とくっつきそうになり、
「なにすんのよ!」
 キスしちまった。ああ一生の不覚。これは事故だ。事故なんですよ朝比奈さん!
「何でみくるちゃんに言い訳するの?」
 いや、朝比奈さんがこっちを向いてたからですよ。おい古泉、お前もなんか弁護しろ。
「ハルにゃん、ハルにゃんにはキョンくんがお似合いさ」
 古泉と鶴屋さんがフォローしてくれるが,鶴屋さんは黙っててくれませんか?
「事故ってことにしといてあげるわ。そのかわりキョン、一つだけ聞かせて。あんたみくるちゃんの事好きなの?」
 ハルヒはなんか意外な事を訊いて来た。肯定すべきか,否定すべきか……。
「いや,そんな事はないな」
 そりゃくっつけるものならくっつきたいぜ。もっとも、朝比奈さんが未来人である事を知っている以上,そんな事はできない上に,何となく肯定しちゃまずき気がしたからな。

 その後ハルヒは俺とは一言も話しはしなかった。そりゃそう……だよな。まあハルヒも純粋な(?)女の子だしな。一応。
「謝るべきかね」
 俺は古泉に訊いた。映画上映の時を考えるとな。
「何をです?」
 そりゃあキスしちまった事だろう。どっちかっていうとまず自分を殺したいが。
「僕が考えて、涼宮さんは表面上はおこっているようですが、内心は……いえ、それよりも」
 古泉は不意にまじめな顔になる。俺はこれ以上の追求に危険を感じ、
「ああその先は言わなくてよろしいぞ。どうせろくな事がない」
 それだけ言って話を打ち切ることにする。古泉は微笑み、
「そうでもないのですが……そうしておきましょう」
 ハルヒ他とわかれ、駐輪場へと向かう。妹を朝比奈さんから引き離すのが大変だった事は言うまでもなかろう。俺は朝比奈さんと妹がじゃれ合うという精神衛生上よくないシーンを頭から忘却しようとしつつポケットの鍵を出し,自転車の錠前を開ける。
「ほら、行くぞ」
 妹を無理矢理自転車にのせ、家に帰る。このゴールデンウィークは普段学校にいる時よりも疲れた感じがある。

 翌日はもちろん、ゴールデンウィークの翌日である。またこの強制ハイキングロードをのぼらされていると、
「ようキョン」
 お調子者の声がかかった。全く、この坂に夜の太陽ほどに似つかわしくない声だ。が,無視するのも忍びないので答えてやる。
「なんだ、お前か」
「お前とはなんだ、名前を呼ぶ手間まで節約する気か?みみっちいな」
 なら俺の名も実名で呼べ。
「お前はキョンで良いのさ。あの涼宮がそういってるんだから」
 まるでハルヒが神だと知っているような良い方だ、と思うが声には出さず、
「なんでそうなる」
「だってよお、涼宮とキョンって夫婦だろ?その妻が読んでる呼び名だぜ、もう一般名詞と考えていいんじゃねえか?」
 はあ?なぜ夫婦だ。
「いつも一緒にいるじゃねえか。教室もそうだし,部室もだろ?おっと団室だっけな」
 俺は望んでない。さらに事実を言うならば、同棲してるわけじゃねえぞ。
「同棲したいって事か?よし、俺が新たに考えたデートコースを教えてやる」
「いい、結構だ」
 俺は話を打ち切り、黙々と坂の上を目指す。どっかの刑務所に無実の罪で入れられ懲役刑を受けている囚人の気分を味わいつつ遥か上の学校を目指す方が,無実の罪を読み上げられる気分よりはまだ良いからな。

 授業開始10分前に教室に入り、挨拶を俺にしてくれた国木田など友人に『ああ』とか『うう』とか
返す。ハルヒにもはこちらから『よお』と声をかけてみるが,見事に無視された。
「ねえキョン、昨日涼宮さんとキスしたって本当?」
 昼休み、弁当をあけていると、国木田が何故か訊いて来た。
「それは事故だ。というか誰から聞いた」
 俺はキスしたという事実の否定はやめ,ただ事実のみを伝える。
「噂だよ。にしても、本当にキスしたんだ」
 国木田は素直に驚き、席に戻っていった。一体誰がもらしたんだろうな。ハルヒと長門は論外、妹は可能性はあるが1日で学校まで伝わるとは考えにくいし、朝比奈さんと鶴屋さんははありそうだが意外に口が堅かったりして……。古泉か?古泉なのか?訊いてくるか。
 俺は席を立ち、古泉のクラスへ行った。

「ああ古泉?あいつならさっき来たけど、またどっか行ってたなあ」
 9組の誰かさんに訊くと、古泉の不在を告げられた。まああいつもトイレくらい行くだろうと思い待っていたが、5分ほど待っても帰ってこない。
「部室かもな」
 俺は何故か部室に行く気になった。言っておくが既視感とかじゃなく、勘だぞ勘。となんでそんな事思ったんだろうなと考えているうちにSOS団室、もとい文芸部室についた。ノック
「どうぞ、お入り下さい」
 意味もなくさわやかの声が聞こえた。不思議な事に、このよくわからん団体に入ってから、勘がよく当たるんだよな。大体悪い方に。なので、
「何でここにいた?」
 不機嫌になる。まさか長門と古泉がずっと世間話に花を咲かしているとは思えないしな。
「何故か、ですか?それは長門さんにお話しする事があったからです」
 なんだろうね一体。あまり良い事とは思えないなあ。
「昨日一日、あなたもそうだとは思いますが、僕には既視感がありました。それで、夏の豪華客船や、夏休みの終わり,文化祭前日と同じく、時間がループしていたのではないかと思いまして」
 そういやそうだな。しかし昨日、俺たちはループに気がつかなければ対策もとらなかったぞ。昨日がループしてたのなら、何でループから抜け出せた?というか、本当にループしてたのか?
「していた」
 返答は,意外なところから聞こえた。長門だ。
「何回だ?」
 俺は訊く。また天文学的数字ループしたのかと思ったのだ。まあ豪華客船と文化祭前日は比較的少ない日数だったがな。
「3回」
 ………。冗談か?
「3回。うちあなたと涼宮ハルヒがキスと呼ばれる行為をしたのは2回」
 長門は説明を付け足す。でだ。なんでループから出れた?俺たちは何もしてないぞ。
「3回のシークエンスはそれぞれ相違点が多い。今分析しているが答えが出る確率は非常に少ないと思われる」
 長門は言った。ようするにわからないという事か。
「まあそういう事ですね。しかし、キスしていないシークエンスではなく、キスしたシークエンスでループから出れたのは非常に興味深い事です」
 ちょっと待て。長門、それぞれのループにそれ以外の相違点はあるか?
「ある。2回目のシークエンスで,あなたは自転車の鍵をなくしている。また、2回目と3回目のシークエンスでは涼宮ハルヒはあなたに、『朝比奈みくるの事が好きか』という意味の質問をしている。それに対する解答は、2回目ではYES3回目ではNO」
 なんか墓穴掘った気がする。仕方ないので俺は,古泉に言う。
「まあともかくループから抜け出せて良かったという事で,良いじゃないか」
「ええ。その通りです」
 古泉の笑みが冷やかすような笑みに見えたのは、気のせいと信じたい。
 
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