流れ星の奇跡【イッキSS@AMNESIA】
September 10 [Sat], 2011, 0:05
こんばんは。
管理人@三日連続更新してるよ。奇跡だよ。です。
今日も性懲りなく自給自足の生活ですよ。
昨日予告しておいたイッキュウの自称甘甘SS書いてみたよ!
こんな風に文章をまたかけるようになるなんて
思ってもいなかったんだけど、なんとか書けているのが嬉しいです
あと、ケントとニールのSS書きたい!
ウキョウはまた思いついたら書きたい!!
そもそも発想力に乏しいわたしだからろくなSS書けないのだが。
さて、今回のも盛大にネタバレ含みます!
グッドエンドのその後だよおおおおおおおお!!!
大丈夫な人はぜひどうぞ!
よろしくお願いしますん♪
※拍手をありがとうございます。
ヨシュアに対する暴言への賞賛なのか、
ウキョウSSに対するお褒めの拍手なのか、
AMNESIAのちょこっとプレイ記への拍手なのか、
いずれなのかは分かりませんがとっても嬉しかったです!
まだ見てもらえてる(´;ω;`)
とっても嬉しかった、そんな今日でした(笑)
今後ともどうぞよろしくお願いします!!!
------------------------------------------------------------------------
管理人@三日連続更新してるよ。奇跡だよ。です。
今日も性懲りなく自給自足の生活ですよ。
昨日予告しておいたイッキュウの自称甘甘SS書いてみたよ!
こんな風に文章をまたかけるようになるなんて
思ってもいなかったんだけど、なんとか書けているのが嬉しいです
あと、ケントとニールのSS書きたい!
ウキョウはまた思いついたら書きたい!!
そもそも発想力に乏しいわたしだからろくなSS書けないのだが。
さて、今回のも盛大にネタバレ含みます!
グッドエンドのその後だよおおおおおおおお!!!
大丈夫な人はぜひどうぞ!
よろしくお願いしますん♪
※拍手をありがとうございます。
ヨシュアに対する暴言への賞賛なのか、
ウキョウSSに対するお褒めの拍手なのか、
AMNESIAのちょこっとプレイ記への拍手なのか、
いずれなのかは分かりませんがとっても嬉しかったです!
まだ見てもらえてる(´;ω;`)
とっても嬉しかった、そんな今日でした(笑)
今後ともどうぞよろしくお願いします!!!
------------------------------------------------------------------------
流れ星の奇跡
『おはようございます。お嬢様。』
これは毎朝の習慣。
僕のベッドに横たわる彼女の髪に触れ、少しの間眺める。
この光景はその辺の高級スィーツよりもずっと甘い。
僕はさりげなく自らのそれで、彼女のくちびるに触れた。
――ああ、甘いな。
僕は自然と零れそうになる笑みを隠し、彼女の頬に触れる。
小さく規則的に繰り返されていた寝息が、微かな声に変わり、
薄くまぶたが開いた。
「お目覚めですか?お嬢様。」
彼女はこの声の主の姿を確認すると、ぱっと目を開く。
「イ、イッキさん!ちっ…近すぎです!!!」
言いながら布団を頭までかぶってしまった彼女はやはり可愛い。
もうこれが何週間続いてるっけ?いい加減慣れても良い頃なのに…
僕は布団の外に出ている細い指先を絡めとった。
一瞬ビクリと震えた彼女が少しだけ顔をのぞかせる。
「ダーメーでーす。
もう朝なのだから、そろそろ起きて頂かないと。」
執事らしい慇懃な物言いをしながらも、湧き上がってくる悪戯心に
僕はあっさりと乗っ取られた。布団からはみ出ている彼女の額に
軽くキスをして、さっさと自分の膝の上に抱きあげる。
「いい加減、毎朝僕を挑発するのはやめてくれるかな?
そんな風に顔をちょっとだけ出して上目遣いをされると
たとえ朝でも襲いたくなっちゃうじゃない?」
わざと困った顔を作ってみせると、彼女の方は僕の3倍くらい
困った顔になった。僕にはこんな顔でさえ愛しくて仕方がないのに
どれだけ僕を挑発し続ける気だろうか。
まあ、それもこれもすべては目の前の可愛い彼女のせいなんだけど。
こうやって挑発するだけされたまま引き下がるのは、僕が面白くない。
「ねえ、僕の香りに包まれて眠るのには慣れた?
まあ、毎朝こうやって起こさないと起きないくらいだもの。
当然慣れちゃってるよね?ああそれとも、このベッド。
もう君の香りになっちゃったかな?だからぐっすり寝れるとか…
ちょっと確かめてみたいんだけど、いいよね?」
言いながらベッドに倒れ込むと、彼女は真っ赤になって僕の腕から
逃れようとした。でも、そこはしっかりと抱きこんでしまう。
腕の中の彼女を見れば、とても恥ずかしそうにして俯いている。
その姿を見ても僕はそれだけじゃまだ足りなくて、彼女を自分の胸に
ぴたりと寄り添わせるようにして、さらにぎゅっと抱きしめた。
そう。僕たちはこうやって戯れに抱きしめあう程度の触れあいしか
まだしたことがない。それも大体、今みたいに僕の方からけしかけて。
彼女と暮らしだしてもうすぐ一カ月が過ぎようとしている。
「一カ月で君に『僕と寝たい』って言わせてみせるよ。」
なんて宣言したものの、実際の彼女はやはり手強かった。
最初の頃は、僕を床で寝かせるのは嫌だと言って床で寝たがっていた
彼女だったが、何度言われても僕は絶対に譲らなかった。
本人には言わなかったが、何より早く僕に慣れさせたいのもあって、
というか彼女を早く僕の空気に染めてしまいたいという気持ちが
割と存在していて、僕はかたくなに自分のベッドを使わせていた。
――そう遠くないうちに僕も戻れるはずのベッドだしね。
などと少々鷹をくくっていたというのもある。
だが、あの甘くて苦い、地獄のような三カ月を僕は忘れるべきでは
なかった。今さら言ってもあとの祭りだが、本当にそう思う。
いや、実際には忘れたつもりなんてなかった。
そもそも忘れたくたって、きっと忘れられないだろう。
その時までこの『目』のお陰で女性に関してはほとんどと
言っていいほど苦労しなかった僕が、初めて死にそうになるくらいの
辛酸を舐めさせられた相手だ。その時の記憶を忘れられるわけがない。
仮に一カ月半前の彼女のように全て忘れることになったって
あの時の切なさと、彼女の存在だけは絶対に忘れない自信がある。
――それにしても、あと数日か…本当にあの頃みたいだな。
心のなかにとどめておくはずだった独り言が口をついたらしい。
腕の中におさめている存在がこちらを見上げ、頭上にたくさんの
「?」を浮かべている。
「いや。何でもないよ。
君は相変わらずだなあってこと、ちょっと思い出してた。」
苦笑する僕の顔をよく分からないという風情で眺めていた彼女が
また元の位置へと戻る。
――はあ…本当にまったく。この子は。
無自覚さんにも限度があるよ。こんな風に僕を弱らせるなんて。
これが最近における僕の毎朝の憂鬱だった。相当に格好わるい。
けれど、どうしたって好きなんだからしょうがない。
そう思っている僕も居て、それはそれでこの状況を結構
楽しめているのかもしれない。
ただし、あまり時間が残されていないことを除けば…の話だけど。
-----------------------------------------------------------
「ねえ、ケン。どう思う?
もうこんなの、どう考えたって我慢できないよね?
この状況に陥れられたら、たとえケンでも我慢できないよね?
はあ…この僕のつらい気持ち、ケンにもわかるでしょう?」
――西池大学の一角に僕が頼りにしているその男が居る。
数学を語らせて右に出る者は、そうそういないだろう。
全ての物事を論理的に片付けようとする。ちょっと変わった親友。
いや、悪友か。
「ああ。だがそうは言ってもな。イッキュウ。
お前は一体なんのために彼女と暮らしている?
単なるルームシェアという話だったろう?
それならそれで今は我慢すべきではないのか?」
さして興味もなさそうに言い放つ親友に、僕はあからさまに
ため息をついてみせる。
「だからね、ケン。僕が言いたいのは
そういうことじゃなくて…ケンも男ならわかるでしょ?
好きな相手とひとつ屋根の下にいたらどうなるか、なんて。」
「それは最初からわかっていたことだろう?イッキュウ。
それともなんだ?何か我慢せざるを得ない理由でもあるのか?
君のような男なら女性をその気にさせることなど簡単だろう?
何か理由でもない限り、百戦錬磨の君が私にこのような
相談をする意図がまったく見当たらないのだが。」
不意に真をつかれて、僕は口を閉ざした。
そうだ。確かにそうだ。少なくとも今までの女の子なら
多少のムードさえ作って、甘い言葉を並べ立てていれば
いくらでも誘いに乗ってきた。そして最後には自分から
ねだるようにさせるくらい造作もないことだったように思う。
――でも、彼女は今までの子たちと違う。
三カ月かけてようやく振り向かせて、やっと自分の懐まで
連れてくることができた子だ。むしろ、今が重要なときで
たとえ「一カ月で…」の宣言があったとしても、そんなのは
目安にすぎなくて、彼女を手にした今…無意味に彼女を
傷つけたくはない。あの頃とは状況も環境も違うのだから。
かといって、反応してしまうものはしてしまうので
何と言い訳をしようと、ここは自分との戦いにはなるけれど。
結局のところ、体を重ねるかどうかなんていうのは
確認の手段でしかない。けれどそれを許してもらえるか、
そうでないかの間には大きな隔たりがあると思うのだ。
僕がそれを許されるほどに彼女にはもっと僕を求めてほしいと、
心の底から望んでいるからかもしれない。それこそ何よりも強く、
もっと激しく…と…何しろ僕は彼女を求めずにはいられないのだから。
ひとまずは彼女もこの一カ月で確実に僕へと近づいてくれている。
そんな気はしている。少なくとも一緒に暮らし始めた頃よりは
近づいている。そう感じていた。でもそれだけではまだ足りないと
思うようになってしまっている僕は、欲張りだろうか。
「おい、イッキュウ。どうした?
急に黙って…まさかとは思うが記憶喪失にでもなったか?」
特別冗談というふうもなく、世間話でもするようにケンが言う。
「冗談ならやめてよ。
僕はもうあんな想いをするのはごめんなんだから。」
笑うに笑えない僕をよそにケンは真剣な目でこちらを見ている。
その表情に僕はややギクリとした。ケンは時々良からぬことを
思いつくと、その硬質な眼鏡の奥からほの暗い光を発する。
というか、実際はそんな風に見えてしまうだけかもしれないが、
僕はたまに自分の『目』より、ケンの『眼鏡の奥』の方が怖い
と思える時がある。
「ところでイッキュウ。私からの提案なのだが、
ここはひとつ、君も記憶喪失になってみたらどうだろうか?
私も手伝ってやるから、遠慮はしなくていい。」
唐突な提案に、僕は驚いて目を見開いた。
「いや、遠慮するよ。ていうか、手伝うって何?
大体なんでいきなりそんなことになるの?ケン。
全然僕の質問への答えになってないんだけど。」
僕の呆れた口調に相対して、ケンはさして表情を変えずに淡々と語る。
「まあ、そう呆れた顔をするな、イッキュウ。
要するに私は一カ月半前に君が体験したことを
彼女にも体験させてみてはどうかと提案しているだけだ。」
「だから、なんで?」
「そうだな。つまり…彼女に教えてやるといいと思ったのだ。
いつまでも毎日が同じように過ぎるわけではないということをな。」
ケンの言葉が胸にストンと落ちた気がした。
一度近づきかけた距離が嘘のように離れていってしまう感覚。
苦しくて、苦しくて、僕の心をとらえて離さないのは彼女だけなのに
彼女の心からは僕が消えてしまった。
――じゃあ、僕の心から彼女が消えてしまったら?
そんなことはありえないと思った。
けれど、本当にそんなことになったとき、僕は彼女のことを
ちゃんと覚えているのだろうか…何より彼女は、どう思うのだろうか?
「そっか…ありがとう。ケン。
とても参考になった。まあ実行に移すかどうかは、考えておくけど。」
言ってからソファを退き、研究室のドアノブに手をかける。
すでに心は決まっていたけれど、あえて知らないフリをした。
一度だけケンを振り返る。するとケンは探る眼差しでこちらを見ていた。
「イッキュウ。あまり無茶はするなよ。」
「わかってるよ、ケン。
でーも、提案しておいてその言い草はないかな?」
楽しげに笑って見せた僕に、ケンは何も言わず書類へ視線を移す。
それはケン流の「さっさと帰れ」の合図だ。僕は静かにドアをあけると
ケンの住み家を辞した。
-------------------------------------------------------------
「ただいま。」
ドアを開けて部屋に入ると、彼女はソファに座って雑誌を読んでいた。
恐らく店長の趣味で店に飾られている雑誌でも借りてきたのだろう。
そのページには大きな文字で「戦う銀河刑事!ウキョウのピンチ!」
などとなかなかに面白いタイトルが書かれている。あの人も可哀想に…
あまりに予想通りの内容で笑いそうになった。僕はそれを必死で
我慢して彼女のそばへ行き、真剣に見入っている顔を覗き込んだ。
気配を感じたらしい彼女は顔をあげるとふわりと笑う。
「おかえりなさい。」
僕はこの言葉と笑顔だけで彼女をめちゃくちゃに抱きしめたく
なってしまう。何度繰り返しても慣れない。そもそもこんなに
波立つ気持ちが自分のなかにあり続けることが謎だった。
そして時々、この激しすぎる想いを抑えきれなくなりそうなことにも
多少は困っていた。いつもならここでソファに座って、さり気なく
彼女の肩を抱き、髪とくちびるにキスを贈るところだが、今日は違う。
ほんの少しの間、彼女と自分を試してみることにしたのだから。
たった数時間の短い間…今から日付の変わるその時まで。
そうは思っていても普段の習慣とそれをしてしまいたい気持ちを
しまい込むのにはとても苦労した。僕はあえて何もない風を装い
ダイニングテーブルに座る。そして、手近なところにあった
ミネラルウォーターを自分のグラスに注いだ。こういう時、
普段なら彼女の分も用意するが、今はしない。
「今日はケントさんのところに行っていたの?」
不思議そうな顔をしながら、彼女が近付いてくる。
「……ん。あ、ああ。そうだね」
わざと間をあけて答えると、またさらに彼女が不思議そうな顔をする。
いつもなら自分からいろいろと話して聞かせるのに今日はまったく
話す気配を見せないから、心配になっているのかもしれない。
すると彼女がふたたび口を開いた。
「イッキさん、今日はなんだか疲れてるように見えるね。」
眉根を寄せて、僕の顔を覗き込みながら心配そうな表情を浮かべる。
ああ…まったくもって反則だ。僕はトーマやシンのように
ポーカーが得意なわけでもないのだから勘弁してほしい。
それでもなんとか自分の中のプライドをかき集めてなんでもない
表情をつくる。
「え?うーん………ああ。まあ、そうかな。
君から見てそう思うなら、多分そうなのかも…」
曖昧に笑って見せる僕の言葉にはあまり納得していない
様子だったものの、しばらくのあいだ僕をみつめていた彼女は
夕飯を作ると言ってキッチンへ向かった。僕の疲れが
取れるような料理を作るから!と張り切っているようで、
それからしばらくはキッチンから楽しげな音が響いていた。
――温かい、な。
リビングにおかれたテレビの雑音とキッチンから聞こえる
優しい音のハーモニーに、僕はわずかの間だけ身をゆだねた。
こんな日々にたゆたっていれば、僕も彼女もそのうち溶けて
いつしかひとつになれるんじゃないか…そんなことを思ってしまう。
たとえ体を繋げていなくとも、心はすでに一つだと信じたい。
――傲慢、かな?
僕はそんなことを考えながら、途絶えることなく浮かんでは
消えるいくつもの想いを手にとって、数秒前の世界へと
置き去りにする。そんな単純な作業に没頭していた。
---------------------------------------------------------------
それからの僕たちはいつも通り、夕食をともにした。
相変わらず自分から話す様子のない僕を彼女は時折黙って
見つめていたが、それに関しては特に何も言わなかった。
その代わり僕が話さない分を、彼女が一生懸命に話してくれる。
今日あったこと、明日の予定、昔の僕のこと、今の僕のこと。
そして…彼女自身のこと。
一見想い出話のように聞こえたけれど、それは明らかに違っていた。
僕が話を聞きながら曖昧な態度をして見せるたびに、彼女の話す
想い出話や自身にまつわる話の比重は上がっていった。
そして夜――僕が眠りにつく前にそれは起こった。
「あの…イッキさん。起きてますか?」
申し訳なさそうな声を僕はあえて聞かなかったことにする。
いつもなら彼女のそばへいって魔法の呪文をかけている時間だ。
それなのに今日の僕は簡単な挨拶だけで、布団に入ってしまった。
それゆえか、彼女は僕に声をかけたのかもしれない。
誰かの近付く気配がする。
僕の背中越しの場所に彼女が座る音がして、僕の髪に何かが触れた。
控えめに、優しく…気遣いを形にした手つきの彼女の手だった。
時間にしてみれば、ほんの一瞬程度の出来事だったかもしれないが、
僕にはひどく長い時間に思えた。
「イッキさん…起きて、ますか?私の声、聞こえ、ますか?」
意地は悪いと思うが、ここでも僕はあえて返事をしなかった。
本当は起きて、いますぐにでも抱きすくめて自分の布団の中に
閉じ込めてしまいたかった。
――だけど、今日の0時まで…僕には記憶がないんだ。
自分で決めたルールだ。
それもとても身勝手な理由で…彼女を困らせるかもしれないと
分かっていて…それでも実行した利己的な賭けだ。
それを知った時、彼女が怒るのか泣くのか、それは分からない。
けれど、始めてしまった以上ひくことはできない勝負だった。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、彼女がぽつりぽつりと
僕の背中に向かって語り始めた。
「イッキさん…イッキさんは気付いてますか?
今日、あなたが私の名前を呼んでいないことを…
帰ってきたあなたが私に触れていないことを…
私のこと…覚えていますか?自分のこと…覚えて…
あなたの記憶がなくなったら…私、私…は…」
そこで言葉は途切れ、今度はぱたっぱたっと布団の上に
何かが落ちる音がしはじめた。まさか…
いてもたってもいられなくなって、僕は彼女を振り返る。
そこには両手で顔を覆った彼女がいた。必死に声を押し殺して
泣いている。その瞬間、僕は思った。
――なんてバカなことをしたんだろう。僕は。
さっと起き上がった僕を見て、涙を浮かべた彼女が驚く。
けれど僕に余裕はなくて、気づけば彼女を腕の中にかき抱いていた。
「ごめん。泣かせてごめん。怖がらせてごめん。
本当にごめん。僕はバカなことを、しちゃったね。」
突然謝った僕に、彼女は目を丸くする。
「ああ…もうどこから説明したらいいんだろう。
とにかく、僕は記憶なんてなくしてないから。
色々とその、焦っちゃって…本当にごめん。
君だってあの頃つらかったのに。僕はなんてことを…」
そこまで言った時、僕の背中がいままで感じた事のないほどに
ぎゅっと抱きしめられた。それが彼女の腕だと気づくまでに
また僕は恐ろしいほどの時間をかけてしまった。
「良かった。良かった。良かった。
あなたが…イッキさんがちゃんと覚えていてくれて
私をおぼえていてくれて、本当に良かった。」
慣れない感覚に眩暈がする。
抱きしめられたこともそうだが、彼女は怒るでもなく、
泣いて責めるでもなく、純粋に僕の記憶があることを喜んでいた。
まったく…君って子は…そう思う。
だが何より、こんな短時間で僕を記憶喪失だと疑えるほど
よく見ていてくれたことが嬉しかった。
「ハハ…たった数時間一緒に過ごしただけで分かるなんて
君はすごいね。こんなのじゃ僕、君に忘れられても
仕方がないよね。」
後悔の念をやや滲ませた口調で言えば、彼女は首を横に振る。
そして、僕の目を見てもう一度「良かった」と言った。
僕はその表情に耐えきれず、くちびるに優しいキスを降らせる。
「ごめん。僕、もう我慢できそうにないんだけど…」
この言葉に彼女が肩を一度だけ震わせた。
でも、もうこの気持ちをこのまま閉じ込めておくことはできない。
僕は今までの何十倍も、いや何百倍も強い気持ちでそう思っていた。
「恋人になってからずっと…僕から抱きしめることはあっても、
君からこんな風にしっかり抱きしめられたことはなかったから…
嬉しくて…嬉しくて。もっと君を僕に繋ぎとめておきたくなって。
勝手だと思うよね?格好悪いと思うよね?
でも僕は、今の君を見ていたら、本当に記憶喪失になったとしても…
どうやったって忘れられないように僕に君を刻みつけておきたくなった。
そして…僕を、君に忘れられないように刻みつけておきたくなったんだ。」
心の底から湧きあがる想いを言葉にして告げる。
こんな真剣な想い、やはりこの目の前に居る彼女以外には
抱ける気がしない。言える気もしない。こんなに強い気持ちが
まだ僕にあったなんて…この先どうなってしまうのだろう…底無しだ。
黙っている彼女を見つめながら、もう一度だけキスをする。
今度は深く…少しだけ、激しく。求めている事をはっきりと伝えるように。
くちびるが離れても、彼女は何も言わなかった。
ただ、ただ、僕の『目』を愛しそうに見つめ、もう一度僕を抱きしめる。
「いいの?もう二度と僕から離れられないよ?
いや、きっと離せなくなる。君は、それでもいい?」
確認するように囁いて、僕は彼女の髪を梳いた。
彼女は涙に潤んだ目で僕を見上げて微笑み、了承の言葉のかわりに
その身を預けてくる。
――ああ、なんて愛しい存在なんだろう。
カーテン越しに輝く月明かりが繋がりあおうとする僕たちを照らす。
互いの吐息を体温を何の隔たりもなく、その肌で感じ、愛撫を繰り返す。
月のやわらかで凛とした輝きを背にして、僕は彼女の全てを手に入れた。
――ねえ、神様。僕はやっと幸せになれた気がするよ。
この「目」を…鬱陶しいと思っていたけれど、今はちゃんと愛せるよ。
彼女の美しい姿をしっかりと焼きつけておくことができるのだから。
僕は裸の胸に抱き寄せた彼女のぬくもりを感じながら、この世界に
居るはずのない存在にまで感謝した。彼女と見たあの日の流れ星が、
今夜、僕に二つ目の奇跡をくれた気がしたから。
----------------------------------------------------------------
そして夢のような夜が明けた――が。
朝早く、散歩のついでだと言い張るケンが僕のマンションを訪ねてきた。
明らかに彼の散歩コースとは反対側のはずなのに、散歩だと言っている。
ひとまず朝早いのもあって部屋にあげると、ケンは僕と彼女の前に座り、
手短かに用件を切り出した。
「おはよう、イッキュウ。
それと朝早くからすまないな。だが緊急の用事だ。」
おもむろに繰り出された言葉に、二人して首をかしげる。
「いや、二人揃ってそういう目で見ないでくれないか?ゴホン。
時に、君。君は昨夜イッキュウに無体なことをされてはいないか?
実は昨日、私がイッキュウをけしかけた件で君が迷惑をしていないか
ちょっと気になったものだから、様子を見に来てしまった。」
なんというか…空気の読めない悪友だと思う。
いや、どっちかというと空気を読まなかったという方が正しいか。
緊急の用事だというからなにかと思えば、そういうことだったのだ。
確かに今回の提案で、僕は彼女を籠絡することができたのではあるが
だからといってその翌朝の、まだ甘い気だるさの残る時間帯に
訪ねてくるなんて、さすがにいくら僕と彼女への気遣いとはいえ、
やや不機嫌になってしまう。そもそも無体なことってどういう扱いなの。ケン…
けれど、問われている張本人の彼女は答えるまでもなく頬を染めていた。
「なるほど。そういうことか。
まあ、まさか本当に実行するとは思っていなかったが
うまくいってよかったな。イッキュウ。
ならば私は邪魔だったな。それでは退散させてもらおう。」
言うなりケンがソファから立ち上がる。
飄々と口にしながらも、若干の負い目を感じていたらしき悪友は
少々ほっとした表情になっていた。しかし、たったそれだけで
結論を導きだしてしまうあたりはさすがだ。
「そう不機嫌になるな。イッキュウ。」
去り際、ケンは僕を一瞥して言った。
「君の未来は明るい。」
眼鏡のブリッジに手をかけ、ケンは不敵な笑みを浮かべる。
まったく…僕はわざと呆れた顔を作って「それはどうも。」と返した。
――だから、この悪友は嫌いになれない。
今日の不機嫌の詫びに、また西池大学のあの部屋へ行こう。
そして、このお礼をかねて彼の作ったとっておきで最高に
難しい数学パズルを解いてやることにしよう。
そんなことを思いながら、玄関を出ていく無駄に大きな背中と
それを見送る小さな背中にそっと呟いた。
「ありがとう。
君たちが居てくれて、僕はきっと世界一の幸せ者だね。」
言い終わると同時に、見送りが終わって駆け寄ってきた彼女を
思いきり抱きしめる。またいつも通りの愛しい日常が始まる。
――今日もあの空のように明るい一日でありますように。
僕は窓の外に広がる無限の蒼にそっと願いをかけた。
--------------------------------------------------------------
なああああん!
ということでイッキの甘甘になったかわからないSS@自給自足だよ!
やっぱり自給自足だと萌えない!!!
まだきっとイッキのキャラつかみきれてない!!!!
でも熱いうちに書くべきだと思うんだ(`ω´)キリッ
さすがに二日連続だと、手が腱鞘炎になりそうですよ。
まだあとニールとケントで書きたいのが二つほどあるけど
来週になったら脳が死んでてもう書けないかもしれない。
だが、イッキだけは!イッキだけは残せた!
そしてばれる最愛←
昼ごはんも抜いて書いてましたよね。
こんな短い文章に3時間もかかるなんてどういうことですか(真顔)
さて、今回のイッキSS少しでもお楽しみいただけたでしょうか?
一か所でいいの!一か所でも萌える場所があったなら嬉しい!
久々に小説書いたけど、やろうとおもったらやれるね。
わたしはイッキの抱えた孤独とかが結構好きです。ムハムハ。
そして、彼女に溺れてくサマがまたいいよなあとか思います(歪)
彼女もまだ一カ月だもんね。敬語と敬語じゃないのが入り混じって
うれし恥ずかし一カ月でいいじゃない!!!(悶←)
こういうSS書くとたいてい趣味とか思想がばれてしまうけど
イッキに関しては溺れて溺れて溺れまくってしまえと思いますvvv
ケンとイッキの親友っぷりもなんだかんだと押し出してみました。
あの悪友コンビほんといいよね。今度はケントのSS書くから
そのときにイッキュウ出てくるといいのよ(´∀`)←
ちなみに今回のSSには、大好きな予約特典CDのネタも
地味に入れてあったりする。
てな感じで、こんな歪んだ愛たっぷりでお届けしましたが、
ほんとすみません!読んでくれてありがとうございました!
R18スレスレ感も楽しんでいただけていたら幸いです(´∀`)ムフフ←
『おはようございます。お嬢様。』
これは毎朝の習慣。
僕のベッドに横たわる彼女の髪に触れ、少しの間眺める。
この光景はその辺の高級スィーツよりもずっと甘い。
僕はさりげなく自らのそれで、彼女のくちびるに触れた。
――ああ、甘いな。
僕は自然と零れそうになる笑みを隠し、彼女の頬に触れる。
小さく規則的に繰り返されていた寝息が、微かな声に変わり、
薄くまぶたが開いた。
「お目覚めですか?お嬢様。」
彼女はこの声の主の姿を確認すると、ぱっと目を開く。
「イ、イッキさん!ちっ…近すぎです!!!」
言いながら布団を頭までかぶってしまった彼女はやはり可愛い。
もうこれが何週間続いてるっけ?いい加減慣れても良い頃なのに…
僕は布団の外に出ている細い指先を絡めとった。
一瞬ビクリと震えた彼女が少しだけ顔をのぞかせる。
「ダーメーでーす。
もう朝なのだから、そろそろ起きて頂かないと。」
執事らしい慇懃な物言いをしながらも、湧き上がってくる悪戯心に
僕はあっさりと乗っ取られた。布団からはみ出ている彼女の額に
軽くキスをして、さっさと自分の膝の上に抱きあげる。
「いい加減、毎朝僕を挑発するのはやめてくれるかな?
そんな風に顔をちょっとだけ出して上目遣いをされると
たとえ朝でも襲いたくなっちゃうじゃない?」
わざと困った顔を作ってみせると、彼女の方は僕の3倍くらい
困った顔になった。僕にはこんな顔でさえ愛しくて仕方がないのに
どれだけ僕を挑発し続ける気だろうか。
まあ、それもこれもすべては目の前の可愛い彼女のせいなんだけど。
こうやって挑発するだけされたまま引き下がるのは、僕が面白くない。
「ねえ、僕の香りに包まれて眠るのには慣れた?
まあ、毎朝こうやって起こさないと起きないくらいだもの。
当然慣れちゃってるよね?ああそれとも、このベッド。
もう君の香りになっちゃったかな?だからぐっすり寝れるとか…
ちょっと確かめてみたいんだけど、いいよね?」
言いながらベッドに倒れ込むと、彼女は真っ赤になって僕の腕から
逃れようとした。でも、そこはしっかりと抱きこんでしまう。
腕の中の彼女を見れば、とても恥ずかしそうにして俯いている。
その姿を見ても僕はそれだけじゃまだ足りなくて、彼女を自分の胸に
ぴたりと寄り添わせるようにして、さらにぎゅっと抱きしめた。
そう。僕たちはこうやって戯れに抱きしめあう程度の触れあいしか
まだしたことがない。それも大体、今みたいに僕の方からけしかけて。
彼女と暮らしだしてもうすぐ一カ月が過ぎようとしている。
「一カ月で君に『僕と寝たい』って言わせてみせるよ。」
なんて宣言したものの、実際の彼女はやはり手強かった。
最初の頃は、僕を床で寝かせるのは嫌だと言って床で寝たがっていた
彼女だったが、何度言われても僕は絶対に譲らなかった。
本人には言わなかったが、何より早く僕に慣れさせたいのもあって、
というか彼女を早く僕の空気に染めてしまいたいという気持ちが
割と存在していて、僕はかたくなに自分のベッドを使わせていた。
――そう遠くないうちに僕も戻れるはずのベッドだしね。
などと少々鷹をくくっていたというのもある。
だが、あの甘くて苦い、地獄のような三カ月を僕は忘れるべきでは
なかった。今さら言ってもあとの祭りだが、本当にそう思う。
いや、実際には忘れたつもりなんてなかった。
そもそも忘れたくたって、きっと忘れられないだろう。
その時までこの『目』のお陰で女性に関してはほとんどと
言っていいほど苦労しなかった僕が、初めて死にそうになるくらいの
辛酸を舐めさせられた相手だ。その時の記憶を忘れられるわけがない。
仮に一カ月半前の彼女のように全て忘れることになったって
あの時の切なさと、彼女の存在だけは絶対に忘れない自信がある。
――それにしても、あと数日か…本当にあの頃みたいだな。
心のなかにとどめておくはずだった独り言が口をついたらしい。
腕の中におさめている存在がこちらを見上げ、頭上にたくさんの
「?」を浮かべている。
「いや。何でもないよ。
君は相変わらずだなあってこと、ちょっと思い出してた。」
苦笑する僕の顔をよく分からないという風情で眺めていた彼女が
また元の位置へと戻る。
――はあ…本当にまったく。この子は。
無自覚さんにも限度があるよ。こんな風に僕を弱らせるなんて。
これが最近における僕の毎朝の憂鬱だった。相当に格好わるい。
けれど、どうしたって好きなんだからしょうがない。
そう思っている僕も居て、それはそれでこの状況を結構
楽しめているのかもしれない。
ただし、あまり時間が残されていないことを除けば…の話だけど。
-----------------------------------------------------------
「ねえ、ケン。どう思う?
もうこんなの、どう考えたって我慢できないよね?
この状況に陥れられたら、たとえケンでも我慢できないよね?
はあ…この僕のつらい気持ち、ケンにもわかるでしょう?」
――西池大学の一角に僕が頼りにしているその男が居る。
数学を語らせて右に出る者は、そうそういないだろう。
全ての物事を論理的に片付けようとする。ちょっと変わった親友。
いや、悪友か。
「ああ。だがそうは言ってもな。イッキュウ。
お前は一体なんのために彼女と暮らしている?
単なるルームシェアという話だったろう?
それならそれで今は我慢すべきではないのか?」
さして興味もなさそうに言い放つ親友に、僕はあからさまに
ため息をついてみせる。
「だからね、ケン。僕が言いたいのは
そういうことじゃなくて…ケンも男ならわかるでしょ?
好きな相手とひとつ屋根の下にいたらどうなるか、なんて。」
「それは最初からわかっていたことだろう?イッキュウ。
それともなんだ?何か我慢せざるを得ない理由でもあるのか?
君のような男なら女性をその気にさせることなど簡単だろう?
何か理由でもない限り、百戦錬磨の君が私にこのような
相談をする意図がまったく見当たらないのだが。」
不意に真をつかれて、僕は口を閉ざした。
そうだ。確かにそうだ。少なくとも今までの女の子なら
多少のムードさえ作って、甘い言葉を並べ立てていれば
いくらでも誘いに乗ってきた。そして最後には自分から
ねだるようにさせるくらい造作もないことだったように思う。
――でも、彼女は今までの子たちと違う。
三カ月かけてようやく振り向かせて、やっと自分の懐まで
連れてくることができた子だ。むしろ、今が重要なときで
たとえ「一カ月で…」の宣言があったとしても、そんなのは
目安にすぎなくて、彼女を手にした今…無意味に彼女を
傷つけたくはない。あの頃とは状況も環境も違うのだから。
かといって、反応してしまうものはしてしまうので
何と言い訳をしようと、ここは自分との戦いにはなるけれど。
結局のところ、体を重ねるかどうかなんていうのは
確認の手段でしかない。けれどそれを許してもらえるか、
そうでないかの間には大きな隔たりがあると思うのだ。
僕がそれを許されるほどに彼女にはもっと僕を求めてほしいと、
心の底から望んでいるからかもしれない。それこそ何よりも強く、
もっと激しく…と…何しろ僕は彼女を求めずにはいられないのだから。
ひとまずは彼女もこの一カ月で確実に僕へと近づいてくれている。
そんな気はしている。少なくとも一緒に暮らし始めた頃よりは
近づいている。そう感じていた。でもそれだけではまだ足りないと
思うようになってしまっている僕は、欲張りだろうか。
「おい、イッキュウ。どうした?
急に黙って…まさかとは思うが記憶喪失にでもなったか?」
特別冗談というふうもなく、世間話でもするようにケンが言う。
「冗談ならやめてよ。
僕はもうあんな想いをするのはごめんなんだから。」
笑うに笑えない僕をよそにケンは真剣な目でこちらを見ている。
その表情に僕はややギクリとした。ケンは時々良からぬことを
思いつくと、その硬質な眼鏡の奥からほの暗い光を発する。
というか、実際はそんな風に見えてしまうだけかもしれないが、
僕はたまに自分の『目』より、ケンの『眼鏡の奥』の方が怖い
と思える時がある。
「ところでイッキュウ。私からの提案なのだが、
ここはひとつ、君も記憶喪失になってみたらどうだろうか?
私も手伝ってやるから、遠慮はしなくていい。」
唐突な提案に、僕は驚いて目を見開いた。
「いや、遠慮するよ。ていうか、手伝うって何?
大体なんでいきなりそんなことになるの?ケン。
全然僕の質問への答えになってないんだけど。」
僕の呆れた口調に相対して、ケンはさして表情を変えずに淡々と語る。
「まあ、そう呆れた顔をするな、イッキュウ。
要するに私は一カ月半前に君が体験したことを
彼女にも体験させてみてはどうかと提案しているだけだ。」
「だから、なんで?」
「そうだな。つまり…彼女に教えてやるといいと思ったのだ。
いつまでも毎日が同じように過ぎるわけではないということをな。」
ケンの言葉が胸にストンと落ちた気がした。
一度近づきかけた距離が嘘のように離れていってしまう感覚。
苦しくて、苦しくて、僕の心をとらえて離さないのは彼女だけなのに
彼女の心からは僕が消えてしまった。
――じゃあ、僕の心から彼女が消えてしまったら?
そんなことはありえないと思った。
けれど、本当にそんなことになったとき、僕は彼女のことを
ちゃんと覚えているのだろうか…何より彼女は、どう思うのだろうか?
「そっか…ありがとう。ケン。
とても参考になった。まあ実行に移すかどうかは、考えておくけど。」
言ってからソファを退き、研究室のドアノブに手をかける。
すでに心は決まっていたけれど、あえて知らないフリをした。
一度だけケンを振り返る。するとケンは探る眼差しでこちらを見ていた。
「イッキュウ。あまり無茶はするなよ。」
「わかってるよ、ケン。
でーも、提案しておいてその言い草はないかな?」
楽しげに笑って見せた僕に、ケンは何も言わず書類へ視線を移す。
それはケン流の「さっさと帰れ」の合図だ。僕は静かにドアをあけると
ケンの住み家を辞した。
-------------------------------------------------------------
「ただいま。」
ドアを開けて部屋に入ると、彼女はソファに座って雑誌を読んでいた。
恐らく店長の趣味で店に飾られている雑誌でも借りてきたのだろう。
そのページには大きな文字で「戦う銀河刑事!ウキョウのピンチ!」
などとなかなかに面白いタイトルが書かれている。あの人も可哀想に…
あまりに予想通りの内容で笑いそうになった。僕はそれを必死で
我慢して彼女のそばへ行き、真剣に見入っている顔を覗き込んだ。
気配を感じたらしい彼女は顔をあげるとふわりと笑う。
「おかえりなさい。」
僕はこの言葉と笑顔だけで彼女をめちゃくちゃに抱きしめたく
なってしまう。何度繰り返しても慣れない。そもそもこんなに
波立つ気持ちが自分のなかにあり続けることが謎だった。
そして時々、この激しすぎる想いを抑えきれなくなりそうなことにも
多少は困っていた。いつもならここでソファに座って、さり気なく
彼女の肩を抱き、髪とくちびるにキスを贈るところだが、今日は違う。
ほんの少しの間、彼女と自分を試してみることにしたのだから。
たった数時間の短い間…今から日付の変わるその時まで。
そうは思っていても普段の習慣とそれをしてしまいたい気持ちを
しまい込むのにはとても苦労した。僕はあえて何もない風を装い
ダイニングテーブルに座る。そして、手近なところにあった
ミネラルウォーターを自分のグラスに注いだ。こういう時、
普段なら彼女の分も用意するが、今はしない。
「今日はケントさんのところに行っていたの?」
不思議そうな顔をしながら、彼女が近付いてくる。
「……ん。あ、ああ。そうだね」
わざと間をあけて答えると、またさらに彼女が不思議そうな顔をする。
いつもなら自分からいろいろと話して聞かせるのに今日はまったく
話す気配を見せないから、心配になっているのかもしれない。
すると彼女がふたたび口を開いた。
「イッキさん、今日はなんだか疲れてるように見えるね。」
眉根を寄せて、僕の顔を覗き込みながら心配そうな表情を浮かべる。
ああ…まったくもって反則だ。僕はトーマやシンのように
ポーカーが得意なわけでもないのだから勘弁してほしい。
それでもなんとか自分の中のプライドをかき集めてなんでもない
表情をつくる。
「え?うーん………ああ。まあ、そうかな。
君から見てそう思うなら、多分そうなのかも…」
曖昧に笑って見せる僕の言葉にはあまり納得していない
様子だったものの、しばらくのあいだ僕をみつめていた彼女は
夕飯を作ると言ってキッチンへ向かった。僕の疲れが
取れるような料理を作るから!と張り切っているようで、
それからしばらくはキッチンから楽しげな音が響いていた。
――温かい、な。
リビングにおかれたテレビの雑音とキッチンから聞こえる
優しい音のハーモニーに、僕はわずかの間だけ身をゆだねた。
こんな日々にたゆたっていれば、僕も彼女もそのうち溶けて
いつしかひとつになれるんじゃないか…そんなことを思ってしまう。
たとえ体を繋げていなくとも、心はすでに一つだと信じたい。
――傲慢、かな?
僕はそんなことを考えながら、途絶えることなく浮かんでは
消えるいくつもの想いを手にとって、数秒前の世界へと
置き去りにする。そんな単純な作業に没頭していた。
---------------------------------------------------------------
それからの僕たちはいつも通り、夕食をともにした。
相変わらず自分から話す様子のない僕を彼女は時折黙って
見つめていたが、それに関しては特に何も言わなかった。
その代わり僕が話さない分を、彼女が一生懸命に話してくれる。
今日あったこと、明日の予定、昔の僕のこと、今の僕のこと。
そして…彼女自身のこと。
一見想い出話のように聞こえたけれど、それは明らかに違っていた。
僕が話を聞きながら曖昧な態度をして見せるたびに、彼女の話す
想い出話や自身にまつわる話の比重は上がっていった。
そして夜――僕が眠りにつく前にそれは起こった。
「あの…イッキさん。起きてますか?」
申し訳なさそうな声を僕はあえて聞かなかったことにする。
いつもなら彼女のそばへいって魔法の呪文をかけている時間だ。
それなのに今日の僕は簡単な挨拶だけで、布団に入ってしまった。
それゆえか、彼女は僕に声をかけたのかもしれない。
誰かの近付く気配がする。
僕の背中越しの場所に彼女が座る音がして、僕の髪に何かが触れた。
控えめに、優しく…気遣いを形にした手つきの彼女の手だった。
時間にしてみれば、ほんの一瞬程度の出来事だったかもしれないが、
僕にはひどく長い時間に思えた。
「イッキさん…起きて、ますか?私の声、聞こえ、ますか?」
意地は悪いと思うが、ここでも僕はあえて返事をしなかった。
本当は起きて、いますぐにでも抱きすくめて自分の布団の中に
閉じ込めてしまいたかった。
――だけど、今日の0時まで…僕には記憶がないんだ。
自分で決めたルールだ。
それもとても身勝手な理由で…彼女を困らせるかもしれないと
分かっていて…それでも実行した利己的な賭けだ。
それを知った時、彼女が怒るのか泣くのか、それは分からない。
けれど、始めてしまった以上ひくことはできない勝負だった。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、彼女がぽつりぽつりと
僕の背中に向かって語り始めた。
「イッキさん…イッキさんは気付いてますか?
今日、あなたが私の名前を呼んでいないことを…
帰ってきたあなたが私に触れていないことを…
私のこと…覚えていますか?自分のこと…覚えて…
あなたの記憶がなくなったら…私、私…は…」
そこで言葉は途切れ、今度はぱたっぱたっと布団の上に
何かが落ちる音がしはじめた。まさか…
いてもたってもいられなくなって、僕は彼女を振り返る。
そこには両手で顔を覆った彼女がいた。必死に声を押し殺して
泣いている。その瞬間、僕は思った。
――なんてバカなことをしたんだろう。僕は。
さっと起き上がった僕を見て、涙を浮かべた彼女が驚く。
けれど僕に余裕はなくて、気づけば彼女を腕の中にかき抱いていた。
「ごめん。泣かせてごめん。怖がらせてごめん。
本当にごめん。僕はバカなことを、しちゃったね。」
突然謝った僕に、彼女は目を丸くする。
「ああ…もうどこから説明したらいいんだろう。
とにかく、僕は記憶なんてなくしてないから。
色々とその、焦っちゃって…本当にごめん。
君だってあの頃つらかったのに。僕はなんてことを…」
そこまで言った時、僕の背中がいままで感じた事のないほどに
ぎゅっと抱きしめられた。それが彼女の腕だと気づくまでに
また僕は恐ろしいほどの時間をかけてしまった。
「良かった。良かった。良かった。
あなたが…イッキさんがちゃんと覚えていてくれて
私をおぼえていてくれて、本当に良かった。」
慣れない感覚に眩暈がする。
抱きしめられたこともそうだが、彼女は怒るでもなく、
泣いて責めるでもなく、純粋に僕の記憶があることを喜んでいた。
まったく…君って子は…そう思う。
だが何より、こんな短時間で僕を記憶喪失だと疑えるほど
よく見ていてくれたことが嬉しかった。
「ハハ…たった数時間一緒に過ごしただけで分かるなんて
君はすごいね。こんなのじゃ僕、君に忘れられても
仕方がないよね。」
後悔の念をやや滲ませた口調で言えば、彼女は首を横に振る。
そして、僕の目を見てもう一度「良かった」と言った。
僕はその表情に耐えきれず、くちびるに優しいキスを降らせる。
「ごめん。僕、もう我慢できそうにないんだけど…」
この言葉に彼女が肩を一度だけ震わせた。
でも、もうこの気持ちをこのまま閉じ込めておくことはできない。
僕は今までの何十倍も、いや何百倍も強い気持ちでそう思っていた。
「恋人になってからずっと…僕から抱きしめることはあっても、
君からこんな風にしっかり抱きしめられたことはなかったから…
嬉しくて…嬉しくて。もっと君を僕に繋ぎとめておきたくなって。
勝手だと思うよね?格好悪いと思うよね?
でも僕は、今の君を見ていたら、本当に記憶喪失になったとしても…
どうやったって忘れられないように僕に君を刻みつけておきたくなった。
そして…僕を、君に忘れられないように刻みつけておきたくなったんだ。」
心の底から湧きあがる想いを言葉にして告げる。
こんな真剣な想い、やはりこの目の前に居る彼女以外には
抱ける気がしない。言える気もしない。こんなに強い気持ちが
まだ僕にあったなんて…この先どうなってしまうのだろう…底無しだ。
黙っている彼女を見つめながら、もう一度だけキスをする。
今度は深く…少しだけ、激しく。求めている事をはっきりと伝えるように。
くちびるが離れても、彼女は何も言わなかった。
ただ、ただ、僕の『目』を愛しそうに見つめ、もう一度僕を抱きしめる。
「いいの?もう二度と僕から離れられないよ?
いや、きっと離せなくなる。君は、それでもいい?」
確認するように囁いて、僕は彼女の髪を梳いた。
彼女は涙に潤んだ目で僕を見上げて微笑み、了承の言葉のかわりに
その身を預けてくる。
――ああ、なんて愛しい存在なんだろう。
カーテン越しに輝く月明かりが繋がりあおうとする僕たちを照らす。
互いの吐息を体温を何の隔たりもなく、その肌で感じ、愛撫を繰り返す。
月のやわらかで凛とした輝きを背にして、僕は彼女の全てを手に入れた。
――ねえ、神様。僕はやっと幸せになれた気がするよ。
この「目」を…鬱陶しいと思っていたけれど、今はちゃんと愛せるよ。
彼女の美しい姿をしっかりと焼きつけておくことができるのだから。
僕は裸の胸に抱き寄せた彼女のぬくもりを感じながら、この世界に
居るはずのない存在にまで感謝した。彼女と見たあの日の流れ星が、
今夜、僕に二つ目の奇跡をくれた気がしたから。
----------------------------------------------------------------
そして夢のような夜が明けた――が。
朝早く、散歩のついでだと言い張るケンが僕のマンションを訪ねてきた。
明らかに彼の散歩コースとは反対側のはずなのに、散歩だと言っている。
ひとまず朝早いのもあって部屋にあげると、ケンは僕と彼女の前に座り、
手短かに用件を切り出した。
「おはよう、イッキュウ。
それと朝早くからすまないな。だが緊急の用事だ。」
おもむろに繰り出された言葉に、二人して首をかしげる。
「いや、二人揃ってそういう目で見ないでくれないか?ゴホン。
時に、君。君は昨夜イッキュウに無体なことをされてはいないか?
実は昨日、私がイッキュウをけしかけた件で君が迷惑をしていないか
ちょっと気になったものだから、様子を見に来てしまった。」
なんというか…空気の読めない悪友だと思う。
いや、どっちかというと空気を読まなかったという方が正しいか。
緊急の用事だというからなにかと思えば、そういうことだったのだ。
確かに今回の提案で、僕は彼女を籠絡することができたのではあるが
だからといってその翌朝の、まだ甘い気だるさの残る時間帯に
訪ねてくるなんて、さすがにいくら僕と彼女への気遣いとはいえ、
やや不機嫌になってしまう。そもそも無体なことってどういう扱いなの。ケン…
けれど、問われている張本人の彼女は答えるまでもなく頬を染めていた。
「なるほど。そういうことか。
まあ、まさか本当に実行するとは思っていなかったが
うまくいってよかったな。イッキュウ。
ならば私は邪魔だったな。それでは退散させてもらおう。」
言うなりケンがソファから立ち上がる。
飄々と口にしながらも、若干の負い目を感じていたらしき悪友は
少々ほっとした表情になっていた。しかし、たったそれだけで
結論を導きだしてしまうあたりはさすがだ。
「そう不機嫌になるな。イッキュウ。」
去り際、ケンは僕を一瞥して言った。
「君の未来は明るい。」
眼鏡のブリッジに手をかけ、ケンは不敵な笑みを浮かべる。
まったく…僕はわざと呆れた顔を作って「それはどうも。」と返した。
――だから、この悪友は嫌いになれない。
今日の不機嫌の詫びに、また西池大学のあの部屋へ行こう。
そして、このお礼をかねて彼の作ったとっておきで最高に
難しい数学パズルを解いてやることにしよう。
そんなことを思いながら、玄関を出ていく無駄に大きな背中と
それを見送る小さな背中にそっと呟いた。
「ありがとう。
君たちが居てくれて、僕はきっと世界一の幸せ者だね。」
言い終わると同時に、見送りが終わって駆け寄ってきた彼女を
思いきり抱きしめる。またいつも通りの愛しい日常が始まる。
――今日もあの空のように明るい一日でありますように。
僕は窓の外に広がる無限の蒼にそっと願いをかけた。
--------------------------------------------------------------
なああああん!
ということでイッキの甘甘になったかわからないSS@自給自足だよ!
やっぱり自給自足だと萌えない!!!
まだきっとイッキのキャラつかみきれてない!!!!
でも熱いうちに書くべきだと思うんだ(`ω´)キリッ
さすがに二日連続だと、手が腱鞘炎になりそうですよ。
まだあとニールとケントで書きたいのが二つほどあるけど
来週になったら脳が死んでてもう書けないかもしれない。
だが、イッキだけは!イッキだけは残せた!
そしてばれる最愛←
昼ごはんも抜いて書いてましたよね。
こんな短い文章に3時間もかかるなんてどういうことですか(真顔)
さて、今回のイッキSS少しでもお楽しみいただけたでしょうか?
一か所でいいの!一か所でも萌える場所があったなら嬉しい!
久々に小説書いたけど、やろうとおもったらやれるね。
わたしはイッキの抱えた孤独とかが結構好きです。ムハムハ。
そして、彼女に溺れてくサマがまたいいよなあとか思います(歪)
彼女もまだ一カ月だもんね。敬語と敬語じゃないのが入り混じって
うれし恥ずかし一カ月でいいじゃない!!!(悶←)
こういうSS書くとたいてい趣味とか思想がばれてしまうけど
イッキに関しては溺れて溺れて溺れまくってしまえと思いますvvv
ケンとイッキの親友っぷりもなんだかんだと押し出してみました。
あの悪友コンビほんといいよね。今度はケントのSS書くから
そのときにイッキュウ出てくるといいのよ(´∀`)←
ちなみに今回のSSには、大好きな予約特典CDのネタも
地味に入れてあったりする。
てな感じで、こんな歪んだ愛たっぷりでお届けしましたが、
ほんとすみません!読んでくれてありがとうございました!
[ この記事を通報する ]
- URL:http://yaplog.jp/hayabusa_red/archive/456







