奴らへの逆襲 0.プロローグ 

July 25 [Wed], 2007, 0:08
「お前、死ねよ」

 この言葉を使った事のある人間が日本に何人居るだろうか。この言葉は大きな影響を与える。ツッコミとして笑いを生む場合は良いのだが、そうでない場合。そう、悪意をはらんでいる場合だ。壮絶な恐怖を生む。
 いじめには被害者と加害者しか存在しない。首謀者はもちろんだが、傍観者も立派な加害者に含まれる。仲の良かった友達が急に口を聞いてくれなくなる。むしろ一番の加害者は、彼らなのかもしれない。
 奴らが、まるで自分を空気のように扱う。そこに何も存在しないように。被害者の言葉を右から左へ。かと思えば、荒々しい言動が浴びせられる。先生の居ないところで。
 いや、先生は問題になるのが面倒で、見て見ぬ振りをしているだけなのかもしれない。大人なんて概してそんなもんだ。
 大学で何となく塾のアルバイトを始めて、何となく教員免許を取って、惰性でそのまま進み、「先生」と呼ばれている奴なんて五万としている。その響きに歓びを感じている。
 一般社会に出た事も無い奴らの集まりだ。
 「昔いじめをしていた」って奴が居ない訳が無い。そいつらは熱血教師ぶって、生徒の事分かったフリして何も分かってない。
 もし仮に相談したとしても、形式的な学級会が開かれるだけだ。先生にちくった事に腹を立てた、奴らの勢いが増す。そのために相談できない被害者は数多く居るだろう。
 顔に、みぞおちに、心に傷を作って行く。そしてそれは深く大きなものへなっていく。次第に居場所を失って行く。
 授業中に、四方八方からのひそひそ話が気になる。休憩時間中に、何をされるか分からない。
 精神的に追いやられて行く。被害者の人格を変えて行く。笑顔はもう鏡に映らない。心から笑うという事ができず、身を潜める毎日。一日が何事もなく終わる事をただ願っている。
 学校が終われば、急いで悪魔の城から逃げ出す。家に着くと部屋の鍵を閉めて、インターネットという仮想現実に逃げ込む。ここでは確かに僕という存在が認められている。掲示板に書き込んでレスがあれば、自分が生きている、存在しているという事を実感する。
 しかし、現実に呼び戻された時に頭が埋め尽くされる。自分が被害者であるという、どうしようもない事実に。本当に空気のようになって消えてしまいたい、いっそ死んでしまいたい、と考えるほどに。
 それと、同時にこの様な感情も湧き始める。
 「奴さえ居なければ」
 あいつさえ居なければ、こんなに苦しむ事は無いのに。

奴らへの逆襲 1.小学校時代 

July 25 [Wed], 2007, 14:17
 小学校時代、俺はサッカーが大好きな少年だった。小学2年生の頃からふとした気掛けで、小学校のサッカークラブに入団した。決して上手いと言う訳では無く、25人中12、3番と言ったところだろうか。小学校生活、早朝や土日までサッカーに没頭した。結局小学校を卒業するまで続けた。
 俺は短気な面や人をからかう癖があり、よく友人と喧嘩をしていた。しかし、持ち前の明るさからすぐに仲直りする事ができた。敵も見方も多いそんな子だった。
 リーダー的なクラスの中心という位置づけでは無かったが、大人しいグループに属す訳でもなく、極平凡な少年だった。
 俺らが子供の頃はよく「身分」という言葉が使われた。それは、運動神経とか、頭の良さとか、喧嘩の強さとかそんな基準で無く、ただリーダー格の人間とどれだけ近いかという事が基準である。
 子供の中にも子供なりの社会は存在する。大人の中に派閥や談合と言ったものが存在するのだから、いじめが存在するのは当然かもしれない。
 
 俺は、成績は塾に通っていたおかげもあり、クラスでは常に上位であった。先生の出す難しい問題も難なく時解いた。そして褒められた。俺もそれを誇らしげにしていた。回りからも、頭のいい奴と認識されていた。
 しかし、授業中に当てられて間違えたりすると赤面しすぐに泣いてしまうという繊細な面も持っていた。授業中と喧嘩を合わすと、一日平均一回は泣いて気がする。
 家に帰れば、団地の幼なじみと家の周辺で遊んだ。
 缶蹴りやかくれんぼ、秘密基地作り、テレビゲームなどありとあらゆる遊びを楽しんだ。コックリさんや、草笛などかなり古典的な遊びからエアーガンの打ち合いと言う近代的な遊びまで、ありとあらゆる。本当に笑いの絶えない毎日だった。あっという間に日が暮れていき、母親の「もうご飯よ!」という声によって、後ろ髪を引かれながら渋々帰る。
 俺の家は中流階級の家庭で、弟が一人居る4人家族だ。昔は、仲がよくかった。俺が明るく気さくだったこの頃は。一年に一度旅行とキャンプに、月に最低一回は外食に行った程だ。
 団地から離れて遊ぶ事も当然あった。丸高というスーパー周辺の商店街(と呼べるほど大きなものではないが)にはいつも誰かしら同級生が居た。よくうどん屋の前でメダルゲームや格闘のアーケームゲームをしたのを鮮明に覚えている。近くで売っているフライドポテトやたこ焼きを食べながら。
 本当に笑いの絶えない毎日だった。
 今、当時の自分の事で自慢できる事と言えば、かなり流行った万引きブームに乗っからなかったという事くらいだろう。後は特に良い事も悪い事もしない極平凡な小学生だった。
 クラスは2クラス70人弱しか居なくて、2年に1度クラス替えをするためもあってか、みんなが仲の良い学年だったと俺は記憶している。
 
 しかし、そんな中にもやはり必ず被害者は存在した。一人ないし二人。いじめは、加害者/被害者の値が大きければ大きいほど楽しい。変な一体感が生まれるからだろう。共通意識の楽しさってやつだ。恋愛感情もそうだ。同じ思い出や秘密ごとが増えれば増えるほど高まっていく。
 被害者が居るところでひそひそと、居ないところでゲラゲラとそいつをネタにして笑う。
「またあいつ鼻ほじってたよな。」
「おうおう、ほんまにキショイよな。」
「たまに食ってるらしいで。しかも机の裏面で拭いたりもしてるってよ。」
「マジかよ。終わってるな。絶対あいつの机触らんとこうぜ。」
「おい、話聞こえてるかもしれんで。一瞬こっちみたもん。」
「うわ、きもっ。向こういこうぜ。」そしてまたその続きを楽しむ。 
 当時、俺は加害者の一人だった。なぜいじめ始めたかなんて覚えていない。しかし、今現在いじめている理由というものは、一応自分の中で正当化していた。一度先生に聞かれた事がある。
 「何でお前らあいついじめんねん。」
 「だって鼻くそ食ったり、うんこもらしたり気持ち悪いもん。」
 「そっか…。でも暴力は振るうなよー。」
 「はーい。」
 
 そのとき俺は感じた。大人なんてそんなもんだと。問題にさえならなければ構わないってことなのか。また、いじめはかなり面白いと。でももし被害者側ならどんな気持ちなのだろうかと。どんな景色が見えるのだろうかと。その時は、まだ悪魔の餌食になるなんてこれっぽっちも想像していなかった。ただただ楽しく6年が過ぎた。今思い起こすと、一番屈託ない笑顔ができた時期かもしれない。
 
 俺の地域は、T、T西、M小学校が集まり、一つの中学校に通うシステムらしい。70人、70人、100人が集まり240人程度、6クラスで1学年を形成する事になる。
 そしてついに悪魔の城、M中学校に入学する日が来るのであった。

奴らへの逆襲 2.中学校時代 一つ目の悪魔たちの降臨 

July 26 [Thu], 2007, 13:05
 サッカーや塾のつながりで、入学前から何人か知り合いが居た。そのため、難なく溶け込むができ、友達のその友達という感じでどんどんと増えていった。こうして中学生活が順調に進むかに思われた。奴が、いや奴らが現れるまでは。悪魔は二つの集団を成していた。
 



 一つ目の悪魔たち降臨


 1つ目は小学校の友達。いや、友達だった奴ら。
 1年の確か五月頃だったと思う。俺の筆箱の様子がおかしい。昨日、どこかに忘れてなくなったと思ったのだが、机の中に戻っている。親切にも誰かが見つけてくれたんだと思った。
 そして、シャーペンを取り出し1時間目の授業に臨もうと思った。なぜかネバネバする。糊でも漏れたのか?他のペンもベトベトする。いや、、、違う。明らかに異臭がする。よく見ると筆箱も汚れている。これは明らかに唾だ。回りを見渡したが笑っている奴は居ない。一人の吹奏楽部の女子がこう言った。
 「そういえば、井上・財田・中村の3人が何か蹴りながら、部活帰りに廊下を歩いてたかも・・・」
 奴ら3人は楽器とは縁遠く、女目当てで吹奏楽部に入ったんだとバカにしていた。その仕返しか。などと考えてすぐに足は動いていた。同じクラスの中村はすぐに謝罪をしてくれた。残り二人のクラスが近い方の井上のもとに。俺は1組で、そいつは2組だった。
 廊下に呼び出し、すぐさま飛びかかった。
 「お前ら3人やんな、これやったの」
 「だからどうしたん」
 「謝れよ」
 「はいはい、ごめんごめん」
 「なんやねんその謝り方は」
 「いやいや、お前今、俺の髪の毛引っ張ってるんやし、もうお互い様やろ」
 回りの人たちは止めるわけでもなくただ面白おかしく見ていた。その中の一人から「もういい加減やめたら」と声がかかり、何となく終わった。俺を慰めるもの、あいつを慰めるもの両方居た。それが救いと言えば救いだった。俺には見方が居る。
 俺の担任の先生が代わりの筆記用具を買ってくれるという事で、一応解決した。暴力を振るった俺も悪いという事らしい。内心、はらわたは煮えくり返っていたが、これ以上奴に何を言ってもきっと無駄だ。きっと小学校の頃から俺を嫌っていたんだろう。正直、仲が良かったと思っていただけにショックではあった。
 しかし、2つ目とは比にはならない。2つ目の悪魔の集団はもっと強大で凶悪なものだった。なす術の無い程に。誰もが逆らえない程に。

奴らへの逆襲 3.中学校時代 二つ目の悪魔たちの降臨 

July 26 [Thu], 2007, 14:53
二つ目の悪魔たちの降臨


 2つ目は、サッカー部に潜んでいた。
 俺は、何のためらいも無く大好きだったサッカー部に入った。極自然に。小学校のサッカークラブに入っていたものも当然同じように入った。これで、この中学校は相当強くなるなぁ、などと考えていた。T小FCもM小FCも大会ではいい結果を残していたからだ。
 俺は、顔が丸い事から、中学校に入って「アンパンマン」と呼ぶ人も居た。小学校のあだ名「はやちゃん」と呼ぶものの方が多かったが。「アンパンマン」と名付けたのが、好きだった同じクラスの辻尾さんというマドンナだったから悪い気はしなかった。他の女子も便乗して、俺の顔を触って来た。嬉しくなかったと言えば嘘になる。もちろん回りの男子から、冷やかしがあったが。
 俺をこう呼ぶものも居た。「団子」と。奴も同じサッカー部だった。M小学校出身の奴だ。名前は忘れもしない岸本卓也。最初は仲が良かった。いや、そう思っていたのは俺だけかもしれない。団子と言って来た時、俺が「だまれ!」と返したのが気にくわなかったのか、次第に風当たりは強くなっていった。俺とお前では身分が違う、大人しくいじられてろって事だろう。奴はそれからもしつこく俺を「団子」と呼び続けた。好きな奴に丸顔をいじられるのは悪い気はしないが、そうでないやつにいじられ続けた俺の怒りのボルテージは徐々に確実に限界へと向かっていった。
 そんなある日、事件は起こった。熱い6月の日だった。いつかは起こったであろう事件だ。俺の短気な性格から言って。
 放課後、サッカー部の練習がいつもの様に行われた。その休憩時間だ。奴はいつもの様に俺をからかって遊んで来た。
「団子ー、団子ー、ボールと間違えてお前の顔蹴りそうやわ」
「おーい、おーい、悔しかったらかかってこいよ」
 さらに奴は煽ってくる。
 俺はそれに乗っかってやった。というよりもう我慢の糸がプッツリ切れてしまっていた。気がつけば、サッカーシューズを履いた俺の右足が奴の腹を目一杯蹴っていた。まさか、本当に反抗してくるとは思わなかったのだろう。奴は一瞬面食らったが、即襲いかかって来た。しかし、ありがたい事に回りのサッカー部員たちが割って止めに入った。
 今思うと、その時思い切り取っ組み合いの喧嘩をしていれば、俺の未来は変わっていたのかもしれない。喧嘩してれば、奴の怒りもそれで収まっただろう。その時、黙ってボコボコにされたとしても、今程、傷は残らなかっただろう。俺の心の傷はまだ深く、深く心に刻み込まれている。そして、それはふとした時に染みて、疼きだす。どうしようもない恐怖に駆られる。
 奴から直接、呼び出しをくらう事は無かった。以前の「団子」から「きっしょ」に変わったくらいだ。別に気にしていなかった。それ以外、何の変化も無い様に思われた。そう。思われただけだ。実際には、着実に裏で変わり始めていた。そして、俺は徐々に気づき始めていく。
 次の日、俺はいつも通り部活をするため、運動場へと向かった。何か様子が違う。「何か」としか言いようが無いが、肌でびりびり感じる。俺を見る目が違う気がする。
 サッカーシューズのヒモを固く締め、先生のかけ声で練習が始まった。最初は決まって二人一組の練習だ。次々とペアが決まっていく。しかし、俺は・・・。そうあの悪魔の策略がついに始動したのである。
 「あいつと喋るな」
 正直俺にもまだプライドは残っていた。暗いグループに属する人たち、つまり、身分の低い人とは組みたくなかった。今思うと、もし、強がらずに、素直に彼らと組んでいれば、地元の友達というものが少しは居たのかもしれない。

奴らへの逆襲 4.地元の友達 

July 26 [Thu], 2007, 16:26
地元の友達


 俺はこの言葉がどうも苦手である。というのも少ないから、いや、居ないから。俺ほど楽しい成人式を経験したものは居ないだろう。
 高校の友達、大学の友達はよく「地元の友達」の話をする。その時決まっていつも話を合わせる。まるで中学生活が順風満帆だったかの様に。
 

 俺は、自分を変わったという事を表現したかったのか、髪を切り、慣れないワックスを髪につけて、会場に向かった。会場は駅前のビッグバンという幼児施設の大ホールだった。向かう途中、俺は例の財田と井上にT字路でばったり出くわした。
「おう」
 と勇気を振り絞って言葉を放ったが、そのまま通り過ぎていった。まるで空気のように。目の前を通り過ぎていく。挙げた手をゆっくりと下ろした。
 会場前ではみんな楽しそうだ。写真を撮ったり、昔の思い出話をしたり。話が尽きないようだった。俺は一人で誰とも顔を合わせず、会場が開くのを待った。早く始まれ、早く終われと思いながら。
 そうこうしているうちに会場時刻が来て、ようやく席に着く事ができた。奇しくも席は中学校別だった。最悪だ。俺はどう振る舞えば良いのだろうか。集団から離れた所にポツリと座った。しかし、俺の席を誰かが横切った。
 「ちょっとのいてな」
 有本という同級生の女の子だった。小学校も同じ、中3のときも同じクラス。俺の事覚えていてくれたのか。迎え入れてくれるのか。というのは勘違い甚だしかった。喜びはつかの間だった。俺と目を合わせるや否や、逸らした。目を合わすんじゃなかったと言わんばかりに。
 1時間程で成人式は終わった。誰と会話する事も無く。
 今でも連絡を取っている人が居ない訳ではなかった。唯一一人居た。そいつに一緒に行く話を持ちかけた。しかし、予想通りの返事が返って来た。
 「他の奴と行くから」
 何でも式の後に中学校別で集まりがあるらしかった。この俺の今のテンションは行く勇気を持ち合わせていなかった。
 素通り。視線逸らし。
 結局帰る事にした。ゆっくりと。母親に気を遣って。母親は俺が悪魔の餌食になっていた事を知らない。早く帰りすぎると不自然だと思われる。それを隠す為に。3時間程本屋で時間を潰し帰った。
 そして、母にこう言った。
「懐かしい友達と話せて楽しかったよ。みんな変わってなかったわ。」
 翌日、大学では成人式の話で持ち切りだった。写メを見せ合ったり、こんな同級生が居たとか盛り上がったり。俺はいたたまれなくなり席を立った。どうして俺だけこんな思いをしなければならないのか。成人になった今になってまでも。心の傷がズキズキと疼いていた。「地元の友達」という言葉の響きが俺の心臓をえぐった。

奴らへの逆襲 5.悪魔のサイレン 

July 30 [Mon], 2007, 2:16
 
 サッカー部での居場所は次第に小さくなっていった。みんな俺を避ける様になった。奴の命令通りに。忠実に。エスカレートしていくばかりだった。
「あいつしばいてや」
 俺に聞こえるか聞こえないかの声で、従いそうな奴に命令した。確か安田だったと思う。そいつと俺は同じクラスであり、仲もそれなりに良かった。そのため、かなり困惑し、一応軽く蹴った。申し訳なさそうに。あいつなりの優しさが俺に垣間見えた様に思えた。少し、嬉しかったが、加害者には変わりない。そいつに断る勇気があれば・・・。
 いじめとは連鎖反応である。ターゲットを変え、次のターゲットへ。その転換はふとしたきっかけで起こる。いじめに協力しなかったり、逆らったり、喧嘩の強さを誇示しすぎたり、イキり過ぎたり。誰もが、自分がターゲットになるのを恐れ、止めようとしない。また、同時に共通意識による楽しさも生まれてくる。そのため、子供の社会からいじめが消える事は無い。
 いじめの首謀者より喧嘩が強くても意味が無い。そいつの後ろには多くの後ろ盾が存在し、返り討ちに合うのが落ちだ。後ろ盾とはたいてい、不良であったり、鑑別所あがりであったり、先輩であったりで、太刀打ちできない。先生に告げ口をしたところで、これまでとは比にならない苦痛に襲われる。ただ、耐えるしかないので。悪化しない事を祈りながら。
 俺は2ヶ月我慢したが、結局退部の道を選んだ。サッカーをする楽しさを、いじめられる苦痛が上回ったのだ。そんな事を思春期の俺は母親に言う事もできず、勉強に専念する為、とした。
 そして、内申点を考え違う部活を選択した。
 悪魔のサイレンが鳴り響かない部活である卓球部へ。最も軟弱なものが集まるとされる部活。ダサイというイメージが誰の頭にもインプットされている部活。俺は逃げたのだ。そして居場所が欲しかったのだ。
 俺は卓球部に入った事に後悔はしていない。そこには同級生の友達と呼べるものが居た。居場所があった。先輩や後輩との付き合い方も学ぶ事ができた。しかし、高校以降の友達にはサッカー部に居たと偽っている。卓球部=暗い奴、いじめられていた奴という観念が、人には備わっているから。
 クラスは幸い、奴とは離れていたため、サイレンを聞く事はほとんどなかった。中学1年と2年の途中までは楽しかった。サッカー部とは違い、皆が普通に接してくれる。普通に。普通の事のはずなのにそれが妙に嬉しかった。辺見という男は、悪魔の中で上位層に居たにも関わらず、気が合った。二つ目の悪魔の集団は主に、岸本と永松で形成されていた。高2のある時、俺に気づかずに辺見と永松はこんな会話をしていた。
 「林ってめちゃおもろいやん。今度一緒に遊びに連れて行こうぜ」
 「そうか?俺はそうおもわんけど。それにあいつ卓ちゃん(岸本)に嫌われてるしやめとこうぜ。」
 「そっか・・・。」
 永松は出身小学校が違った。しかし、うちのサッカークラブに所属していた為、入学前から交流があった。俺の中では、仲の良いうちに入っていたのだが、1つ目の悪魔たち同様、勘違いだったみたいだ。そして、永松も悪魔の核の1つだった。
 高2の時、弟に唐突にこんな事を言われた。
 「お兄ちゃん昔いじめられてたんやろ?」
 俺はその言葉を聞いた瞬間、弟をたこ殴りにしていた。どうやら永松に聞いたらしい。弟まで俺をバカにしたという思い。虐められていたという恥ずかしさ。兄の威厳の崩壊。色々な感情が入り交じり無意識に行動に移ってしまっていた。それ以来、今に至るまで、弟と会話した記憶が無い。またこの頃から夫婦仲も悪くなり、俺の居場所は部活内だけになっていた。
 中2の途中からじわじわ悪魔のくもの巣が広がり始めていた事に気づいた。それはみるみる間に広がった。「はやちゃん」とあだ名で読んでいた奴が、「オマエ」という呼称に変わったり。ケンカを吹っかけられて、殴られたり。話すのを避け始めたり。「キショイ」と言われたり。多くの人間に糸が伸びて操られていた。いや、核に操られていたのか、自発的に悪魔と化して楽しんでやっていたのかは分からないが。
 中2は何とか逃げのびる事ができた。悪魔たちから。後1年、後1年耐えれば俺は解放されるのだ。
 しかし、神は俺をもてあそぶかの様に、最悪の賽の目を出した。中3で悪魔の中枢核である岸本と同じくラスになるのである。

奴らへの逆襲 6.地獄の幕開け 

July 31 [Tue], 2007, 0:10
 クラス替えというのはたいがい楽しくわくわくするものだ。しかし俺の場合は違う。俺は、中1から神様に祈り続けていた。「どうか、同じクラスにだけはしないでください。何でもしますから」同じクラスになると何をされるか分からない。どんな恐怖が待ち受けているのか。今までとは比にならないだろう。きっとサイレンで鼓膜が破れる。奴の声が、過剰に視神経を刺激し、脳内に信号が送られる。脳から体中にアドレナリンを放出する命令が出る。俺の心臓の鼓動が急に速度を増す。手に汗がにじむ。胸が締め付けられる。悪魔たちからの直接の制裁。顔に腹に、関節に。ありとあらゆる方法、道具を用いて。怖い、痛い。もうやめてくれ。そして、心も体も崩壊していく。
 しかし・・・。俺は、愕然とした。クラス替えの一覧が張り出された掲示板を見た時に。「3年6組」に俺と奴の名前が並んでいた。岸本・・・・林・・・・。
 掲示板からぞろぞろと動き始めた。自分のクラスに向かって。俺はとぼとぼ歩いた。この世が終わったかの様に。植民地化された敗戦民のように。自分がこれからどうなるのかという恐怖に怯えながら。ふらふらと流れに身を任せて歩く。足かせと手錠が付けられたような感覚だ。
 回りは楽しそうだ。
「今年もまた同じクラスやな!」
「また仲良くしようねー!」
 俺はいきなり背中に強い圧力を感じた。どんっ。思わずつんのめった。奴だ。岸本だ。後ろを振り返ると、奴の姿が人ごみから一瞬見えた。どうやら蹴られたようだ。もうすでにロックオンされている。この1年間俺は何をされるのだろう。こうして俺の地獄の1年間は幕を開けた。

奴らへの逆襲 7.死の宣告 

July 31 [Tue], 2007, 14:12
 教室に到着し、決められた席に着いた。初日という事で、50音順だった。改めて見回し、クラスの面子を確認する。幸いな事に悪魔の上層部だが仲の良かった辺見と同じクラスだ。これこそ不幸中の幸いと言うものだろうか。

 クラス替えというのは本当に抽選などで公平に行われているのかと思う時がある。やんちゃな人、普通の人、大人しい人が均等な割合で割り振られている。作為的にクラスのメンバーが決まるのであれば、俺は先生を恨む。どうして悪魔たちが俺を虐めているのに気づかないのか。生徒の、子供の社会の状況を把握しきれていない。いや、把握した上で俺と岸本と辺見を同じクラスにしたのであれば・・・。
 俺も先生になりたいと思う事はあった。塾のアルバイトをしたのが、そう思う様になったきっかけだろう。教えるのが好きだし、何より子供が好きだ。しかし、好きというだけでは勤まらないと思い断念した。義務教育の時期は思春期にあたり、人が最もデリケートな時期と言える。そのため、人格形成や人間観に最も大きく影響を与える時期と言える。小中学校を通して、俺が尊敬できると呼べる先生は一人しか居ない。「ちゃんとした」、つまり生徒の内面まで考えている先生なんて本当に一握りしか居ないと俺は考えている。
 
 「お前、死ねよ」
 奴は俺と目が合うなり言い放った。またこうも言った。
 「この1年間どうなるか覚えとけよ」
 俺は気が狂いそうだった。頭と心が破裂しそうな思いだった。1年間耐えられる自信が無い。俺に見方は居るのだろうか?居場所はあるのだろうか?部活までの時間、俺はこの悪魔の城のどこで何をすれば良いのだろうか。
 悪魔から死の宣告が言い渡されたのであった。

奴らへの逆襲 8.処刑 前編 

August 01 [Wed], 2007, 1:38
 俺は岸本と目が合うたびに「死ね」と言われた。何度も、何度も。俺は何も言い返せない。俺は奴と目が合うたびに「キショイ」と言われた。何度も、何度も。俺が何をしたのか。
 あの一蹴りがこんなに大きな波紋を生むなんて思わなかった。俺の中身は憎悪と後悔でいっぱいだった。
 それらの言葉を浴びせられるたびに俺は、自分を無意味な存在、いや居てはならない存在なんだと思う様になった。俺は気持ち悪い、生きている価値なんて無い。繰り返される言葉は洗脳する力を持つと何かで読んだ事がある。確かにその通りだと思った。
 このままあいつの言う通りに、死んでしまった方がいっそ・・・。
 
 こんな俺でも死ななかったのは真っ当な人間、見方と呼べる人間が居たからだ。小山、久保田、白木、中山、菱川。彼らは、悪魔の監視下でも普通に接してくれた。もし彼らが居なければ、学校を休んでいた。そして、俺は死を選んでいた。確実に。

 世の中には、見方の居ない被害者が数多く居る。彼らが先生に、親に相談したところで全くの無駄だ。悪魔の勢いが増し、生きる場所を無くされる。暴言、暴行、恐喝、そして時に殺害。最悪の袋小路が待ち受けている。逃げても、逃げても、追いつめられる。ゲームオーバー。生きる苦しみからの解放。生きる苦しみと死ぬ痛みを天秤にかけ、前者の方へ確実に傾く。それくらい、耐えきれないくらい重いのだ。結局は死を選ぶしか無いのだ。
 「これから楽しい事が待ってるよ」
 「死んだら何もかも終わりだよ」
 そんな綺麗ごとは、被害者の耳に届かない。じゃあ、お前たちがなんとかしてくれよ。結局は上辺だけの助言、助け舟なんだ。生き続けたところでまた虐められるんだ、どうせ。そういう運命なんだ。
 もし仮に悪魔から逃げ延びる事ができたとしても、心に追った傷は思っている以上に深い。回りの人間には見えないから分からない。人間を信用できなくなっているのだ。信じていた友達に裏切られ、上辺だけの助言をされ、悪魔に殺されかけた。何が正義で何が悪なのか分からない。自分が異常なのか、おかしいのか、だから虐められてしまうのか、と考えてしまう。鬱や自閉症などの精神病になるものも多く居る。心の傷は永遠に息づくのだ。疼くのだ。深く深くにあるためそうそう埋まる事なんてない。
 
 不幸にも、俺の席は前の方だった。
 授業中、後ろからものが飛んでくる。消しゴムのカス、紙くず・・・。後ろを振り返ると悪魔たちがくすくす笑っている。岸本、川元、大久保。俺は何も無かった様に無視するしかできなかった。抵抗する選択肢を俺は持ち合わせていない。反応すれば面白がるだけだから。
 昼休み、岸本と目が合う。
「お前目障りやねん。きしょいな。消えろ」
「・・・。」
 俺は何も言い返せず、ゆっくりと廊下へ出た。
 悪魔たちの笑い声を後ろに聞きながら、ぎゅっと手を締め、握りこぶしを作りながら。
 みんな楽しそうだ。サッカーしたり、野球したり。俺は昼休みの時間が長く感じられて仕方なかった。こんなくだらない時間・・・。俺は色々な事を考えた。
 岸本を思いっきり殴りたい、ボコボコにしたい。できるならば殺してやりたい。俺の妄想は過激になるばかりだ。「妄想くらい自由だろ、なぁ、神様。」俺は悪魔の城から天を仰ぎつぶやいた。悪魔の後ろだけてさえなければ実行するのに。梶原、岡本、乗松など。岸本の人脈の広さには、正直驚かされる。不良とのパイプはほとんどつながっている。岸本が頼めばほとんどの奴は動いた。俺の事を知っていようと知っていまいと。それくらい悪魔は強大で凶悪なのだ。
 俺の昼休みはふらふら学内を彷徨うか、図書館に逃げ込むか、身分の低い奴らと遊ぶか。こんな俺にもプライドはある。卓球部のくせに笑えるが。ダサイ奴らとなるべくつるみたくない、恥ずかしい。さらに悪魔の餌食にされる可能性もある。俺は一人で過ごす事が多かった。

奴らへの逆襲 9.処刑 中編 

August 01 [Wed], 2007, 16:51
 そんな日々が毎日続いた。部活も引退し、悪魔の城での俺の居場所は完全に消失した。家に帰ると部屋の鍵を閉め、ネットの世界に身を投じた。虐められている奴が集まる掲示板。そこで俺は自分の存在を確認した。お互い傷をなめ合った。
 「頑張って生きようぜ」
 上辺だけの、何も知らない奴の慰めに比べると癒された。俺はここに居る。存在して良いんだ。

 中3の6月だったか、修学旅行があったのは。
「同じ班になろうな」
「ばりテンション上がって来た」
 班決めの様子を俺は教室内の隅でただ眺めていた。身分の低い奴らと組みたくないなという思いで。修学旅行というのは、学生生活で最も大きなイベントと言える。そのため、記憶や写真として残る。頼む神様、普通の班に入れてくれ。神は今回は俺に微笑んでくれた。いや、天使たちの、仲間たちのおかげだろうか。小山と菱川が隅に居る俺に誘って来てくれた。
 「一緒の班になろうぜ」
 素直に嬉しかった。心の底から。修学旅行は楽しい思い出を作れそうだ。
 修学旅行はそれなりに満喫できた。彼らのおかげで。
 一日目は確か、ディズニーランドだった。ガイドブックを片手に3人で楽しく回った。俺が唯一記憶している、中3での楽しい思いでかもしれない。もちろん岸本はすれ違うたびに、「死ね」「きしょい」「目障り」と毎度の台詞を口にしたが、教室の様な閉鎖空間とは異なり、ダメージは少なかった。夜は、ディズニーランドに隣接した、高級そうなホテルに泊まった。小山と菱川は、クラスの仲の良い奴のところへ遊びにいったが、気にならなかった。同じ班に選んでくれた。ただそれだけで嬉しかった。
 2日目の朝はバイキングだった。俺ら3人は予定時刻より遅れていった。そのため3人一緒に座る事ができなかった。俺は空いている席に座った。しかし、何かがおかしい。皆ひそひそ話している。横を見ると皿を持った川元が俺を凄い剣幕で睨んでいる。食べ物を取りに一時的に席を離れただけのようだった。
「オマエ、邪魔やねん」
 俺は言い返す力をこの時期にはすでに持ち合わせていなかった。短気な性格であり昔の俺であれば、殴り掛かっていた。しかし、毎日の悪魔たちのプレッシャーから俺はかなり神経が衰弱していた。そして他の席に座った。くすくすという笑い声を聞きながら。もちろん岸本も笑っていた。
 2日目は、横浜中華街。残念ながら記憶に残っていない。
 そして俺は、無事平穏とまでは行かなかったが、何とか修学旅行をやり過ごす事ができた。