夏の終わりの日 

2007年09月30日(日) 3時10分
満月まで1日分足りない月が、輝いていた。

カレンダーはもう秋の色なのに、まだまだ残暑厳しい日々が続いていた。
秋の気配なんて、ほとんど感じないけれども。

でも、また、秋がめぐって来た。

止まっていた彼との時間が流れ出した季節・・・秋の始まり。
あれから1年が経っていた。

彼はあの街へと帰った。
私もこの街でまだ暮らしている。

私は仕事を本格的に始めた。
日々忙しく暮らしている。

家事をして、仕事をして。
新しい職場の友達も増えた。
毎日笑顔で過ごしている。
決して笑顔だけではないけれど・・・それでも元気に過ごしている。

そして。

少しだけ欠けた月が輝くこの夜。
私は海の上から、煌々と輝く月を眺めていた・・・彼と一緒に。

遠く遠く、はるかに遠く感じる距離を隔てて。
それでも私達は、繋がっていた。

たからもの 

2006年11月17日(金) 0時21分
心だけじゃなく、体も寄添っていた。
彼の車の中で、2人とも、静かに寄添っていた。
時々彼の顔を見上げると、彼は穏やかに微笑んで・・・キスをくれる。

キスが欲しいと思ったら、彼から自然にキスを求めてきた。
もう言葉は必要なかった。
ただずっと、そうして寄添っていればよかった。
そうしていれば、お互いの心はわかりあえた。

不思議な時間が流れていた。
だけどとても、大切な時間だった。

沈黙を破ったのは、流れてきた歌だった。
あの頃私がよく聴いていたアルバムだった。
その2曲目・・・印象的なオルゴールのイントロ。
「ゆっくりと12月のあかりが灯り始め・・・」
それを聞いた瞬間、彼との想い出が溢れてきた。

クリスマスイブの夜だった。
彼が家族で過ごす夜。
私よりも、幼い家族を優先させる夜。
それは当然の選択。
だけど、私の胸には決して口に出せない寂しさがあった。

私は・・・遅くまで仕事をした。
他の誰かと過ごす気は全くなかった。
残業まで引き受けて、くたくたになって仕事をした。
仕事で紛らわそうとしていたんだった。

夜遅く、部屋に帰った。
鍵を開けて、暗く冷え切った部屋に入る。
コートを着たままで、リビングのドアを開けた。

・・・・私は一瞬、目に見える物が信じられなかった。
その場に立ち尽くしていた。

だけど次の瞬間、テーブルに歩み寄り、そしてその場に座り込んだ。
そして、そのまま泣いたんだった。
声を抑える事も出来ず、ただひたすら泣きつづけたんだった。

1人の部屋の真ん中で、ピカピカと光るクリスマスツリー。
それは真っ暗な部屋で、私をずっと待っていた。
そして・・・おかえり、と、迎えてくれた。

彼の優しさと、想いの全てがそこにある気がした。
そこに彼がいるんだと思えた。
心から嬉しかった。
寂しさも切なさも、一瞬にして吹き飛んだ。

彼からたくさんのプレゼントをもらったけれど。
あのツリーが、あの夜の出来事が
私の人生の中で一番の、大切なたからもの。

ありがとう。
私は心をこめて、彼に伝えた。

そう。
あの夜も、今夜みたいに。
心が寄添っていたんだね。

寄添う 

2006年11月08日(水) 1時48分
彼は、会社の人と一緒にあの街へと帰る。
だから、最後の日に逢うのは無理だ。

もう、諦めていた。
もう、逢えないと思っていた。
毎日そう自分に言い聞かせていた。

月曜日から金曜日は仕事が佳境に入る。
夜も毎晩接待。
金曜日の夜は送別会。
そして土曜日・・・彼は帰っていく。

私が彼の元に行けたならば、深夜に数時間だけでも逢えるのかも知れない。
でも、そうしようとすると宿泊になってしまう。
それはもう・・・無理だよ。
これ以上は、いくらなんでも出来ない。
そんな会話を、幾度となく繰り返していた。

金曜日の午後、彼から電話があった。

香奈、今夜逢えるか?
3時間位だけど、なんとかできそうだから。

突然の言葉に驚いた。
だけど、聞いた瞬間からものすごいスピードで口実を考え始める私。
でもなかなか思いつかない・・・。

でも・・・逢いたい!
どうしても逢いたい。

彼には大丈夫だよ、待ってるよ・・・と、伝えた。

電話を切った後、考え込む。
どうしても・・・思いつかない。
いや、思いつく口実はある。
だけど・・・友達が必要・・・。
どうしたらいい?

実際に悩んで迷ったのは・・・たぶん一瞬。
私はすぐに親友へ電話をした。

「もしもし?突然で悪いんだけど・・・お願いがあるの」
「今夜、あなたと一緒という事にしてくれる?」
「でも・・・理由は今は言えないの・・・」

一瞬の沈黙の後で、親友は答えた。

「わかった」
「私、これからすぐあなたのご主人へと連絡するよ」
「香奈を今夜少し借ります・・・ってね」

それ以上の事を、親友は聞かなかった。
そしてすぐに手配してくれた。

夫が帰宅した後、私はとりあえず彼女の家へと向かう。
彼から電話が入った。
最後まで、彼女は一言も理由を問わなかった。
ただ一言。
「香奈、後悔はしちゃダメよ」

私は彼女の顔を見て、少し涙ぐんでしまった。
ありがとう・・・私はそれだけを言って、ドアを閉めた。

ツバサ 

2006年11月06日(月) 2時21分
夜明け前までには帰らなくちゃ・・・。

そんな私の言葉を、彼は聞こえないふりをしてやり過ごす。

でも・・・。
もうダメ。
そろそろ夜が明けるから。

お願い・・・もう帰らなくちゃ・・・ね?

彼は無言で私から離れた。
私は身支度を整える。

お化粧を直しにバスルームへ入り、出てきたら彼も着替えていた。

送るよ。

そう言って、彼は部屋のカードを持とうとする。

その手をそっと止めた・・・私。

ここでいいよ。

彼は・・・苦しい程に私を強く抱き締めた。

香奈・・・香奈・・・。
今日ほど離れたくないと思った夜はないよ。
つらいな、ほんとつらい。
心を置いていくって香奈は言うけど。
全部持って帰ってって、言ったけど。
俺は・・・香奈の全部が欲しい。

嬉しかったよ、すごく。
震えるほどに、嬉しかった。

でもね・・・できないよ、やっぱり。
これまでも幾度となく・・・そう、数えきれないほどにそう思ったけど。
でも、二人で出した結論はそっちの選択肢じゃなかった・・・。
大きな決断のうち、最初は彼。
そして、今回は私。
どちらともが、結局同じ決断をしたんだもの。
これがきっと正しいんだよ、私達にとっては。

彼はエレベーターまでは送らせてくれと言う。
二人で静かに部屋を出た。
ホテルの中は静まり返っている。
下りのエレベーターが1Fに降りるまで、ずっとキスをしていた。
そして扉が開く。

香奈・・・帰り着いたらMailを送って。
それから。
香奈、愛してるよ。
世界中の誰よりも、俺は香奈が好きだ。
ちゃんと・・・伝えておこうと思ってたんだ。
それと。
香奈・・・一生繋がっていような。

彼の目から涙がこぼれた。
私も同じ・・・。
もう一度キスをして、私は彼から離れた。

どうして彼はこんなに私に幸せを与えてくれるのだろう。
哀しくて流す涙もある。
だけど、嬉しさに震える涙も・・・彼だけが与えてくれる。

ありがとう。
本当に、あなたに逢えてよかったと思ったよ。
これから先、どんな事があるのかわからないけど。
でも、この一瞬が私に訪れた事だけでもう満足だよ。

香奈、このまま見送るよ。
俺はずっと香奈を見送る。
でも、さよならは言わないからな。
昔に香奈がそう言ってくれてたように・・・。
いってらっしゃい・・・だよ。
振り返らずに行くんだ。

その言葉に押されるように、私はゆっくりとホテルを出た。
タクシーに乗って、車が出る瞬間・・・やっぱり振り返ってしまった。

彼はそのままの姿で私を見ていた。
そして、ゆっくりと車は出て行き、彼の姿が視界から消えた。

静謐 

2006年11月01日(水) 1時12分
私は今まで、彼にどのくらいこうやって抱かれたのだろう。
数え切れない・・・本当にたくさん。
なのに、数を重ねる度に、私は今でもまだ少しずつ何かが変わっていく。
そしてまた、彼も少しだけど毎回違う。

この夜の彼は、またいつもと違った。
少し・・・怖さを感じた。
その原因が何か、私は考える余裕はなかった。

ゆったりと意識が浮上していく感覚。
目を閉じていた事すら自分では知らない。
ゆっくりと目をあけると、彼が私をみつめていた。

香奈、大丈夫か?

いつもは微笑みながら言うその言葉だけど、この夜の彼は違った。
じっと私をみつめている。

うん・・・。
ねぇ、どうしたの?

彼はゆっくりと起き上がり、煙草に火をつける。

香奈・・・苦しいよな。
嫉妬って、こんなに苦しいもんなんだな。
胸が妬けつく・・・本当に火が燃えてるように感じるんだな。

私は何も言えない。
彼と夫が出会ってしまった事実。
それは・・・私には何も言えない事実。

香奈にこんな想いをさせてた罰だよな。
俺は・・・理解してるつもりで、全くしてなかった。
家に帰る俺を、香奈はよく微笑んで見送ってくれたと思う。
でも俺を起こす前に、時々泣いてたのは知ってたんだよ。
でも、香奈は一度だって「帰らないで」とは言わなかった。
そして俺は、一度だって泣いていた香奈に言葉をかけることをしなかった。

でもね・・・私は、あの時のあなたの気持ちがよくわかるんだよ。
かける言葉がないんだよね。
何も言わず、何も言えず。
ただ、見つめて・・・そして抱きしめる以外に何も出来ないんだね。
愛してる・・・大好き・・・。
それ以外に、どんな言葉をかけたとしても、それは全部嘘になるんだね。

今だってそうだ。
香奈の立場はわかってる。
だけど、遠くに離れても心は繋がっていよう。
そんな事言ってたけどな・・・苦しいな、すごく苦しいよな。
香奈が、あの男に抱かれてるかも知れん。
夜になる度、俺はそれを想像して・・・気が狂いそうになるんだよな。
香奈は・・・香奈は昔、それをどうやって乗り越えた?
どうやってやり過ごしてた?

そう言って振り返った彼の瞳の奥には、暗い炎が見えた気がした。

私は・・・・。
私はね、ずっとあなたとの幸せな瞬間を想い出してた。
愛してるって抱きしめてくれた事。
二人で遠くの町で、手を繋いでイルミネーションに輝く道を歩けた事。
初めてキスした時の事。
恋に落ちた瞬間・・・初めてあなたに抱かれた時・・・一緒に月を眺めた時・・・。
ひたすらに、そんな事を思っていたよ。

でも、どうしても苦しみを忘れられない夜は。
一人でドライブしたよ。
あの海に、真夜中に一人で車を飛ばしてた。
車の中で大声で泣いて。
逢いたいよ・・・って呟いて。
そして朝までずっと一人で海を見ていたよ。
朝になればまた仕事が始まる。
家に帰ってシャワーを浴びて、お化粧して着替えて。
さっきまで泣いてたことなんて全部忘れて。
そうやって、やり過ごしていたよ。

疑い 

2006年10月30日(月) 3時49分
夫は実家に泊まるという。
いつもの事だ・・・ただ私が一緒にいないというだけで。

夫を実家まで送り届け、自宅に戻る。
部屋に入った瞬間に彼からMailが届いた。

香奈、電話してもいいか?

私からすぐに電話をした。

香奈・・・何と言っていいか・・・わかんねぇな。

彼も当惑している。
もちろん、私もそうだ。

あまりといえばあまりな偶然だった。
そして、残酷な現実を突きつけられた瞬間でもあった。
彼と夫が出会うなんて・・・何と言ったらいいのだろう。

とにかく、おいで。
今は香奈と逢えるのを楽しみにするよ。

彼達が泊まっているホテル、その中にあるレストランで食事をすることになっている。
待ち合わせの時間までの間、私はシャワーを浴びて洋服を選ぶ。
お化粧もいつもよりも丁寧に・・・。
着替えて鏡の前に立つ。
しっかりとチェックしている自分が、少し恐ろしく思えて手が止まる。

彼と二人きりになる時間を期待している。
彼に抱かれる事を待っている。
偶然に怯えながらも、でも、こうやって彼と逢う時間を望んでいる。
そんな自分が、恐ろしい。

待ち合わせの時間の少し前にホテルに着いた。
彼とその同僚の人はロビーで待っていてくれた。

食事が始まった。
同僚の人は昔のように明るく楽しそうに話す。
私の正面には彼、斜め前には同僚の人が座っていた。
昔話に花が咲く。
懐かしい話に心がほぐれた時、同僚の人が言った。

「だんなさん、優しそうな人だよね。幸せそうでよかったね」と。
笑顔で返すしかない。
「ねぇ、どうして急に会社辞めたの?」
「しかも、どうしてこんな遠くの町に急に引っ越したの?」
「何かあったの?」

矢継ぎ早の質問に、思わず顔がこわばる。

その時、彼が私に言った。
「色々あったんだよな、たぶん」
「でも、言いたくない事もあるよな」
「昔のことだ、いいじゃないか」

それ以上聞かれることはなかった。
そしてまた、食事をしながら話は続く。

しばらくして、彼が席を立つ。
その後、私の携帯が鳴る。
彼専用のMail着信音・・・その場で見る。

香奈、ダンナさんからだと言って、電話に出て。
その場で出るんだよ。

読んだ後すぐに電話が鳴る。
言われた通りに「主人です」と言って、その場で出た。

香奈、そろそろお開きにしよう。
一旦外に出たら・・・電話して。
いいね?
それから、俺が席に戻るまでこの電話を切らずにいるんだよ。

私は返事だけしていた。
そして、そのまま待っていた。

彼はすぐに戻ってきた。
その姿を確認して、私は電話を切った。

彼が言う。
ご主人から?もうそろそろお開きにしたほうがいいな。
今は人妻なんだしね。

その言葉を合図に、食事は終わった。
同僚の人は「また連絡して」と、名刺の裏に携帯番号を書いて渡してきた。
彼も同じように、名刺の裏に何かを書いて渡してきた。
ロビーで別れた。

そのまま外に出たところで、名刺を見た。
彼の名刺の裏には「1007」とだけ書いてあった。

偶然 

2006年10月29日(日) 11時07分
彼はとても忙しい毎日を過ごしていた。
おはようのMailの後に少しだけ電話で話す。
彼は一日のスケジュールを話してくれる。
その一日に、私が入り込む隙間はない。

週末はゴルフ。
その次の週末には、彼はあの街へと帰ってゆく。
もうこのまま逢えないのかも知れない。
私はそんな覚悟をしていた。

夫もこの週末は接待ゴルフだった。
送り迎えをしてくれという。
断る理由は私にはない。
早朝、夫と一緒に少し遠くのコースへ。
そこは・・・彼と最後に過ごした湖のほとりから近い。

だけど、1人でそこに行く気になれなれなかった。
近くの美術館やショッピングモールで時間を潰そうと思っていた。

彼からMailが来ていた。
今日も明日も接待ゴルフで、今夜は私の住んでいる街に宿泊すると。
だけど夜中に逢う時間はない・・・。
近くにいるのに・・・と、哀しくなる。

少し時間は早いが、夫を迎えにゴルフ場へと向かう。
車を駐車場にとめて、中に入ろうとしたら声をかけられた。
滅多に呼ばれる事のない旧姓に、少し驚きながら振り返る。
そこには・・・彼の同僚が立っていた。

「○○さんだよね?懐かしいなぁ!こんなとこで会うなんて!!」

あまりの事に言葉も出ない。

「○○も一緒なんだよ!ちょっと待ってて」

彼の名前が出る。
やっぱり、この人がいるという事は、彼もここに来ているんだ。

振り返ったその人の視線の先に・・・彼が立っていた。
彼も驚いて立ちすくんでいた。

同僚の彼は、懐かしそうに色々と話かけてくる。
それになんとか笑顔でこたえる私。
彼は・・・固い表情で隣に立っている。
それはそうだ。
私がここにいるという事は、夫もいるという事。
それを彼は知っているから・・・。
そろそろ行かなければと思った瞬間、後ろから声をかけられた。

香奈・・・。

夫だ。
私は少しぎこちなかったかも知れない。
でも・・彼はもっとぎこちなかった。
紹介すると、大人の会話が続く。

同僚の彼は、にこやかに夫と会話をしている。
夫もにこやかに・・・。
彼と私はほとんど何も話せない。

そんなに久しぶりに会ったのならば、偶然に感謝しなくてはね。
昔話もたくさんあるだろう?
今夜は俺も実家に用事があることだし、香奈、ゆっくり食事でもしてきたらいい。

夫の口から信じられない言葉が出た。
そして、私は彼と、もう一人の同僚と会う事になったのだった。

記憶 

2006年10月25日(水) 1時43分
毎日、彼からMailが届く。
朝のおはようから、夜のおやすみまで。
途中で時間が空けば、必ず声を聞かせてくれる。
離れているけれど、彼の一日がよくわかる。

仕事の取引先として知り合った私達だから、仕事の話もする。
そして、今彼がとても忙しいということも、よくわかる。
時々、会話の中に懐かしい名前も混じる。

今日、香奈の話が偶然出たよ。

彼も久しぶりに会う同僚と、昔話の途中に出てきたそうだ。

彼女、今何をしてるんだろうな。
俺も狙ってたんだけど、彼氏いたみたいだよな。
絶対に口に出さなかったんだよな、相手。
ワケアリだったんだろうな。

そうか、私はそんな風に見られていたんだね。
彼がその相手だったなんて、誰にも知られてなかったんだね。

お前は知ってたんだろ?
なんだか仲がよかったみたいだしな。
一度だけ飲み会に連れてきてくれたもんな。
どれだけ誘っても来なかったのに。
あの頃、相手はお前じゃねぇかって、うわさになったんだぞ。

覚えてるよ、その飲み会。
何度も誘われて、その度に断ってたの。
だって、あなたは飲み会の帰りには必ず私の部屋に来るもの。
一緒にいられるチャンス、一度だって無駄にしたくなかったの、私。
だけど、あなたが一緒に行こうって。
嬉しかったんだ、本当は。

同僚と楽しそうに飲むあなたを見たかったんだ。
仕事をしてるあなたと、私と一緒にいるあなた。
それ以外のあなたを見てみたかったんだ、私。
どんな顔して笑うのかな?
どんな話をするのかな?
そして、私に対してどんな顔を見せるのかな?って。

彼と私は離れて座った。
私の周囲には、彼の同僚や同期の人が座っていた。
みんな彼が気を許している人達ばかりで、楽しい人ばかりだった。
緊張してた私だけど、気がつけばすっかり楽しんでいたの。
途中、ちょっとお化粧直しに立った私を、あなたは追いかけてきたのよね。

香奈・・・右隣のヤツと盛り上がりすぎ!
アイツは香奈を狙ってるんだから、気をつけろよ。

ヤキモチを妬いてくれたあなたの態度が嬉しかった。
ちょっとふてくされたあなたが可愛く思えた。

その後、物陰でキスしたよね。
有無をいわさずのキス。
あなたは私を離そうとはしなかった。

その後、先に帰った私は、あなたを待っていた。
あなたはすぐに来てくれた。

こころ 

2006年10月23日(月) 9時37分
朝、目覚し時計が朝を告げる前に目覚めた。
もちろん、隣に彼はいない。
だけどもう泣かない。

前夜、結局夫とは顔を合わせずに済んだ。
夫はすでに眠っていた。

いつもの朝。
まだ薄暗い家の中に、カーテンを開けて光を入れる。
窓を開けて新鮮な空気を入れる。
新聞を取りに外へ出る。
そして、空を見上げる。
空に向かって「おはよう」と、つぶやく。
空の向こうの彼に向けての言葉だ。

コーヒーをセットしたら、顔を洗う。
簡単に身支度をすませて、朝食を作る。
夫が起きてくる。
おはようと言いながら、キスをする。
いつもと全く同じ。
私はこれを繰り返してきて
そして、これからもこれを続けていく。

ゆっくりと朝食をとりながら、夫と話をする。
連絡事項や何気ない話。
時に笑いながら、穏やかな会話が続く。

彼と再び出逢ってからの日々、こんなに穏やかに夫と話せなかった気がする。
普段と変わらず、元に戻った私に対して、心なし夫も嬉しそうだ。

いってらっしゃいと見送る。
夫は片手を挙げて、いつものように出勤していく。

キッチンに戻ると、彼からのMailが届いていた。

おはよう、香奈
今日からは仕事が忙しくなるよ
お昼過ぎに電話してもいいかな?

彼からのMailに返信する。

おはよう。
ちゃんと朝食をとってね。
今日も一日がんばって!
電話待ってる。

私は、二つに割れた心を持った。
夫に対する心。
彼に対する心。
そのどちらも、しっかりと持ちつづける。

零れる 

2006年10月21日(土) 3時06分
ホームは、思いがけず閑散としていた。

私が乗る新幹線の到着まで10分。
2人でずっと手を繋いでいた。

色んな話をしようとするけれど、どれも途中で終わってしまう。
ただただ、じっと見つめるだけになってしまう。

その度、強く手を握り締める。
言葉はもう全て言い尽くしたね。
あとは、あとはもう、見つめて。
そして、強く手を繋ぐ以外に、何もいらないね。

到着を告げる、大きなベルがなる。
弾かれたように2人立ち上がる。

一番最後にデッキに乗る。
停車時間は珍しく・・・長い。

彼もデッキに乗る。
2人で、もっと強く手を繋ぐ。

香奈・・・・また逢おう。
絶対に、また。

時間の終わりを告げるベルが鳴る。
彼が一人でホームに降りる。

ドアが閉まる直前に、最後のキスをした。

その瞬間から、涙が零れ落ちた。
窓の向こうの彼の頬にも、涙があった。

ものすごいスピードで、離れていく。
彼の姿はもう見えない。

誰もいなくなったデッキで、私はずっと立っていた。
涙が止まらない。
立っていられなくなって・・・崩れ落ちて泣いた。

体の奥から。
心の奥深くから。
私の全てから溢れ出してくる。
私の全てが軋む音が聞こえる。
搾り出されるように、次々と涙が溢れてくる。

いくつもの雫が、頬から・・・胸を押えた私自身の腕へ。
そして、崩れ落ちた膝へ。
次々にと零れ落ちる。

私がどうにか立ち上がれたのは、降りる駅の直前だった。
顔を伏せたまま、駅を歩いた。
そのままバスに乗る。
家の近くのバス停で降りた。

ここからしばらく歩く。
でも・・・・途中にある遊歩道のベンチに座り込んでしまった。

バスの中でも、こらえきれずに何度か涙が零れていた。
ダメだ。
もうこれ以上我慢できない。

夜の遊歩道は、通る人もいない。
空を見上げて泣いた。
ヘッドフォンで音楽を聴きながら、一人で泣いた。

昼間の青空を引き継いで、その夜の空には星がたくさん輝いていた。
一つ一つを見上げながら、思いっきり泣いた。

これで最後にしよう。
そう覚悟を決めて。
そしてこの旅行に出た。

もう、Mailも電話も。
彼と私を繋ぐもの、全てをこれでやめようと思っていた。
なのに。
もう、声が聞きたくてたまらない。
叫びだしそうになる程に、彼を求めている私。
でも、涙が止まったら。
その時は、ちゃんと終わりにしよう。
だから。
泣いてもいいよね、今は。

その時、彼から電話が来た。
反射的に、出てしまった。
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