王冠と風の物語 5話 

2005年05月13日(金) 22時16分
……最初はびっくりしてと言うか、呆れてというか。声も出なかったんだけどさ。
よくよく考えたら、おかしいだろ。
アル・カッハールの聖戦は確かにあった。遥か800年は前に。正解に言うと817年前か。
んで、リドワーンも確かに居た。聖戦に立ち向かい、ジンに敗れはしたものの、ジンをも恐れぬ勇気ある乙女として祭られた人物。そこまでは歴史伝承の授業で習った気がする。でも弟子なんか居たか?記憶にねーぞ?
いや、そもそもその前に、こいつがここに居たって言う理由にならないんだけど。
「その顔は、信用してないな?」
「信用もなにも、お前はそんなリドワーンの弟子が何でここにいるんだ?」
そのナーランジュは目を丸くして俺を見た。
「お前が俺を買って、ここに連れて来たんだろ?!」
…………男を買った記憶は無いけどなあ。しかも800年前の。
上から下までそいつを眺めると、ひょろっこい体格に目が大きくて丸くて。顔の造りは調ってるけど、まあ可愛いと言えなくもないか。
「でも男の趣味無いんだけど、俺」
「俺だって無い!」
じゃあなんだって言うんだ。
「俺はお前の買った絨毯だ!」
はあ?絨毯?
確かに昼間絨毯は買った。あの空飛ぶ絨毯を。
「……空飛ぶ絨毯は人になるのか?面白い冗談だな」
「信じろよ!」
信じられるか、馬鹿。
「何が目的だよ、金か?俺の暗殺も誘拐もあまり意味無いと思うぞ?」
そいつはきゅっと唇を噛み締めた。
「俺の目的は、何かに変えられたお師匠様を救う事だ。そして、自分にかかった魔法も解きたい」
魔法って、まだ言ってるのか?
「お前が、今日買った絨毯だって証拠はあるのかよ」
そいつ……ナーランジュはちょっと笑って答えた。
「このまま、夜が明けるまで待てば解る」
…………。
「やだよ、眠い」
 俺はころりと寝台に横になった。
「ま、待て!寝るな!」
もう真夜中だもん。酒も飲んで来たしさ。
「明日な」
とりあえず危険はなさそうだし、放っておこう。
「待てよ、話聞けよ」
一生懸命ナーランジュが何か言ってるようだけど、全部無視して。そのうち聞こえなくなった。

王冠と風の物語 4話 

2005年05月12日(木) 21時06分
 「行ってしまうんですか?」と寂しがる女の子に笑顔で手を振った。
 いいんだけどさ、女の子かわいいし。宴の時はみんな着飾ってくるしな。だけどさー、あのいかにも俺を王族としてしか見てない態度。王子としての俺じゃ無かったら見向きもしないんだろうなと思うと、もう……なんつーか。
 いや待てよ。俺も顔は悪く無いんだから、ちったあ寄ってくるかな。
 なんとか部屋に戻って来た俺は、疲れてため息をついた。
「おかえり」
 は?今、誰か、なんか言ったか?
「おかえり。ずいぶん遅かったな!待っちゃったぞ」
 部屋を見回すと、大きなベッドに腰掛けた男。頭にはターバンを巻き、粗末な服を身につけている。顔はまだあどけないが、なかなか端整な顔してる、けど。誰だこいつ。
 ……曲者。かな?
「えーっと、俺あんたの事知らないんだけど。何?もし曲者だったら人呼ぶけど。誘拐目的?俺王位はないし、まあ金なら取れるかも知れないけど、父上は結構無常な方だから、俺なんか見殺しにしてもおかしくないぜ?つーか、さすがにお前じゃ俺も捕まんないかも」
 はっきりいって俺に権力はない。俺よか兄上のとこ行ったほうがまだいいと思うけど。
「はぁ?!違うよ!もー、何言ってんの?!」
 …………それは俺の台詞なんだけど。
「何言ってんのって言われたって。あんた誰?」
 そいつは、軽い身のこなしで立ち上がって。親指を自分に向けてにっと笑った。
「俺の名前はナーランジュ・アッ・サラーム!アル・カッハールの聖戦の時にジン(魔人)に姿を変えられ、連れさられた、リドワーンの弟子だ!」
 ……俺は、軽くめまいがした。

王冠と風の物語 3話 

2005年05月12日(木) 21時03分
俺は目の前の事を見守るしか無かった。房はパタパタ動きだし、絨毯の角が持ち上がった。
 なんだ?これ。どうなってる?本当にこれは自分で動いてるのか?糸でもあるかと目を凝らしても、そこには何も見当たらない。やべえ、もしかして本物かよ!
 そのまま飛び上がってしまうかと、俺は焦って「静まれ!」と唱えてしまった。 途端に絨毯は房も動かなくなってしまう。
「本物だろう?」
「仕掛があるんじゃないだろうな?」
「どんな仕掛でこれが動き出す?」
そう言われてしまえば、確かにそうなのだが。疑いたくもなるだろう?
「いらんか?」
欲しい。確かに欲しい。欲しいけど。
「いらんならいい、他の乗り主を捜す。ようやく見つかったのに残念だな、絨毯よ」
……俺を、選んで。絨毯が……。
「わかった!買う!」
迷っていたはずなのに、何故か口がそう叫んでいた。


「結局、買っちまったなぁ……」
 しかも相手の言い値で。くっそ、とんでもない。ま、でも今頃かわいい孫娘に美味いものでも食わせてるかな……まあそんならいいか。
 ごそごそと部屋の隅に絨毯を隠すと、俺は隠してあった普段着に着替える。一応最後位、出とかなきゃまずいよな。宴。
 冷たい水で汚した顔をぬぐうと侍女の声がした。
「あら、ライムーン様。どちらにいらしたのですか?」
 あ、やべ。ばれてたのか?
「あ、ははは。いやちょっと……」
「アッ・ダジャージャ様がお待ちですよ。ライムーン様が自分の誕生日を祝ってくれないと、少し気落ちしていらっしゃいます」
 気落ちするような性格してねーくせに。
「わかった、今から行くよ。ごめんごめん。お前にも迷惑かけたな」
 一応謝って、にっと笑うと、侍女はうっすら顔を赤く染めてぺこりとお辞儀した。

王冠と風の物語 2話 

2005年05月12日(木) 20時59分
おいおい、こりゃ価値ないぜ?紋様はかなり高価な物だが古いしなあ……。
 でも重厚な造りで毛並みもいい。……綺麗にしてやりゃ化けるかも知れない。
「金は?」
「砂金で半袋」
 はあ?!嘗めてんじゃねえ、このじじい!
「買えるか!」
やっぱり単なる馬鹿だったらしい。こんな絨毯銀貨1枚だって出すのが惜しい代物だぞ?
「じゃあな」
踵を返して出て行こうとした俺に、そのじいさんはまた言った。
「空を飛びたいと思わないのか?これはジン(魔神)から貰い受けた魔法の絨毯だぞ?」
……まだ言ってるよ。さっきは泣き落としで今度は魔法かよ!
「じゃあ俺がそれを買えばその絨毯が浮かび出すとでも言うのか?ずっと倉庫の中でしたって感じだけどなあ?」
「こいつが選んだ相手しか俺はこいつを売れない。お前様が買ってくれなければ俺はずっと売れず仕舞いだ!やっぱりジンに騙されたー」
ジンに騙されたと言われてもな。……ちょっと待てよ?
「選んだって何の話だ?」
「この絨毯がいいと言った相手としかわしは商売も出来ん。適当に売ってもいつの間にかこの倉庫に戻ってきておる」
もうろくしてんのか本気か、わからなかったが……興味は惹かれた。別に金が無い訳じゃない。むしろ金は余るほどある。けどな……。
「証拠はあるのかよ」
俺が聞くと、じいさんは俺の手を取った。強引に絨毯の上に乗せられる。
「動け!」
…………。
「動かねーじゃん」
「お前さんが唱えてみなさい。コイツを飛ばすのはそう簡単じゃない」
半信半疑だったが、仕方ない。俺は気合いを込めて「動け!」と叫んだ。
 ……やっぱ動かねーじゃんか。なんか気合入れた分気が削がれたつーか、どうでも良くなって。じいさんに手を振って別れ様とした時に。
「おお見よ!絨毯が!」
またどうせじいさんのたわごとだろ、と横目で絨毯を見ると。え?房の部分がふわりふわりと動いて……る?!
「今風はないぞ」
「分かってるよ!」

王冠と風の物語 1話 

2005年05月12日(木) 20時57分
「空を飛んで見たくないかい?」
突然降って来たその言葉は、すごく俺を引き付けた。


俺は辺りを見回すと王宮の裏庭から抜け出して、隠しておいた庶民の服を着る。
粗末な麻の衣に、固い布で頭を巻き付ける。顔を泥で少し汚せば、どこから見ても庶民の姿だ。
「さ、遊びに行くか!」
俺は立ち上がって笑った。
今日城下は、姉上の誕生祭で盛り上がっている。城でも盛大に宴が開かれてはいる。
 宴には街の権力者もいて王族として繋がりを広げる為にも出た方がいいんだろうけど、王位第16番目の俺が出席してようがしてなかろうが関係ないし、むしろその時間自由になれるから、おれはしょっちゅう抜け出していた。
城下の街はごみごみしてるけど、色んな下世話な事が一々おもしろい。
小さい頃からこうやって抜け出しているから、今更恐さなんかないし、最高の遊び場だった。
今日はどこに行こう。見世物小屋で蛇が踊るのを見ようか。それとも、踊り場で踊ってこようか。
「ちょいとそこのお兄さん?空を飛んで見たくないかい?」
突然、物陰から聞こえたその言葉は、すごく俺を引き付けた。
振り返ると俺に声をかけたのは盲目の老人のようだった。見た感じは人の良さそうなじいさんだったが、この街でいきなり他人の言葉を信じてはいけない。信じたが最後、裏切られるに決まってる。
 だいたい空を飛ぶなんて出来る訳ないだろ?そんな事。俺には魔力もなんも無いんだぜ?
「じいさん、どうやって空飛ぶって言うんだ?」
「簡単さ、魔法の絨毯さえあれば」
…………。
やっぱ馬鹿にしてたな。信じなくて正解だ。
俺は軽く手を振って帰ろうとしたが、じいさんはがしっと俺の手を掴んだ。
「頼む!買って下され!孫娘が腹を減らして待っているんだ!」
最初からそう言やいいのにさ。俺そういう話ってさかわいそうになっちゃってダメなんだよな。
「わかったよ、どんなものだ?ものによっちゃ考えてやるよ」
部屋に飾ってやってもいいし。仕方ねー。魔法と言うからには吹っかけて来るかも知れねーけど。
やがてじいさんが持って来たのは、何年も埃を被って待っていたような、薄汚い絨毯だった。
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