ファム・ファタルの図鑑

August 27 [Wed], 2008, 20:05
一般的に有名なファム・ファタルたちをリストにしてみました。


ファム・ファタルの元祖

オンファーレ ・・・・・性の天国を支配する女王
サバティエ ・・・・・社交界の女王
ジョゼフィーヌ ・・・・・ナポレオンを支配した女性
フィリス ・・・・・知性を屈服させた女
フリュネ ・・・・・ギリシャ最高の花代をとる高級娼婦
ハミルトン夫人 ・・・・・ネルソン提督の永遠の恋人
レカミエ ・・・・・天使の媚び
ロクセラーナ ・・・・・ハーレムの女


ファム・ファタルの典型

イブ ・・・・・蛇の誘惑
ヴィーナス ・・・・・美と愛の女神
キルケ ・・・・・豚になれ
クレオパトラ ・・・・・マケドニア最後の女王
サロメ ・・・・・洗礼者ヨハネの首をはねた女
スフィンクス ・・・・・命を賭けた謎々
セイレン ・・・・・魂を吸い取る美声
デリラ ・・・・・ユダのような女
バテシバ ・・・・・手段と方法を選ばない欲望の追求
パンドラ ・・・・・致命的な好奇心
ヘレネ ・・・・・トロイ戦争を引き起こした女
メッサリナ ・・・・・セックスの怪物
メデイア ・・・・・復讐と嫉妬の化身
メドゥーサ ・・・・・姿を見れば石になる
モナリザ ・・・・・謎の微笑み
ユーディット ・・・・・性の生贄
リリス ・・・・・人類最初の女


小説のファム・ファタル

ヴァレリー・マルネフ ・・・・・プロのファム・ファタル
カルメン ・・・・・炎と風の女
ナナ ・・・・・毒を運ぶ金バエ
マノン・レスコー ・・・・・ファム・ファタルの原型
ロリータ ・・・・・永遠の小さな妖精

ファム・ファタルの子孫

マリリン・モンロー ・・・・・セックスの化身

ファム・ファタルになるためには

April 01 [Sun], 2007, 0:00
ある女性がファム・ファタルになるためには、どのようなものが必要でしょうか。
ちょっとまとめてみました。


●女の側が、男が人生を棒に振ってもかまわないと思うほどの妖しい魅力を持っていること

ファム・ファタルは、男がそのために破滅してもかまわないと思うほどの魅力をそなえていなければなりません。
そういった、天から才能を与えられたとしか思えないような人というのは実際存在はしていますが、ファム・ファタルになるためにはそれだけでは不十分です。
なぜならファム・ファタルとは、男と女の相対的な組み合わせにおいてのみ成り立つものだからです。


●「破滅」する価値のある男と出会うこと

もとから何も持っていない男が「破滅」だなんて言っても、たかが知れています。
「破滅」という名前に相応しい落ちぶれ方をしなければお話になりません。
そのためには、男の側は、とんでもない権力者であるとか、とんでもない財産を持っているだとか、とんでもない美青年で、将来も有望であるとか、ものすごい知性や才能の持主であるとか、そういったような、多大な賭け金を持った人物である必要があります。


●運命のいたずらとしか思えないような運命的な出会いをすること

「宿命の〜」というくらいなので、運命的な出会いは必須です。


●女性に対するギャラントリーが前提になっている社会であること

男尊女卑の観念が染み込んだアジア的儒教社会や、一夫多妻のイスラム社会などでは、女が主導権を握って男の鼻面を引きずり回す類の恋愛の型は生まれない。
せいぜい不倫物語くらいにしかなりません。
さらにはあったとしても、表面には出てきにくいようです。
というわけで、ファム・ファタルはギャラントリーが前提になっているヨーロッパ型の社会に出現しやすいようですが、なかでも恋愛が人生の最大の感心事であるフランス社会はかなりぴったりの環境なのだといいます。


これらの条件をみると、とても面白いな、と思います。
どこがかというと、ファム・ファタルというものはそういう絶対的な女性がいることによって成立するのではなく、色々な条件が重なり合った結果、やっともとからその素質のある女性がファム・ファタルに変化できる(だから環境によってはファムファタルになれずに終わることもある)、というところです。

もし絶対的な女性にしかファム・ファタルになれないのだとしたら、それは「ああ、その方がファム・ファタルですか」で話が終わってしまいます。
けれど色々な要素が絡み合ってなるということだと、どうやってそうなったのかとか、カップルによってもその状態は様々だろうし、何より人間というものの習性について色々な姿で観察することができそうだから、とても深みを感じるのです。

ひとつ残念なのは、ファム・ファタルは日本の社会では成立しにくいらしいということでしょうか。
確かに日本では、そういった女の人に対して、外から重圧かかかるような仕組みになっているように感じます。
偉人について考えたりするときに時々感じるのですが、世界の女性にはこちらが驚くほどの残虐非道さをもった、スケールの大きい悪女などがいたりするのに、日本の悪女について調べてみると非常にスケールが小さかったりする。
そういった現象も、何かそういった社会の構造とも関係しているのかもしれません。

宿命の女とは何か

July 31 [Thu], 2008, 22:00
ファム・ファタル・・・日本語ではこれを「宿命の女」と呼びます。
ファム・ファタルとは、19世紀末、ヨーロッパで大流行した妖婦型の女性のこと。
その様子は、世紀末の象徴主義、耽美主義の文学や美術でうかがい知ることができます。
19世紀の芸術家が発明したファム・ファタルは、大衆の間でも大流行し、例えば、

長くたらした髪
蜜蝋のような肌
血の様に赤い唇
とろんとした瞳


といったような、ファム・ファタル風のイメージを演出するためのファッションや化粧法が流行ったのだといいます。
現代にもこういった現象はよくありますが、街を行き交うご婦人方が、みなこのようなムードで歩いていたのだと思うと、何だか笑ってしまいたくなりますね

宿命の女、という言葉を聞くと、よく巷で言われているような「運命の赤い糸で結ばれた」カップルのようなものをつい思い浮かべたくなってしまいますが、ファム・ファタルはそういった安っぽいもの(失礼!)とはまるで違うように思います。
というのも、「ファタル」には「宿命的・運命的」という意味のほかにも、「致命的・命取りの」という意味も含まれているからです。

ラルース大辞典では、このような定義付けがされています。

「恋心を感じた男を破滅させるために、運命が送り届けてきたかのような魅力をもつ女」

ここからまとめてみると、ファム・ファタルとは、その出会いが運命の意志によって定められていると同時に、男にとって破滅をまねくという項目が二つ揃うということが重要なのだということがいえそうです。
つまり、男にとってみれば破滅を招くことがわかっていながら(下手をすれば命さえ危ないとわかっていながら)、それでもその男が恋にのめりこんでいってしまうほどの魅力を持った女ということです。

ちなみにこの「ファム・ファタル」という言葉を聞いたとき、そこからかもし出される雰囲気とはどのようなものなのでしょう。
私は日本人なので、フランス男性の感覚というものはまるでわかりません。
日本人にもそれを感覚的に想像させてくれるよい文章を見つけたので、少し引用してみたいと思います。


ファム・ファタル(femme fatale)。
なんと妖しげで美しい響きをもった言葉でしょうか。
カタカナで書いてさえ繰り返される「ファ」の頭韻が耳に快く響きます。
 ましてや、フランス語のfは下唇を上の歯で軽くかむ音ですので、
femme fatale と、二度fの音が繰り返されると、まるで女性が性的エクスタシーに達する直前、その快楽をこらえるかのように唇をかんでいるイメージが湧いてきます。
そして最後にfataleの二度のaで大きく唇が全開になると、女性がエクスタシーに達して、歓喜の吐息をはきだした姿を連想せずにはいられません。
 つまり、フランス語で発音されるファム・ファタルは、その唇の動きからして、相当にエロティックな言葉なのです。
 ですから、フランスの男性は、このファム・ファタルの言葉を耳にすると、さながら空中に蠱惑的な女性の唇がポッカリと浮かんで、自分に誘いをかけているような気さえするようです。
それは、ファム・ファタルそのもののように男を誘惑する言葉、一度耳にしたら最後、その魔力から逃れることはできない言葉なのです。

                          鹿島茂『悪女入門』より



ところで、ファム・ファタルのこのイメージは、19世紀末に一時的な旋風をまきおこしただけでは終わりませんでした。
今日、映画や広告でもよく目にする、性を商品化したセクシーな女性像は、ファム・ファタルという女性像からの影響が大きい、というふうにも言われているようです。

セックスの化身
マリリン・モンロー


日本の雑誌や本でも、小悪魔だとか悪女だとかに憧れを持っているような描写が見られることがよくありますが、それもこういったところからの影響だったりするのでしょうか。
ファム・ファタルに比べると、それらは大分デフォルメされているようにも思いますが・・・。

パンドラの可愛らしさ

May 08 [Thu], 2008, 1:37
「パンドラの箱」で有名なパンドラは、その姿を沢山の画家によって描かれてきたけれど、私はこのパンドラがとても好きです。

アルマ・タデマ 「パンドラ」1881
紙 水彩 26×24.3p



ちなみにパンドラの箱とは大体こんなお話です。


パンドラの箱の神話

プロメテウスが神々に黙って人間に火を与えてやったことでゼウスが激怒し、それによってゼウスは、恐れ多くも神を侮った人間に対して罰を与えてやろうと決意します。
そこでゼウスは、まず鍛冶屋の神ヘファイストスの手を借りて、絶世の美女を作り出します。
そしてアテネは女を飾る腰紐と王冠を、アポロンは音楽的才能を、季節の女神たちは花飾りを、アフロディーテは嬌態と欲望を、ヘルメスは嘘と恥を知らない心を彼女に植えつけました。
こうして男性が決して抗うことの出来ない魅力を持った創造物を、ゼウスはプロメテウスの弟、エピメテウスに贈りつけます。
そして神々の思惑通りにパンドラの魅力の虜になったエピメテウスは、兄が止めるのもきかずにパンドラを妻にしてしまいます。
なんともまあ回りくどい復讐のようですが(笑)、ここが肝心、エピメテウスの家には何と、人間に害を及ぼすいくつもの災いを閉じ込めておいた箱があったのです。
エピメテウスも少しいやな予感がしたのか、妻に「この箱だけは絶対に手を触れるな」と注意しました。
けれど、欲望とは禁じられれば膨らんでいくもの。
パンドラはついに好奇心を抑えきれなくなって、その箱を開けてしまいます。
ところが、パンドラがその箱を開けた途端、人間を苦しめるありとあらゆる疾病や災いが次から次へと飛び出てきます。
驚いたパンドラは慌てて蓋を閉めましたが、人類を苦痛と破滅に追いやる災いは、ほとんどが箱から出た後でした。
たったひとつ、箱に残っているものがありましたが、それは「希望」。
このため人間は、苦しい現実の中でも勇気を持って生きていくことができるのです。
そしてこのようなパンドラの軽率な行動のために、男たちは一生苦痛や災いの不安の中で生きることになったのですが、パンドラの魅力があまりにも強いために、男たちは喜んでその中に身をおくのでした。



とまあ、こういった妖婦的な「パンドラ」像のために、パンドラの絵は肉感的でセクシーなイメージの強いものが多い気がするのですが、私はこの絵に関しては少し受け取るイメージが違う気がするのです。
何だかこの絵は、パンドラが子供のように無邪気で無心になって壺(パンドラの箱は、壺で描かれることも多い)を覗き込んでいるように見える。
そんな純粋な好奇心がとても可愛らしい。
全くセクシーな要素がないといえばそんなことはないと思うのだけど、そのセクシーさが、海や海の娘といったような形で、暗示的なところにとどまっているのが良い。

肉感的でセクシーなもので抗えなさを表現されてしまうと、どうしたって女性は、男性よりもその絵から受け取れるイメージの強度が劣ってしまうところがあると思うのですが、このパンドラは子供のような可愛らしさを備えていることによって、私のような立場でも簡単に抗えなさを想像できる感じがとても好きなのです。
まあ難しいことを言わなくても、単にこのパンドラ、とても可愛いと思うってことなんですけどね。もう大好き

セイレン

April 12 [Sat], 2008, 3:55
セイレンと言われる、不思議な海の生き物がいます。

ウォーターハウス「マーメイド」1892-1900
カンバス 油彩96.5×66.6p

セイレンとは普通、上半身が美しい女性で、下半身が鱗をもつ魚の姿をしていて、魅惑的な声を持ち、歌を歌うことによって男性を誘惑するという生き物のことを指しています。

セイレンが一般的に人気者になったのはアンデルセンの『人魚姫』のおかげですが、セイレンというものははるか昔から存在していました。
ただし最初は魚の姿ではなく、女の頭と鋭い爪をもつ鳥の姿で描かれていたらしい。

ベックリーン「海の静けさ」1886-87 テンペラ 150×103p

ところで人魚はよく、男性の無意識中に潜在する性欲を象徴しているなどと言われます。何でも精神分析学では、人魚は女性の原型なのだとか。
それは、人魚の上半身は魅惑的な裸で、男性をこの上なく興奮させるのにもかかわらず、あまりにも冷たい尾ひれは、性交できないことをそのたびに思い起こさせる、ということからきています。
人魚というものは、誘惑と同時に拒否を、決して満たされない性的渇望の対象である女性を、隠喩的に示しているというのです。
確かに、昔からセイレンについて書かれた文などを追っていくと、そのような像が浮かび上がってきます。

ポール・デルヴォー『満月の下のセイレン」1940 木 油彩 77×131p


あなたはセイレンが住む島を避けて通ることができません。
彼女たちの歌を聴いた人は誰もが魂を奪われることでしょう。
セイレン姉妹は草むらに座って甘い声であなたを呼びますが、
その草むらの川べりはどこもかしこも死の影に覆われたまま、
死体の骨と肉で腐りつつあるといいます。
立ち止まらずに島を通り過ぎねばなりません。
蜜蝋を練って、漕ぎ手の耳をしっかりと塞ぎなさい。
誰もその歌を聞かないようにです。
しかし、本当に心からあなたがその歌を聴きたければ、
まず体をマストにしっかりと縛りつけておかなければなりません。

                        ホメロス『オデュッセイア』


あの白骨と死体で覆われた陰惨な島に、浅薄な歌を楽しむ美しい女が住んでいる。
彼女はそこで歌を歌う。
歌が聞こえないところにあなたの舟を漕いでいきなさい。
その歌は生命を脅かすほどに致命的なためだ。

                   クレメント(アレクサンドリアの司祭・150~215年)


悪魔がよこした最後の餌は女だ、その女こそはセイレンだ。
                    マルボード司教(1035~1123)『娼婦について』


上半身だけはどんな男でも抗えないほど、この世で最も美しい存在
                      1210年 ギョーム・ルクレール(イギリスの詩人)


セイレンは男を眠くさせて自分のそばに連れてきて同衾することを強要したのち、
拒否すると彼を殺し、その肉を齧る妖怪

                       1230年 バーセルミ(イギリス人)


船は教会を隠喩し、海は地上の生であり、オデュッセウスの帰郷地は永遠を意味する。
オデュッセウスは人間の霊魂を、セイレンは男の人生においてぶつかる多くの危険と誘惑を象徴する。

                              キリスト教の解釈

どの文献でも、セイレンの致命的な魅惑を警告し、男達は淫蕩な女によって地獄に突き落とされるのだ、という部分を強調しているように見えます。
この不必要なほどの怯えっぷり。
これらを見ていると、セイレンとは私たち女性のものではなく、男性の作り出した、男性のためのモチーフなのだといえそうです。
何故なら女性本人では、自分のことをここまで怯えたくても怯えられないから(笑)
そういえば女性が作った、女性のための男性モチーフって、何かないのでしょうか。
あったらどんなか見てみたい。対比してみるととても面白そうです。

マグリット「集合的発明」1935 カンバス 油彩 73×116p

ところで『人魚姫』ですが・・・。
私が思うに、人魚姫は、おとぎ話によく出てくるような、古き良きお姫さまとはちょっと違ったタイプの女性に感じます。
人魚姫は、自分で王子様を助けるし、自分で声を捨て、それと引き換えに足を手に入れる。
いつも王子様を待ってばかりいる典型的なお姫さまと、一味違う気がする。
お姫さまにしては、あまりに積極的です。
確か『人魚姫』は19世紀の作品で、その頃は一番男女の役割分担が激しかった時代だと聞いていますが、意外とこんなところに、現代の女性に通じる芽があったということなのでしょうか。
なかなか興味深いです。
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(harpsichord, organ and viola da gamba)
 

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  • ニックネーム:mashiron(真城七子)
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ましろ・ななこ
作家/ライター
ドロッセルマイヤーズボードゲームマート副店長/株式会社ドロッセルマイヤー商會取締役

武蔵野音楽大学音楽学部器楽学科卒。専攻はフルート。
西洋音楽について勉強するかたわらで、西洋音楽を内部から作りあげている西洋(特にフランス)の歴史や文化、美学などに強い興味を抱くようになりました。
以来、西洋文化を中心に「遊び」や「フェティッシュ」に関するものを蒐集、執筆活動をおこなっています。
主な著作は『宮廷マダムの作法』など。
ドロッセルマイヤーズボードゲームマートの副店長、店舗内装、世界観演出、展示会への参加、オリジナルボードゲームの制作など、ジャンルにとらわれず色々活動しています。

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ナチュラルなものや、やわらかくて温かいものは、本当は嫌いではありませんが、ここでのフェティッシュ的感性にはあてはまりません。

●強固な世界観があること

個の輝きの強いものに惹かれます。
現実の、よく知っているものとは全く別次元の、別の法則によって作られたものが大好きです。
しかもその世界観が強固であればあるほどしびれます。
理想郷というものにも似ているかもしれない。

●コレクション、陳列、カタログ的なもの

厳選されたものが沢山並んでいる状態を見ると震えます。

以上、とても個人的なものなので、偏りや思い込みが激しいことも沢山あるかと思いますが、もしよかったらおつきあいくださいね。
よろしくお願いします。
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