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January 24 [Tue], 2006, 18:16
女生徒は亮に傘を押し付けた。


「そんなん使えん。・・っておい!!」


傘に目を奪われていた隙に彼女は亮の脇をすり抜け、気付けば門の近くまで走り出していた。
亮も慌てて追いかける。
足には自信のあった亮だったが、走る彼女になかなかおいつけない。


「ちょ、ちょお待てやコラ―!!」


雨足が激しくなって、ちょっと声を出したくらいでは声が届かない。
亮は息を上がらせながら怒鳴った。
やっと気付いた女性徒。
亮が走って追いかけてくるのに一瞬ギョッとした表情をしたが、足は止まらない。


「ほんとに家すぐなんで、大丈夫ですってばー!」

「アホか!風邪引くやろ!返す!!」

「いりません!そっちこそ風邪引くから使ってくださいー!!」


使え、使えない。
返す、いらない。
そんなやりとりを走りながらどれ位走っただろうか。

2人は全力疾走しながら公園にさしかかった。
足元はさしずめ雨でぬかるんだオフロードコース。


足元悪っ!!転んだら最悪や。


そう思い、亮が一瞬前方から目を逸らした時だった。


「っうわ!っと!!!」


女生徒が公園の出口に向かおうと急カーブした所で、足を取られてバランスを崩した。
転ぶかと思われたが、彼女は随分身体能力が高いらしく、危ういながらもなんとか転倒を免れる。
その隙にと、亮はラストスパートをかけた。


「っはぁ、はぁ・・っやっと、捕まえたで。」

「はぁ、つ、捕まっちゃいました。」


はは・・と苦笑いを浮かべる女性徒。

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January 24 [Tue], 2006, 18:13

朝からこんなカンジでバタバタと過ごしていたせいで母親の愛情がこもった弁当を忘れ、昼は購買でパンを買ってやり過ごした。
そして放課後、今週は掃除当番にあたっていたため教室の掃除を終えて、靴を履いてさて帰ろうとしたところで地面を濡らす雨に気がつく。
しかもけっこうな大粒の雨。

弁当を忘れた亮が当然折り畳み傘など持っているはずがない。

これは濡れて帰るしかなさそうだ。
チッと舌打ちをして一歩雨の中に踏み出した時だった。


「ぁ、あの!!」


聞いた事のない声。
不審に思いつつ、亮は後ろを振り返った。

実はこの三姉弟、無駄に顔のいい父親と親しみ易い顔立ちの母親の血を受け継いでいるせいかやたらとモテる。
大阪の学校でもそうだったのだが、なにかあるごとに自分に色目を使ってくる女子が亮はあまり好きではなかった。

けっして女の子がキライなわけではない。
タイプの問題なのだ。

自分から積極的に近寄ってくる女というのは、なんというかギラギラとしていて好感が持てない。
一途に思いつつも胸に秘め、陰から見守ってくれている。
そんな昔ながらの純情可憐で1本芯の通ったような女の子が好きなのだ。
横山亮、なにげに乙女思考である。

ともかくそんなわけで、大阪+転校生+時期外れ+姉弟+美形という肩書きでなにかと言い寄られることの増えた今日この頃。
赤の他人から話し掛けられるのに多少ならずと警戒するようになっていた。

振り返った先にいたのは、サラサラな茶色の髪を短く切った女子生徒だった。
怯えたような瞳でこちらを覗っている。
もちろん見たことのない顔だ。


「あ、あのこれ使ってください。」


ずいっと赤い折り畳み傘を目の前に差し出された。


「・・お前傘2つ持ってるんか?」


亮の問い掛けに、女生徒はフルフルと首を横に振る。
それではダメではないか。
言う前に女生徒は気がついたのか、慌てた様子で言葉を繋ぐ。


「あ、あの僕家すぐそこだから大丈夫なんですよ!だから、その、使ってください!!」


有無を言わさず彼思わず傘を受け取ってしまったが、これでは代わりに彼女が濡れてしまう。

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January 12 [Thu], 2006, 21:01
そんなわけでいつもよりだいぶ時間をオーバーして準備を終えた亮。
せっかく用意してもらった朝食も食べる事が出来ず、走って駅まで。

しかしついていない時というものはとことんついていないものと相場は決まっている。

いつも乗っている時間の電車は目の前で扉が閉まり、微妙に恥かしい思いをするはめになってしまった。(閉まったドアの向こうですばると章が大笑いをしていて恥かしさに更に拍車がかかった)

それはまぁしょうがないものとして、次の電車を待った亮だったが一向に電車が来ない。
どうやら前の駅で誰かが線路に物を落としてしまったようで、そのため電車が遅れているというのだ。
亮は普段から登校時間は「早すぎず、遅すぎず」を心がけている。
思い切り電車が遅れてしまえば遅延届がもらえていくらでも電車を待ってやったのだが、間に合うか間に合わないかのギリギリな所で電車が動き出してしまったのでたちが悪い。

イライラしながら電車に乗り込み、目的駅についた所でまたダッシュ。

したにも関わらず、門に入った瞬間にSHRのチャイムが鳴りだし亮は走るのをやめた。
転校2ヵ月目にして早速の遅刻である。

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January 12 [Thu], 2006, 20:58

10代のキラキラと輝く期間は驚くほどに短い。
高校生活3年間なんていうものはその中でもあっという間。

大阪からやってきた季節外れの転校生3姉弟もなんとか新しい学校に馴染み始め、制服は真新しいブレザーになった。
気付けば穏やかに晴れた5月は過ぎ去って、どたばたと試験期間を終えれば7月。
7月といえば暦の上では夏まっさかりだが、実際はそうでもない。
どんよりと空は曇り思い切り梅雨空だ。

そんな中、雨を睨んで舌打ちをする男子高校生あり。


「あー。なんで今日に限って傘持ってないねん俺。めっちゃムカつく。」


言わずと知れた横山家の長男、亮である。
1人なので心の中だけで叫び、代わりに眉間に思い切り深い皺を刻む。
今日は朝からついていなかった。
目覚し時計代わりに携帯のアラームを使っている亮だが、昨晩携帯をマナ―モードにしていたのをすっかり忘れ、危うく寝坊しかけたのだ。
定刻になってもリビングに現れない亮を不思議に思い、ヒナが起こしに来てくれた為なんとか間に合う時間に起きれたのだが・・・


「だー!!邪魔やお前ら!!!ちょっと洗面所空けろ!」


イライラとして声を上げる亮の目の前にはくるくるドライヤーで一生懸命髪に癖をつけている章と、鏡を無くしたとかで洗面所の鏡でバチバチの目にさらにマスカラを塗るすばる。


「今いいところなんよー!ちょお待ってぇ!」

「女は色々時間かかんねん!こっちのが先使ってんやから待っとけや!」


学園地獄04 

January 05 [Thu], 2006, 14:57
違和感である。

なんだか好きになれへん!!

と、すばるは声を大にして言いたい。(むしろ実際言った)
しかし次女の章はというと、すばるとは違い新しい学園生活に胸を躍らせていた。

もちろん関八高校は大好きだったし、仲のいい友達たちと離れるのは寂しかった。
でもそれはそれとして、また新しい学校では新しい学校なりのいい所があるし、気の合う仲間ができるはずである。
母親に似てポジティブシンキングなのだ。

きゃいきゃいと、それぞれの意見に話を咲かせるすばると章。

その後ろから亮は黙って付いて行く。
決して無口な性質ではないのだが、長女と次女の話がヒートアップし始めるとなかなか話すタイミングが掴めないのだ。
それに自分はある程度聞き役に徹して、要所要所でツッコミを入れるのが適役だということを自分で理解している。
まさしく今がその時だ。


「お前ら、どこ行くつもりやねん。」


亮の言葉にピタリと歩みとお喋りを止める2人。


「下駄箱向こうやぞ。」


報道学園は3学年6クラス制で生徒数が多い。
否、関八の人数が3学年2クラス制という、少子化の波をモロに食らった少なさだったのだ。

だから靴箱は2年と3年隣同士だったので、その習性で2人揃って歩いていってしまった。


「あはは、僕めっちゃ無意識だったわー!」


東京のガッコはやっぱちゃうなぁ、と章は零し、3人はそれぞれの靴箱に向かった。


学園地獄03 

January 04 [Wed], 2006, 19:49
「絶対無理やっちゅーの!!ってか勝手に決めるなって話。」


すばるはグロスの塗られた下唇を突き出して顔を歪める。
章はそんなすばるに苦笑いを零して、話題を変えた。


「大阪では中学校も高校もセーラーやったから、ブレザーって嬉しいね!」

「・・・すばちゃんセーラーのが好きや。」


完全に御機嫌斜めなすばるは、そっけなくそう返す。
三人が通っていた関西第八高等学校、通称「関八」は黒のセーラーにエンジ色のリボンと、今時珍しいほどのセーラー服の基本形を守っていた。
当然男子はオランダ式学生服、学ランだ。

関八は創立50年を迎えた由緒ある学校で、今は校舎もボロくなり、学生の風紀は乱れてご近所からの苦情はよくあることだったが、すばるは関八が好きだった。
古い木造の校舎の誰もいなくなった教室から、机に座って1人で橙色から紫に変わる空を見ているのが大好きだった。

それなので、報道学園のようなまだ新しい立派なコンクリート校舎には違和感がある。
報学は4階立て校舎で屋上にプール、各教室に冷暖房設備、中庭は広くオブジェが立てられた完璧な近代的校舎である。
制服は紺色のブレザー、グレー地に青、水色、黒のチェックのプリーツスカート。
男子は同色のスラックス。
胸には報道学園のエンブレムが刺繍され、襟元に金色の学年バッチが付いている。

☆学園地獄☆02 

December 26 [Mon], 2005, 22:06

双子の成績は以外によく、ある程度の都立高なら余裕で受け入れてもらえるものだったが。
問題は長女のすばるだった。
サボり癖が激しく、いつもギリギリのラインを渡っている成績。
気づけば双子と長女の偏差値には断絶ができ、都立では一緒の高校に入ることは到底無理な状態に陥っていた。

急な転勤による季節はずれの転校。
親の都合でまた新たな友達や生活を築いていかなければいけない子供たちに、両親はせめてもの償い的な意味を込めて一緒の学校に通わせてやりたかった。
ぶっちゃけ一緒の学校に入れてしまえば制服や学校行事の面で楽だという意味合いもあったが、慣れない学校生活の中で姉弟がいれば心強いであろうという親なりの気遣いなのだ。

しかし偏差値の都合上、都立高校は難しい。
そんなわけで両親は苦悩の末、3人を私立校に入学させることにした。

学校の名前は「私立報道学園」。
通称「報学」と呼ばれていて、校風は「新しい情報を積極的に取り入れ、個々の能力を無限大に伸ばそう」。
私立の特権なのか、入試にはさほど力は入れておらずどんな生徒でも受け入れる体制をとっている。
そのため姉弟たちは晴れて一緒の学校に通うことができるようになったのである。
ちなみにこの学校は大学付属でもあるために、すばるは母親からある約束をさせられていた。


『せっかく高い金払って大学付きの私立校に行くんやから、ある程度勉強して、ちゃんと内部進学するんやで!!』


というものである。

☆学園地獄☆ 

December 26 [Mon], 2005, 22:03

「・・・なぁ、なんや僕たち目立ってへん?」

「お前がピンクのコンバースなんか履いとるからやろ。」

「えー、ちゃうよぉ!すばるくんのルーズがアカンねんて!!今時ないやろソレー」

「うっさい!セーラーにはルーズが1番合うんじゃヴォケ!!お前こそそのカバン絶対アウトやで。悪目立ちしまくりや。」

「えー!嘘やん!!コレめっちゃ可愛いやんかぁ!」


そんな会話を繰り広げるすばると章。
その後ろから1歩距離を置いて、ついていく亮。


「制服が違うから目立ってんのやろ。」


呟いた声は2人には届かなかったようだ。

横山一家はゴールデンウィークを使って晴れて東京に越してきた。
大阪では一軒家で暮らしていたが、こちらでは社宅に入ることになった。
家族のために節約命の母なのだ。
当然子供たちは学費が安い都立高校に行かせたかったのだが・・・。


「でも3人一緒の学校行けてよかったなぁ♪」

「・・まぁ、親がそれなりに苦労したみたいやからなぁ」


呑気に♪付きでご機嫌に校舎を見上げる章と、その隣でわけありげな笑みを浮かべる亮。
すばるは2人の後ろで小さく悪態をつく。

きっかけは・・・03 

December 22 [Thu], 2005, 20:13


「あのブランドの本店って、確か東京にあったよな?」

「それよりもあれやん、すばるくん!デズニ―ランドや!デズニ―!!」

「・・あれ千葉やんか。しかもネズミの化けもんや。」

「亮は黙っといて!」


すばるはソファに腰かけながら、しきりにファッション誌を眺めている。
章は慌ただしく食卓を拭いたり箸を並べたりしながらネズミの国のパレード曲を口ずさみ、亮は「あのネズミのどこがええねん」と毒づきながらも章を手伝っている。
ヒナは一瞬何が起こったのか理解ができずにいたが、子供達の様子からして東京に行く気マンマンなようだ。


「・・お前ら、引っ越すかもしれんけどええの?」


3人に問い掛ける。
3人はピタリと動きを止めてヒナを見つめ、各々に口を開いた。


「ええもなにも、行くしかないやん。アイツ1人で東京なんて行ったら死ぬで。」


と、すばる。


「そりゃあ大阪好きやし、友達と離れるのもイヤやけど、家族バラバラなんてもっとヤやもん!」

「ってか向こうに1人で行く気でも、こっちが心配で行かせられん。」


素直な章と、テレ隠しの亮。
ヒナは改めて子供達がまっすぐ育ってくれた事を嬉しく思い、とりあえず側に居た章を抱き締めた。


「そうやな、みんなで東京ついてったろ!!」


一時はどうなることかと思った『転勤』も、どうやら家族で乗り切れていけそうだとヒナは胸を撫で下ろした。
この転勤が栄転だと気付くにはもう少し後の話になる。

きっかけは・・・02 

December 22 [Thu], 2005, 20:11


「ここで騒いでてもしゃーない!晩ご飯食べながら話し合お!」


ほらほら、とヒナは子供達をリビングへ追いやった。
自分もご飯の用意をしなければとリビングへ行こうとしたその時に、後ろから弱弱しく声をかけられる。


「・・ヒナ。」

「んー。何?」


振り返れば大分元気を無くした裕。


「なんなら俺、単身で東京行くってのもありやから、その・・・まぁどっちにしろお前に迷惑かけるんには変わりないけど。」


ごめんなさいと頭を下げた。
決して自分は怒ったわけでも、迷惑とも思っていないし裕を1人で単身赴任させるなんて思ってもみなかった。
むしろこれから1番大変なのは裕本人のはずなのに、家族を気にして頭を下げている。
ヒナは無性に心が温かくなって、思わず裕の頭を撫でた。


「・・ヒナ?」

「手洗って早よ着替えといで。その話はみんなでゆっくりしよ?」

「・・・おん。」


寝室に裕が消えるのを見送って、ヒナもリビングへと足を向けた。
先程裕本人の口から単身不審という言葉が出たが、とてもじゃないがそんなことさせられない。
寝起きが悪くて、忘れ物が酷くて、家族大好きで。
そんな裕が東京で1人暮らしなどできるはずがない。
それに・・


「こっちだって無理やわ。」


住み慣れた大阪で、愛する子供達と一緒に暮らせたとしても愛する旦那がいない。
そんな生活とても耐えられそうにない。
裕に、すばるに、亮に章。
全員揃ってこその家族であって、1つの幸せなのだ。
そうなれば子供達には可哀相だが、一家揃っての引越ししか方法はない。
それをどう切り出せばいいだろうか。

ヒナは少し頭を悩ませながらもリビングの扉を開く。
途端に聞こえてくるかしましい声。

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