弁当箱 (赤)

November 03 [Mon], 2014, 1:36
転校してきた私の弁当は変わってると言われる。
どれ位かと言うならば、教室で食べようものならクラスメイト全員が悲鳴をあげ、先生は引きつった笑いでそのまま出て行き、飼っている動物がケージの中で酷く怯え、どこへともなく逃げようとする。その位に。
私としては何も変哲も無い普通の弁当なのだから、その様な態度を取られてもどうする術もない。しかし未だこの一件で仲良くなれないクラスメイトに思わぬ迷惑を掛けるのは気が苦しい。

ならば仕方ないと、昼休みが始まると同時に私のお弁当を持って立ち入り禁止の屋上へ走る。それが私の日課。

屋上でお弁当を食べるのは浪漫だとか前の学校の友達は話していたが、食べようとすると空から降り注ぐ光は熱と紫外線を伴ってジリジリと私の肌を焼いていく。食べる為には日焼け止め必須で面倒であることを伝えると顔を顰めて

「夢がないわぁ...」

と言われた。そんなこと言われても。

走った為に息を軽く切らして屋上へ続く階段を上りきる。...知らない女子生徒が入口のドアの前で座り込んでいた。邪魔である。

「すみませんが退いてくれません?」

「ああ、やっと来たんだ
もー待ってた待ってた」

...会話不成立。そもそも弁当で叫ばれる私はこの学校から合わないのだろうか。先程の発言からの不審感から軽く睨みつつ、頬に伝う汗を拭った。
すると女子生徒は立ち上がって、やけに長いスカートをはたいたと思ったらしっかりとこちらを向き、睨みなど欠片も気にせずニッコリと笑った。

「ねえ、変な弁当持ちって君の事だよね」

「些か納得がいきませんが、まあそうでしょうね」

そう答えると女子生徒はまた笑った。

「あのさあ、一緒に食べても良いかい?」

「また何故?どうせ貴女も悲鳴をあげるのでしょう?」

「まさか」

ここで初めて私の発言に対して女子生徒は苦笑いになった。そういう表情も普通にするのだな、と思っていると彼女はいきなり私の腕を取り引っ張って、壊れたドア(壊したのは私だが)を蹴り開けた。

「いきなり引っ張らないでくれません?」

「いい天気だ、さー食べよ食べよ」

「人の話聞いてるんですか
.......ていうか悲鳴本当にあげませんよね」

一緒に食べたいと言っておきながら、横で叫ばれるのは余りに酷い話だ。やはり汗とは違って不審感は簡単には拭えず、念には念を入れて聞いた。すると彼女は先程の問いかけの際の表情とは打って変わった笑顔で答えた。

「あ、一緒に食べるのは良いんだね
だからそんな事しないって」

「はぁ、それ本当なんだか」

「はいはい、座った座った」

彼女は壁に背中を預け、こちらへ来るようにと手を振った。
...ここまできたら引き下がれない。というより、元より彼女と同伴して食べるよりほか選択肢は無かったのだ。同伴せずとも彼女の居る屋上で食べるだけの話で、大して変わりない。それに教室に、私の居場所はない。そう考えるともう取る行動は1つだった。

私の脚は彼女の隣で止まり、静かに腰を下ろした。何故か、彼女の存在がそうさせていたのか、安心する隣だった。心を占めていた不審感は、何処かへ消えていった。

「さっさと弁当食べよ」

「...ええ、そうですね」

次に心を占めたのは、緊張感。
どんな反応が来るのか、ドキドキしながら弁当の包みに手をかけた。彼女の視線はガン見されているのか、それとも興味無さげなのか。そもそも彼女はここに来る前の発言で変な弁当持ち?と聞いていたんだ。ガン見しているんだろうなあ、嗚呼。もう彼女の視線も息遣いも、私の思考も弁当の中身も、何も分からない。

どうせ叫ばれるんだろうなあ。
私は覚束ない思考の中、震える手で包みを開けた。

「なんだ、やっぱり普通の弁当じゃん」

「.......は?」

妙な安心感と共に、固まっていた首をグギギと回し彼女を見た。
彼女は弁当を一瞥した後、自らの弁当を開けていた。そしてそれをこちらへ向けた。

「ねえこの弁当さ、普通?」

「え、ええ私には普通に見える」

「......そう、よかった
ところでいい天気だね?」

「......一体何が言いたいんです」

私のを見て感想を言ったと思ったら、質問を投げかけてきて、それに私が答えたと思ったら、いきなり話が変わって。


「いい天気だろ?星がたくさん降ってくるような景色、地球じゃこれは見られないね
日焼け、まあ星光焼けはするんだけどさ」

「...まさか」

「うん、君より早くここへ来たよ
勿論地球から」

「...」

「景色はこれ程までに美しいってのに
ここの星の学校のやつらは美しくないよね
まあそりゃこの星の常識と地球の常識とじゃ差があるのは仕方ないけどさあ...」

心にストン、と落ちるように話す彼女の言葉は、私のよく知る言葉で、イントネーションで。私の俯く頭を撫でている手は、私のよく知る形で、暖かさで。
さっき小さく感じた安心感が緊張感を上塗りしていく感覚。それが胸から、身体中に広がって、終いには目から口から零れ出そうで。

「転校してきたって話、知らなくてさ
噂が学年越しに来るのも遅い訳でさ」

「1人にしてごめんね、寂しかったね」


私はぐしゃぐしゃになった顔をあげた。その時歪んだ視界で見えた彼女の方こそ、ずっと寂しそうな顔をしていた。まるで、燃え尽きた星のような。

今度は、私が救いあげなきゃ。

「...先輩、明日から一緒に、食べてやってもいいですよ」

「...そう?優しいね君は
それじゃこれから毎日頼もうかな」

「全く、情けないっ、先輩ですね」

「はいはいそうだね、情けないねー
あ、君のその玉子焼き貰っていい?」

「...あげませんよ
せめて交換、交換で手打ちましょ」

「交換。そっか、交換ねぇ」


そう言った先輩の目から小さくキラキラと星が、空に溶け込んでいった。
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