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おとなの小論文 / 2005年03月16日(水)
だけどこの5年間、結果的に、私の航路を進めたものは、
「自分がずっとやってきたこと」の価値に気づくことと、
それを人に「伝える」ことだけだった。
クサイ言葉だが、思えば自由への鍵はそれだった。

だから私は、5年前の自分に言いたい。
新しい価値を探し歩くな、
自分のいままでやってきたことにこそ価値がある。
自分を信じて「伝えろ」と。

仕事を探すな、仲間を探すな、売り込むな、
自分の考え、自分の想い、自分の目指すところを、
どうにかして人に「伝えろ」、「伝えつづけろ」、と。

伝えつづけていれば、必ず思う道に出られるから、と。

 
   
Posted at 15:30 / ことのは―制作ー / この記事のURL
さよなら妖精5 / 2005年03月12日(土)
p280
……おれはこのとき、上の空だった。
上の空というか、茫然としていた。思考を経ずに回答を悟る、知的瞬発。望んでもそうは得られないそれが、ほんの一瞬だけ、おれに訪れていた。

P300
どのような反応が、正常だったろう。
文面はまだ続いていたが、それ以上は読めなかった。マーヤ、やや幼さの残る容貌、特徴的な力強い眉、黒い眼、黒い髪。
首!なぜ首に!

P301
紫陽花。
染みに汚れた、紫陽花のバレッタ。
太刀洗のポケットに入っていたそれは、生きているかのように温かだった。
 
   
Posted at 21:54 / ことのは / この記事のURL
さよなら妖精4 / 2005年03月12日(土)
p215
 でももりやさん。それよりももっともっと、大事なことがあります。」
言いつつ、机に座ったままでマーヤは、おれににじり寄る。
「これは秘密です。内緒のことですよ。」
声を殺し。
そっと。
「人間は、殺されたお父さんのことは忘れても、奪われたお金のことは忘れません。」
耳元で囁かれたようだった。一瞬空だの平衡が失われた気さえした。

p252
「始まったって、なにが。」
続けた質問の答えを、おれは予想できていた。
「日本語ではなんと言いますか。終わり?滅び?それとも、死?」
襖の向こうで、太刀洗や文原や白河はなにをしているのだろう。しんと静まりかえって、音もしない。
「止められないのか」

p258
「わたしたちユーゴスラヴィア人は生まれ続けました。あと二十年、いえあと十年ユーゴスラヴィアが続いたら、わたしたちはなにかをできたかもしれません。でももうユーゴスラヴィアはなくなるでしょう。それは、もりやさんの言う通りです。」
マーヤの瞳が濡れているのに気付く。しかしマーヤは歯を食いしばり、それを涙として流さない。
「もりやさん。もりやさんの名前は、進むべき方向へ行くという意味でした。ふみはらさんも、まちさんも、いづるも、願いをこめた名前でした。素晴らしいことだと思います。
ユーゴスラヴィアは、『南スラヴ』が一つであるようにとの名前です。それは最初は嘘だったかもしれません。歴史は私たちを忘れるかもしれません。
でも、わたしたちはもう、存在しています。きっといつか……。いつかは、わたしたちユーゴスラヴィア人が七つ目を造り出すのです。」
沈黙。遠く遠くの蝉の音に、初めて気付く。
マーヤを巻き込んでいく力の強さ。そして、それでもなお諦めないマーヤの強さ。おれは一瞬、眩暈を感じた。
ユーゴスラヴィアは死ぬと口にしてさえ、マーヤは自分たちの世界を築こうとしている。おれたちと過ごした二ヶ月、きょうの宴会の座興さえ、マーヤは糧とするのか。その方向性の明確さ、積み上げていく手触り。どちらも、おれにはかけらもないものだ。
そして思う。言うならば、今しかない。

 
   
Posted at 21:51 / ことのは / この記事のURL
さよなら妖精3 / 2005年03月12日(土)
p150-151
おれはこういう場所に来ると、じりじりと焦りのようなものが込み上げるのを抑えることができなくなる。おれ自身は決して名誉欲が強い人間ではない。少なくとも自分ではそう思っている。しかしそれでいながら、ここに葬られた幾千のひとびとを思うと、ただ生きただ死んでくことは望ましいことではない、という気になってしまうのだ。おれは高高度ではないにしても文化元年に死んだ某よりは教育を受けている。そして文化年間よりも平成年間は複雑だ。アブラハムは「生きるに飽いて」死んでいったが文明人は「生きるを厭う」ことはあっても「飽く」ことはできない……。どこで読んだだろう。文化年間の某は、半径三里程度のこの世を、充分に把握して死んでいけたかもしれない。比べるとおれは、高度な手法を手にしていながら、なにも把握していない。周囲が複雑すぎて、なにから手をつけたらいいかわからない。ならせめて道標がほしい。道標が。

p202
太刀洗の言うことは正論だ。太刀洗は、マーヤが考えに考えて決めたことに横から口を出すのはおかしい、と言っている。そして、考えて決めたことかごうかわからないおれのたとえには答えられない、と言っているのだ。両方とも当然の結論だ。
しかし、太刀洗は全然本心らしいものを見せていないのに、おれは当然の言葉しか引き出せない。それが情けなく思えて仕方がなかった。薄い笑みが嘲笑に見えたのは、おれがその情けなさに気付いているからなのだろう。
開架に入り、元の席に戻ろうとする。
太刀洗は立ち止まり、今度ははっきり笑った。そして振り向き、耳打ちのように、こう囁いた。
「ねえ守屋君。……あなた、幸福そうね?」
ああ……。
その後は、全く勉強にならなかった。

p210
「何を訊いてもいいのか。」
「んー。紳士的なことなら、なんでもです。」
「……戦争のことでも?」
口許だけで、マーヤは笑う。
「それの他に、なにを訊きたいですか?」
もっともだ。
この八日間のことを思い出す。わからないこと、納得のいかないことはどれだけでもあったはずだ。本ではカバーしきれなかった歴史や社会制度の細部などを、補うこともできるだろう。しかしなにより先に、おれはこれを訊きたかった。
「それじゃあ。……マーヤ、帰ってしまうのか?」

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Posted at 21:49 / ことのは / この記事のURL
さよなら妖精2 / 2005年03月12日(土)
p123-124
「わかるよ」
おれのその言葉のなんと軽いこと。
「私たちの伝統は創造されたものです。私たちの共同体は想像されたものです。それでもわたしたちは、六つのうちのどれか一つにではなく、私たちの文化に生きることになるのです。もう一度言います。そうしたくなくてもです。分かりますか?」
「……」
「でも、ユーゴスラヴィアは豊かな国ではありません。とても残念ですが、豊かでないユーゴスラヴィア人は七つ目の文化をそれ自体と見ることができません。どうしてかと言えば、他の文化と比べることができないからです。
そして、わたしは豊かなユーゴスラヴィア人です。わたしの父は党の上の方にいます。わたしはどちらかというと自由に、いろいろな国を見ることができます。わたしたちのなかで、わたしは例外です。それならいろいろの国を、んー、いろいろの文化を見ることは、私の仕事だとわたしは思います。
いつか、わたしたちは六つの文化を止揚するでしょう。ユーゴスラヴィアを連邦でなくするでしょう。だからわたしは見てまわります。……わかりますか?」
わかる、とはもう言えなかった。わからない、と言ったほうが本当だろう。
ただわかったのは、遠くユーゴスラヴィアに新しい世界を築こうとするひとびとがいること。
マーヤは自分の境遇でしかできないことをやろうとしているのだ、ということ。それは具体的には?
「お前は、芸術家になりたいのか」
マーヤは笑った。
「やはり私の日本語はまだまだですね」
そしてマーヤは、まるで、おれに約束するかのように言葉を噛み締める。
「……わたしは、政治家になるのです」
既に冷めかけたチーズドッグを、マーヤは掴み、豪快にかぶりつく。目を丸くして、ユーゴスラヴィア人の彼女は手の中のチーズドッグを見つめた。
「んー。素晴らしくおいしいですね!」
おれも食べる。素晴らしく。うまい。
それは共有できるのに。

 
   
Posted at 21:45 / ことのは / この記事のURL
さよなら妖精 / 2005年03月12日(土)
P72
乙矢を持ち替える。
自動的な動きだった。
自動的ではあるが、作業的ではない。生活に似ている。
p94
そう、こんな話を聞いたことがある。
西アジアのどこだかで内乱があった時、先進国の市民たちは惨状に心を痛めて、かの地に火のしアイロンを送ったと。そのひとびとはかの地に電気が引かれていることさえ思い至らなかったのだ。
p121
おれもそうしてみたい、ふとそう思った。しかしそれはおれの能力の限界を超えることだ。いや、問題は能力というより経験だ。おれはなにも見たことがないのだ。
やはり共有できない。そのことが強く認識された。
p122
「いいえ?んー、適切な日本語はなんでしょう。役割?責務?わかりますか」
言わんとすることはわかる。使命というのが一番近いのではないか。しかしそれでは何も説明したことにならない。
マーヤは姿勢を変えた。体をおれのほうへ向けて、真っ直ぐ目を合わせる。口元も眼も、ぴしりと引き締まっていた。マーヤは一切の誤魔化しなくおれの問いに答えるつもりだとわかった。

 
   
Posted at 21:43 / ことのは / この記事のURL
牧水 / 2004年12月25日(土)
芸術云々とよく人は言う、実のところ私はまだその芸術と云うものを知らない、断えず自身の周囲に聞いて居る言葉でありながらいまだに了解が出来難い、だから私はそれ等一切の関係のなかに私の歌を置くことが出来なかった、私は原野にあそぶ百姓の子の様に、山林に棲む鳥獣のように、全くの理屈無しに私の歌を詠み出でたい。
 
   
Posted at 20:22 / ことのは―制作ー / この記事のURL
カイエン / 2004年11月24日(水)
圧倒的に過酷な現実に対して、物語に何ができるか。世界に荒れ狂う狂気の暴風を前にして、夢と空想にどれほどの力があるのか。これから物語を綴るものは、すべてその問いにこたえることを要求されるだろう。たかが小説、夢物語。ぼくたちの現実には冒険らしい冒険はなく、ただ灰色の日常が続いているばかりなのに、架空の冒険物語が、刹那の快楽を越えて、本当の感動をあたえることがありえるだろうか。それとも小説とは、絶え間ない苦しみをひとときでも和らげる阿片に過ぎないのだろうか。

それこそ小説の果たすべき真の役割だとひらきなおればいいのだろうか。そうかもしれない。しかし、べつの答えを選ぶものもいる。たしかに現実の悪夢に対して、物語は無力だろう。どんな傑作も戦争を止めることはできない。しかし、それでもなお、書くことによって夢と空想の力を伝えようとする作家もいるのだ。そうして、星の数ほどの作品が生み出されてきた。「ブルータワー」もその歴史にあらたな一ページを刻むことになるだろう。これまで生まれた無数の物語、これから生まれる同じく無数の物語、この物語はそれを繋ぐ橋なのだ。この御伽噺を描くことによって、石田衣良はその道を選んだ。
 
   
Posted at 07:52 / ことのは―制作ー / この記事のURL
おとなの小論文教室 / 2004年11月03日(水)
このごろ、つくづく思うのは、
書き手は、「書くものに魅力」がないとだめだ、
ということだ。

書き手と読者、書き手と編集者を結びつけているのは、
「この一点」だ。

ほかがどんなにたくさんの糸でつながれていようと、
いなかろうと、混線しようと、しまいと、
ただ「この一点」が崩れたとき、
関係は切れる。

 
   
Posted at 22:58 / ことのは―制作ー / この記事のURL
とあるイラストレイターさん / 2004年10月31日(日)
数年前、会社員だった時にネットで知り合った友だちへの自己紹介みたいな感じで、しばらく描けなくなっていた絵が描いて見せたくなって画材屋に絵の具を買いに行った。
そこで偶然ジェットブラックという色に出会って絵が描けるような気がした。
絵は紙の中にゼロを作ってそっから10までの色の幅で描いていくような気がしていてそのゼロを手に入れた気がした。
混じりっけのない黒。
最近思うのはそれと混じりっけのない心の闇というと大袈裟だけど寂しさとか切なさがジェットブラックと同じくらいに必要みたいです。
だからといって自分としては暗い絵なんて一枚も描いた事はないです。
希望につながらない絵なんて完成するわけが無い。
暗い色を重ねれば重ねる程に最後に塗る白がきれいに見えるから時間をかけて暗い色を重ねられる感じです。
こんな事を描いてしまうのも秋と、あと寒さのせいだ。
 
   
Posted at 08:03 / ことのは―制作ー / この記事のURL
P R
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