その日は朗読サークルの練習会で、最寄りの駅まで先生をお迎えに行った。
田舎の駅なので、改札口からホームは丸見えである。
電車が着き、降りてくる客は10人もいないのだが、先生が見当たらない。
と同時に携帯が鳴り、「もう一本後の電車に乗る」という連絡が入った。
気候がよくなったのに調子こいて薄着にしてきたのがいけなかった。
ストールを中尾彬のように巻いても、吹き付ける風は強く、肌寒い。
横にある自販機で買った暖かいお茶を飲みながら先生を待っていた。
駅前の通りでは、オッサンが5〜6人で電線の工事をしていた。
ふとその一人が私の方を指差しながら、なにやら仲間に声をかけると、みんな揃ってこっちを見た。
そして「しり」だの「ケツ」だの、臀部に関する言葉を口々に言いながら、露骨にもほどがあるというくらいイヤラシくニヤニヤしていた。
たしかに私のアゴは「ケツアゴ」だ。
しかし、ケツアゴで二重アゴのデブなど、そんなに珍しいものでもない。
ギロリと睨み返すと、一番に指差したオッサンが、ゼスチャーで私に「後ろを見てみろ」と合図しているように見えた。
ジーンズがずり落ちて、ケツが見えていたのかと焦って振り返り、自分のケツをチェックするが、いつもどおりのデカケツがあるだけで、それ以上の異常はなにもなかった。
「あのヒヒオヤジ、いったい何が言いたいのかしらぬぇっ!」
ムッとしながら顔をあげた私の目に飛び込んできたのは、噂に聞いていたが、ナマで見るのは初めての、言葉を失うほどの絶景だった。
そのとき私はホームに背を向ける格好で立っていた。
ホームはだいたい私の目の高さになっていた。
こちら側に背を向けてしゃがみ込み、電車を待ちながら、必死に携帯メールを打っているねーちゃんが、ほぼ真後ろにいた。
ねーちゃんは、目の前のケータイに夢中で、自分の背後になにが起きているのか、全く気づいていなかった。
かなりどぎついローライズを、ちょっと無理して履いていたようで、しゃがんだ勢いで、押し込められていたケツの大部分が飛び出し、ケツの割れ目のほとんどが見えている状態。
少し見上げるような位置の私からは、あとちょっとでモザイクをかけないといけないアソコまで見えそうだった。
清純で枯れた私はドギマギしてしまったが、
「飛び出す青春とは……こういうものかもしれないよな」
と、妙な感動すら覚えるほどの勢いがソコにあった。
やっとそれに私が気づいたことに気づいたあのオヤジと、また目があった。
「な?」
「な!」
何ひとつ交わす言葉はなかったが、カマボコのような目でイヤラシくプ笑しあいながら、
忘れかけていた青春を思い出すような素晴らしい光景に出くわした感動を、ゼスチャーオヤジと私は分かち合っていた。