grgrgreg

September 20 [Thu], 2012, 10:45
知られず誰にも顧みられず、あのように静かに死ねるものなら……彼は散歩の途中、いつまでも野晒
のざら
しになっている小さな死骸を、しみじみと眺
なが
めるのだった。これは、彼の記憶に灼

きつけられている人間の惨死図とは、まるで違う表情なのだ。

「これからさき、これからさき、あの男はどうして生きて行くのだろう」――彼は年少の友人達にそんな噂
うわさ
をされていた。それは彼が神田の出版屋の一室を立退
たちの
くことになっていて、行先がまだ決まらず、一切が宙に迷っている頃のことだった。雑誌がつぶれ、出版社が倒れ、微力な作家が葬られてゆく情勢に、みんな暗澹
あんたん
とした気分だった。一そのこと靴磨
くつみがき
になろうかしら、と、彼は雑沓
ざっとう
のなかで腰を据えて働いている靴磨の姿を注意して眺めたりした。
「こないだの晩も電車のなかで、FとNと三人で噂したのは、あなたのことです。これからさき、これからさき、どうして一たい生きて行くのでしょうか」近くフランスへ留学することに決定しているEは、彼を顧みて云った。その詠嘆的な心細い口調は、黙って聞いている彼の腸
はらわた
をよじるようであった。彼はとにかく身を置ける一つの部屋が欲しかった。
 荻窪
おぎくぼ
の知人の世話で借れる約束になっていた部屋を、ある日、彼が確かめに行くと、話は全く喰

いちがっていた。茫然
ぼうぜん
として夕ぐれの路
みち
を歩いていると、ふと、その知人と出逢
であ
った。その足で、彼は一緒に外国人 彼女吉祥寺の方の別の心あたりを探
さが
してもらった。そこの部屋を借りることに決めたのは、その晩だった。
 騒々しい神田の一角から、吉祥寺の下宿の二階に移ると、彼は久し振りに自分の書斎へ戻ったような気持がした。静かだった。二
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