2話 「理由」 

March 02 [Mon], 2009, 3:37

食堂にルナマリアとティアは二人連れ立って歩くも、未だに痛みを訴える腹部にそっと手を添えてルナマリアの隣を少女は歩いた。
本当ならば食欲など湧かなかったのだが、明るい彼女の笑顔と、食堂についてからの料理の香りにそれが気持ちの問題だったのだと気付いた。
日替わりの食事が乗ったトレーを持ちルナマリアと共に空席を探していると、急に先に行く友人にティアは慌ててその背中を追いかけた。
しかしトレーの中身が零れそうになり慌てて歩調を緩めると、そこにはパイロット訓練生だったら誰もが知っているレイ・ザ・バレルが、ルナマリアの先にいた。そしてそのもっと先には。

ぶつかったトレーから落ちてきた水に苛立ちが頂点に達したシンは、己が食事していたトレーを乱暴に掴むと食事の途中ではあったがその場を去ろうとして、偶々視線を上げた。
そしてその視線の先には、蒼穹の瞳。
医務室での事を思い出して、思わず中途半端に立ち上がった形で動きを止めてしまうと、少女が何かに気付いたのか、己のトレーを机に置くと制服のポケットから白いハンカチを取り出してシンに近づき、その濡れた頬にそれをそっと押し当てる。
何事かと止まっていた空気は、少女の言葉によって動き出す。
「風邪、引くかもしれないから。使って。」
拒絶の言葉は受け取らないと苦笑いと共に頬の水分を取っていく少女の近さに、慌ててしまい、シンはガタリと椅子に足をぶつけながら立ち上がってしまった。
頬が熱い。
それを見て一拍あけた後、ルナマリアが楽しげに笑い出す。
「ティア、丁度いいじゃない。此処にしましょ。」
言うが早いか、シンの座っていた机にトレーを置いて片目を瞑ってみせる。
「はぁ?何勝手に…ッ。」
事態にやっと気付いたシンが講義の声を上げようとするも、自分の真正面に座ったティアにもう何も言えず、不機嫌な表情のまま先程腰掛けていた席に戻ってそっぽを向く。
その様子にティアは苦笑いを浮かべるが、何処かへと行こうとするレイに気付き、ふと声を掛けた。
「まだ、途中なら此処に座ったら?」
しかしそれも、感情の起伏が見えない視線が降りてきて、思わずティアは肩を揺らした。
見透かされる様な瞳に、己の中にある影を見られる気がした。
「…いや、俺は遠慮しておこう。その方が、彼もいいだろうしな。」
何処か含みのある言葉にシンが反応するも、言った早々立ち去ったレイに言葉を搾り出す間を与えて貰えず、苛立ちが更に増してさっさと食事を済ませて自室へ帰ろうとスプーンを持って食事を再開する。
しかし僅かに走る口元の傷の痛みに眉間の皺は消えない。
「ティア、お腹ちゃんと治療してもらったんでしょうね?」
他愛ない少女達の会話の狭間、ルナマリアが悪戯色を滲ませてティアの顔を覗き込むと、制服に隠された腹部を見ようとその制服に手をかける。
真正面からそれを見てしまった芯が結果を先読みして頬に朱色を走らせ、慌てて止める。
「ばっ?!何してんだよ馬鹿!」
そんなシンに本気ではないとルナマリアがシンを振り返って睨み返すと、ティアが苦笑を浮かべて、未だに痛みの引かない腹部に手を当てる。
「大丈夫。ちゃんとシップ、貼ってもらったから。」
(…また。)
シンはその表情を良く見る気がした。
医務室で見た表情とは全く違うが、何かが似ている気がすると、不快が胸に滲み出る。
「…あんた、その相手に相当嫌われてんじゃない?」
あんなにも残る痣を作る程、手加減の無い理由を考えて、思いついたのがこれだった。
特に嫌味を込めたわけではない。
本当に、なんとなくだった。
しかし、思った以上に少女は消沈する。
伏せた瞳は揺らいでいる様に見えた。
「…弱いから。」
ぽつりと零れたのが涙でなかった事を、シンは意外だと思った。
「弱いから、仕方ないんだよ。」
次いだ台詞は、顔を上げ、やはり苦笑を交えた笑みだった。
ルナマリアが眉を顰めると、そっとティアの肩に手を置くが、ティアはもう一度弱弱しく笑みを浮かべた後、食事もそこそこにトレーを持って席を立ち、その場を後にした。

その背中を呆然とした面持ちで見送っていたシンに、ルナマリアが勢い良く振り返りつつ睨み付けてくるものだから、シンは思わず怯む。
しかしそれもルナマリアの溜息によって納まった。
ティアが消えていったドアに視線を向けたその横顔は、憂いに満ちている。
「…似合わない、わよね。」
ルナマリアの呟きに、シンは心中首を傾げた。
「だって、あんなに細いのよ?なのに、なんでこんな所にいるのかしら…。」
小さな独り言に、シンは己のトレーに視線を落とした。
その脇には、白く、僅かに湿り気を帯びた彼女のハンカチが綺麗に畳まれ置かれている。
「理由が。」
シンの声に、今度はルナマリアが少年へと振り返り、首を傾げる。
テーブルに置かれた拳が強く握り締められているのは、何故だろう。
「あいつにも、理由があるんだろ、きっと。」
自分にだってある。
二度と失わない力を得る為に。
力の無い自分に嘆く事が無いように。

いつの間にか握り締めた拳から、やっと意識して力を抜く事が出来た。


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