無題

October 08 [Thu], 2015, 0:23
目が覚めるとダークブラウンの球体越しに微笑む女の顔が映った。吸い込んだ空気が甘い。直径3センチのチョコレートの表面は溶け始め、細い指先に付着している。ようやく爪を切ったのか。
腕を投げ出したまま口を開いて丸ごと受け止め、噛みしめて、次の瞬間顔をしかめた。

「おかえり」
「ひどいと思うぜ」
「お菓子あげないと悪戯されそうな気がしたから」
「気が早すぎる。…甘い」

床に落ちている包み紙の文字に気づいたが遅かった。俺は菓子の類は基本的にチョコレートしか食わない。いや嘘だ。アイスも食う。だが、チョコレートコーティングされたキャラメルは甘過ぎる。
伸ばした片手は避けられた。追ってまで実行する事じゃなかった。顔をしかめる位には口に合わないが、吐き出すほど嫌いではないそれを二三度噛んで流し込む。口の中は依然として甘く、喉元を過ぎた所でしばらく忘れられそうにない。

「……コーヒー」
「砂糖はいくつ?」
「自分でいれる」

冗談だと言って笑って台所に向かう女の足取りは軽く、スカートの裾が視界の端で揺れた。砂糖の瓶が置いてある棚を開く音が聞こえたら立ち上がろうと決めて目を閉じる。
何も言わずに三日間部屋をあけた事への意趣返しだろうか。いくらかの確信をもって想像する。もし俺がそう訊いたら、違うよと、何言ってるのときっと言う。完璧に笑うだろうとも思う。実際のところがどうであれ。
それを見たいと思ったが、確かめるのは勿体ない気がした。事実にもあまり興味がなく、想像の中でいい女だなと思うだけにした。
湯を沸かす間に洗濯物を入れてくると言って二階に上がっていく背中を見て立ち上がり、ポケットから鍵を出してテーブルに置く。口の中はまだ甘い。脈絡も理由もない。ただなんとなく。
部屋を出ると外は薄暗く、濃い秋の匂いがした。

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