なぜなら

November 01 [Thu], 2012, 20:56

気をつけて、触ってみると、確かに、喰いかけのところが一寸湿っていた。
(葉ちゃんの唾
つばき
かな)
 黒吉の、小さい心臓は、この思わぬ、めっけものにガクガクと顫えた。
 彼は、いくら少年だとはいえ、無論こんな一っかけの煎餅を、喰べたいばかりに、拾って来たのではなかった。黒吉には「葉子の喰べかけ」というところに、この煎餅が、幾カラットもあるダイヤモンドにも見えたのだ。
 しかし、触って見ると、このかけらは湿っている……
(葉ちゃんの唾だな)
 その瞬間、黒吉の頭には、衣裳部屋で、葉子が忙しそうにこの煎餅を咥
くわ
えていた光景と、それにつづいてクロオズアップされた、彼女の、あの可愛い紅唇
くち
とが、アリアリと浮んだ。
 それと一緒に、彼は、ジャパンキューピッド思わずゴクンと、固い唾を飲んだ。
 黒吉は、妖しく眼を光らせながら、あたりを偸
ぬす
み見ると、やがて、意を決したように、その葉子の唾液
つばき
で湿ったに違いない煎餅のかけらを、そっと唇に近づけた……。
(鹹
しょ
っぱい――な)
 これは、勿論塩煎餅の味だったろう。だが、黒吉の手は、何故
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